来日して市役所で3年、電通で16年勤務した米国人女性

アイシャ・レバイン氏(以下、アイシャ):アイシャ・レバインと申します。よろしくお願いいたします。本日は、自分で考える力、主体性、自己肯定感を高めるレバインメソッドという子育て法についてお話ししたいと思います。

まず自己紹介をさせていただきます。私はアメリカ人で、2002年に日本に来ました。その後2005年までの3年間、京都府の亀岡市役所で国際交流員として勤務しました。そして市役所との契約が終わった翌日に東京に来て、そのまた翌日に広告代理店の電通に入社しました。昨年退職したので、電通には合計16年勤めたことになります。

ずっと営業局で、基本的に外資系クライアントを担当していました。外資系なので、場合によっては外国にいらっしゃる社長とのやり取りもありましたし、逆にその会社さんが日本に法人を作って、その会社を担当させていただいたこともあります。いろんなパターンがありましたが、基本的に外資系を担当していました。

6年前にはYouTubeで「バイリンガルベイビー英会話」というチャンネルを作りました。この(スライドの写真の)ような日常生活に私のナレーションを入れた、日本語と英語字幕付きの動画となっています。

子どもに声をかけながら、日常英会話をそのまま使っているので、日常生活の中で生まれてくるイディオムや英語の表現、子供への語りかけなどが学べます。

英語表現として大事な部分は、赤く色を変えて目立たせたりもしています。それと癒しですね。癒されながら英会話もできるというチャンネルにもなっています。子どもの聞き流し英語として視聴される方も多いです。つまり「おうち英語」です。ママやパパも、私の英語をメモしたり、マネをしたりして子どもに話しかけてくれています。

また、動画の中にも子どもがいるので、お子さんはよく見てくれますね。「ぼーっと見ているだけで英語が入ってくる」ということで、お子さんに見せている方も多いです。国際結婚のリアルなやり取りも見ることができます。いろんなテーマで議論をしているので、学校のディベート部の生徒さんたちもよく利用してくれていますね。

私がバーッとマシンガントークをすることもあるので、大人のリスニング向上にも役立ちます。「リスニングが満点でした!」というメールやDMもけっこう来るんです。このようなYouTubeチャンネルになっています。

夫が驚いた、アメリカの子育て風景

私は国際結婚をしていて、今は旦那の実家の福岡に来ています。彼はタカ、川上剛弘といって、日本生まれの日本育ちです。みなさんとそういうところは似ていると思います。

結婚した時に、彼をアメリカに連れて行ったんですね。その時、私の弟・ダンはすでに結婚していて、ジョニーという子どもがいました。今はもう大きいのですが、当時は4歳ぐらいでした。そこでタカは、生まれて初めてアメリカの子育ての風景を目にしたんです。テレビや映画ではよく見ていたみたいですが、リアルで24時間見ることになって、かなり驚いたようです。

中でも一番驚いたことは、ある日のドライブ中の出来事だそうです。私の父が運転していて、私は助手席、後部座席にタカとジョニーが座っていました。タカとジョニーはいろいろおしゃべりしていて、その中でジョニーがタカの手を取ってこう言ったんですね。「Taka, your skin is really black」「タカの肌の色は黒いね」と。

そこで、父はすぐに車を停めました。私も父もジョニーのほうを見て、「ねえジョニー、さっきの言葉、タカが聞いてどんな気持ちになったと思う? 『肌が黒いよ』ってどう思う?」と、怒らずに聞きました。また「もし、ジョニーが『あなたの肌は白くて私と違うね』と言われたらどんな気持ちになるの?」とも言いました。

これは英語では「エンパシー」と言います。私の書籍の中にもエンパシーについて書きましたので、後ほど紹介しますね。「思いやり」「共感」と訳されることが多いんですが、実は21世紀のグローバルな定義としてはもっと深い意味があるんですね。この定義は企業や社会、教育においても同様です。

エンパシーにもいろんなレベルがあります。世の中で認められていて、子育てや教育に取り入れたいと思われるようなエンパシーは一番深いレベルのものです。これが、私の紹介する「レバインメソッド」のベースとなっています。

「エンパシー」とは何か?

