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経営課題としてのエンゲージメント(全3記事)

時価総額が上がっている会社の共通点は「無形資産」 数字でわかる「人への投資はムダ」という思考が通用しない理由

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「経営課題としてのエンゲージメント」をテーマに、取締役の篠田真貴子氏が講演を行いました。本記事では、従業員エンゲージメントを経営視点で扱うべき理由について、日本国内の動きや欧米の企業との比較から語られました。

前提として、従業員エンゲージメントは経営視点で扱うもの

篠田真貴子氏:みなさんこんにちは、エールの篠田真貴子です。エンゲージメントという大きなテーマを、経営視点で扱っていきたいと思っております。

私もこの課題にはずっと関心を持ってはきているものの、同時にエールという会社の経営陣の1人でもあり、当事者でもありますので。「今、私はこう考えているんです」という、私のスタンスとしてぜひお聞きいただきたいです。その後、みなさんの何らかのヒントになればうれしいなと思っております。

繰り返しになりますが、今日の私のお話は「従業員エンゲージメントは経営視点で扱うものである」と、この出発点からいきたいんですね。今日はその観点で大きく3つに分けて、私の考えをお伝えしたいなと思っています。

1つ目は、その従業員エンゲージメントは「企業価値向上」と、それに直結するための「人的資本経営」。この文脈に位置づけられるのが1つ目。2つ目は、従業員エンゲージメントは……組織は言ってみればシステムですよね。この全体の「体質」を表すものだということを、2つ目のポイントとしてお話ししたいと思います。

これを前提とした上で、従業員エンゲージメントは実は、社員一人ひとりがじっくり自分の話をすることで上がっていくんだということ。ここの構造をちょっと最後に触れていこうと思います。

2階層上の人から、エンゲージメントの課題はどう見えるか?

今日ぜひみなさんにお願いしたいことが1つあります。今日いらっしゃっている方の多くは、組織にご所属とおうかがいしています。ぜひご自身の2階層上の方をイメージしていただいて、その方の視点で「これはどうなんだろう」と聞いていただければと思うんです。

もし大きな会社で今、例えば部長職にいらっしゃる方であれば、2階層上になるとおそらく経営職。取締役ないしはそれ以上の方だと思うんですよね。一般社員の方であれば、おそらくマネージャーの方がいて、部長さんがいらっしゃる。そうしたらこの経営層ないし部長から見て、自分の感じている課題とか、この話はどう見えるんだろう、と。

もしかしたらご自身がもう組織のトップですよとか、あるいは1人でやっていらっしゃるという方は、ご自身にとっての大切なステークホルダー、何らかの俯瞰視点を自分に与えてくれる方の視点を、ぜひイメージしてみてください。

ここでまず初めに、ちょっと大きなテーマでもあるので、ぜひうかがいたいんです。チャットに書いていただきたいんですけど、今日のこのセミナーが終わった時に、ご自身がどんな状態になっていたらいいと思いますか?

「こういうことがわかるようになったらいいな」ということでもいいですし、何かご自身の所属組織に関してモヤモヤとしている感情が晴れたらいいな、ということでもけっこうです。正解とかは別にないですし、当たりとか外れとかもないので(笑)。ぜひ今考えていること、あるいは感じている感情、率直なところを簡単に書いていただけますでしょうか。

自律型人材の育成のヒントに

「エンゲージメントへの理解が深まっている」。「穏やかで普通にいられたらいいです」、本当そうですよね。「自律型人材の育成のヒント」。なるほど、何が必要か。ありがとうございます。

「エンゲージメントを自分の言葉で(説明できるようになりたい)」、自分の言葉でね。「『だから経営ビジョンが大事だ』と経営陣にぶつけられる」、なるほど。ご自身の「心理的安全性が保たれる状態にありたい」ということでしょうか。

「役員とディスカッションをするための視点を得られたら」、ありがとうございます。「今のチームの運営ヒント」、「やっぱり自律型人材」、なるほどですね。あとは「社内を巻き込んでいく第一歩」。ご自身がこれを推進されているように読み取れるコメントの方もいらっしゃいますね。

あと「エンゲージメントの向上に社内の投資を引き出す」、やっぱり推進担当者でいらっしゃるんでしょうかね。ありがとうございます。みなさん本当に、今こうやって拝見しているとそれぞれのお立場で、組織の中でかなり自分ごととしてこのテーマを考えていらっしゃる。その観点でお集まりいただいたなと私も感じました。ありがとうございます。

