良いファシリテーションの場を作る、3つの極意

中村直太氏(以下、中村):良いファシリテーションの場を作る極意として、本の中で大きく3つ、核となる概念がありました。「準備力」と「聞く力」と「場を作る力」。

平石直之氏(以下、平石):そうですね。

中村:このあたりを1つずつおうかがいしたいんですけど、「準備力」とはどういうことでしょうか?

平石:そうですね。まずは、目的を明確にするために準備が必要だということです。もちろん「今度こういう会議をやるのでこういうふうにやりたい」ということが明確にあれば目的も見えていますが、まず目的をきちんと探すなり自分で定義するなりの準備は必要になってきます。

中村:目的のための準備ですね。

平石:そうですね。何のための集まりだろうとか、目的がぼやっとしていることもあると思うので。さらに、その目的を達成するために必要な情報をできる限り集める準備ですね。

自分がファシリテーターをやるとなったら、まずなにより自信を持つことです。わからないままその場に行くことはファシリテートするにあたって大きな障害になります。

やはり「自分でやれるだけのことはやりました。これ以上は残念ながらタイムリミットでした。でもここまでは自分なりにわかりました」と自信を持つために、何よりファシリテーターは、本番までの時間から逆算して準備することが必要です。

「わからないことは本番で」という心構えができれば、ほぼ成功

平石:その準備のしかたも細かく言い出すとたくさんありますが、(特に大事なのは)いつも集まっているメンバーの中に新しい人が入ってきたりする場合は、その人について細かく調べておくことですよね。

あらゆるかたちでその人のことについて知っておいて、ファシリテーターはその人に寄り添う。その人が嫌な思いをしないようにとか、もともといる人たちとうまくなじめるような準備をしておくことが大事です。それで「準備が9割」と書かせていただきました。

『超ファシリテーション力』(アスコム)

中村:そうですね。第3章で書かれていますね。

平石:はい。自分なりにやれることはやった。これ以上は、逆に言うと「わからないことを本番で明らかにしよう」というぐらいの心構えができれば、ほぼ成功です。それ以上は求めてもしょうがないって割り切れるので、準備がとにかく大事だというのは間違いありません。

中村:準備と言うと、やっぱり終わりがないなと……。

平石:終わりがないですよね。

中村:でも一方で「時間が限られる」ということに、みなさん直面すると思うんです。

平石:そうですね。

中村:今の話からすると、「準備を終えていいかな」と思う基準がもしあるとしたら、「自信が持てるかどうか」なんですかね?

平石:そうですね。できる限りやれることをやったほうがいいですが、まず「いきなり手を付けない」ことが大事です。準備を始めるにあたって、何でもいいからやり始めるのではなく、何が重要なのかという優先事項を書き出して並べなおし、優先順位の高いものから手をつけていくことですね。

「人について」と「テーマについて」の2つの準備が必要

平石:新しい人が来る場合は、その人についての情報を入手する。これが「人についての準備」。もう1つは物事について、「テーマについての準備」ですね。新しいテーマではなくても、例えば「ウクライナ戦争について、前回はここまで放送し、現状はこうなっていて、今回のテーマはこれ」となれば、それについての準備が必要です。

人とテーマの、大きく2つについての準備が必要なので、どの順番でどう進めるか。本番までの時間を逆算して、優先度の高いものから着手していきます。「ここまではクリアしたい」ということを、自分自身の中でも準備を始める前に明らかにしておきたいところです。おっしゃる通りで、きりがないので。

中村:本の中にあった、最低限の準備として「相手の情報収集」と「論点や狙いの明確化」の2つを、今の話で取り上げてくださったんですが、逆に「最高レベルの準備をするとしたら、それ以上何ができるんだ?」ということも、ちょっと思ったわけなんですが。

平石:そうですね。これはなかなか難しくて、知り過ぎる・やり過ぎるということについても少し触れておきたいと思います。フレッシュさも大事なんですよね。

「私はすべて知ってます」という状態で本番に臨むと、それはそれでまた番組を見ている方にはおもしろくない。やはりどこか疑問点も残して、問題点を挙げておいて臨むことも大事なので、自分の中でのバランスはありますね。

だから準備時間にものすごくかかる日もあれば、それほどかからない日もあります。自分の持っている知識である程度勝負できる時と、「初めて扱うことだから、やはりここまでは知っておかなきゃいけない」と、準備に時間がかかるケースがあります。

