2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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北野唯我氏(以下、北野):私もキャリアアドバイスの本を書かせていただいてるんですけど、その中でよく言っているのが、個人の市場価値という点で、伸びているマーケットや市場に身をおくことがものすごく重要だということです。わかりやすく例えると、下りのエスカレーターを駆け上がるのって、相当大変じゃないですか。
成熟している産業とか、これからシュリンク(縮小)することがほぼ確定している産業とは、例えるならそういうものです。一方で今伸びている産業で働くということは、データが上を向いている中で走るわけなので相当楽だし、大切だよとお伝えしています。
もう1個がいわゆるスタートアップ用語でTAM(市場規模)という言葉があると思います。今のお話を聞いていると、昔のスタートアップは、このいわゆるTAM、市場規模が小さいところを狙うビジネスが多かった。でも今は、本当に大きな大海を狙う、ベンチャーとかスタートアップが生まれている。そこにけっこう積極的に投資されていらっしゃるという印象を受けたんですが、それは合っていますか。
三好啓介氏(以下、三好):そうですね。そういうものを実現したいと思っていますね。そういうことを考える起業家の方も増えたし。さっきの話じゃないですけど、そういうことが実現できるんだと、世の中の人が信じるようになったのが一番大きいと思っているんですよ。
「いやそうは言っても無理なんじゃない?」と大概の方が思っていたら、たぶんなかなか実現しなかったり、実現しても極めてレアケースになる。ところが今は、いろんなものが作り変えられたり、合理的じゃないものは変わるとみんなが信じているんですよね。だからお金も人も集まるのかもしれない。いろんなものが急激に集まって実現できるようになったということだと思うんですね。
北野:もう1個、ぜひ三好さんの意見を聞いてみたいと思ったのが、2021年、去年のいわゆる3クォーター(7月~9月)ぐらいまで、本当にスタートアップがぐわーっと伸びていて。国でいう量的緩和と言われる、お金をジャブジャブにすることによってマザーズ自体も、個人投資家もすごく盛り上がったし、本当に波が来ていた感じがするんです。
それが4クォーター(10月~12月)ぐらいになって、あるいは2022年になって、マザーズという市場で見ると少しシュリンクした側面があると思うんですけど。三好さんは、この数十年間の流れとかを見ていて、この数ヶ月とか半年をどう解釈されていらっしゃるんですか。
三好:僕はまったく違和感がないという感じですかね。
北野:なるほど。
三好:株式とかマーケットの調整は必ずあるので。これは波のように動いていくので、上がる時もあれば下がる時もあるかもしれない。ただ、今は「まったく新しい世界を実現するんだ」みたいなことに向かっている。それは間違いないだろうと、みんなが思っていると思うんですね。いろんな会社があったにせよ、そういう会社は新しい世界を実現していくので、必ず大きくなると思っています。
北野:VCで言うと、アメリカとの比較がよく出てくると思うんですよね。アメリカはVCがもっと大きいという話も出てきますし、いわゆるGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)が出たりもしていると思うんですけど。
アメリカと比較する必要はないのかもしれないですけど、グローバルで見た時に、三好さん的に言うと日本のベンチャーマーケットは、どこが魅力というか、可能性があると思われますか。
三好:アメリカとか中国の今のマーケット規模から考えると、正直ぜんぜん小さいですよね。
北野:日本が。
三好:はい。ぜんぜん小さいと思います。ただ「国として持っているもの」の単純な比較感で言うと、そこまで小さくもないんですよね。じゃあこのギャップが埋まるのか埋まらないのかで言うと、僕は急激な勢いで埋まると思っているんですね。
北野:へぇー。
三好:それはさっきお話したような、人の価値観の変化が非常に大きいのと、僕は日本人だし日本が大好きなので。日本人の特質というか性質みたいなところは、そこに関わっていると正直思っていて。おおむねのコンセンサスが得られた時の変化のスピード感は、ものすごく早いと思っています。この象徴が、ワクチン接種だと思うんです。
北野:あぁー、確かに。
三好:最初は本当にいろんな対策が遅かったのかもしれないんですけど、そこからあれだけの勢いでワクチン接種を可能にした国民性を持っていますね。
今起きてる話もそうです。「やっぱり方向はこうだよね。今までちょっとうまくいってなかったかもしれないし、おかしかったかもしれない。それを変えましょう」とか、「サステナブルであるべきだよね」というおおむねのコンセンサスは、もう取れたわけですね。僕は、この時の変化率が日本にはすさまじくあると思っていて、ものすごくおもしろい時期に入っていると思います。
北野:確かにおもしろいですね。三好さんがおっしゃったように変わりつつある、ついにこの時代が来たなと。ドミノで例えるとドミノがついに倒れ始めたという感じだと思うんですけど、次に倒す大きなセンターピンは、どういうものだと思われますか?