じゃあさっそく、中身に入っていきましょうか。

「従業員エンゲージメント」「企業価値」「人的資本経営」のつながり

まず1つ目の、従業員エンゲージメントは企業価値向上と人的資本経営の文脈の中で位置づけられるんだ、というお話をいたします。これは一部の方にとってはもしかしたら、おさらいのようなことになるかもしれませんので、点をつないでいくようなかたちでお話しできればと思います。

主なポイントとしては、(スライドの)1番の項目の下のグレーの四角にあるように、2020年に経産省から「人材版伊藤レポート」が出て、それが昨年のコーポレートガバナンス・コードにつながったよ、ということ。で、投資家と組織運営の利害がある意味揃ってきた、この文脈の中に従業員エンゲージメントの位置づけがあることをお話ししていこうと思います。

話が数珠つなぎになるので、先にお伝えしたいことを書きました。まず1つ目、企業価値を左右するのが無形資産である。その無形資産の中でも人的資本がすごく重要です。この問題意識のもと、人材版伊藤レポート、それからコーポレートガバナンス・コードの改定があったんですね。

この人材版伊藤レポートの中で「従業員エンゲージメントが、人材戦略に求められる共通要素のうちの1つですよ」とハイライトしていると。こういう流れの中でこのテーマがありますよ、ということをお伝えしていこうと思います。

時価総額は「将来への期待」の数字

まず1つ目の、企業価値の話ですね。ここは言わずもがなかなと思いますけれども、上場企業ないしは上場を目指す会社であれば、やはり企業価値、つまり時価総額を中長期的に上げていくことが、経営の成果指標なわけですよね。なぜなら企業価値は、その会社の将来に対するさまざまなステークホルダーからの期待を表しているからです。

「サステナビリティ」というキーワードがよく聞かれますけど、これも結局「将来長く続いていく」という期待に、いかに応えるかという課題だと私は捉えています。

この「将来に対するステークホルダーの期待」ですけれども、トヨタとテスラの時価総額を、実際の数字で比べてみましょう。

こちら(のスライドの棒グラフ)、左の2本の棒がトヨタ、右がテスラです。薄い色が総資産、つまり財務諸表に載っている金額。濃い黄色のほうがそれぞれの会社の時価総額、つまり市場で評価されたものです。

トヨタは総資産に比べると時価総額が小さいですよね。テスラは総資産はトヨタの8分の1ぐらいしかありませんが、一方で時価総額は4倍ぐらいあります。

財務諸表の数字は、言ってみれば過去の蓄積の現在値です。一方、時価総額は将来の期待なわけです。ですから例えばテスラのような会社は、トヨタに比べると過去の蓄積はうんと少ないけれども、ものすごくいっぱい期待されている。ここに総資産と時価総額の差がプラスだったり、マイナスだったりということが、会社によって起きるわけです。

投資家が企業に求める、無形資産の開示

これをどう捉えるか。欧米ではここを開示していこうという動きが先行しています。今見たように無形資産……つまり有形資産である総資産と、企業価値の差分が、無形の資産と言えるわけで、これがもう企業価値の源泉になっている。

同時に企業の社会的役割を求める声が欧米を中心に、日本でもだんだん強まってきているので。この2つの交差点として、財務諸表だけではなくて、こういった無形資産の価値、あるいはESGという表現で、機関投資家がこれを重視するようになって「見えるようにしてください」と言ってきた。

それを見える化をする方法が開発中で、統合的に見えるようにしましょうと言っているのが(4項目めグレーの四角内、箇条書きの)3番目の、統合報告書のフレームワーク。人材領域ではISOの30414とか、会計基準でSASBが新しいものを提案しています。

加えて投資家保護、つまり情報開示の観点で、イギリスではガバナンス・コード。アメリカではForm 10-Kという、日本で言うと有価証券報告書にあたる書類でも「開示をしてください」というルール化がなされているんですよね。

こちらは参考までに、その国際統合報告書では「こういう項目を書きましょう」ということが国際的に合意されています。非財務資本、つまり無形資産の中でも例えば「人的資本ではこういうことを書いてくれ」という項目がある。これに則って開示を進める日本の企業も、現状どんどん増えてきています。

