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なぜ、あなたの組織のDXはうまくいかないのか?「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」刊行記念オンライン対談(全3記事)

部署を超えると始まる「うちはそんなことをやっている暇はない」 対立ではなく強みを活かす「組織運営のアジャイル」のススメ

日本デジタルトランスフォーメーション推進協会主催で行われた、『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』刊行記念イベントの模様を公開します。日本中の企業や団体が取り組むDXですが、困難に直面している現場が多いのも実態です。そこで今回は「なぜ、あなたの組織のDXはうまくいかないのか?」をテーマに、著者の市谷聡啓氏と同協会代表理事の森戸裕一氏が、DX推進で陥りがちな落とし穴や、DXを進めるための体制作りのポイントについて語りました。最終回の本記事では、変革を起こしていくための「from/to」の考え方、DXを進めていくための「組織でアジャイルをやる」ポイントが語られました。

選択肢を広げるための「分散型」の重要性

森戸裕一氏(以下、森戸):また別の方からご質問をいただきました。「社長の一声で統制がとれていた時代から、分散型になっていかないと危険な気がします」ということです。要するにトップの方は、「この業界ではこうすれば儲かる」といった正解を知っていると思うんですよね。また業界団体で集まって、お互いに意見交換をしながら調整をしていたり。

それが今は、本当に複雑かつ多様化していて、「VUCAの時代」と呼ばれたりしています。また分散型になってきているので、それぞれの社員やメンバーが自分の頭で考えて、それこそ「探索」していかなくてはならない。そして、その中で考えたことをどんどん選択肢にして、仮説検証しながら進めていく必要があるんですよね。

市谷聡啓氏(以下、市谷):そのとおりです。選択肢を広げようと思ったら、「広げる側の人間がどれだけ多様な考えを持っているか」が大事なんですよね。1人の人間が端から端まで、幅広い考えを出せるかというと、それはちょっと難しい。やっぱり多様な考えを持っている人が集まって、チームで取り組むからこそいろいろなアイデアが出て、選択肢が広がるという理屈になると思うんですね。

「朝は社是を読み上げる」から変えるのもあり

市谷:だから、おっしゃるように「分散型」なんです。1人のヒーロー、カリスマが単独で考えるのではなく、いろいろな人が自分の考えを出していく。またチャットの話につながりますが、だからこそ自分の考えを出せる「場」がないとダメなんです。やっぱり、場があるからこそさまざまな意見を表出できるんですね。

森戸:最近、パナソニックコネクトさんのお話で印象深かったことがありまして。パナソニックというと、それこそ社是をみんなで唱和して、組織を一枚岩にして進めていく文化があるんだと認識していました。

でも、パナソニックコネクトの方がおっしゃるには、「そういう文化がダメだというわけではないけど、一枚岩になっても多様化する社会に対応できないから変えていきたい」ということなんですね。「何も考えずに『朝は社是を読み上げる』のではなくて、そこを変えてみるのもありですよね」と。やっぱり、そういうところから考えていく必要があるんですよね。

市谷:そうですよね。何かを唱和するっていうのは、選択肢をキュッとしぼるための儀式のような気がして(笑)。

「変わらなくても良さそうな理由」を否定すると、前向きになれない

森戸:また新しいご質問をいただきました。「メディア企業に対してはこんな手順がおすすめ、など、業界別でも推奨している手順などございますか?」というものですね。テレビや出版社さん、新聞などのメディア関係の会社さんは、やっぱり強烈な成功体験とビジネスモデルをお持ちです。それを変えていくことは、相当難しいんじゃないかと思うんですが。

『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』のDXの4つの段階設計に関して、ご質問のように業界別に推奨している順番はあるのでしょうか? 市谷さんの中で、業界ごとに「実はここは、順番変えてるんですよ」などがあれば教えてください。

市谷:そうですね……4つの段階設計に関しては粒度が荒いので、それほど変わらないと思っているんですね。ただ、業界ごとにかなり意識はしています。例えば金融業だとかなり規制が強いので、「変える」ことへの抵抗感がありますね。製造業もやっぱり「勝ってきた製品」があるので、そういうものをどう扱うのか。

「変われない理由」というか、「変わらなくても良さそうな理由」みたいなものがけっこうあるんですよね(笑)。そこを頭ごなしに否定していくと、やっぱり前向きになってもらえなくて。かと言ってそこを重視していたらいつまでも変われないので、「今やっていることはこういうこと」で、「ここからどこへ行くんだっけ?」という、「from/to」を大事にしましょうと話しています。