三好:今も起きていますけど、2つですかね。1つは本当の意味での海外を含めての大きなお金が日本に流れてくることが1つ。もう1つは、人の価値観が変化したというお話をしましたけど、いま大企業などにいらっしゃる方がスタートアップとかに移る流れがもう1、2段加速する。この2つの要素かなと思いますね。
北野:確かにそうですね。
北野:もう1つ、我々個人のキャリアを考えた時に、スタートアップへ入るタイミングとして「今年は最適なのか」ということもお聞きしたいんですが。
これは我々が独自にとったアンケートですね。スタートアップに転職して、年収がどうなりましたかというものです。前職以上の年収になったという割合が意外にも多いというデータがあります。
さらに細かく見ていくと、転職で年収が上がった人は50万円~100万円くらい上がったという人が多かった。場合によっては300万円とか350万円以上上がったというアンケート回答もあります。
これはたぶん昔だと相当なかった声かなと思っています。あらためて個人のキャリアという視点で、今このタイミングでスタートアップに転職することを三好さんはどう思われますか。
三好:スタートアップに行くと、みんな年収が下がるのかと言うとそんなことはないというのが正しい話だと思っています。上がる方もいればフラットな方もいるし、若干下がる方もいるのが現実だと思っていて。「トータルでみんな下がりますよ、はもうない」ということだけは確かだと思います。
つまり大企業間で転職しても、次がスタートアップだったとしても、それはあんまり関係ないってことですね。
北野:確かに。
三好:じゃあスタートアップに行くのがどうなのかと言うと、僕自身この仕事をしているからかもしれないですけど、ぜひおすすめしますよね。
北野:本当ですか!?(笑)。
三好:という感じは持っています。
北野:その理由とか背景をうかがってもいいですか。
三好:たぶんそれぞれの方の、「自分がどう生きたいか」と照らし合わせてもらってスタートアップじゃないと思われる方がいていいと思うし、それが当然だとも思うんです。ただ、スタートアップに人が来るようになった価値観の変化は、そんなに簡単に死なないですよね。
三好:いろんなもののスピードが速くなって、昔だったら10年かけないと経験できなかったことが、5年とか3年に変わってきたわけですね。そうすると、自分の人生を何分割かして、そのうちの1つのサイクルを何で回して、自分はそこで何を得たいのか、自分はどう生きたいのかというふうに変化したと思っていて。
先ほどのデータのように、また大企業に転職したり違う道かもしれませんし、スタートアップかもしれない、という行く道をフラットに選択するようになったと。ただスタートアップをおすすめしますと僕が申し上げている理由は、スタートアップは必ずうまくいくかどうかは当然わかりませんし、むしろ失敗のほうが多いんですけれど。
北野:そうですね。
三好:その1回転の中で自分が何を感じたり、何を経験するかという密度はけっこう濃いのではないかと思っている。それがおすすめする理由ですね。
北野:確かにずっといるかはわからないけど、1サイクルぐらいは体験してみていいのではないかということですね。
三好:そうですね。こんな企業が出てきた中で、1サイクルがものすごく魅力的で、もう1サイクル同じように働きたいとか。さらにもう1回転したいという人たちが一定数いるのも間違いないと思いますね。
北野:そうですよね。私も20代の後半から30代の前半はスタートアップで、本当にドベンチャーでやっていたのでそう思います。青春だったなぁと、すごく思いますから。めちゃくちゃ楽しかったなと思いますし。大変だったこともたくさんありましたけど、でもそれを人生のどこかで経験できるのは、本当にやってよかったなと思うので。今の話は、私もすごく身に沁みたなと思いますね。
大きな会社でも、伸びている事業とかサービスを作っている企業はいいと思うんですけど、そうではない企業にいらっしゃると、どう論理的に考えても今後給与や待遇が貧しくなっていくじゃないですか。というのも、そもそも人口分布的に、年齢が上の人がたくさんいらっしゃる中で、若い人が支えないといけないのが日本の構造で、それが大企業の中でも伸びてない企業に関してはあるわけなので。
そう考えると長い目で見た時に、構造的に給料や市場価値が上がっていかないと思うので、そのへんは冷静に見極めてもいいのかなと個人的にはすごく思いますね。
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