「エンパシー」とは何でしょうか。まず、相手の方の状況を見ます。そして、その人の価値観が自分とは違うことを認めるんですね。だから「なんでこの人はこんなことをするんだろう? 私だったら絶対しないね。ストップ!」ではなくて、「私とは違うけど、人はそれぞれみんな違うからね」と捉えるんです。

そして、想像力を使います。相手が何も言わなかったとしても、見ていてつらそうだったら、何かをしてあげる。一番高度なエンパシーのやり方は、行動を起こすことなんですね。だから海外ではチャリティ、NPO、企業でのコーズマーケティングなどが盛んなんですね。

エンパシーの定義として、以上(「状況を見る」「価値観の違いを認める」「行動を起こす」)の3ステップが必要となります。

ジョニーに「もし自分がそういうことを言われたらどう思う?」と想像させたことは、エンパシーにあたります。この対応を見て、タカは驚いたんですね。私たちにそう聞かれて、ジョニーは当然「そんなことを言われたら嬉しくない」と答えます。まだ小さい子どもですので、それぐらいしか言えませんよね。

そして、私と父はこうフォローしました。「みんな違うんだよ。肌の色も1つではなくて、いろいろある。だから人間は強いんだ。みんな違っていて、それぞれが素晴らしいんだよ」。

自己肯定感の基礎の1つ「アイデンティティ」

また、「『あなたはみんなと違っていておかしいね』とあなた自身のことを認めてもらえなかったら、どんな気持ちになるかな?」とも聞きました。これは英語で「identity」、アイデンティティですね。日本でも最近、この言葉をよく聞きます。日本の辞書で調べてみると「他ならぬそれそのものであって、他の何者でもない」と定義されています。

これもグローバル・スタンダードで考えないといけないんですね。ハーバードのような名門校や、海外の最先端の子育てでは、どのようにアイデンティティを取り入れているのでしょうか。

まずアイデンティティの意味を考えてみると、単純に「ある人を、他の人とは違うものにする一連の考え方、資質、信念」ということですよね。アイデンティティは「自分が何者であるか」ということの芯です。自分のコア、自分の始まり、自分のすべてとも言えます。つまり自己肯定感の基礎の1つであるといっても過言ではないんですね。

「子どもには、きちんと自分の意見を持ってほしい」「自分で考えられる人になってほしい」と思う人は多いと思います。そのためには「自分がどんな人であるか」「どういう経験をしてきているのか」「どういう人間になりたいのか」「自分をどう捉えるのか」など、考えた上で意見を出すと思います。

意見とは「I think」だから、まず「I」、自分ですよね。「私はこう思う」という時の「私」とは誰なんだろう。まずそこを考えないといけないんですね。

タカは、生で見ていたそういうやり取りに本当に驚いて、気づきがあったということです。私たちにとってはいたって普通のことで、学校でも家でもこういう会話をするんですね。その時は、怒らずに話しますね。

何歳であれ相手をリスペクトし、意見を求める

タカは今でも毎日、「小さい子どもでも、きちんと一個人として接するところがすごい」と思うそうです。私たちには「まだ小さいから理解できないだろう」「まだ説明してもしょうがない」という考えはないんですね。子どもにも考える脳があるし、いろんなことを学びたいはずです。まだ小さいからといって無視するのではなく、一個人として対等に話をすることが大事です。何歳であれ相手をリスペクトすること。

もう1つ大切なことは小さい子どもにも意見があるので、きちんとそれを聞くということです。「あんなことを言われたらきついよね。どう? そうじゃない?」と意見を求めることが、自分で考える力につながります。

このように一個人として接して、常に意見を求める子育てをするとどうなるのでしょうか。まずアイデンティティとして、自分がどんな人であるかを理解しているので、人と違う意見を主張することを怖がらない子どもになります。

そのためには、大人が上で子どもが下ではなく、みんな対等な立場で話し合う関係を作ること。「あなたはどう思う?」「ママはこう」「パパはこう思うよ」と意見を出し合うことの繰り返しによって、自然に自分を理解できるようになるんですね。

みんなと違うことがデフォルト。それが基本です。自分という人間をしっかり理解していれば、「目立ちたくない」「みんなの意見に左右されてしまう」「みんなに合わせないといけない」という発想がまったくなくなるんですよね。それが、よく言われる「自己肯定感」です。