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ビジネスパーソンのための「レジリエンス」(全2記事)

「強い心を持とう」と思いすぎると、かえって信頼を失う原因に 専門家に聞く「しなやかな心」の人が成長できる理由

「レジリエンス」とは困難から早く立ち直る能力のことを指し、「回復力」「強靱性」といった意味合いを持つ言葉で注目を集めています。組織としてレジリエンスを高めるには、従業員一人ひとりがレジリエンスを高めていく必要があります。そこで今回は日本ポジティブ心理学協会認定レジリエンス・トレーナーの菅原聖也氏に、ストレス耐性を強め自律的に行動し、柔軟な考え方を持って変化に対応する力を持つための具体的な方法をうかがいます。本記事では「レジリエンス」に対するイメージの誤解を紐解きながら、「しなやかな心」について解説されました。

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レジリエンスが高い人は、へこんでもまたチャレンジできる人

ーー今回のテーマはレジリエンス(回復力)なんですが、まず「レジリエンス」という言葉のイメージについておうかがいしたいです。

「レジリエンス」と検索すると、「メンタルを鍛える」「折れない心を持つ」といった言葉が出てきます。そういった言葉から、筋トレのような強靱な、すごくタフな印象を持つんですね(笑)。私はそこまでメンタルを強く保てる自信がないのですが、それでもレジリエンスを高めることはできるのでしょうか?

菅原聖也氏(以下、菅原):まず答えから言うと、どなたでもレジリエンスは高めることができます。そこはご安心いただきたいです。まず「レジリエンス」のイメージを持っていただくのにいいかなと思い、スライドを用意しました。

先ほどの話であった「心が強い人」は、ストレスや逆境があっても変わらない人をイメージされると思います。「レジリエンスが高い人」というのは、別にそうである必要はないです。

レジリエンスが高い人でも、落ちることはあるんですね。でも、落ちてもすぐ戻れる。「うまくいかなかった」とへこむけれども、また「今度はもっと違ったチャレンジしよう」とか、「もう1回リベンジしよう」と思える人だというイメージを持っていただくと、「レジリエンス」に対して正しく理解できると思います。

感情が起きても振り回されずに、行動が選べるようになればいい

菅原:「レジリエンスが高い=落ちこまない」と思ってしまうと、ちょっと自分がへこんだ時に「あ、自分はレジリエンスが弱いんだ」と思い、逆にマイナスになってしまうかもしれません。

これはよく私が使っている図です。失敗した時に、「もう自分はダメだ」と思ってしまう。そういった感情は起きるかも知れないんですけど、その感情に振り回されて「もうやめよう」という思考になってしまうと、本人がやりたい、実現したい未来に近づくことができなくなるんです。

そういう感情になること自体は仕方がないことです。でも、その不安の感情に振り回されて行動を選ぶんではなくて、そこで1歩踏みとどまって、「自分はどういう未来にいきたいのか」「その未来に近づくための行動は何か」と行動を選ぶっていう。

さっきのグラフと近いんですけども、感情が起きること自体を否定せずに、感情が起きても行動が選べればいいんだと思っていただけると、レジリエンスに対して「自分でもできるかも」と思っていただけるかなと思います。

ーー落ち込むこと自体が悪いのではなく、その後どういう行動が取れるかが大事なんですね。

菅原:そうですね。

「強くあらねば」と思いすぎると、かえって信頼を失いかねない

菅原:世の中的に、確かにレジリエンスに対して「強いイメージ」の印象を持たれてしまうところもあります。ただ決して「心が強い=レジリエンスが高い」というわけではないですね。私もよく「しなやかな心」とお伝えしています。そのしなやかな心を持った結果、折れない心が備わっていくイメージです。

逆に「強い心を持とう、持とう」と思った時に、その反動として等身大以上に自分を強く見せようとする悪い方向に出てしまうこともあります。「自分を強く見せたい」と思うがあまり、例えば自分の知らないことを質問された時に、まるで知ってる風で言っちゃったり。

ーーわかったフリですね。

菅原:そうです。嘘をついてしまい、その場を変にやりくりしてしまって、結果として人の信頼を失ってしまう。むしろ自分の弱さを受け入れて、その中でどういう行動をしていくのかというイメージのほうが、「レジリエンス」に近いかなと思ってます。

