劇場上映とNetflix配信が同時になった背景

久保田修氏(以下、久保田)じゃあ半分質疑応答も含めて、うちの会社がやってきた映画を軽くお見せします。参加作品ごとで何かこの映画について聞きたいなぁ、みたいなことがあったら言ってみてください。

僕がプロデューサーをやっていない作品もあって答えられなかったりするんですけれども。もしあれば。

(画面を見ながら)これは最近の作品ですね。昔から紹介したほうがいいかな? 一番最初の頃はこんなもの(『『DRIVE』『黄泉がえり』など)を作っていまして、次に『NANA』とか『メゾン・ド・ヒミコ』をやっている時代があり......『ジョゼ虎』もありますね。『東京ゾンビ』とか不思議な映画も作ってますね。

みなさん見たことがあるとかないとか、ちょっと興味があるとかないとか、遠慮なく聞いてください。

(会場挙手)

はい。

質問者1:『ボクたちはみんな大人になれなかった』という映画なんですけど、去年イベントがあって、私も監督とプロデューサーに会ったことがあって。

久保田:そうですか。

質問者1:劇場で上映すると同時に、Netflixでも配信するというかたちがすごく印象深かったです。

久保田:はい。その構造をお話ししますと、簡単に言うとあの映画はなかなかお金が集まらなかったんですよ。お金が集まらなくって、このままだとどうも成立しないぞという。映画をご覧になっていただくとわかると思うんですけれども、(主人公の21歳から46歳までを描く、)時代が変わっていく話なので、どうしても美術にお金がかかるんですね。

ただ、その割には内容が地味だというのがあって。なので我々は劇場公開映画として純粋に作ろうと思っていて、やると言ってくれる幹事会社さんもあったんですけれども、幹事会社さんが出せるお金とこっちが必要とするお金の額が合致しなかったんですよ。

『全裸監督』でのつながりがきっかけ

久保田:それで「これはなかなか困ったなぁ」という時に、たまたまその頃『全裸監督 シーズン2』でNetflixさんとお付き合いがあって、Netflixのエグゼクティブプロデューサーの方にこの企画を見せたら、「おもしろい」「やりたい」と言ってくださって。

ただし我々としては大きいスクリーンで見せるということをどうしてもやりたかったので、条件として「劇場でも公開するけどそれでもいいか」と交渉をして、それで「30スクリーン未満でやるんだったらいいよ」と(言ってもらいました)。

今の日本のメジャー映画だと300スクリーンくらいで上映するんですけど、そういった都合上広げられなかったんですね。だから大都市の30スクリーンだけだったら良いという契約をNetflixさんとしたんです。

逆に我々的には30スクリーンに抑えられちゃうんだけれども、宣伝はNetflixさんのお金でやってくれるというメリットがあったり、こちらが望んでいる製作費をNetflixさんが出してくれるというところで合致した。なので、Netflix配信と劇場公開が同時というすごく珍しいケースになりました。

この映画だけでなく、うちの会社以外でもそのパターンをやってるところもあるんですけれども、珍しいケースとしてそういった経緯がありました。

質問者1:なるほど。ありがとうございました。

『るろうに剣心』は、最初から海外を意識していたわけではない

久保田:他の方も遠慮なくどうぞ。

(会場挙手)

質問者2:『るろうに剣心』に関して質問なんですけど、海外ヒットまで考えていたんですか?

久保田:海外のことで言うと、実は先ほどの『ドライブ・マイ・カー』のように、作る段階から考えることはほとんどないんです。実は『ジョゼと虎と魚たち』も韓国でリメイクされたりしてすごく人気があったりするんですけど、作る時はほとんど海外のマーケットを意識することはないです。

ただ、そうだなぁ……。やはり海外でも日本の漫画は強いので。あとこういう時代劇のようなコスチューム・プレイは強いんです。

この映画は幹事会社がワーナー・ブラザースさんなので、ワーナー・ブラザースさんの方で事業シュミレーションを立てる時には、この映画を作る段階から「海外での収入はこのくらい」と多少は入れてたかもしれないです。でも我々が彼らと話した時には、「海外マーケットを意識してこういうことをやってくれ」という指示は一切なかったです。

