“ベンチャーマネジメントのバイブル”を執筆した・長村禎庸氏が登壇

井上和幸氏(以下、井上):経営者JP代表の井上と申します。よろしくお願いいたします。長村さん、今日はよろしくお願いいたします。

長村禎庸氏(以下、長村):はい、今日はどうぞよろしくお願いします。

井上:長村さんは、急成長ベンチャーのマネジメントを非常に体系立てていらっしゃって『急成長を導くマネージャーの型』というバイブルのような本を出されました。今日はその出版記念イベントになります。

長村:ありがとうございます。

井上:もう増刷がかかってらっしゃるんですよね。

長村:そうですね、増刷がかかりました。

井上:今日はお読みいただいている方も参加されているかもしれませんが、ぜひこの本の中の柱を中心に、プラスアルファでいろんなお話をおうかがいできればと思います。よろしくお願いいたします。

長村:よろしくお願いします。

井上:長村さんにつきまして、簡単にご紹介します。この後の長村さんのお話の中でご経験の話は出てくると思いますので、細かいところはぜひライブの中でと思います。

リクルートで営業でご活躍された後に、ディー・エヌ・エーさんでマネジメントを経験されました。ディー・エヌ・エーでも関連会社や新規事業をいろいろ手掛けられまして。そこから、2019年に新興市場に上場したハウテレビジョンさん。

長村さんはある意味ここの立役者ですね。お話しいただける範囲で構わないんですが、参画された時は、ある意味ターンアラウンドみたいな局面だったわけですよね。

長村:そうですね。ビジネスで大事なKPIがすべて下降していて、人もどんどん辞めていっている状況だったので。非常に苦しい状況からのスタートだったと思います。

井上:そこからハウテレビジョンさんを急成長にもっていかれて、上場もされました。そこと、ディー・エヌ・エーさんやリクルートでのご経験を総合化して今、主には成長ベンチャーのマネジメントに対して、いろんなご指導やアドバイスをされていらっしゃいます。

「マネジメントに型がある」と気付いた経緯

井上:本日のプログラムは、大きく5つほど柱を立てさせていただきました。長村さんはマネジメントを非常に体系化されていて、経験・センスがまったく必要ないということではないと思うんですが、すごく「型」があると。そのへんの話からおうかがいしていきます。あとマネジャーのタイプとか、ステージごとにどういうことが必要になってくるのかとか。

たぶんみなさんが一番興味あるのは、自分たちのチームをどう作っていくかと、その仕組みですね。これを後半、ボリュームを厚くおうかがいできればと思います。

まずは「型」ですね。あらためておうかがいしたかったんですが、「マネジメントに型がある」と気付かれたのはいつでしょうか?

長村:「型があるな」と気付いたのが、実は前の会社が上場した後に、ベンチャーキャピタルのみなさんから「うちの投資先のマネージャーが悩んでいるので、相談に乗ってやってくれ」みたいな機会がけっこう増えたんですね。「ぜんぜんいいですよ」と快諾しました。

学生の時から起業されて「社会人としてはマネジメント経験がありません」とか、マネジメント経験があったとしても「社会人としてそんなに多く経験したわけではないのでわかりません」みたいな感じで、たくさんの人が質問をくれました。

例えば「毎日やることまみれでめちゃくちゃ忙しいんですけれども、どうやって整理したらいいですか」という業務的なマネジメントの相談もありましたし。「こういうメンバーがいて、何をやってもぜんぜんはまらないんですけれども、何の仕事を任せたらいいんでしょうか」といった人の配置みたいな話もありました。

「自分はメンバー管理だけに追われているんですけれども、どういう組織を作ったらいいんですか」みたいなチームづくりの相談もあって、いろいろな質問に自分の思っていることを都度打ち返していたんですよ。ある時、「どの人もだいたい同じ質問をしてくるじゃないか」と気付いたんですね。

その人たちにとっては初めて直面した問題で、「どうしよう、こんなの私だけかもしれない」と悩んでいたりするんですけど、ちょっと引いた目で見たら、「同じことが他の人でも起こっている」と気付きました。それに対して、僕は同じ回答をしている。「何だこの非効率さは」と感じて、なんとか形式知にできないかと思ったんですね。