時価総額が上がってきているのは、「人的資本」に注力する会社

実際に国内で今、企業価値に関してどういう議論がなされているか……まず数字でいくと、日本の企業価値における無形資産の割合は、欧米に比べて格段に低いんですね。

これは2年ほど前の数字で、内閣府の調査結果です。(画面に4つあるグラフの)左上がニューヨークのS&P、右側がヨーロッパ。左下が上海で、右が日本の、それぞれ企業価値に占める、茶色が無形資産の割合です。

でもそんな無形資産の割合が低い日本においても、ESG要因の中でもS(Social)の要因にどれだけ注力しているかについて、すごく注力している、を「S1」、普通を「S2」、あまり注力していない、を「S3」と、企業を分けてニッセイアセットさんが分析しました。で、株価のパフォーマンスの分析を過去15年ぶんぐらいにわたってやったところ、Sに力を入れているS1企業が、特にここ5~6年で圧倒的にパフォーマンスが上がってきているのがわかっています。

このSを形作る要因が2つあって、1個がビジネスモデルと社会の適合性。もう1つが従業員との関係、つまり人的資本です。だから日本の会社でも時価総額が上がっているところは、やっぱり人材資本にちゃんと注力をしていることがわかってきているんですよね。

これを踏まえて、人材版伊藤レポートを経産省がまとめました。座長は一橋(大学)の先生で伊藤邦雄さんです。ここでまとめられた考えが2021年6月のコーポレートガバナンス・コードにも反映されました。

日本企業の体質も「囲い込み型」から「個の自律型」へ

こんな流れがあったので、コーポレートガバナンスコードが改訂された時に「改訂のポイントは4つあります」と東証がWebサイトで出してたのを私は見ていたんです。4つ目の「それ以外」を除く1、2、3、全部人材資本の話だったんですよ。

取締役会においては「スキルマトリクスを出してください」、組織においては「人材育成方針をちゃんと出してください」。サステナビリティの中でも「人的資本や知的財産の投資について書いてください」という流れです。

ここでじゃあエンゲージメントがどうやって出てくるかと言いますと、1つはまず機関投資家から見て、人材関連に注目する理由はやっぱり将来性であったり、優秀な人材を確保できるからという観点がある。

なのでこの概念を通じて、例えば20年前だったら人への投資はコストで、ムダで、切ってくれと言われていた。「そのぶん配当を投資家にください」というスタンスだった機関投資家は、今はあんまりいません。

今は、より人的資本を高めることに機関投資家も注目をしている状況なので。言ってみれば、機関投資家と、企業の人事や組織を考える人たちの、目線が揃ってきた。利害が揃ってきたという、大きな状況変化があるなと私は感じています。

その中でのエンゲージメントですよね。人材版伊藤レポートの骨子として、「はじめに」のところで、ここ(スライドに記載)の6項目が挙げられています。6項目のうち、初めの3項目は取締役会とか経営に関する話ですけれども、下の3つは組織体質に関する話です。

もともとわりと日本企業は傾向として内向きで、相互依存で囲い込み型だった。これを積極的に対話をして個の自律を促し、企業と人が選び選ばれる関係になる。こういう体質に変わっていくことが、企業価値が高まるための人材経営の柱ですよ、と言っているわけです。

組織体質改善のための3つの視点

(スライドを進めて)ちょっと細かい図で若干わかりにくいんですけれども(笑)。組織体質改善をするために、実際やっている日本企業のことをいろいろ研究したらば「3つの視点」がある。

あと会社によって状況はさまざまですけども、それでも「5つの共通要素があるよ」とまとめてくれています。この5つの共通要素が、要素1から5まで(スライド内図の)真ん中に書いてあるんですけど、そのうちの1つに従業員エンゲージメントというものがある。

もう1回ここまでお話ししたことをおさらいすると、まず企業価値を上げていくのがゴールですよね、という話から出発しました。それを左右するのは無形資産。その中でも人的資本が重要で、人的資本を高めていく考え方が大事ですよねということを人材版伊藤レポートがまとめ、それがコーポレートガバナンスコードにもう反映をされています。

このもとになった人材版伊藤レポートを見ると、従業員エンゲージメントが「企業価値を高めていくような人材戦略に求められる要素の1つですよ」と位置づけている。なので従業員エンゲージメントは、やっぱり経営課題としてまずここは必ず押さえないといけないんだなと考えています。ここまで1番目をざっとお話をしてまいりました。

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