作っているプロデューサーとかディレクターの立場からすると、「結果として海外でもウケればいいなぁ」とか、「結果として海外のお客さんにも見てもらえればうれしいなぁ」とは思うんだけれども、海外向けにここはこうしておこう、とかを考えたことはなかったです。

質問者2:ありがとうございます。

ジャンルや規模を問わずに作る、制作プロダクションとしての特徴

久保田:作品に関しての質問は大丈夫ですかね。そうそう、うちの会社の特徴としては、いわゆるメジャー映画から、いわゆるインディペンデント系の映画まで何でも作る点ですね。「何でも作る」って言うと聞こえが悪いですねぇ。両方やりますというのが1つの主義としてあります。

まさに『ドライブ・マイ・カー』のようなアート映画も作るんですけれども、最近のいわゆるキラキラものの映画で言うと、『午前0時、キスしに来てよ』も作りました。同じ会社で『ドライブ・マイ・カー』と『午前0時、キスしに来てよ』を作ってるって、すごいでしょって思うんですけど。僕は両方ともとてもすてきな映画ですよと言えます。

『ひるなかの流星』のような映画も作っていれば、『山田孝之 3D』のような尖った映画だったりとか、『彼女がその名を知らない鳥たち』のようなちょっとアート系の映画も作ってたり、それがうちの会社の特徴でもあります。

これはプロデューサーの個性でもあるんですけれども、もともと僕自身が本当に『ジョゼ虎』も作れば『黄泉がえり』も作るし、『NANA』も作れば『メゾン・ド・ヒミコ』も作るというやり方をしてきたので、やはりメジャー/インディペンデントと分けて考えるべきじゃない。両方ともやるべきだという考えが自分の中にあります。

最近はドラマなど、映画以外の作品も増えてきました。Netflixさんのものだったり、テレビドラマの『美しい彼』というボーイズラブ作品は大変話題になりました。

あとシリーズものの大きなドラマで言うと、今年の秋に佐藤健さんと満島ひかりさんが出る『FirstLove 初恋』という(Netflixオリジナルドラマ)の配信がいよいよ始まります。いわゆる硬軟を織り交ぜて、ジャンル的に幅広く(取り組んでいます)。

ただ、実はうちの会社で「ヤクザ映画」だけは作ったことないんですね。あまりDNA的に合わないらしくて。それ以外はほとんどやっているんじゃないかな。ホラーもやってるし、サスペンスもやってるし。『アラサーちゃん 無修正』みたいなちょっとエッチなものとか、いろんなことをやってます。

「プロデューサー」の仕事に、明確な定義はない

司会者:久保田さん、ありがとうございました。ではここからは質疑応答のお時間とさせていただきます。私、大学事務局の伊藤が進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。先ほど作品も拝見していて、新城(毅彦)監督も本学の教員です。

久保田:そうですね。新城さんも大変お世話になってます。

司会者:『NANA』の大谷健太郎監督も先生なんです。なので、学生のみなさんも覚えておいてほしいなぁと思いながら拝見していました。

久保田:新城さんはカット数が多いので大変なんですよ。

司会者:(笑)。お二人は大学で実践的な授業を教えていただいているので、すごく今日の久保田さんのお話もおもしろいですし、改めて映画ってとてもおもしろいなと思いました。実は学生さんからもたくさん質問が来ていまして、今回の役割についてだったりですとか、久保田さんご自身についてでしたり、あとは『ドライブ・マイ・カー』についてのご質問いただいてますので。

久保田:はい。どんどん答えます。

司会者:3つに分けてご質問させていただきます。まず役割というところ。「エグゼクティブプロデューサーはどのような役割なのですか」。そしてもう1つ、「エグゼクティブプロデューサーの仕事は調べたんですが、『スーパーバイジングプロデューサー』というのはどういう役割ですか」と。

久保田:なるほど。実はさっき「プロデューサーは手に職ない集団だ」という言い方をしたんですけれども、本当にカメラマンなどと違って、明確にこれが役割だというものがそんなにあるわけじゃないんです。

