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ドラゴン桜の仕掛け人が感じる"言葉のズレ"【言葉のズレと共感幻想 - 佐渡島庸平】(全1記事)

名刺も、パソコンも、編集者としての「こだわり」も捨てた コルク佐渡島氏が、他者との「ズレ」を通して気がついたこと

「セミナーに参加したかったけど、時間が合わなくて行けなかった……」。株式会社イノベーションの調査によると、ビジネスパーソンの2.5人に1人はそんな経験をしているそうです。同社が運営する動画サービス「bizplay」は、オンライン配信を通して、いつでもどこでもセミナーに参加できる環境を提供しています。そんなbizplayのオンライン動画に、株式会社コルクの佐渡島庸平が登場。編集者としての「こだわり」を捨てた理由や、他者との「言葉のズレ」を認識することの重要性を語りました。 ■動画コンテンツはこちら(※動画の閲覧には会員登録が必要です)

「社長の言っていることがコロコロ変わる」と感じるのはなぜ?

森本千賀子氏(以下、森本):それでは佐渡島さん、自己紹介をお願いします。

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):コルクというクリエーターのエージェント会社をしています。有名な作家だと、『宇宙兄弟』の小山宙哉とか、去年ドラマが大爆発した『ドラゴン桜』の三田(紀房)さんとか(を担当していました)。

森本:そうですよね。実は、私との接点はそこにありますよね。

佐渡島:『ドラゴン桜』の作者の三田さんが、昔、転職エージェントを舞台にした『エンゼルバンク』という漫画をやっていて、取材をいっぱいさせてもらって。

森本:そうなんです。

佐渡島:今までは作家の人が1人で作って出版していたんですが、アニメだけじゃなくて、世界的に漫画もスタジオ形式で作る流れになりだしています。今はコルクスタジオというかたちで、仕事の主力はスタジオ形式で漫画を作っています。

森本『言葉のズレと共感幻想』という本を発売されていますが、どんな内容なんでしょうか?

佐渡島:細谷(功)さんというコンサルタントの方との共著なんですが、細谷さんは『具体と抽象』というビジネス本としてのベストセラーを出していて、僕もこの本が大好きで。よく社長って、「言っていることがコロコロ変わる」と言われたりするじゃないですか。

森本:ありますね。

佐渡島:たぶん、社長が考えている「抽象的なこと」は変わっていないんですよ。抽象的なことを具体に落としていった時に、それぞれの局面において違う具体を言うから、(言っていることが)変わっているように感じる。もしも具体から抽象までを辿って思考することができていたら、ズレているとは感じないはずなんですよね。

「具体」の考え方の違いが、コミュニケーションの齟齬を生む

佐渡島:何かアウトプットをする時や、創作をする時。例えば、僕らは漫画でキャラクターを考える時に、「どんな性格の人かな?」ということを(考える)。抽象的なかたちですよね。

それを漫画にしていくと、「どんなしゃべり方をするのかな」「どんなふうに手振りが動くのかな」と、かなり具体的になってくる。その時に、「穏やかな人の手振りってどんなの?」「怒りやすい人の手振りや口の動き方ってどんなの?」というかたちで、具体と抽象をむっちゃ行き来するんですよ。

さらに、ストーリーでいうとテーマがあって、そのテーマをどんなエピソードで伝えるのか、エピソードはさまざまなものになりますよね。でも、この作品ではずっと「愛」をテーマにしているとか、「友情」をテーマにしているとか、抽象は1個になる。具体と抽象の行き来がどれくらい上手いかが、すごく重要なんですよね。

森本:なるほど。

佐渡島:なかなかみんなそれができない。「抽象」はあっても「具体」の考え方がぜんぜん違ったりして、結局コミュニケーションが上手くいかない、ということが起きる。

「言葉」は、けっこうズレるというか。例えば、森本さんと僕が転職の話をしようと思ったとするじゃないですか。その時に、森本さんは転職を(どう考えますか?)。

森本:「(人生を)より豊かにする」とか。

佐渡島:「自分の人生を豊かにするだけの、ちょっとしたきっかけでしかない」と思っている。それに対して別の人は、「転職は一世一代の覚悟である」と思っている。ある人が、森本さんから飲み会の最後に「転職しちゃいなよ」と言われて、「あの人は気軽に人の人生を適当なこと思って」と怒ったりするかもしれない。

