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心理カウンセラーに聞く感情をマネジメントするために行う「やめる」の極意(全3記事)

「勝ち負け」に執着すると、不安や緊張で力が発揮できない 自分の感情とうまく付き合うために「やめる」べきこと

一般社団法人nukumoが運営する、サッカー指導者のための会員制コミュニティFootballcoach(フットボールコーチ)は、「指導者にスポットライトを。」をコンセプトに、子どもたちの未来を担う指導者のための対談イベントや交流会を行っています。今回は心理カウンセラーの片田智也氏をゲストに開催された「感情マネジメントの極意」の模様を公開。指導現場に溢れる「感情」をマネジメントするための考え方が語られました。最終回の本記事では、「結果にこだわるのをやめる」ことの重要性が語られました。

コントロールできない相手に、自分の強い欲求を“押しつける”のは不自然

尾倉侑也氏(以下、尾倉):「コントロールできないけどコントロールしたいもの」ってどうすればいいですか? 例えば僕は周りを見た時に、子育てとかでよくあるなと思うんです。今の話で言うと、子どもがどうするかというのは明らかに(コントロール)権外じゃないですか。だけど「お利口ちゃんに育ってほしい」とか……。

片田智也氏(以下、片田):(笑)。

尾倉:「いい学校に行ってほしい」とか。サッカーの指導で言うなら「声を出してほしい」とか。大人として、こうあるほうがその子のためのハッピーな未来なんだろうって、きっと思ってはいると思うんですけど。

片田:いいんじゃない(笑)。

尾倉:それもいいんですね。でもコントロールできないじゃないですか? さっきの本の内容とズレてくるのかなと思って。

片田:声を出してほしいと思うこと自体は、別に悪いとは思わないです。ただ、「声を出してもらわないと困る」とか、「私は出してほしいのになんで出さないの」という強い欲求は、やはりおかしいと思います。だって叶わないんだもん。そんなもん、相手次第ですからね。

自分次第で決められない願いをわざわざ自分で持っちゃうのは、不自然です。それで不安や緊張の感情が湧いてくるのは必然なので、自分で感情を生み出してるのと同じです。

尾倉:なるほど。

片田:感情を高ぶらせたいと言うんだったらぜんぜん構わないんだけど、私の今回の本の中では「感情マネジメント」という枠の中なので、ああいう言い方をしています。でも思った通りにならなかった時は「なんだよー!」って言っていいと思いますよ。絶対に(そういう時も)ありますから。

尾倉:まぁ、ありますよね。

「感情マネジメントできない自分はだめ」と考えるのは本末転倒

片田:ゼロにはならないけど、それは「ベンチプレスが上がらない」と言っているのと一緒です。そういうことがあってもいいじゃないですか(笑)。トレーニングです。

尾倉:片田先生と話してると、けっこう「別にいいんじゃないですか」というのが多いじゃないですか。

片田:(笑)。

尾倉:1個の特徴だなと思っています。

片田:私、そういうことをすぐに言うでしょ(笑)。

尾倉:日常でもおっしゃっているイメージがありますね(笑)。僕は話を聞いていて、もしかしたらそれが重要なのかなと思って。

片田:それこそひっくり返すようですけど、私は感情をマネジメントしなきゃいけないとは思っていません。感情マネジメントできない自分はだめだって、本末転倒もいいところですよ。そんなふうになるんだったら、やめましょう(笑)。今日は休みましょう。

感情マネジメントしない、できない私はだめだと思っているんだったら、私の1冊目の本(『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本』)を読んでください。

いろんな感情には、必ず意味がある

尾倉:1冊目ではどんなことを書かれてたんですか。

『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)

片田:そういう感情に、もうちょっと寛容になってくださいという内容です。怒りとかいろんな感情には、必ず意味がある。自分の中にまいた感情を、疑うのはやめようということです。

尾倉:なるほど。(感情があるというのは)事実ですもんね。

片田:そうそう。感情マネジメントをしたいのであれば、ステップアップ編として青い本(『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』)を読んでほしいです。(でもその前に)黄色い本(『「メンタル弱い」が一瞬で変わる本』)をぜひ読んでほしいですね。

