2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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ーー組織のレジリエンスをテーマに、「新卒の8割が辞めていく」企業が、「新卒入社後3年目までの離職率がゼロ」に変われた理由について、詳しくお話をうかがっていきたいと思います。まず、2007年から2012年までの6年間は、なかなか新卒で採用した社員が定着しない時期が続いていたということなんですが、その原因は何だったのでしょうか。
柴田紳氏(以下、柴田):遡ってお話しすると、僕はもともと投資会社にいました。2001年にこの会社を買収して、出向して、まさに今のメイン事業である「後払い決済」サービスをゼロから作りました。買収時には社員が20人弱くらいいたんですが、僕が26歳で、社員のみんなは40歳前後。当時のメンバーは、仕事への意欲も会社へのロイヤルティもない状態でした。
今のCTOは2002年に入ってくれているのですが、当時は僕とCTOと数人でめちゃくちゃがんばって、どうにかしていました。一方でずっとノリきれない人たちもいたので、(熱量に)ものすごく乖離があって、組織状況は本当にひどかったんですよね。
中途採用しようとするものの、お金もないし知名度もないし、来てみたら会社の雰囲気が悪いしで、ぜんぜんいい人が採れない。人は辞めるけど、新しく入った人もまったく定着せず、厳しい状況でした。
2007年から新卒を採り始めたんですが、当然、内部の組織状況がひどければ新卒の定着もなかなか難しかったです。
ーー当時、社内にはどのような空気が流れていたのでしょうか。
柴田:組織は10年以上ひどかったので、ずっと大変でしたね。自分がオーナーで作ったのであれば、もっといろいろできると思いますが、なにしろ買収してマイナスから入っていった状態だったので。
柴田:組織の大多数が僕のことを嫌っていて、社員も会社にコミットしていなくて。組織は過半数によって左右されるので、過半数がネガティブに思ってる状態だとなかなか厳しいですよね。
事業モデルとしては、今も主力の「NP後払い」をやっていたので、「事業性は確実にあるな」というのは見えてたんですよね。なので、うまくやりさえすれば確実に伸びるんだけど、なにしろ組織が追いつかないという状況がずっと続いていました。
最初は全部トップダウンでやっていたものの、事業の規模が広がってくると隅々までは見られません。各部署や各チーム、各個人が強くならないと権限委譲もできないです。そのためには、一定の思考力があって、意欲がある人材が必要です。
だけどお話ししたように、中途では採れなくて。新卒は採れるんですが、採ったあとに育成したくても、明らかに中途社員は歓迎していない。投げつけるように「お前、これやっとけよ」みたいな。「ベンチャーを一緒に盛り上げていくぞ!」と思って入ったのに、あんまり歓迎されず、けっこう放置気味だと、限られた人しか生き残れない状態ですよね。
ーー新卒で入ってくる社員の方たちに対して、既存社員の方たちは「教えてあげよう」という雰囲気ではなかったんですね。
柴田:そうですね。結局、そういう人たちって「育てなきゃいけないから面倒くさい。もう、中途で採用すればいいじゃん」「なんで新卒を採るの?」みたいな。しかも、そもそも僕に対してもそんなに愛着を持ってないとなると、余計にそうなりやすいですよね。
柴田:もしくは、気持ちがあっても実態が追いついていない。ベンチャーに入ってくるような人って、自分で走っていきたいタイプの人が多いんです。一方で、中間層の人が「いいから従えよ」という、めちゃくちゃ上から潰すようなマネジメントをしていた。
(新卒社員は)意欲も能力もあるので、1〜2年辛抱しながらコーチングすれば絶対に立ち上がるはずなんですが、上からマネジメントして、全部を自分色に矯正しようとしたりするとなると、なかなかしんどいですよね。
ーーそんな苦境が10年以上続く中で、心身ともにすごく負担が大きかったのではないかと思います。それでも柴田さまが走り続けられた原動力はどこにあったのでしょうか。
柴田:ベンチャーの社長だと普通かもしれないですが、月曜から土曜までフルで働いて、たまに日曜日も働いていたんだけど、誰からも褒められないし、組織問題ではずっと悩まされ続けていた。(社員が)やってくれないから、作業的なところも僕が大部分をやっていました。HTMLを書いたり、アフィリエイトの承認をしたり、取締役会の議事録を書いたり、営業もしました。
フルフルで働いても誰からも認められず、来るのは罵声ばかりだったので、けっこうきついですよね。組織がそうだと数字もなかなか伸びてこないので、株主からも責められ続けました。
じゃあなんでやれたのかというと、後払いの事業はめちゃくちゃ伸びるなと思ってたんです。これをちゃんと育てていけたら、社会を変えられるような、次の当たり前になるようなサービスになれるなと思っていたので。CTOとは、よくそんな話をしながら励ましあってましたね。
柴田:事業も作り、新卒採用も含めてどんどん自分で採用もしていたので、当然責任も重いし苦しい。「自分がゼロベースで会社を始めたほうが手っ取り早いや」という考え方もあったんですが、「採用した人に対して、責任を全部投げ出すのか?」という思いもすごくあったので、最初は本当に責任感だけでずっとやっていましたね。