それでいろいろ試してみたら「型」といいますか、手順みたいなものがあるなと。気付いたというよりは、どちらかというと「作った」とか「考えた」、「つなぎ合わせた」と言うほうが正しい感じですね。

成長中のベンチャーで起こることは似ている

井上:成長サイクルにおける「成長の痛み」の話なども、局面局面で起こることは一緒だと他の文献などを拝見しても思います。この経営者JP自体もベンチャーステージでもありますし。

僕はこの会社の直前はリクルートの子会社の立ち上げをやっていました。その前は、主に大手企業の新卒採用をお手伝いするベンチャーをやっていたんです。両社とも10人いないぐらいの、7人から10人弱ぐらいの体制のときに参画して、そこから約4年で売上2億円ほどから20億円ほどに成長するステージをやって。業態がぜんぜん違いますが、長村さんの本を拝見してても思うんですが、良いことも悪いこともほぼ同じことが起こったんですね。

長村:そうですよね。

井上:成長の中で起こることは似ているというのは、僕も経験則としてすごくあります。

長村:あんまり例え方がよくはないかもしれませんが、人間から見てちょっと遠い目で見れるものとして、虫とかそうですよね。アリ1匹1匹は動き方が違いますし、違う個体ではあるものの、人間の目から見たら集団としてはだいたい同じ動き方をしていると思うんですよね。

人間も動物といえば動物なので、集まった時に起きることとか、集まった時に向かう方向や陥ることが、似ている。学問としてそういうのを研究されている方もいらっしゃると思うんですけど、僕は学者ではないので。

いろんなベンチャー企業を見たり、あるいはベンチャー企業のマネージャー・経営者の1人としてそこに立ち会った時に「確かにこういう動きをするよな」と。そして、「たぶんメカニズムはこうだな」と洞察したのが「型」ですかね。

成長中のベンチャーで見られる、「部署ごとのバラツキ」の原因

井上:その「型」の話からおうかがいしていきます。今参加いただいているみなさんに1問Web投票を出しますので、よろしければ投票してください。今からお悩み項目みたいなものが出ます。複数回答できますので、率直に「このへんに悩んでるんだよなぁ」みたいなものがあったら、チェックしてみてください。

いったん今投票いただいたものを比率で表示します。

「メンバーのやる気がいまひとつない」が8割いらっしゃいました(笑)。「会社の雰囲気が暗い」はなかったです。よかった。「方向性がわからない」「上役の悪口が横行してるかな」「入っても辞めちゃう」がそれぞれ、4割近くいらっしゃる。こんな感じですね。長村さん、どうですか?

長村:なるほど。一番上のやる気がないというのは、本当に悩ましいですよね。何かしら理由があってその会社に入ったのなら、少なくとも入った日はやる気がきっとあったでしょうし。何かあったんでしょうね。ぜひ紐解いていきたいところです。

井上:後半のほうでこのへんの話が出ますかね。この選択肢は、長村さんの本の冒頭で書かれたところから拾わせていただきました(笑)。

長村:ありがとうございます(笑)。

井上:「型」の話に入りますが、各論で長村さんなりに、成長中のベンチャーでマネジメントの方が突き当たることは何だと捉えていらっしゃるでしょうか。

長村:成長中のベンチャーは人もどんどん増えていって、マネージャーも毎月のように増えていく感じになるんですけれども。「型」がないとマネージャーのやり方がバラバラになってしまうんですよね。

バラバラになると、例えば井上さんの部署は人が定着し成果も残るのに、なぜか僕の部署は人がどんどん辞めて、残業も横行して良くない感じがある。そうやって人によってマネジメントにバラツキが出てしまうと、会社として大きくなりたくてもなれないと思うんですね。なのでみなさん同じやり方で、しかも最低限のレベルというか、ベンチャーのマネージャーとしてレベルとやり方を統一することで、部署ごとのバラツキがなくなります。