あと人によってもやり方が違ったりする。現場に1回も来ないプロデューサーもいれば、ずっと現場にいるプロデューサーもいるように、人によってずいぶんやり方が違うんですね。なのでそもそも、エグゼクティブプロデューサーとか、スーパーバイジングプロデューサーとか、アソシエイトプロデューサーの役割については、あまり明確な定義がないというのが前提としてあります。

立場や役割によるクレジットの使い分け

久保田:テレビ番組を見ている時に出てくるプロデューサークレジットも、会社内の役職によって、プロデューサーというクレジットになったり、チーフプロデューサーというクレジットになったりする部分もあったりします。

映画の場合で言うと、基本的に「エグゼクティブプロデューサー」というのは、いわゆる出資している会社の方々の代表が名乗る場合が多いです。「製作」と表記される場合もあるし、「エグゼクティブプロデューサー」という表記もあるという感じで、多少ややこしいんですけれども。

どちらかというと、プロデューサーよりお金やビジネス周りの役割を担うのがエグゼクティブプロデューサーかなぁという感じです。プロデューサーは、よりクリエイティブ、より現場的という感じです。

「スーパーバイジングプロデューサーって何よ?」というのもあるんですけれども、これはあまり日本では使っていないクレジットで、アメリカのテレビドラマではよく使われています。

僕はあくまでも制作プロダクションの代表で、幹事会社のほうに所属しているわけではないので、時にはエグゼクティブプロデューサーと名乗るんですけれども、なんとなくのそれに気恥ずかしさがあるんですね。うまく言えないんですけど。

あとは、うちの若手がプロデューサーをやる場合に、そのプロデューサーのサポートをすることが僕はすごく多いんですね。シナリオの直しだったり編集の直しだったり、プロデューサーがプロデューサー業を全うするためのサポートをすることが多い。

そういった意味でも、ちょっとエグゼクティブプロデューサーとは立場が違うので、僕は「スーパーバイジングプロデューサー」というクレジットを使わせていただいてます。これで答えになってますかね。

毎日のルーティンが「映画を見る」こと

司会者:ありがとうございます。久保田さんについてのご質問も来ています。熱心な方から「毎日何を考えてますか。毎日決めているルーティンはありますか」という質問が来ています。

久保田:僕は腰が悪いので、屈伸がルーティンですね。本当にひどいぎっくり腰をやっていて、10日間入院してたんです。ストレッチをしないと体が動かないので…..っていう話を聞きたいわけじゃないですよね(笑)。すみません。

やっぱり映画を見続けるしかないんじゃないですかね。本当にこれだけ映画を見てくると、始まって10分ぐらいで「あぁこういうパターンに持っていく映画ね」ってわかっちゃったりして嫌なんですけど、それでもやっぱり「あれ、この映画予想してたのと違ってこんなにおもしろかったんだ」とか、そういう驚きがあったりするんですよ。その驚きが楽しみなんです。

アントン・コービンという監督が撮った『コントロール』という映画があります。1980年代にいたJoy Divisionというロックバンドの伝記映画です。だからQueenの『ボヘミアン・ラプソディ』みたいなもんですね。

ただ『ボヘミアン・ラプソディ』と違って、めちゃめちゃ暗い映画です。そのJoy Divisionのリーダーだったイアン・カーティスという人が、最終的に23歳で首を吊って死んでしまうという非常に暗い映画なんですけど。ただ非常に良くできている映画です。

アントン・コービンはフォトグラファーとしては有名な人だったんですけれども、「映画監督としてもこんなに優秀だったんだ」と最近発見しまして、ちょっとアントン・コービンの他のやつも見てみなきゃな、と思ったり。

“映画オタク”でも見たりない、傑作映画の多さ

久保田:あと、そうそう。『ドライブ・マイ・カー』がいただいた国際長編映画賞で、昔は外国語映画賞と言っていたんですけど、日本映画で外国語映画賞を取ったことがあるのは『おくりびと』だけだと思うんです。でも今までにノミネートされてる日本映画はいっぱいあるんですよ。

その中で1961年にノミネートされた、木下恵介の『永遠の人』という映画があるんですけれども。仲代達矢と高峰秀子が主演で、せっかく『ドライブ・マイ・カー』が賞をもらったんだから、昔のノミネートされた映画も見てみようかと思ってDVDを買って見たんです。これがすさまじい傑作で、びっくりして「いやぁ、すごいなー」って思ったり。

