大企業からベンチャーへ渡り、人材ビジネス業界に

勝田健氏(以下、勝田):それではお時間になりましたので始めさせていただきます。お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。ライフシフトラボの勝田と申します。よろしくお願いいたします。

はじめに、簡単に私の自己紹介をさせてください。私はライフシフトラボでキャリアコーチを務めています。今年で49歳です。もともと新卒でダイエーに入社しました。流通業の最大手で、「流通革命」「価格破壊」などで有名な起業家、中内(功)さんが作った会社ですね。

新卒でダイエーに入社したものの、(システム化・マニュアル化された流通業ではなく)「もっと自分ならではの仕事」をしたいという想いが強くなり、入社半年でダイエーを退社し、当時創業6年目だったネット広告会社のセプテーニに中途入社します。

当時のダイエーは10万人ぐらい社員がいて、プロ野球団も持っていた大きな会社でした。業界NO.1ではあったのですが、日々の業務内容はマニュアル化されたものがほとんどのため、私は「もっと自分ならではの仕事がやりたい」という強い思いがあって、セプテーニというベンチャー企業に第1号社員として中途入社したんですね。当時はまだインターネットができる前でした。

そこに約4年間在籍して、2000年からはリクルートに転職します。セプテーニは、私が入社した当時は20名弱のメンバーでマンションの一室で業務を行っていましたが、転職する頃には120名弱ぐらいの規模感に成長をしていました。

そこで、自分自身も含め「個人の成長と会社の成長はリンクする」ということを強く実感するんですね。そして当時勃興していた人材ビジネス業界に興味を持ち、リクルートに入社することになりました。

正社員転職以外の選択肢から、「45歳からのキャリア自律」を支援

勝田:リクルートはいろいろな事業を持っていますが、私は一貫して転職エージェントとして、人材紹介に携わっていました。リクルートには約15年間在籍しています。主に営業系の責任者として、多くの支援に携わる中で「人によって企業が変わる」「働く喜びによって個人が変わる」ということを実感しました。

現在は、「スタートアップ系の企業のCxOの案件」に特化をした転職エージェントとして、国内のベンチャーキャピタルと連携をして、各VCの投資先のCFOやCOOなど、経営幹部の方々の案件を中心にお手伝いをさせていただいています。

転職エージェント歴22年となり、私自身も今年49歳で、50代を目前に控えています。これまではずっと転職エージェントとして、「正社員の転職」に携わってきましたが、自分自身含め50代以降のキャリアを考えた時に、正社員転職という選択肢がなかなか現実的でないシーンをたくさん目にしてきました。「採用する企業側のニーズ」「個人側のスキル・経験」のアンマッチが起こるんですね。

このようなアンバランスなシーンを頻繁に目にして、「正社員での転職以外にも、何か選択肢があるんじゃないか」と考えていました。そして、複業を足がかりに「45歳からのキャリア自律」を支援するライフシフトラボに強く共感して、参画しています。

エージェント歴22年のプロが語る、転職の極意

勝田:ライフシフトラボは、単に「複業をしましょう」ということではなくて、「実践型のビジネススクール」として、ハンズオンで携わっていくんですね。

私自身もエージェント歴22年の経験を活かして、キャリアコーチとしてキャリアアドバイスを行っています。累計3,000名弱ぐらいの方々を支援してきていますし、私自身も本業のエージェントの他にいくつかの複業を実践しているので、お役に立てることがあると思います。

例えば、複業として私は「結婚相談所」でのアドバイスも行っています。一見、人材系とは離れているように感じるかもしれませんが、個人の方に向き合って伴走するという点で、「転職支援」と「婚活支援」は共通する部分もあるんです。実はリクルート出身者の方も多く携わっていたりするんですね。それから当然、採用系のコンサルティングも行っています。

本日は転職エージェントとして、シニアの方に向けた「転職の極意」をご説明します。1時間弱という時間になりますが、ぜひ有益な情報をお持ち帰りいただきたいと思います。ご質問等がございましたら、いつでも自由にチャット欄にご記入ください。その場で回答していきます。

(スライドに)本日のコンテンツを(表示しました)。ご存知の部分もあるかと思います。まず現在の40代以降の「ミドルシニア層を取り巻く転職マーケットの概況」ですね。

それから、よく言われる「ミドルシニアが転職する際の間違い」ですね。逆に、「ミドルシニアが転職する際の『勝ち筋』や『秘訣』」もご紹介します。ぜひ有意義な時間にしてください。