重要なのは、目的地に向かうための「変革のための場」

市谷:やっぱり「to」だけだと、「アジャイルだ」「リーンだ」とか、誰もついて来れませんから。「今の立ち位置はここ」「toはあそこ」と示して、じゃあこの「from」と「to」の間にどのぐらいのギャップがあるんだろうと。それを組織の中の人に認識してもらって、このギャップを一歩ずつ解消していくアプローチを取っていますね。そこは意識してやっています。業界によっては「from」が強かったりするので、注意しながらやる必要がありますね。

森戸:つまり、「会社の中の全部を変えるのは難しいけど、一部変革を起こすような場を作っていくことが重要」ということですか?

市谷:そうですね。「変革のための場」が重要です。

森戸:「場が重要」だと。社内の新たな文化を醸成するためですよね。こういうところが、DX推進部門のようなかたちになっていくイメージでしょうか?

市谷:意識的に場を作っていかないと成り立たないんですよね。ちょっとの勉強会とか、何かの講演会を開いただけではあっという間に日常に飲み込まれてなくなっていきます。だから、定期的かつ意識的に場を形成できるような働きかけが必要です。そうなると、それは誰かがやる必要があって、そこをDX推進部が仕事として企画してくことになりますね。

「守りの情シス部門」と「攻めのDX推進部」をわける

森戸:経験上よく目にするのが、情報システム部の中にDX推進室を作っているケースです。情シスって、コンプライアンスやセキュリティなど、わりとガチガチにやらなきゃいけない組織なんですね。だから、新しいことにチャレンジする機能をその中に持たせるのはけっこう難しいと感じます。企業のDX推進部の作り方について、市谷さんはどういうイメージを持たれていますか?

市谷:もう、おっしゃるとおりですね。情報システム部は守りを固めるための部署なので、新しいことをやるには、それこそ「from/to」の「from」としてずいぶん不利なんですよね。だから、「DXを推進する部署」と「情報システム部門」という、攻めと守りの部署が両方あって、きちんと役割を分けてやっていくのがいいと思います。どの組織でも、情シスとDX推進部が仲が悪いのはあるあるで(笑)。

森戸:(笑)。

市谷:ここは丁寧に、慎重にやらなきゃいけないですね。逆に言うと、そこに気をつければ共存可能だと思います。

組織の働き方としての「アジャイル」のススメ

森戸:これからDXを進めていくための、組織のあり方、人材育成の考え方、アジャイルの捉え方など、いろいろあると思います。日本の企業は、こうしたことに取り組んでいないわけではないと思うんですね。みんな真面目にやっているんだけど、成功している企業がなかなか表に出てこないという状態なのかなと思います。

市谷さんから、真面目に進めている企業さんに「こういうところに着目したら?」とか「こういうホットワードが出てくるんじゃないの?」など、何かありますでしょうか?

市谷:すでに話したことで新鮮味はないかもしれませんが、私が重視しているのはやっぱり「組織でアジャイルをやる」ということですね。「開発のアジャイルをやりましょう」と言っているわけではなくて、「組織の働き方、運営の仕方としてアジャイルのエッセンスを取り入れましょう」ということです。

つまり「一歩踏み出して、その結果で次にやるべきことを判断し、行動を取りましょう」ということですが、これは組織としてはやりにくいんです。組織運営とはどうしても、年間スケジュールが決まっていたりして、非常に重厚なスケジュールを順次やっていくことになってしまう。

DX推進部にしても、やろうとしていることは新しいことなのに、考え方や運営は厳めしいスケジュールに則っているところがあって。そこを、組織運営としてもまずやってみて、その結果によって次の判断をしたり、より良い選択を取っていくようになるといいんですよね。

ただこれは非常に難しい。ソフトウェア開発ができたからといって、すぐに組織運営でアジャイルができるかというと、そうではないこともすでにわかっていて。一方で、取り組み方としては私としても1つの仮説というのか、考えを持っているので、それをいろいろな企業さんと一緒に試しながらやっていきたいと思っています。

縦割りの「二項対立」ではなく、強みを活かした「二項動態」に

森戸:僕は今回、市谷さんとお話ができるということで、ネットで市谷さんが対談されている動画やWebサイトなど、いろいろ見させていただきました。市谷さんはわかりやすい言葉で話されるので、一見目新しいことではなく、今まで私たちがやってきたことと違いがないように感じました。

「これまでの業務と並行してアジャイルを進めていく」とか、「全体でやるのではなく部分的に進めながら徐々に広めていく」ということですよね。本当に、市谷さんのおっしゃることの特徴は「わかりやすさ」だなと感じました。その中で、ネットで読んだ「二項動態」の話が気になりまして、こちらのご説明を聞きたいと思ったんです。

文字どおりアジャイル的に、2つのことを同時並行的にうまくマネージしていくことなのかなと思ったのですが、市谷さんは「二項動態」をどう説明されているんでしょうか?

