3児の母親であり、「政策起業家」として活動する天野氏

大岩央氏(以下、大岩):では次に、本書(『男性の育休』)の共著者でいらっしゃいます、みらい子育て全国ネットワーク代表・Respect each other社代表の天野妙さん、よろしくお願いいたします。

天野妙氏(以下、天野):よろしくお願いします。15分ということで、私はすごくおしゃべりなのでいっぱいしゃべりたいタイプなんですが、ちゃんと自分で時間を測っていきたいなと思います(笑)。

今日、お話しさせていただくことは3点です。(1つめは)「なぜ法改正がされるのか?」ということ。そして本書でもご紹介していますが、制度への誤解が7つあり、今日はそのうち3つをご紹介します。そして最後は、法改正のポイントと対応ということで、お話を進めたいと思います。

あらためまして、今日は山口先生と小室さんという超著名な方ばっかりで、「あんた誰よ?」という人も多いかと思うので、簡単に自己紹介しますね。「3つの顔を持つアラフィフ」ということで、3姉妹の母親でもあり、企業としての代表でもあり、みらい子育て全国ネットワークという市民団体の代表をしています。

政策起業家と言われているんですが、子育ての政策を政治の真ん中に持っていくために、市民の声を集めて政治家にロビイングをしています。あとは、「リスペクトを、あたりまえに」というビジョンを掲げた会社を経営させていただいております。今日のような講義・講演やプロジェクトマネジメント、コンサルをやっています。

加速する少子化、右肩下がりの出生数

天野:3年前に参議院予算委員会の公聴会に呼んでいただいて、「天野さん、ちょっと子育てについて話してもらえない? 何を話してもいいよ」と言われたので、この時に「今、子育てに必要なのはまず夫の手です」と言ったんです。

そしたら目の前の議員さんが、「お前、何を言っているの?」という軽いヤジというか、ジャブを打ってきたりして、すごくシュンってなったんですけれども。「男性の育休を義務化してはどうですか?」と申し上げたら、終わった後に松川るいさんという議員さんが声をかけてきてくださって。

「私もやりたいのよ。一緒にやろうよ」ということで、小室さんと一緒にタッグを組んで進めてまいりました。「いろいろ毎回説明していくのは大変だね」ということで、今回、2020年の9月に本を出させていただいたという流れです。

さっきも(山口さんが)イーロン・マスクの話をしましたが、日本の少子化はどんどん加速しています。「イーロン・マスクに言われなくても、何度も私は言ってるわ」という気持ちにはなったんですが(笑)、誰が言うかがすごく重要なんだなというのを日々感じています。

イーロン・マスクに言われたように、このグラフを見ていただくと、どんどん出生率が下がっています。でもね、出生率に注目するのも大事なんですが、出生数を見てください。私は小室さんと同い年で、1975年生まれで同級生は200万人いるんですが、今(生まれた子ども)は100万人を切っている状況です。

理想の子ども数を持たない理由の1位は「お金がかかり過ぎる」から

天野:日本の喫緊の課題は、ずっと「少子化」と言っていますよね。「ずっと言っているのに、なんで直らへんねん」という気持ちをみんなお持ちだと思うんですが。人口置換水準が2.07というふうに、要は人口が減らない水準があるんですね。なんですが、実は政府はその目標をすでに諦めています。政府は、希望出生率1.8を目指しているんですが、現状が1.36から1.34なんです。

これはapple to appleの比較ではないんですが、50歳未満の初婚の夫婦はどうしたいと思っているか? という調査のデータがあります。実は、50歳未満の初婚の夫婦は、理想の子供の数について「2.3人欲しい」と言っているんですね。

でも実際は1.68で、予定は2.01なんですよね。もちろん結婚しない方もいらっしゃるし、子どもを産まない方もいらっしゃるので、これは本当にapple to appleの比較ではないですが、「なんで理想の数を産めないの?」「産めたら、もうちょっとこの数字に近づくんじゃない?」と思うわけです。

同じデータの中で、理想の子どもの数を持たない理由について「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」と答えている方が56.3パーセント。私も子どもが3人いるからわかります。本当にね、いったいいくらかかるんだろう? と考えると、今から本当にそわそわします。

2018年、政府は解散選挙をして、幼児教育・保育の無償化を実際にやりました。なので、これ(教育費用の低減)はけっこう済んでいるつもりなんでしょうが(笑)、私の中では「もうちょっと違うんだけどな……」という思いがありますが、これについては今日は話しません。

「欲しいけれどもできないから」という回答に対しては、不妊治療の保険適用。これは菅政権の時に実行されて、この4月から(保険適用に)なっていますよね。そして「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられない」という理由が17.6パーセント。そして「夫の家事・育児への協力が得られない」という理由が続きます。このデータを足したら、27パーセントですよね。

育休制度に対する「7つの誤解」

天野:(こうした回答結果から)夫の家事・育児、男性の家庭進出を進めていくことが(少子化対策として)重要なんじゃないかということで、政府も熱心にやってきました。

私と小室さん、そして山口先生のおかげかどうかわからないですが、現状は育休取得率が12.65パーセントまで上がってきました。「わあ、すごいな」と。つい3年前、4年前は5パーセント以下なわけですから、12.6パーセントは本当にびっくりな数字なんです。