コロナやDXの流れで、転職市場の「35歳限界説」が崩壊

勝田:はじめに、「ミドルシニアを取り巻く転職マーケットの状況」ですね。これはコロナの影響もあってまた大きく変わっています。

実は、少し前まではいわゆる「35歳限界説」というものがありました。はっきりと年齢で区切るわけではないのですが、特に大手企業では35歳(頃)がマネジメント層になる年齢なので、これを越えると「転職が難しい」と言われていた時代がありました。でも現在、実はまったくそんなことはないんですね。

これ(スライド)はエン・ジャパン調べの図です。4年前の2018年、40代以上の転職者は40パーセントぐらいですね。この時点でもともと20代、30代よりも多かったんですが、コロナの後の昨年2021年では40代以上の転職希望者が48パーセント、5割近くになっているんですね。実は「ミドルシニアの転職者は増えている」という市場感となっています。

「35歳限界説」がなくなって、今なぜ40歳以上の転職者が増えているのか。これにはいくつかの要因があります。

ミドルシニア層を迎えるベンチャー・スタートアップが増加

勝田:一番大きいのは、もちろんコロナがきっかけになったこともありますが、「産業構造が大きく変わっている」ということです。特にDXですね。デジタル化、IT化の流れが加速していて、いわゆる成長業界への人材の流動化が加速している。

特に大企業の人材が、スタートアップ業界に転職するケースが非常に増えているんですね。その(背景の1つとして)スタートアップへの、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達の環境が大幅に好転・大型化していることがあります。 また、スタートアップというと、昔は「給料は抑えて、ビジョンに共感」みたいなところもあったのですが、最近は、年収条件も大手企業と遜色ない、もしくはそれ以上という企業も増えています。

私の担当するCxO系の案件においても、はじめから年収1,000万円とか1,500万円という待遇を提示するスタートアップもあります。また大企業からスタートアップへの転職も、3年前の約7倍と、桁違いとなっています。実は、若手だけではなく、「ミドルシニアの方を経営幹部として迎えたい」というスタートアップが増えているのが最近の傾向です。

2つ目は全体的な市場感ですね。転職マーケットは基本的に「求人の数」と「求職者の数」の需給バランスで決まりますが、今は完全に「求人が過多」「求職者が少ない」超売り手市場です。人手が足りないので、当然ミドルシニア層の方々の転職が成功するケースが、総量として増えていると言えます。

3点目はけっこう話題になりました。先日のフジテレビとか、少し前の電通、富士通さんもやっていますね。大手企業が、比較的業績が良いにもかかわらず、早期退職を募集するといったことが相次いでいます。特にコロナ禍以降、この動きが加速をしていると思います。

当然、ミドルシニア層が対象になっているので(早期希望退職者が)が出る。そして、それを逆手に取って、この機会に先ほどのようなベンチャーやスタートアップ業界の成長企業に転職をする方が実際に増えていると。こうした社会的な背景があるんですね。

6割のミドルシニアが、転職して年収が下がるという実情

勝田:転職総数を見ると、ミドルシニア層が増えていると言えますが、一方でその実情にはなかなか厳しいものがあります。

転職して年収が上がった方は全体の半数以下ですね。40パーセントぐらいしかいない。今の年収より下がった、あるいは変わらないという方も含め、前職の年収以下での転職をしている方が6割ぐらいいるという実情があります。

それから、採用する企業側の意識調査におけるデータを見ると、なかなかシビアです。スライドの図では青い部分が「積極的に採用したい」、オレンジ色が「良い人材であれば採用したい」、緑が「あまり採用は考えていない」となっています。

企業側の「できれば35歳未満の方を採用していきたい」という本音・意向が見えてきますね。当然「良い人材であれば採用したい」といったことも一定数はありますが。

45歳以上、ましてや55歳以上になると、良い人材であってもなかなか「採用したい」というところまで行き着かない。7割くらいは、言葉は悪いですが「あまり採用は考えていない」という企業側の本音・意向が見えてきます。だから、実態としてはそう簡単ではない状況なんですね。