今まで本当に馬鹿みたいな数の映画を見てきたんですけど、それでもやっぱりまだまだ見たりないなと思います。そういう意味で(自分のルーティンは)「映画を見る」ことですかね。

司会者:ありがとうございます。映画好きと分かるお話が今回の講義の中でも何回か出てきたんですけれども、本当にそれがわかるお話でした。ありがとうございます。

久保田:すみません、オタクで。

司会者:(笑)。

日本映画の「宣伝」で印象に残っているもの

司会者:次におもしろい質問が来ていまして、「日本映画で、広告の面でこれはやられたなと思うことはありましたか」と(笑)。おそらく……。

久保田:広告の面ということは、おそらく映画の宣伝という意味ですね。

司会者:そうですね。キャッチーだったりとか、これはすごいなとかいうものは、何かございましたでしょうか。

久保田:日本映画の宣伝ですごいなぁと思ったもの……。ごめんなさい、ぱっと浮かばないなぁ。実は宣伝も大事です。さっきも言ったように作ったら終わり、納品したら終わりではなくて、特にうちのプロダクションのように映画にも出資してる場合で言うと、「映画の成功」というのがマストになってくるので、宣伝はすごく重要なんですけれども。

別に非難してるわけでもなんでもないんですけれども、東宝さんで『来る。』という映画をやった時に、ザキヤマさん(アンタッチャブル山崎弘也氏)を出して、「来る~!」っていうCMになって。「これでいいのかなぁ、大丈夫なのかなぁ」って思ったことはよく覚えています。別に非難している意味じゃないですよ。くれぐれも、東宝のみなさん、本当に。

「確かに『来る。』というタイトルだと、こういう手もあるのか」とかいろいろ思いながら、他人事ではないのでそういう目で見ちゃうんですけれども。

『戦場のメリークリスマス』の宣伝のすごさ

久保田:あとなんだろうな。そういう意味で言うと、『戦場のメリークリスマス』という映画がありまして。その時のエグゼクティブプロデューサーで原正人さんという方がいらっしゃるんですけれど、もともと日本ヘラルド映画株式会社(※2006年3月に角川映画に吸収合併)の宣伝部長をやられてた方なんです。彼がやった宣伝は、やはりすごかったですよね。

有名な話なんですけれども、『戦場のメリークリスマス』のコピーが、「男たち、美しく…。」というコピーだったんです。よく覚えてるなぁ。映画を見るとぜんぜんそんな映画じゃないんですよ。

ぜんぜんそんな映画じゃないんだけど、でも坂本龍一さんとデヴィッド・ボウイとって並んだ時に、「男たち、美しく…。」というコピーをつけて、どーんと宣伝をやって、当時ヒットしたんです。あの大島渚の難解な映画をあれだけ当てられるのはすごく難しいことなので、すごいなぁと、未だに思いますね。ちょっと古い話ですけど。

司会者:ありがとうございます。

最初の提案の原作は、『ドライブ・マイ・カー』ではなかった

司会者:では『ドライブ・マイ・カー』についてのご質問もいただいています。「『ドライブ・マイ・カー』をもう2回見ました」と……。

久保田:合計6時間。すみません。

司会者:(笑)。「村上春樹さんの原作で映画を作るという企画を、監督ではなくプロデューサーが起案したんでしょうか? また映画の中にアントン・チェーホフの演劇を入れることや、演劇の作り方にも感心しました。これは誰のアイデアだったんでしょうか」というご質問をいただいております。

久保田:まず村上春樹原作でやったらどうだと言ったのは誰かという話で、さきほどご説明しました山本(晃久)というプロデューサーがいまして、彼が濱口竜介さんに提案したというのが発端です。

その前の『寝ても覚めても』に関しては、濱口さんが柴崎友香さんの原作を見つけてたんですけれども、『ドライブ・マイ・カー』に関しては、山本プロデューサーは『ドライブ・マイ・カー』を勧めたわけじゃなかったんですね。