なんですが、冷静になってください。これは積水ハウスのイクメン白書というデータがあるんですが、20代の男性では8割が育休を取りたいと言っている。女性側もパートナーの男性に育休を取ってほしい人が、72パーセント。取りたい人が取れていないってことです。

続きまして、「制度への7つの誤解」。育休の制度に誤解がすごく多いので、詳しくは本書を読んでいただきたいんですが、今日は3点だけご紹介させていただきます。

一番よく聞くのは、「収入ゼロになったら生活できない」「男が取っても意味ないでしょ」とか。これはたぶん、後で小室さんが説明してくださると思うんですが、意味が大ありです。「妻が専業主婦だから取れない」とかね。あとは「大企業じゃないから」「会社に申し訳ない」という人がいました。会社のことが大好きなんですね。

こういう方がすごく多いので、疑問や誤解が出てくる。実はね、全部「ノー」なんですよね。ですが、今日はこの3点だけご紹介したいと思います。

育休中の給付金は、いったいどれくらい貰える?

天野:まず1つは、「収入がゼロになるんじゃないの?」と思われている方。実は給付金がもらえます。給付金は、残業代を含む(育休取得の)その前の半年間の月給に67パーセントを掛けたものですから、残業をたくさんされていらっしゃる方は、けっこういっぱいもらえるんじゃないかなと思います(笑)。半年間、給付金として受領することができる。それ以降は(月給の)50パーセント給付というかたちになります。

「今は30万円もらっているけれど、(月給の67パーセントだと)10万円減っちゃうのか。住宅ローンを払っていたら難しいな」と思われるかもしれないんですが、社会保険料が免除されるので、手取りで言うと普通のサラリーマンだったら8割から9割ぐらいが補填されると考えてください。

そして、この給付金のお金の出どころなんですが、「これはお金を会社が出してくれているんでしょ? 休みももらうのに、お金ももらって申し訳ないよ」という方。会社が大好きなんですね〜(笑)。そういう方は多いんですが、みなさん給与明細を見てください。

雇用保険って、毎月払ってますよね。実はみなさんが払っている保険料からこの給付金は出ていますから、会社がお金を負担しているわけじゃありません。みなさん、安心して取っていただいて大丈夫です。

仮に、年収600万円の人が2ヶ月間育休を取得した場合の減収を、社労士さんに計算して出してもらいました。これは、出版当時の掛け率になりますけれども。額面で言うと、おおむね年収は100万円減る。毎月の給与額は40万円の人を想定していますが、額面でボーナスも含めて100万円減ると仮定した時に、社会保険料の免除後を比較すると、手取りでの減額は年収ベースで4パーセント程度なんですね。

4パーセントしか減らなくて、2ヶ月育休を取れて、子育てに専念できて、夫婦仲が良くなって、私はこれを見た時に「もう、メリットしかない」という感じで受け取ったんですが、みなさんはどう思われますでしょうか?

仕事の“棚卸し”ができるため、人材育成のチャンスになる

天野:そして最後に3つ目ですが、これが一番多いんです。「同僚に迷惑を掛けちゃう」。さっきも山口先生がお話しされてましたが、突然休んだらそれは迷惑ですよね。

なんですが、育休は事前に告知できるわけですよ。「(出産予定日がいつで)何月何日頃から休みます。この仕事は置いておいて大丈夫だから、これとこれは週に一回でいいからね」と。今まで自分がやっていた仕事がきれいに整理されて、そして「やらなくていい仕事だな」と、棚卸しができて見直しができることが、大変大きなメリットになると言われています。

実際に、私どもでお手伝いした企業さんがおっしゃっていたのが、管理職が(育休を)休んでメンバーが課長代理を務めたらしいんです。そしたら「課長ってこういう仕事をしてたんだ」と、初めてちゃんと知れたと言うんです。

短期間だったけれども、「自分が課長になるためには、こういうことを知らなきゃいけないんだな」「こういうことができなきゃいけないんだな」というのをあらためて知るチャンスになったということです。本人の昇進意欲にもつながりましたし、自分の目指す姿や、これから身につけることが見える化され、とてもいい機会だったとお聞きしております。

ということで、まだまだ話したいですが、残りの時間で法改正のポイントと対応についてお話ししたいと思います。

育児介護休業法改正後の「6つのポイント」

天野:今回の法改正のポイントは6点あります。1番と2番が、この4月からスタートしているものですね。そして3番、4番が今度の10月から。そして5番が来年4月から。6については順次やることになっています。

1番、2番から言っていきたいと思います。これは厚生労働省のページをコピーして貼ったんですが、「文字が多くてピンクと黒が……」という感じで、私はこういうのが苦手なので絵にしました。

「雇用環境の整備」が必要なんです。平たく言うと、社員が「育休を取りたい」と言える環境を作ることです。挙げている4つのうち、どれか1個をやるというのが今回の法律の義務化なんですね。