(準備の最高レベルの基準として、)「自分の中で自信を持てるか」というのは、さっきおっしゃった通りで1つあるかなと思います。「ここまではせめてファシリテーターとして知っておかないと、議論が深まらないし、みっともないよね」というところはあります。

本番はまず「相手の言いたいことを言わせる」

中村:ありがとうございます。「フレッシュさ」という話がありましたけれども、次の概念にある「聞く力」というのは、もしかしたら、その場のその瞬間から情報を収集してフレッシュにテーマを扱っていくということかもしれないなと思いました。「聞く力」って、どういうことなのか教えてもらえますか?

平石:これはとても大事です。逆説的ですけども、本番に臨むにあたって、準備したことはいったん全部捨てるんです。頭に引っ掛かりが残っているぐらいのかたちで、とにかく始まったら、自分が言いたいことはほぼないと思って、まずは話を聞いて相手から引き出します。

主役は自分ではなく周りの人たちなので、その人たちから有意義な意見を引き出して、その相乗効果で、化学反応を巻き起こしながら、結論を導き出して、おもしろくしていくんです。

もちろん大前提として、テーマの軸の「ここからはずれてはいけない」ということは意識しますが、基本的にはそれを元に質問を投げたら、あとは一生懸命聞いて掘り下げていく。なので「聞く力」がものすごく重要です。

「しっかり聞くぞ」と思っていないと、「自分が用意したことを順番にこなしていく」になってしまう。それが罠なんです。「準備をしすぎる」ことは、そのこととも関連します。準備は大事ですが、まずは準備したことをいったん全部捨てて、とにかく相手の言いたいことを言わせるんです。

中村:言いたいことを言わせる。

平石:はい。そのために一生懸命聞く。足りないところを補って、引き出して、引き出して、引き出して議論を回していく。だから聞く力はすごく大事です。アナウンサーをやっているのでしゃべりたくなったりもしますが、まずは聞く(笑)。

中村:(笑)。聞く力なんですね。

平石:聞く力はとても大事です。

「司会」と「ファシリテーション」の違い

中村:相手の話を聞かないファシリテーションではどうなってしまうんですか? 何に困ってしまいますか?

平石:最初に作った議事進行のようなものを読み上げていくだけになるんです。私はそこは「司会」と「ファシリテーション」を分けたいと思っています。

中村:明確に違うんですね。

平石:司会のように単純に「何々さんどうぞ。と、順番に聞いていきます」だけでは、ムーブメントが起きない。化学反応が起きません。

話が足りなかったら引き出して、その話を誰かにあててみて、その反論なりその意見についての補足を誰かに聞いてと進めていくのが、ファシリテーションです。これはもう一生懸命聞いて、その場で考えていくしかありません。ですから、記憶していることに頭を使わないことですね。一回空っぽにして。

中村:空っぽに。

平石:それでも頭の中に引っ掛かっているものが残るぐらいまで準備して、始まったらいったん頭に残っている情報をすべて捨てて、その場で聞いて反応していくようにしないと、反射神経がいかされないない感じがします。

中村:ありがとうございます。おかげで「聞く力が極めて重要だ」というイメージが持ててきたんですけれども。

平石:ありがとうございます。

人の話を判断する2つの「軸」

中村:一方で、実際にファシリテーターをやっている時って、やることがたくさんありますよね。

平石:そうですね。

中村:次にやる事を考えたり、まさに自分が何を言うか考えてしまったり、あとは時間管理もあったり。

平石:時間管理もあります。

中村:結構そういったことに意識を持っていかれそうになりますが、どうしたら聞くことにぐっと意識を向け続けられるんですかね。

平石:まず、わかりやすいかどうかとか、おもしろいかどうかとか、人が話していることについて判断する「軸」があります。

中村:おもしろいか、おもしろくないか。

平石:おもしろいという言い方は、場合によっては不謹慎になりますが、「興味深いか」とか。あるいは「聞き応えがあるか」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。

他の人がのめり込んで聞いているなら、話が長くなっても止めなくていい

平石:(その人に対して)話がわかりやすいかどうかという軸と、その話が聞き応えがあるかないかという2つの軸があると思っていまして。

聞き応えがある・ないというのは、そのテーマについてのみのことですので、その人を否定する意味では言っているわけではありません。その人の人格の話ではなくて、そのテーマについてその人から聞くに当たって、聞き応えがあるかないか。それを判断するのはもちろん自分の感性もありますけど、その時は聞きながら他の人の反応を見ています。