ベンチャーのマネージャーが「型」を持つメリット

長村:もう1つは、部署間連携が絶対に必要だと思っていて、この時に「型」がないと、共通言語がないんですよね。井上さんに「戦略を教えてください」と言っても、井上さんが持ってきたものが、僕にとっての戦略じゃなかったりするんですよね。戦略ってすごく抽象的な言葉なので。「井上さん、そんなのじゃなくて戦略です!」「戦略を持ってきてくださいと言いましたよね!」みたいな感じで、「戦略とは何か」になってしまうんです。

井上:(笑)。会話が成り立ってないというやつですよね。

長村:ぜんぜんすり合わないから連携もできません。あとは、特にCXOを含むマネージャーは、社長や経営陣のビジョンや意思を達成するために存在するので、経営陣とも共通言語がないとダメなんですが、例えば経営陣に「もうちょっと人や組織を大事にしなさい」と言われて、それを何と捉えるかですよね。

「これは1対1でもっと話せということなのかな」とか、「評価をきっちりせよと言っているのかな」とか。そこでもまたイメージがバラついてしまうので、ぜんぜん連携できないということが起こります。

マネジメントとは、要は会社を前に進める方法だと思うんですよね。英訳すると「運営」とか「管理」とか、そういう言葉も出てくると思うんですけれども、まさに運営方法なので。運営方法について共通言語があったり、運営方法が統一されているとすごく楽です。なので僕は「型」を用意して、その運営方法をどうするかを考える時間をベンチャーから取り除きたいと思ったんですね。

もっと世界を変えていこうという時に、運営方法について悩んでいる場合ではないと思うんです。もっと世界を変えるプロダクトを作るとか、文化を作るとか、そのベンチャーでしかできないイノベーティブなことをやってほしい。そこに時間を割いてほしいんです。運営方法のすり合わせに時間を取られるのは、イノベーティブなことを考える以前の問題ですよね。この時間を縮めるのが、「型」の効用じゃないかと思っています。

マネージャーの外部招聘の繰り返しが、自社に与える影響

井上:聞いていただいてる方は、うなずいてらっしゃる方も多いんじゃないかと思います。僕もさっき話した、前々職のベンチャーに入社した時がまさにそうでした。結果として僕を含めてリクルート出身者が幹部陣を占めている会社になっていたんですけど、「〇〇さんの部署はいいですよね」みたいな話になる(笑)。

長村:(笑)。それで「〇〇さんの部署がいいね」となった時に、その理由を「型」や言語で説明できなければ、結局「その人は昔マネジメント経験があったからね」とか「あの人は人当たりが良いからね」みたいな話に終始して、まったくもって再現性がないんですよね。人当たりが良いと言われても、人当たりの良い人の育成なんてできないですし。

そうすると内部からマネージャーを生めず、外からマネージャー経験者を引っ張ってくるじゃないですか。それが成功する時もありますが、それだけに頼ってしまってはカルチャーができません。管理職として引っ張ってこられた方が、100パーセント成功することもないと思いますし。メンバーのみなさんからしても、どんどん管理職の人が入社してきて「なぜ自分たちがなれないのか」と不満も覚えてしまいます。

ちゃんと内部から「こういうことができたらきっとマネージャーができる」という考えのもとで育てていかないと、カルチャーも育たないし、そもそもマネージャーの数も足りないんじゃないかと思います。

井上:そうですね。反面教師的な参考になりそうな気がするので、前々職のベンチャーの話をすると……そういう「統一しよう」という意識が僕も含めてなかった気がします。あとマネジメント陣のキャラクターが、良い意味でも、わりとそれぞれバラバラで違ったんですよ。

例えば僕は僕のキャラクターがある、別のやつは別のやつでキャラクターがある。創業者を含めて、四者四様、五者五様みたいな感じだったんですね。そこを「〇〇さんはこういうタイプだよね」と経営陣も思っていたし、現場の方も、良くも悪くもそういう前提で理解していた感じがします。ハウテレビジョンさんの時に、そういうことはなかったですか?

長村:いやもう、めちゃくちゃありましたよ(笑)。