「自分が間違っているかも」という謙虚さを持ち続ける

ーー成長意欲のある人材を育成していくポイントを教えてください。

柴田紳氏(以下、柴田):2010年過ぎには、組織の中が意欲ある人材で満たされている状況になってきていたんです。なので、“意欲ある人たちの塊”である組織が作られ始めていました。今では、そういう人が自然に伸びていく土壌があるんです。

例えば、ある人材がすごく伸びそうで、「彼にこういう経験をさせたらこう化けるな」と思ったら、僕から「こっちへ行ったほうがいいよ」と異動してもらったり。結局、組織の育成力が弱いということは、組織に任せられないということなので、僕が別でパスを作っていました。

その頃から残っていて、今の中核になってくれてる新卒層だと、いくつも部署異動してもらっていました。(社員が希望を)言ったら異動させて、それでけっこういいキャリアになった人が残ってる印象はありますね。今はそれが自然になされるというか、みんな興味を持ったところを勝手に兼務していきます。

ーー新卒採用や若手の人材育成に力を入れている印象がありますが、若い世代と接する上で大事にされていることはありますか?

柴田:本当に「フラット」という言葉に集約されるかもしれません。確かに、いろいろ経験してきているから提供できるものもありますが、一方で時代は変わり続けるので、僕が持っているものがすべて正解だというのは絶対にあり得ない。なので、「自分が間違っているかも」「相手に学ばなきゃいけないかも」という謙虚さをずっと持ち続ける。

自分自身も26歳の時には尖ってたけど、(事業の構想について)まあまあいいことを考えてたので(笑)。そうすると、「年齢じゃないな」という達観もありますし、そういう人ほど、上から来られるとあっという間にそっぽを向くんです(笑)。

「知的に謙虚」でなければ、事業はうまく行かない

柴田:あとやっぱり、ネットプロテクションズは世の中にない事業を作ってきている会社ですが、世の中にない事業を作っている時って、知的に謙虚じゃないと無理なんですよね。要は、自分自身で「絶対にこれが正しいわ」と考えて、一切変えずに突き進むと絶対にうまくいきません。

信念は曲げちゃいけないけど、一方で社会からの反応を謙虚に受け止めて変えていかないと、絶対に立ち上がりません。なので、自分の知性への自信と限界をいつも感じてました。考えていることがおおむね合っていれば、「俺すごいな」と思うシーンもあれば、「そうか、こう考えなきゃいけなかったんだ」という気付きがあったり。

だから対人でも同じように、自分のほうが経験も年齢も上でも、「俺の言うことが全部正しい」なんてことはあり得ない。人はそれぞれ、ぜんぜん違う経験もしてきているので、僕が持ってない観点をいっぱい持っています。

ーー今では社員がそれぞれ裁量を持ってお仕事をされていますが、メンバーに権限委譲を進めていく上で、苦労された点もあったのではないでしょうか。

柴田:僕自身も、新卒で大企業の商社に3年間いたんですが、まったく権限がなくて。そうすると自分なりの付加価値も出しようがないので、権限がないと仕事ってなにも楽しくないんですよ。

それでいうと、ベンチャーに入ってくるような人は成長意欲もあって、「自分の力でなにかしたい」という人だらけなので、仕事の楽しさは権限委譲の度合いとほとんどイコールなんですよね。越えすぎるとしんどくなりますが、権限委譲されるほど楽しくなる。

権限を渡すと、マネージャーは自分の“城”を作ってしまう

柴田:一番多かった失敗としては、やっぱり組織が独立しちゃうんですよね。2010年以前はマネージャーという役職があって、僕からの権限委譲先はまずマネージャーになるんですが、権限を渡すとマネージャーは自分の“城”を作っちゃうんですよね。

僕からすると、マネージャーからまた次の若い子たちに(権限を)渡してほしいんですが、渡さずに“王様”になっちゃうんですよ。(マネージャーに権限を)渡すと、ブラックボックスの要塞みたいになっていって。そこに問題を感じて僕が介入して壊す。そうすると、マネージャーと揉めて……とか。

でも、事業規模を考えると、権限を渡さないと回らなくなってきますし、めちゃくちゃ苦しんでましたね。もちろん、若い子たちからは「もっとこういうことをやりたい」という突き上げがずっと来ていました。

僕にはコーチもメンターもいなかったので、本を読んで学んでましたが、ドラッカーの原理原則とかを読むと、会社とは「いかに正しく権限委譲していくか」なんですよね。やっぱり社長がやっていることが一番楽しいので、社長と同じようなことを、いかにみんなにやってもらえるか。

それが組織の力も決めるし、みんなの成長も決める。ただ、権限委譲って、単に渡すだけだと絶対にみんなが違う方向に行ってしまいます。なので、「正しい権限委譲ができる組織」を追求したのがうちかもしれないですね。

働く場所も、部署も、長期休暇の取得も自由に選べる

ーーちなみに、丸投げにならないような仕事の渡し方として、どういうところに気をつけたらいいのでしょうか。

柴田:いくつもありますが、まず1つは可能な限りの経営情報を全員に渡すことです。どんなに頭が良い人でも、インプットを間違ったらアウトプットを間違えますよね。情報の開示もそうですし、プロジェクトや仕事のナレッジがあれば、参照しながら正しい判断できるはずなので。