中村:他の人の反応。

平石:のめり込んで聞いているか、退屈しているか。これはとても重要です。のめり込んで聞いているんだったら、その人が長くしゃべっていても止める必要はなく、そのまま掘り下げていけばいいんですが、やっぱり白けている場合はどこかで引き取って次の展開に持っていく必要がある。「聞く力」の中では、その人だけを見ていないで周りの反応を見るというのもすごく大事です。

番組で言うとチャット欄があるので、コメントがどんどん流れていきます。長くてもおもしろければいい反応が来ますが、おもしろくなかったり、聞き応えがなかったり、興味深くなかったら、その場合は「平石介入しろ」とか「話が長い」とかコメントが流れてきます。

中村:(笑)。

平石:そうすると「これは出動だな」と思って、そろそろということで「へえ」とか「そうですか。なるほど。わかりました」とか言いながら……(笑)。

中村:例のテクニックですね(笑)。

平石:そうするとしゃべっている人も、「ここで終わりかな」となんとなく思う。

人の時間を奪っているような話は、やんわりと引き取る

平石:基本的には、人の話をさえぎることはたいへん失礼なことだと私もわかっていますから、最低限にしたいんですけども。

でも、その時間を一緒に共有していると考えれば、やはり一緒に聞いている人とか、番組で言えば見ている人の時間を奪っていることにもなるので、どこかのタイミングで失礼を承知ながらやんわりと引き取って、そして次の展開に持っていく。

だけど本当におもしろければ、その人がずっとしゃべっていてもみんな聞いているんですよ。一生懸命、「うーん」って乗り出して。

中村:まさに今のチャット欄のような感じですね(笑)。

平石:ありがとうございます。それこそ周りの人たちも「私にも言わせて」みたいになるんですよ。それはもしかしたらテーマの軸からはずれているかもしれませんが、「今おもしろいこと、熱があることが大事」という判断もあると。だからこそ大切なのは「その場で聞く力」だと思っています(笑)。

中村:なるほど。ありがとうございます。まだずっと聞いていたいんですけども(笑)、次の「場を作る力」もね。

平石:。ありがとうございます。

会議の最初に「必ず当てる」と全員に伝えておく意味

中村:3つ目の「場を作る力」もうかがいたいなと思うんですけど、どうでしょうか?

平石:そうですね。「全員参加させる」ことですね。自分自身も学びがあったし、自分もその場で活躍できた、貢献できたという感じを作るためには、その場にいる人たち全員を参加させることがとても大事です。

中村:全員参加。

平石:オブザーバーと出演者が分かれているものは別ですが、10人ぐらいまでで集まる場合は、全員参加させることは可能だと思います。始まるに当たって、「みなさんから今日はご意見をうかがいたいと思っています。必ずいつか当てますので、言うことを考えておいてくださいね」と。

中村:そうすると考えますね。

平石:そうするとその場でも、一生懸命聞くようになるんです。リモート会議であっても、先に言っておく。ただし、不意打ちはいけません。不意打ちされて急に聞かれてしどろもどろになったり、答えられなかったり、言いたくなかったことを言ってしまったりすると、二度とその場に参加したくないし、恥をかかされたということになるので、それは避けなくてはいけない。

だからあらかじめ伝えておいて、「質問でも構いません。話の流れに沿わなくても構いませんので、何かご自身の思っていることを考えておいてください。あとで必ず当てますので」と言っておくと、10人ぐらいまでだったら、一度話をきくだけでもコミット感が大いに変わってきます。そうしてみんなに言わせて、場を作っていく。

会議は「大縄飛び」で、ファシリテーターは「縄を回す役目」

平石:会議とかファシリテーションでは、大縄跳びをイメージしています。

中村:大縄跳び。

平石:みんなで一斉に跳んでいる時もあれば、1人だけが一生懸命跳んでいる時もあるし、2人入ってきたりすることもある。だから入ってこられない人の背中をそっと押して入れてあげて、縄をゆっくり回したり早く回したりすることで場を作り上げていくようなイメージかなと。

中村:わかりやすいですね、大縄跳び。

平石:ファシリテーターが縄を回す役目ですね。

中村:ありがとうございます。