ーー「強くあらねばならぬ」というのが、逆にしがらみになってしまうんですね。

菅原:そうですね。もちろん悪いことではないんですが、自分の等身大以上になってしまう。「人に助けを求めるのは弱い人間」と思ってしまい、逆に自分を追い込んでしまうんですね。

当然、人に助けを求めたほうがいい場面はあります。そういう場面でも「人に助けを求めたら、自分は人から評価が下げられちゃう」とか、「弱い人間だと思われちゃう」と思ってしまうんです。

時には「人に助けを求めること」ができることも必要

菅原:例えば、私は日本ポジティブ心理学協会で学んだレジリエンスのプログラムをお伝えしてるんですけども、それはアメリカのペンシルベニア大学で作られたプログラムで、アメリカの陸軍にも伝えているものなんですね。

やはり軍人さんは「強くあらねばならない」というマインドを持って鍛えている人たちなんですが、その軍人さんにとって難しいのが「人に助けを求めること」なんです。

軍人さんに限らず、我々の仕事でも1人で何かを達成するって、なかなか難しくなってきてるじゃないですか。

ーーそうですね。

菅原:むしろ、みんなで協力していくことが求められています。自分の弱さを認めて、人に助けを求めつつ、でも人にはない自分の強みは活かして、みんなで、企業組織であればチームとしてやっていく。そういったことができるのは、むしろ「レジリエンスが高い」というイメージです。

自分では何もせずになんでも人に助けを求めるのは、また話が違ってきちゃうと思うんですけども。しなやかに自分で努力するところと、人に助けを求めるところのバランスをうまくとって、最終的に目的を達成する。自分が目指したい未来があれば、そこに行き着けるように努力を積み上げていく。

そういった意味の「しなやかさ」であり、自己成長につながる部分でもあるのかなと思います。

「硬直マインドセット」と「しなやかマインドセット」

ーー以前ログミーで掲載させていただいた「Schoo(スクー)」さんの記事で、菅原さんから「硬直マインドセット」と「しなやかマインドセット」のお話がありました。今回のレジリエンスにも通じるなと思うので、あらためて、簡単にその違いをおうかがいしてもよいですか?

菅原:まず硬直マインドセットは、「自分の能力は石版に刻まれたように固定的で、変わらないと信じている人」という、ちょっと強い表現なんですけれども(笑)。

「自分はあの人みたいにはなれない」とか、「自分は人間的に限界がある」と、自分の限界を決めてしまうような人が硬直マインドセットの人と理解していただけるといいかなと思います。

一方で、しなやかマインドセットは「人間の基本的資質は、努力次第で伸ばすことができるという信念を持った人」です。持って生まれた才能、適性、興味、気質は一人ひとり異なるけれども、努力と経験を積み重ねることで、誰でもみな大きく伸びていけるという信念を持った人ですね。

一番下にあるように、「人間の能力は努力して学習や経験を積むことで大きく伸ばせるもの」と信じていることが、結果として大きな成長や成功を得る要因なんだと。そういうことが研究からわかっているところです。

しなやかマインドセットの人は「自分は成長できるんだ」と思って、実際に努力を積み重ねられるので、結果として自分が「こうなりたい」と思うところに行けるんだという内容になります。

「レジリエンスが高い人」の6つの特徴

ーーレジリエンスの「しなやかな心」と「しなやかマインドセット」は同じ意味ですか?

菅原:しなやかマインドセットの話は、レジリエンスプログラムそのものにはありません。ただ、しなやかマインドセットが結果的に行き着くところは「レジリエンスの高い人」でもあるんです。チャレンジする、自分を成長させるという意味ではほぼ一緒です。なのでわかりやすく伝わるかなと思い、スクーで取り上げさせていただいたという経緯があります。

「レジリエンスが高い人」の特徴について、ペンシルベニア大学のレジリエンスプログラムの中でお伝えしている、「6つのレジリエンス・コンピテンシー」というものがあります。

何かというと、レジリエンスの高い人たちを調べて、「こういう行動をしてる人がレジリエンスの高い人ですよね」という共通項が、研究の結果で出ているんですね。それがこの6つです。