「村上春樹でやりませんか」と言って、別の原作を提案したらしいんです。でも「それはちょっと難しいかもしれないけど、『ドライブ・マイ・カー』ならできるかもしれない」と濱口さんが山本プロデューサーに返した、というのがスタートでした。

ただ見ていただくとわかるんですけど、実は『ドライブ・マイ・カー』だけじゃなくて、最終的に他の短編からもちょっと要素を入れて作られているんです。

チェーホフの引用は原作にも少しあるんですけど、ここまで大きくしたのは完全に濱口さんの脚色です。実は『寝ても覚めても』にもちょっと舞台が出てくるんですけれども、濱口さんは昔から、舞台の演劇というもの、人が演じるということ自体にすごく興味がある人なので。

「人生、諦めるけどがんばる」という世界観

久保田:そういったところに興味があるのと、僕の予想ですけれども、たぶんチェーホフの持つ世界の捉まえ方と、濱口さんの持つ世界の捉まえ方に、近しいものがあると思うんです。簡単に言うと「人生、諦めるけどがんばる」みたいな。

人生は簡単なものじゃないし、人と人は完全に理解し合えるものではない。基本的には諦めるしかないんだけど、でもとりあえず次の1歩を前に出すみたいな。そんな感じで、たぶん濱口さんとの親和性が高いんじゃないですかね。

だから「ドライブ・マイ・カー」におけるチェーホフというのは、濱口さんのアイデアです。

司会者:ありがとうございます。ちょっとお時間が近くなってきましたので、最後に本学は、留学生の方がとても多い大学なんですけれども。

久保田:あ、そうなんですね。

司会者:留学生の方からご質問で、「外国人が日本で非常に有名な監督になることは可能でしょうか」といただいております。

久保田:それは可能ですよね。別にシンプルに外国人だからという理由でだめってことは何もなくて。必要なのはあなたの才能だけですよ。努力と才能しかない。ただ、それは逆に言ったらメリットもないしデメリットもないという、イーブンな状態なので。監督として才能があるかないかだけです。

好きなことを仕事にするのは、ハイリスク・ハイリターン

司会者:ありがとうございました。ではお時間となりましたので……。

久保田:大丈夫ですかね。

司会者:今100名以上オンラインでも視聴されておりますので、久保田さんより学生のみなさんに一言いただけたらと思います。よろしくお願いします。

久保田:どこまでお伝えしたいことが伝えられたかなという、一抹の不安はあるんですけれども。がんばればなんとかなるとか、そういう安易なことは言えないですが、たぶんきっと僕なんかよりみなさんのほうが厳しい現実をいっぱい知ってらっしゃるとも思います。

好きなことを仕事にするのは、簡単に言うとハイリスク・ハイリターンで、逃げ道がなくなるんですね。自分が好きじゃないことを仕事にして、別に趣味をとっておけば、仮に仕事でうまくいかないことがあっても、趣味に逃げられるかもしれない。別に趣味がそんなにうまくいってなくても、仕事が順調であればいいのかもしれないし。

逆に好きなことを仕事にしちゃうと、仕事がうまくいくと全人格的にうまくいっている気分になれるし、仕事がうまくいかないと人生に失敗したような気分になる。その意味で非常にハイリスク・ハイリターンではあるんです。

好きなことに自分の脳みそを一番使うのは、悪いことではない

久保田:ただやっぱり、自分が好きなことに自分の脳みそを一番使うというのは、悪いことじゃないなとは思います。僕ももう60歳手前で、疲れて飽きてきている部分はあるんですけど、それでもやっぱり最初のラッシュ(試写)の時はわくわくする。それって好きなことを仕事に選んだからやれることなんだろうなと思います。

全員が全員そうすべきだなんてことは言わないですけれども、やっぱり僕は映画が好きだなぁとか、映像が好きだなぁという思いがあるのであれば、ぜひぜひチャレンジしてみていただければと思います。

どんな業界もそうだと思いますけど、やり続けていくことは決して簡単なことではない。特にギャラをもらって生活していくようになるのは、どの業界でも大変なことだと思うんですけれども、その大変さに値するものだとは思います。ぜひぜひ勇気を持ってみなさんもチャレンジしていただければと思います。以上です。

(会場拍手)