『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(ぱる出版)

「結果」は「がんばるための道具」で、執着するのはおかしい

尾倉:時間も少なくなってきたんですが、その本の中の「結果にこだわるのをやめる」という章は、本当に考えさせられました。本の中でも再三おっしゃっていたのは、「当然結果は重要ですよ」という話だったじゃないですか。

片田:何度も言いますでしょ。

尾倉:結果が重要でないわけではないけど、こだわるのがだめということですよね。

片田:はい。結果は重要です。でも執着するのはおかしい。結果は結果的に出るものだから、自分では決められない。だけど結果に向けて練習を励むとか、結果が出なくて「悔しいー!」って思ってがんばるとか、こういうことは大事じゃないですか。

だから「結果」は道具だと私は思っています。目的じゃなくてね。結果的に出るものだから、それを使って自分を高めたり、仲間との練習に励んだりする。がんばるための道具に過ぎないのかなと思っています。

尾倉:結果に執着するというのは、どういった状態のことを言うんですか。

片田:勝たなきゃだめ、負けちゃいけないとか。プロだったらそうおっしゃる気持ちもわかるんですけど、でも勝つかどうかって自分で決められますか? 絶対に、コントロール権外なんですよ。

そこにこだわるから、不安とか緊張に見舞われちゃうんですね。だからその勝つとか負けるとかの執着は、最初から捨てていかなきゃいけないんです。

日本人の強さにある「武士の教え」

尾倉:なるほど。理屈としては非常にわかりますけど、難しさもあるなと思います。

片田:実際やると難しいですよ。

尾倉:難しいですよね。目標とか結果を求めているからには、当然何が何でもそこを得たいという感情にはなるじゃないですか。だから執着するというアプローチになるのかなと思っています。その一方で、今言われていることも非常にわかるなとは思っています。

片田:そこはもう、その時々の経験で自分で掴み取っていくところですから。でも1つ言えるのが、日本人は本来、この考えがめっちゃ得意です。

尾倉:得意なんですか。

片田:めちゃくちゃ得意です。これはぜひ読んでほしいんですけど、新渡戸稲造が書いた『武士道』、もっといいのは山本恒友という江戸時代の人が書いた『葉隠』です。葉っぱの中に隠れる『葉隠』。これがおそらく武士道の原点なんですけれども、要するに「死ぬことと見つけたり」です。

尾倉:死ぬこと? 

片田:「武士道とは死ぬことと見つけたり」と言うんですよ。武士の作法として、戦いに出る前はもう死んだものと思って戦いに出なさいという教えがあるんです。簡単に言うと、結果を先に捨てておけという教えなんですね。これは欧米の人は理解できないんですよ。

尾倉:そうですよね。勝ちにいくのに死んだと思えってことですからね。

片田:そうです。だから日本人の強さが異常だったりするのはそこに起因していますね。

「勝ち負け」を最初から捨てておくと、パフォーマンスに集中できる

尾倉:ああ……。それは現代人にもありますかね。

片田:だいぶなえちゃっていると思いますが(笑)、嫌いじゃないんじゃない? みんな時代劇好きだし(笑)。違うかな。

尾倉:死ぬとか言われると、現代ではさすがに理解不能なところがありますけど、けどそうじゃなかったら(通じるところが)ありますよね。

片田:そう、そう。木村拓哉氏が主演した『武士の一分』という映画はぜひ見てください。あれは簡単でわかりやすい。命を、「勝つ」ということを最初に捨てちゃうんです。それで結果的に勝っちゃうという話。日本人は得意ですよ。

尾倉:なるほどなぁ〜。

片田:だからといって死んでいいというわけじゃないんだけどね。負けていいという意味ではなくて、「勝ち負け」は最初から捨てていくと、脱力できて体が軽くなるんですね。だからパフォーマンスに集中できるという、「武士道」は一種の思考技術だと思うんです。私は。だけど戦後はアメリカに危険思想だって言われて、禁書になっちゃった。