「自己の気づき」「自己コントロール」「現実的楽観性」、それから「精神的柔軟性」と、自分の強みを活かせる「徳性の強み」。そして先ほどの話であった、助けを求められるとか協力できるという「関係性の力」です。

しなやかマインドセットは、うまくいかなくても「将来自分は成長できるんだ」と思えるという意味で、この中の「現実的楽観性」や「精神的柔軟性」に近いんです。特に「楽観性」はレジリエンスで大事な要素ですね。

ーーなるほど、しなやかマインドセットは「楽観性」と通じる、レジリエンスの1つの要素と考えるとわかりやすいですね。ありがとうございます。

硬直マインドセットだと、壁にぶつかったときに諦めてしまう

ーーこのマインドセットで、「信じている人」という表現がポイントなのかなと思いました。

菅原:まさにそうですね。「自分は成長できるんだ」と信じているからこそ、実際に努力できる。うまくいかなくても、めげずに次のチャレンジができる。

もう1つスライドがあって、この「特徴の違い」を見るとわかりやすいかなと思います。左に書いてあるのが「場面」です。

挑戦する場面に関して、硬直マインドセットだと「できればチャレンジしたくない」と考えます。チャレンジしてうまくいかなかった時に、自分の限界を見せてしまうのが嫌だと。一方でしなやかマインドセットな人は、「新しいことにチャレンジしたい」と思えるんです。チャレンジすることが自分を成長させると信じているので、そういった違いが出てきます。

また壁にぶつかった時に、硬直マインドセットの人は「これが自分の限界だ」「どうせがんばっても結果は変わらない」と思って、諦めてしまう。一方のしなやかマインドセットな人は、壁にぶつかっても耐えて、さらにそれを乗り越えようと思える。

努力について、硬直マインドセットの人は努力を忌まわしい(と感じます)。「自分には素質がない、能力がないから努力をしなきゃいけないんだ」と思って、努力をするのを嫌がるんです。一方、しなやかマインドセットな人は、「努力は何かを得るために欠かせないものだ」と捉えられるんですね。

しなやかマインドセットの方が、大きな成長を得られる

菅原:批判については、硬直マインドセットの人はネガティブな意見は無視します。ネガティブな意見を言われるということは、それを受け入れてしまうと「自分はダメな人間」とか、「自分は弱い人間」だと認めることになるからです。

逆にしなやかマインドセットな人は、その批判から真摯に学びます。批判も当然、当たっているものもあれば、外れているものもあるかもしれないですけど、いったんその批判をしっかり受け取って、自分にとってそれが正しいのかどうか吟味して、そこから学べるんですね。

最後の「他人の成功」に対して、硬直マインドセットの人は他人の成功を脅威に感じます。例えば、同じ会社に同期で入った友だちが、どんどん出世したり新しい仕事しているのに、逆に自分はそれができていなかった時に、「あの人は素質があるからああなっていて、自分は素質がないんだ」と思い、脅威に感じてしまいます。

一方でしなやかマインドセットな人は、例えば同期が成長していくのであれば、「なぜああやってどんどん成長できるんだろう」と学ぼうとします。

結局、こういった一つひとつの場面で行動選択の差が出てくるので、結果としてしなやかマインドセットな人のほうが、大きな成長や本人にとっての成功が得られるという違いが出てきます。

しなやかな心が出るかどうかは「育ってきた環境」に影響する

ーーこの硬直マインドセットとしなやかマインドセットは、同じ人でも両方を持っているというお話でしたよね。両方を持ち合わせているのに、硬直マインドセットが偏って出てしまう原因は、何ですか?