ーー「誰からも褒められない」というのは、トップの方ならではの苦しみでもありますね。
柴田:そうですね。特にメンターもコーチもいない中で、やり方が正しいかどうか、誰もアドバイスをくれなくて。孤独にずっと走って、上からも下からもずっと悪口ばっかり言われる。よく、家で泣いてましたよ(笑)。
ーーバラバラだった組織を変えた1つのきっかけが、全社員で1年間かけて行った「ビジョン」の再制定だったということで、簡単にビジョンの内容をご説明いただいてもよろしいでしょうか。
柴田:うちのホームページにもあるので、またそちらも見ていただければと思います。ミッション・ビジョン・バリューの3つがあって、ミッションは「つぎのアタリマエをつくる」というものですね。ビジョンは7つあるんですが、特に一番重要なのは「歪みがない事業・関係性をつくる」というものです。
あと、バリューの「5つの価値観」は、2005年ぐらいからずっとあります。実は2005年から、ずっとうちの採用基準は変わってないんです。17年ぐらい同じ採用基準で、この5つの価値観を満たせる方を採用しています。
柴田:昔はミッションとバリューだけで、「ビジョン」の部分がなかったんですよ。「目指すべき先」と「どういう個人が集まる組織か」さえ定義すれば、うまくいくと思ってたんですよね。2007年から新卒採用を始め、一方で中途採用もいい人が入り始めたので、2010年過ぎには5つの価値観をクリアした新卒の人・中途の人がけっこう集まっていました。
ーーなるほど。2010年以降は、メンバーの方向性が一致してきたんでしょうか。
柴田:本来はそうなるはずだったんですが、組織の内部は荒れまくってたんです。その原因がずっとわからなくて。「これさえ満たせれば、きっとうちでいい働きができるはず」という人を採ってきて、目指すべき先もあって、事業も強くて、「なんでこれで組織が良くならないんだろう?」とずっと思っていました。
2012年から1年かけてみんなで議論して、ビジョンが生まれたんですよね。これは、事業ビジョンというよりも、組織としてどういう状態でありたいのかを定義した「組織の価値観」なんです。どういう個人が集まって、どういう組織状況であり続けたくて、どこを目指すのか。これがあると、マネジメントを規定できるんですよね。
例えば今の若い人からすると、上からめちゃくちゃ怒鳴られたり、上下関係をはっきりさせられるのって、たぶん「歪み」じゃないですか。そうすると、「このマネジメント(のやり方)じゃないよね」となっていくので、そうやって内部の組織を運営するやり方が一定は規定されていきました。
他社でもあると思うんですが、ある程度は経営者の色合いがあるんだけど、部署やマネージャーによって、実は組織の色がぜんぜん違うことってあると思います。これはたぶん、組織価値観がちゃんと規定されてないからだと思うんですよね。(組織価値観がないと)「数字で縛る」「KPIで縛る」という感じになってしまうと思います。
ーービジョンを設定するにあたって、トップダウンではなく全社員で行ったというところも、一人ひとりの納得感につながってきそうですね。
柴田:そうですね、すごく大きいと思います。僕としてはだいぶ前から思っていたものの、みんなが自分で考えて、腹の底から思ってくれないとそうならないので、実はその機会をずっとうかがっていました。
(ビジョンを制定したのは)2012から2013年の1年間なんですが、その頃には新卒も一定数存在していましたし、中途もいい人が入ってきていました。その頃は(社員数が)50人ぐらいでしたけど、「この50人だったら、そろそろこの議論をして腹落ちしてまとまれるんじゃないか」と思い始めてきたので、取り組みました。
ただ、その頃に株主が厳しい会社に変わったり、いきなり「ある事業をやめろ」「あるリーダーを外せ」と言われたり……。また、そのリーダーもコアを決めるメンバーの中の1人だったりして(笑)。めちゃくちゃ悪感情を持たれていたり、まぁ地獄でしたね。
ーー本当に、ずっと激動を生き抜いてこられたんですね。
柴田:たぶん、神様に期待されてると思うんです(笑)。
ーー逆境を乗り越え続けるマインドは、どこで培われたのでしょうか?
柴田:大学の時は、チャラチャラのテニスサークルですごく楽しかったんです。社会人になってから「なんで会社ってこんなに重い雰囲気なんだろう?」と、ずっと思ってたんですよね。もちろん、テニスサークルではまったくアウトプットを求められないので。
一方で「アウトプットを求められながらも、楽しい組織状態は維持できないのかな?」と、ずっと思ってたんです。「仕事になった瞬間、みんな眉間にしわを寄せて、真面目な顔で冗談を言わずにやらなきゃいけないんだっけ?」と。
ーーそんな仕事観も、逆境を乗り越えられた要素の1つなんですね。
柴田:そうですね。創業当初から死ぬほどきつかったですが、ずっと冗談ばっかり言っていました。サークルみたいな雰囲気でフラットなんだけど、めちゃくちゃ成長企業としての成果が出せる。この両立をずっと考えて、バランスを狙ってきた感じですね。
ーー今の状態は、その理想形に近づいてきていますか?
柴田:かなり近いと思いますね。
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