森本:ありがちですよね。

佐渡島:森本さんからしてみると、「もうちょい(人生を)楽しみな」と、ちょっと応援しただけ。

森本:「きっかけだよ」くらいの。

佐渡島:「転職」という言葉が、ズレて伝わっている。

森本:確かに。

ほとんどの人は、言葉の意味がズレた状態で会話をしている

佐渡島:という感じで、実はほとんどの人たちは、言葉の意味がズレながら会話をしている。だから、それをどう合わせればいいのか。細谷さんが運営しているサイトで、「ダブリング」という記事があるんです。

例えば、「『失敗』と『成功』をダブリングしましょう」と言うと、「失敗」という言葉と「成功」という言葉を、輪っかで(表現して)どんな関係性だとするか。

「失敗」が全部で、その中に小さく「成功」があると、基本は全部失敗で、その中で運良く行ったものが成功だと思う人もいれば、成功と失敗という別物の輪っかがあって、ぜんぜん離れているものだと思う人もいる。その輪っかの大きさが同じなのか、(どちらかが)小さいのかとか、重なるのかとか。

森本:(人によって)捉え方が違いますよね。

佐渡島:よく、起業家の人が「メンタルが強い」と言われたりするのは、実際はメンタルが強いんじゃなくて、失敗と成功に対する考え方が違っている。多くの人は失敗と成功を分けて考えていて、失敗し続けていると「メンタルが駄目になる」と言うんだけど、(起業家の場合は)失敗が基本で、それを繰り返して運良く行ったものを成功と呼ぶ。成功は他者が勝手に言うもの、という感じなんですね。

森本:外部の要因なんですね。

佐渡島:そう。基本は、ただ仮説を試しているだけの状態がずっと続いていると思っていて。そんな状態であれば、失敗にがっかりすることがなくて、「日が昇ったな」というのと同じように「また失敗したな」としか思わない。

根本がズレていると、「幻想に共感し合う」状態になる

森本:捉え方が変わるということですね。

佐渡島:そう。それがたくさんの「言葉」にも起きる。男と女もそうだし、例えば「家族」と「仕事」とかね。

森本:確かに、これも難しいテーマですね。

佐渡島:難しいテーマですよ。夫婦でもぜんぜん違ったりします。ある人は「仕事だから」と言ったら、家族よりも優先していいと思ったりするけど、ある人は「家族だから」と言ったら、仕事よりも優先するべきだと思っている。夫婦でも、そこの言葉が揃っていないと「なんで仕事だからって、土日に出かけるわけ?」となっちゃったり。

森本:揉める原因ですね。

佐渡島:実際は、本当に共感しているところはズレているのに、どうやって話し合い続けるか? という感じですね。突き詰めていくと実はズレているのに、お互い「共感したい」という気持ちがあったりして。

森本:(お互いの気持ちに)合わせに行く。

佐渡島:合わせに行くことで、幻想に対して共感し合っちゃっていることがあって。世の中って、そういうもんなんですよね。そういうものなんだけど、少なくともプロジェクトのチームで「何かを成し遂げるぞ」となった時には、そこを擦り合わせていかないと上手くいかない。

言葉の「ズレ」を自覚するだけでも、コミュニケーションは変わる

森本:ちなみに、ズレを矯正していくには具体的にどんなことが必要ですか?