菅原:まず大きなところでいうと、「育ってきた環境」があるかなと思っています。

例えば、子どもの頃に山のほうへ行こうとすると「そっちに行かないで」と親御さんに止められたり、ちょっと遊んでいる時に「静かにしなさい」「周りに迷惑でしょ」と止められたり。何か自分で行動しようとした時に、親御さんから制限されてしまう。

あとは何かうまくいかなかった時に、「だからお前はダメなんだ」と人格的に否定されてしまったり。家庭や学校でそういった経験をすると、やはり硬直マインドセットが出やすくなってしまいます。

学校によって自律性を尊重する学校もあれば、「校則を守れ」と厳しく言って行動を縛ろうとする学校とかもあります。そういった環境の違いで、硬直マインドセットとしなやかマインドセットが培われていく差が出てくるのかなと。

硬直マインドセットになるのは、「会社の文化」の影響も大きい

菅原:やはり会社に入ってからも、その会社の文化の影響が大きいと思っています。自律的な育ち方をしても、入った会社がものすごくマイクロマネジメントな会社で、何をするにも全部マネージャーから細かくチェックされると、「チャレンジするのをやめよう」とか、「とにかく失敗をしないことが正しい」という思考になってきてしまいます。

それが嫌で転職される方もいると思うんですけども、どんどん硬直マインドセットに引きずられていくこともあるので、会社の文化も大きく影響してくるかなと思います。

逆に、もともと厳しい家庭環境で育った硬直マインドセットの強い人が、自律を求めるような会社に入った時にも、ちょっとギャップを感じます。そこでうまく乗り越えられると、だんだんとしなやかマインドセットに変わっていくのかなと思います。

そういった「育ってきた環境」が1つ、大きな影響としてあるかと思います。

あとは体調面で、睡眠時間が限られてきたり、残業ばかりさせられて疲れてくると、冷静な判断ができなくなって、感情的になってしまう部分もあるんですね。これはマインドセットというよりも、体の状態が心に影響を及ぼして、ふだんしなやかなのに硬直になってしまったり。

自分に余裕がない時は、周りの人や部下に対してついつい余計なことを言ってしまって、相手に硬直マインドセットな関わり方をしてしまう部分もあるのかなと思います。

ーー子どもの頃だけではなく、社会人になってからの「環境」も影響するんですね。

少しずつでも自分を「しなやかマインドセット」に変える方法

ーーそうなると、「自分は今、硬直マインドセットになってしまっているな」と自覚するのは、すごく難しい気がしています。どうやったら硬直マインドセットになっていると自覚できるようになるのか、アドバイスがあればおうかがいしたいです。

菅原:その場で(硬直マインドセットになっていると)自覚するのは難しいかもしれないですね。

まず自分のしなやかマインドセットを育むためには、朝の仕事を始める前の時間に、「自分は今日どういったチャレンジができるかな」「どういった成長ができるかな」とか、「これ、今度『自分がやってみたい』と言ってみよう」といった思いを持ってから会社に行く(といいです)。

逆に仕事終わりの夜の時間に、自分は今日1日どういう行動をして、どういう選択をしたのかと振り返っていただくといいと思います。「あの時、本当はやりたいと思っていたけど、ちょっとビビっちゃって言えなかったな。次回はちゃんと言おう」とか。まだ取り返しがつくのであれば、次の日に「やっぱりやりたいです」と言って、変えることもできると思うんですね。

振り返った時に「硬直マインドセットだった」と落ち込むのではなく、自覚した上で、自分の弱さも受け入れて「また次チャレンジしよう」と、あるいは取り返せるんだったら行動しようとしていけば、少しずつしなやかマインドセットに変わっていけるのかなと思います。

自分の感情と向き合うことに慣れると、その場で気づけるようになる

菅原:あとは朝の意識づけのところで、例えばスティーブ・ジョブズの名言とか、自分の好きな人の言葉や、自分の背中を後押ししてくれるような言葉をつぶやいてみるのもいいのかなと思います。そうしていると、(だんだん前向きな)気持ちになると思います。

しっかりしたレジリエンスのプログラムをやると、今度は自分の感情の動きに自分で気づけるようになります。「ああ、ちょっと自分ビビってるな」と気づけるようになると、その場で変えられるようになるんですが、それは自分の感情と向き合うことに慣れていかないといけないので。

まずは振り返りをして、次の日に変えられるとか、同じ場面があったら変えられるとか。だんだんそれを繰り返しやっていくうちに、その場で(硬直マインドセットになっている自分に)気づけるようになるのかなと思います。

ーー日々のトレーニングですね。

菅原:そうですね。続けることが大事になるかなと思います。

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