1「研修」、2「相談体制」、3「事例の共有」、4「方針の周知」です。まだ事例がない企業もたくさんあるので、「3(事例の共有)をやろう」と思ってもすぐにはできませんから、まずは手っ取り早く、4の方針の周知から取り組むことがおすすめかなと思います。

でも、これだけをやればいいわけじゃなくて。社内イントラに載せて掲示しても、読まない人がいっぱいいるんですよ。「育休を取りたい」と言っても、研修してないから「うちの会社で育休なんか取れるわけないじゃないか」「いやいや、イントラに載っていますよ」という会話が繰り広げられちゃうんですね。

ですので、研修と相談体制が大事です。そして研修をやっても「課長にこんなことを言われたんですけど」ってなりますから、ちゃんと相談できる窓口を作っておくのも大事です。まずは手っ取り早く4から始めて、4、1、2、3と進めていただけたらなと思います。

育休は「法律」なので、就業規則に記載がなくても取得できる

天野:そしてもう1つ、義務化になっているもの。これはもう4月から施行になっていますが「個別周知」と「意向確認」です。つまり、個別に説明するということですね。「取るの? 取らないの?」と、意向を確認することです。

その際に、伝えなきゃいけないことが4点あります。1つは「制度があるよ」ということと、そして2つめは「取るなら相談はここに言ってね。人事の窓口でもいいし、僕でもいいよ」。3つめは「実は給付金がもらえるんだよ」。4つめは「社会保険料はこうなるよ」と伝えなければいけません。

さっき社会保険料が免除されると申し上げましたが、月末の日に休まないと駄目だとか、制度には細かいところがあるのでご注意ください。この手段は、面談か書面で、本人が希望すればFAXか電子メールでもオッケーということになっています。

育休は準備が必要だから、取るほうも取るほうでなるべく早めに伝えなきゃ駄目です。突然休まれたら迷惑。これは当然だと思いますが、突然休まないように前もって言うことですね。前もって言われたら、ちゃんと前もって告知。個別周知、意向確認をするということです。

個別周知のためのツールを弊社で作っているんですが、意向確認の資料とか、業務フローをみんなで共有することもすごく大事です。

「なんで個別周知にそんなにこだわってるの?」「義務になったの?」というところですけれども、これは本書にも紹介がありますが、育休を利用しなかった理由の第1位として「会社で制度が整備されていなかった」と、約25パーセントの人が回答しています。「(制度がないから)自分は育休が取れないんだ」って思ってるんですね。

でもね、制度がなくても法律なので、(会社の就業規則や)規定集に書いてなくてもサラリーマンはみんな取れるんです。経営者だと(給付金は)出ませんが、会社員はみんな取れるんです。

男性育休取得者の、4人に1人が経験する「パタハラ」

天野:実はそのことを知らない人が多いので、やっぱり「パタハラ」しちゃう人が多いんです。パタハラというのは、男性の育児関与に対する嫌がらせです。約4人に1人が、上司から妨害を受けたと言われています。

パタハラは育休に関するものがすごく多くて、最終的には3.8パーセントは会社を退職したと言ってます。なので、本当に周知が大事だということなんですね。

そして2つ目です。先ほどの6個のうちの2番ですね、有期雇用で入社歴1年未満でも取得が可能になりました。今まで(入社)1年未満の人は取れなかったんですが、法改正で取れるようになっています。

そして3番目は、今度の10月からです。厚生労働省は「出生時育児休業」と言っていますが、私たちはわかりやすく「男性産休」と言っています。というのも、女性の場合は(産後)8週間の間は産休なんですね。この産休の期間で、男性が4週間まで育休を重点的に取れるようにする制度です。絵にするとこんな感じですね。

産後8週間の期間で、4週間の育休を取ることができ、これを分割することもできるんです。加えて、育児休業の期間についても、男女ともに分割して取ることができるように制度が変わっています。

そしてもう1つ。2023年4月から、従業員1,000人超えの企業は育休取得率を公表しなければいけないことになっておりますので、大企業の方はご注意をいただければと思います。

男性の育休取得に向けて、企業がすべき「3つのこと」

天野:「企業が今すべき3つのコト」でご紹介したいのは、①トップメッセージを出すこと、②社員の意識改革、そして③社内の制度の規定集を変えていくことです。①では、トップメッセージを記事に載せるとか、研修をやったら最後に社長を呼んで思いを話してもらうとかですね。

②では、研修も男性だけの育休セミナーじゃなくて、夫婦で受講するのも良いと思います。あと、人事の方は制度の変更をやらなきゃいけない。それから助成金ですね。本書(『男性の育休』)をお持ちの方がもしいらっしゃったら、47ページに(記載してあります)。この4月から、助成金の支給額が変わりました。

以前までは最大72万円だったんですが、ちょっとしょんぼりした数字になっております。とはいえ、まだ助成金の制度はありますので、中小企業の方のみですが、このあたりもチェックしていただけたらなと思います。ということで、以上でございます。ありがとうございました。

大岩:天野さん、ありがとうございました。法律って、見ていたら目がくるくるとなってわかりづらいものが多いと思うんですが(笑)、とてもわかりやすくご説明をいただきました。4月から、そして10月からどのように変わるのかがよくわかりました。ありがとうございます。