「間違いだらけのミドルシニア転職」4つのケース

勝田:転職は手段です。理想とする転職を実現するために、当然無策のままでは厳しい。ここからよくあるケースとして「間違いだらけのミドルシニア転職」を4つご紹介します。まず1つ目。よく言われる「年齢が上がるに従って、マネジメント経験が求められる」というものです。

実は、特にスタートアップでは、マネジメント経験があるだけで採用するほど簡単ではないんですね。むしろ、どちらかというと自分で手を動かせる、いわゆる「プレイング・マネージャー」的な方が重宝されます。

だから、「どこどこ企業の部長をやっていました」「課長をやっていました」というだけでは、当然採用に結びつかないんですね。

それから2つ目。それであれば「資格を取ればいい」と、中小企業診断士などいろいろな資格を取る方もいらっしゃいます。もちろん応募するにあたって資格が必須の場合などは意味があると思います。でも、私が22年間転職支援をしている中で、「こういう資格を持っているから採用しましょう」というケースはほぼないのが現実です。

資格だけで採用が決まるケースは、転職においてはほぼない。だから「転職するために資格を取ろう」ということはお勧めしません。

「新卒で有名企業に入ったので市場価値が高い」という誤解

勝田:3つ目はこれ(「大企業から中小企業への転職はカンタン」)ですね。よくある間違いです。今まで有名企業、大企業にいたので、そこからベンチャーやスタートアップ、中小企業に転職することは簡単だろうと思っている方がいる。実はほぼ真逆で、現実的にはかなり難しいんです。

スタートアップやベンチャー、中小企業の場合は業務が定型化されていないので「何でもやっていただく」という企業が大半です。

大企業はいろんなシステムが機能分化されているので、中小企業向けのスキル・経験のある方は少ないんですね。むしろ1社の大企業しか経験のない方は「カルチャーにフィットしないので、できれば採用したくない」という声もあり、はじめからお断りされるケースもあります。けっこう現実は厳しいんですね。

それから4つ目ですね。「新卒で有名企業に入ったので市場価値が高い」という、よくある誤解。「年収も相応にもらえるだろう」「どんなに下げても1,000万円を下回りたくない」と思われる方がけっこういらっしゃるんですね。

実際は真逆です。先ほど転職によって年収が上がるのは40パーセントという数字も出ていましたが、終身雇用で、年齢が上がるにつれてポジションや年収が増えていく企業とは違って、年齢が上がれば上がるほど現年収と乖離していくんですね。

実際に、正社員で現年収の半分ぐらいとか、中には3分の1ぐらいというオファー提示があるのが実情です。

「転職が難しい人」の3パターン

勝田:次に転職が難しい人を3パターン紹介します。1点目は、先ほどの繰り返しになりますが、「マネジメントだけで実務ができない」「自分で手を動かせない」という人。「部下やメンバーに指示をするだけ」「上がってきたものをチェックするだけ」という方は、自分で手を動かさないので、ITリテラシーが低かったり、実務遂行能力がほとんどないんですね。

そういう方がシステムや環境が整っていない中に入社したとして、何ができるのでしょうか? 「ほとんど何から手を付けていいかわからない」と言う方もけっこういます。だから、実務の経験があり、遂行ができないとなかなか難しい状況なんです。

2点目は個人が悪いというわけではなく、仕組みの問題も大きいのですが、よく言われることです。特に大企業の方は、いわゆるジェネラリストなんですね。

大企業に数十年勤めても、これといった専門性がない。幅広い職種を社内で転々としきて、何が強みなのか、専門性なのかがわからない。そういう場合も「武器がない」ということで、転職する際に難航するケースがあります。

今までの実績や経験があればあるほど、捨てられないプライド

勝田:3点目は一番重要なマインドセットです。今までの実績や経験があればあるほど、なかなかプライドが捨てられない。ポジションやタイトルに対するこだわりについて、表面的には「ないです」と言う方がほとんどですが、実際はそうじゃないことが多いですね。待ちの姿勢が崩せずに、報告を待っているだけの方もいます。

今、よく言われている「アンラーン」とか「リスキリング」が大切なんですが、今までの「経験や実績を捨てて、新しく学ぶこと」が難しい方もいらっしゃる。

素晴らしい経験を持っていても、実績を出されていても、こういう方は転職をするとなると難しいケースが多いんですね。このあたりは、実感値がある方もいらっしゃると思います。