だから、さっきの「ビジョン」がここでめちゃくちゃ効くんです。NPの中で、情報や知識、過去の判断基準を学んでいき、何か大きな判断をするときは7つのビジョンを参照する。これを一定期間行うと、大きな意味では判断の基準が似てくるんですよね。

なので、うちで数年過ごしていて、「会社としてこういう判断をするな」というのがわかっている人が権限委譲されて判断するのであれば、そんなに(方向性は)ブレないです。

ーー情報や判断基準がしっかり共有されていることで、納得感を持って働ける環境になっているんですね。

柴田:そうですね。働く場所も部署も自分で決められるし、なんなら長期休暇だって自分で勝手に決められます。普通の会社だと、出世や評価に響きそうだから、長期で休むってけっこう「最終手段」という感じじゃないですか。でもうちでは、「ちょっと疲れたから1ヶ月休もう」みたいな(笑)。

全部署に「成果と成長と幸福を、全部バランスしてくれ」と、ずっと言っているんです。仕事である以上、その部署として出してほしい成果は出す。それは普通だと思うんですが、一方でそこに属する全員がダイナミックに成長できるように、うまく仕向けていく。

「こんな組織、存在し得たんだ」フラットさに驚く中途社員

柴田:加えて、全員が幸せに働けるようにする。幸せは人によって「バランス良く働けていることが幸せ」「チームのみんなと仲がいいことが幸せ」「めちゃくちゃ熱中できていることが幸せ」とか、ぜんぜん違いますよね。そこを個別化する一方で、経験のあるシニア層からもアドバイスをしています。

フロー状態になると幸せな人はけっこう多いんですが、フローが続いても大丈夫な人もいれば疲れちゃう人もいます。そうすると、「もっとペースを落としたら?」という話にもなるでしょうし、そこにアドバイスを入れるのがシニア層の役割ですね。でも、中途で入ってきた人たちもみんな驚きますからね。

ーー中途入社された方は、どういった点に驚かれているんですか?

柴田:「こんな組織、存在し得たんだ」「フラットって言いながらも、さすがに……と思っていたら、本当にフラットだった」とか。偉い人が誰もいないし、誰かがパワーを持っているということもない。

それでありながら、ちゃんと未来を描きながらどんどんグロースできているので、「これで成立するんだ」という発見に驚いている気がしますね。でも、新卒からしたら「いや、普通でしょ」という感じなんですよね(笑)。

組織における「レジリエンス」を向上させるポイントは?

ーー今回の特集テーマは「レジリエンス」ということで、さまざまな苦境を乗り越えられてきた柴田さまにお話をうかがってきました。柴田さまの目線で、組織におけるレジリエンスとはどのようなものだと思われますか?

柴田:事業においても組織においても一緒な気がしますが、結局は「会社のことを好きな人がどれぐらいいるか」による気がするんですよね。

ちょっと話が飛んじゃいますけど、家の中にごみが落ちてたら拾うけど、街中で拾う人はそうそういないですよね。でも、会社内だったら拾うかもしれない。だから、その場を好きだったり、当事者意識が強ければ強いほど、その場の課題を解決しにいくようになると思うんです。

会社のことが好きで、「なんとか良くしたいな」と思っている人が多いほど、事業上の課題も組織上の課題も、「なんとか自分たちでもっとより良くできないか」と動き出すので、それがレジリエンスそのものだと思います。

そのためには、なるべく全員を公平にすることもそうですし、なるべく全員を愛すことも大切です。会社から愛されているなと思ったら、返報性でみんなが返してくれるんです。だから、最初の新卒研修とかで放置しまくったら、全員が会社を嫌うと思うんですよ。

めちゃくちゃいい研修をして、みんなが向き合って歓迎すると、「この集団は俺のことが好きなんだ」という気になってきます。だから僕はずっと、新卒とも中途とも座談会をやっています。中途の人が入った時も、6ヶ月間、毎月1回座談会をやるんです。

その場でいろいろ話もしながら、歓迎されている感も出る。なので、今は250人の社員がいますけど、僕は全員をあだ名で呼べます。キャラクターもだいたい知っているので。

組織を殺すのは「嫉妬」

柴田:そして、「活躍できる場があるか」はもちろん大事だから、公平性はめちゃくちゃ大事です。組織を殺すのは嫉妬なので、いかに嫉妬が起きにくいように公平性を担保するか、いかに最初に社員を愛すかが大事です。

入ってきてすごく歓迎されると、中途の人がみんな驚くんですよ。入社すると配属される部署以外のいくつかの部署に「出向」という形で数ヶ月働いてもらうのですが、そのタイミングでもまた歓迎されて、歓迎会があったりするんです。「出向で来て、教えなきゃいけないから面倒くさいだけの存在なのに、こんなに歓迎できるなんてすごいですね」と、いつも中途の人から聞きますね。

たぶん多くの会社では、中途で入った部署はまだしも、「1週間の出向です」と言われたら、だいたい放置されると思うんですよね。そこがまさに、レジリエンスにつながるような雰囲気が醸成されているのかなと思います。

ーー「組織は人なり」とよく言われますが、貴社はその実践を通して「レジリエンス」を体現されている組織だなと感じました。柴田さま、本日はありがとうございました。

柴田:ありがとうございました。