佐渡島:ほとんどの人が「ズレている」と思っていないんですよ。

森本:気付いていない。

佐渡島:気付いていないというか、「言葉はズレるものだ」と思っていない。上司と部下のコミュニケーションでも、「わかった?」と聞かれたら「わかった」と言うじゃないですか。人と人が分かり合うことは基本的にはない、と思ったら、「わかった?」とは聞かないはずなんですよ。

森本:なるほど。

佐渡島:「わかった?」と言って、相手が「わかった」と言って進むのは、ある種……。

森本:幻想でしかないと(笑)。

佐渡島:幻想の中で突き進む、という感じです。まずは、こういうふうに会話をしてる時に、「自分は相手の言っていることをわかっていないんだな」と(自覚する)。相手の言っていることを、「自分がすでに知っている言葉で判断しちゃっているだけだな」と思って聞き続けるだけで、ずいぶん変わるだろうなと思います。

佐渡島氏が「自分のこだわりをどんどん捨てよう」と思った理由

佐渡島:僕自身がずっと編集者として、こだわりをどうやって強くしていくか、自分の美意識をどう高めるかを、ずっとがんばっていたんですよね。なんですが、この本では『言葉のズレと共感幻想』と言っているように、わかり合えることはないわけじゃないですか。

だとした時に、ライターの人が書いてくれた文章に対して、「もっとこうしたほうが相手に伝わるんだ」と言って僕が細かく直すことって、どういう意味があるんだろうな? と思ったんですよ。

森本:なるほど(笑)。そこに気付きましたか。

佐渡島:今まで、いつも何十時間もかけて直したりしてたんだけど。

森本:それが編集者、という感じですよね。

佐渡島:「それが責任だ」と思っていたんですが、緩やかに誤解が生まれていくから、大雑把な方向性が合っていたらもういいや、というふうになって。その上で、この本を読んだ読者とコミュニケーションを取れば十分じゃないかなと考えるようになっていきました。本を修正すること自体をいいとは思わなくなって、自分のこだわりをどんどん捨てようと思ったんですよ。

森本:そうですか。普通は逆ですよね。編集者として成功体験を積んでいくと、どんどんこだわりを持つ方が多い印象がありますけどね。

佐渡島:それは「職人」になっていくということで、多くの人と関わって広がっていく、という感じではないだろうなと思っています。自分で会社をやりだしたら、多くの人が働きやすいようにするには、こだわりを捨てていくことのほうが重要です。「楔」みたいな感じで、重要なところだけにこだわるのがいいだろうなと思っています。

名刺も持たず、パソコンも捨て、連絡手段はSNS

佐渡島:(現在は)福岡に移住しているんですが、東京に来る時にはホテル住まいにして、物を持たないと決めているんですよ。だから僕、何もかも手放し出していて。

森本:編集者としてのこだわりだけではなく(笑)。

佐渡島:物がぜんぜんない。東京、福岡の移動ですらトートバックで、ふだんはカバンを持たない。そして、さらには名刺も持たなくて、名刺をもらった瞬間にEightに登録しています(笑)。

森本:(笑)。

佐渡島:Eightでつながっておく、という感じです。

森本:確かに(名刺は)いらない。

佐渡島:僕に連絡を取りたい人は、メッセンジャーもTwitterのDMも全部開放しているので、名前を検索すれば自由に連絡が取れるから。

森本:なるほど。そこで取って、と。

佐渡島:さらに僕、パソコンも捨てたんですよ。

森本:ええ!? これは新しいですね(笑)。

佐渡島:現代人っぽくないじゃないですか。

森本:佐渡島さん、パソコン持っていないんですね。

佐渡島:パソコン持っていない。

森本:みなさんも「え!?」という、(衝撃的な)シーンだと思いますね。

佐渡島:だからみんな、zipファイルとか送るのマジでやめてほしいと思って。

森本:スマホで開けない(笑)。

佐渡島:スマホで開かないやつは(送るのを)やめてよ、と思うんですよ。

森本:zipファイル、やめましょう(笑)。

(会場笑)

森本:ある意味、それも(言葉の)ズレが前提にあるんですか?

佐渡島:それもそうだし。(今までは)誤解を助長しないように修正をしていたけど、絶対に間違っていること以外は(修正は)なし。絶対に間違っているのは秘書が気付くし、秘書が気付かなかったら、僕が勘違いを生む行動をしているんだなと思って、直せばいいやと思って。

森本:新しいですね。

佐渡島:そもそも人と人はズレ合っているんだ、わかり合うことには限界がある、と思いながらコミュニケーションを取っていると、ずいぶん気が楽になるんじゃないかなと思うので、ぜひ『言葉のズレと共感幻想』を読んでみてください。

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