尾倉:逆に、アメリカの人はそれが怖かったということですよね。

片田:そうです。この話をすると、本筋からどんどん外れていくんですけど(笑)。

尾倉:そうですね(笑)。

受験に行く前の我が子に、「絶対受かってきてね!」はNG

尾倉:逆にここにいらっしゃる方々はお子さんがいたり指導する方たちがいたり、いろんな立場の方がいらっしゃると思います。

指導者や保護者という立場から、もちろん結果は求めたい。それに対して、最善のアプローチをしたい。そうなった時に聞きたいなと思ったのは、その過程というよりは、その直前でどう声をかければ一番いいかということです。

例えば受験に行く前の我が子になんて声をかけるのがいいのかとか。「絶対受かってきてね!」というのは、今の話でいうとNGっぽいですよね。

片田:はい。たぶん緊張すると思います。でも「受からなくていいよ」とも言えないからね。

尾倉:そうですよね。受からなくてもいいよとは言えないですよね。

片田:だから「自分にはもうすでに受かる力がある」ということを再認識させてあげればいいんです。「十分にやったよ」「いつもどおりやれば受かるから大丈夫」って。結果的に結果は出るよって。

尾倉:なるほど。結果を意識させるより、今までの過程を認めてあげるという意味ですかね。

片田:そうそう。自分で自分を認められるように声かけてあげる感じかな。結果は結果的についてくるからねって、おまけ程度で言ってあげれば。

自分次第では決められない「結果」ではなく、「過程」に目を向ける

片田:(指導者であれば、)「この1年間どれだけ練習してきたか、お前らが一番よく知ってるよなぁ」って。これだけやって上達してないわけないんだから。結果というのは結果的に得るものなんだから。大丈夫、がんばっていってこいって。結果ではなく過程に目を向けた感じかな。

尾倉:やっぱり過程なんですね。

片田:「絶対に勝たなきゃいけないよ。負けたらだめだからね」って言うのは一番……(笑)。

尾倉:僕はその現場によく出会っていたんですよ。例えば「負けたら校舎何周ね」とか。これは逆説的に「勝て」って言っているようなものだと思っていて。

片田:そうですね。同じメッセージだと思います。結局、結果という自分次第では決められないものに手を伸ばしちゃって、変な不安とか緊張が増大することがマイナスなんです。結果が出ないことに対する「怯え」を生むような声かけはNGですよね。

結果を出すための「ネガティブインセンティブ」は、かえってパフォーマンスを下げる

尾倉:「ネガティブインセンティブ」ってよくあると思うんですよ。さっきの「結果が出なかったら校舎走ろうね」とか、今はやってないと思いますけど「坊主にしろ」とか。あとは「門限破ったらお小遣いなしね」とか、そういうネガティブなインセンティブをぶらつかせることで、求めてる結果を出させようとする話ですね。

片田:それはおかしいんじゃないですか。

尾倉:僕は会社でもあると思うんです。例えばわかりやすく言うと、「営業成績が出なかったらボーナスを出さないよ」という。ボーナスを出さないこと自体は経営判断なので別にいいですよね。どっちかと言うと、結果を出さないと減らすというのがおかしいと思うんです。そういうネガティブインセンティブは、基本的にはポジティブに働かないんじゃないか。

片田:そうだと思いますよ。だって「結果を出さなきゃ絶対にだめだ」と、気持ちが萎縮しちゃうでしょ。萎縮すると筋肉が硬くなりますから(パフォーマンスは上がりません)。体を動かすスポーツだったら尚更そうです。

例えば人前でしゃべる仕事をしてても、筋肉が硬直しちゃうので声が出てこなくなっちゃうんです。要するに「緊張」によってパフォーマンスが下がっちゃうんですね。

尾倉:特に本番直前になったら、基本的にもうどうにもならないじゃないですか。

片田:なんないよ。

尾倉:そうですよね。直前に能力が上がることはないですもんね。なのでどちらかと言うと、パフォーマンス力が100あるんだったら、100を出せるように持っていってあげられるかが重要なんですね。

片田:私はそういうシチュエーションになったことがあまりないんだけど、言ったことがあるのは「今までやってきたこと以上の実力なんか出ないから、もう諦めろ」と。だけど「今までやってきたこと以下も絶対にないから、大丈夫だ」って、両方言ってあげることですね。