市谷:実は「二項動態」は、かなり根本に置いている考え方です。「情シス対DX推進部」など、日本の企業では部署や人との間で対立軸が生まれやすくなっています。これまで、最適化の一つのかたちとして「縦割りで、目の前の仕事をやっていけばいい」というふうにやってきたのですから、当然といえば当然なんですね。

そんな中で部署を越えた横断的な取り組みをしようとすると、たちまち「うちはそんなことをやっている暇はない」と対立が起こってくる。このような「二項対立」だと結果的に前に進まないので、「二項動態」である必要があるんです。

どっちがダメで、どっちが良いということではなくて、両方必要であると。両方がそれぞれに持っている強みを活かして、第三の道を作っていく。何か取り組みを生み出していく。私はこのように伝えています。

DXに重要なのは、協働・協助のような関係性

市谷:どっちが正義でどっちがダメではなくて、それぞれやっていることには背景や理屈、前提や歴史などがある。だから、それぞれがやってきたことをお互いきちんと理解することが重要で、その上で「組織として、さらなる高みに行きたいんだ」ということなんですよね。

それは北極星でもパーパスでもいいですが、そういった高い目標に向けて、お互いの持ち味ややり方も変えながら一緒にやっていきましょうと。こういうイメージで二項動態をお伝えしています。

森戸:なるほど。ディベートとか建設的に論じることがあまり得意じゃない私たちは、「どちらが正しいか」ということだけで戦ったりすることが多いですよね。そういった対立構造を作るよりも、お互いが主張している背景をきちんと理解した上で、協働・協助のような関係を作っていく。これがDXのためにかなり重要なんですね。

市谷:そう思っていますね。

森戸:今コメントをいただきました。「情シスは守り、DX推進室は攻めな感じがします。戦略的に動ける組織じゃないとDX推進できないですよね」と。

またこちらの(コメントは)自治体のDX担当の方だと思いますが、「DX担当として組織内での『場』づくりを予定していますが、同時に『仲間』づくりも行っています。本日の話で、ビジョンや過程を共有できるツールの重要性の話があったので、取り入れさせていただきます」ということです。

共通基盤を作ることから始めるDX

森戸:このコロナ禍の中では、仲間づくり・場づくりのために飲み会や懇親会を頻繁にやるわけにもいかないので、コミュニケーションツールが必要だと。今日教えていただいたように「最初に共通基盤を作る」ということが、非常に重要なんですよね。

市谷:そうですね。それぞれが持っている考えや違和感など、思いをきちんと通わせる機会がないと、新しい取り組みを進めていけませんから。基本的にはきちんと意思疎通ができる状況を作ることが前提になると思います。

森戸:ありがとうございました。1時間があっという間でした。今日は『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』の内容から、DXの4つの段階についてお話をいただきました。

第1段階の「業務のデジタル化」で、コミュニケーションツールによる基盤を作り、(第2段階として)新たなスキルを獲得するための「スキルのトランスフォーメーション」があると。

今日は時間的に(第3段階の)「ビジネスのトランスフォーメーション」については深掘りができなかったのですが、仮説検証を重ねていき、最終的にはアジャイル的に「探索」と「適応」を繰り返していくと。これが可能な組織づくりということで、(第4段階の)「組織のトランスフォーメーション」を行っていくということでした。

以上の内容が『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』となります。私としても非常に腹落ちがする1時間でした。市谷さん、本当にありがとうございました。市谷さんは本日お話しされて、いかがでしたでしょうか?

市谷:私も楽しかったです。やっぱりいろいろ聞いていただくと、自分の考えも引き出される感じがして良かったです。ありがとうございます。

森戸:このような対談も継続して行っていきますし、リアルでもお会いできたらなと思います。今後ともよろしくお願いします。

市谷:はい、よろしくお願いいたします。

森戸:では配信を終了します。ご視聴いただきましたみなさん、ありがとうございました。

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