尾倉:なるほど。両方セットが重要そう。

片田:(笑)。もうどうあがいたって実力は変わらないよという意味です。上にも下にもね(笑)。それで「変に緊張しなくてもいいんだ」って脱力してくれれば、いつもどおりの力が出ると思うので。それで勝てるかどうかはまた別問題です。

「どうにもならないこと」を「どうにかしようとする」のはやめる

尾倉:結果にこだわらにというのが日本人の得意であるという話がおもしろいなと思いました。もっと話をしていきたいところなんですけど、時間も限られてきました。ラストに片田先生からおうかがいしたいのは、今回『感情マネジメントに必要な「やめる」の極意』を話してきたんですが、その「極意」はなんだと思いますか? いきなりやめることはできないという話だと思うんですけど。

片田:「どうにもならないこと」を「どうにかしようとする」のをやめましょう。ただそれだけです。

尾倉:「どうにもできないこと」というのは、さっきの権内・権外ということですか。

片田:そうです。

尾倉:最後にちょっと聞きたいですけど、コントロール権内の中でもどうにもできないことってないんですかね。

片田:私の中では、どうにもできないことは権内と呼ばない、という定義です(笑)。

尾倉:わかりやすいので言うなら、例えば「私は金持ちになりたい」という定義をしたとするじゃないですか。金持ちになるかどうかは、もしかしたらこれは権内じゃないんですかね。

片田:完全に権外ですね。それは結果です。「試合に勝つ」と同じです。

尾倉:あぁ、なるほど……。ごめんなさい、例え話を出そうとしたら失敗しました。

片田:難しいでしょう(笑)。

尾倉:はい……(笑)。

自分でコントロールできるのは「今」だけ

片田:いや、わかります。コントロール権内って本当はすごく狭いんです。選択できるというのは、自分で解釈するとか、判断するとか、結局「心の働き」によるものです。考えることによってのみ成し得ることなので。

だから例えば自分の健康も権外だと私は思ってます。食事制限したり運動したりするのは権内です。選択できます。だけど、病気にならないかどうか、健康になるかどうかは権外です。

尾倉:なるほど。僕が質問しようと思ったのが、自分の「未来のこと」なんですね。自分の未来は自分でどうにかできるという発想で話そうとしてたんです。だから権内だけど難しいですよね、と思ったんですけど、そもそも未来のことが権外なのかもなって、今ちょっと思いました。

片田:正解です(笑)。権内は「今」の話です。今ここで何をするか、何を言うか、何を判断するか。権内はそれしかないです。その積み重ねが未来であって、未来は結果です。だからそれにあまり縛られないことです。

そうすると楽になりますよ。だって考えることが「今」何を判断するかだけでいいんだもん。すごく楽ですよ。

尾倉:1個、僕の誤解が解けました。「コントロールできるもの・できないもの」の主語は「私か私じゃないか」なのかなって思っていたんですけど、そうじゃなさそうですね。

片田:そうだね。常に主語は「私」かな。

尾倉:それと時間軸もあるなと思って。私であっても未来のものは権外にあるんじゃないのかなというのが、話を聞いてての僕の発見でした。

片田:なるほど。確かに私が言ってる権内って非常に狭いと思います。この言葉を使う人もまれにいるんですけど、定義にすごく揺れがあって。私はこの瞬間の判断だと思ってるから、逆を返すと、それ以外は気にしても気にしなくても変わらないわけじゃないですか。楽ですよ(笑)。

尾倉:なるほど。今、勝手に腑に落ちました。

片田:よし、いいね!(笑)。

尾倉:聞いてくださってるみなさんが腑に落ちたかどうかちょっとわからないんで、また交流会で質問とかしてください。

片田:そう、それは権外だから大丈夫(笑)。

尾倉:ありがとうございます。最後に一言、片田先生からコメントをいただいてクローズにしたいなと思います。

片田:はい。ぜひみなさん感情マネジメントを学んでください。みんなが感情マネジメントを覚えると、たぶん世界が平和になると思います。ぜひ一緒に勉強してください。以上です。ありがとうございました。

尾倉:ありがとうございました。

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