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心理カウンセラーに聞く感情をマネジメントするために行う「やめる」の極意(全3記事)

メンタル不調になりやすいのは、感情を押さえつけてしまう人 感情を「マネジメント」するための“線引き”の極意

一般社団法人nukumoが運営する、サッカー指導者のための会員制コミュニティFootballcoach(フットボールコーチ)は、「指導者にスポットライトを。」をコンセプトに、子どもたちの未来を担う指導者のための対談イベントや交流会を行っています。今回は心理カウンセラーの片田智也氏をゲストに開催された「感情マネジメントの極意」の模様を公開。指導現場に溢れる「感情」をマネジメントするための考え方が語られました。本記事では、感情に振り回されないための「コントロール権外・権内」の考え方について語られました。

感情を押さえつけても、いいことは1つもない

尾倉侑也氏(以下、尾倉):さっきの「コントロールじゃなくて、マネジメントにこだわる」というところを、もうちょっとうかがっていきたいなと思います。本のタイトルも、確かコントロールじゃなくてマネジメントにするように依頼されたんですよね。

『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(ぱる出版)

片田智也氏(以下、片田):そう。

尾倉:言葉の意味合いとして、どんな違いを感じていますか。さっきの押しつけるというところですか。

片田:みなさんが抱いている感情コントロールという言葉のニュアンスが、押さえつけると同義だという問題意識は前からあったんですね。

それが技術として必要だと思っている方も多い。私はメンタルの仕事が長いけど、だいたい不安やうつが大きくなっちゃっている方は、押さえつける方なんですね。だから長い目で見て1つもいいことがない。

短期的には振り切れるんでしょうけど、楽しい感情を増幅して、不快な感情はなるべく小さく有益に使う。そういうマネジメントのほうがよくないですかという提唱です。

嫌なことは「我慢」ではなく「実験として楽しむ」

尾倉:なるほどね。例えば、我慢という概念があるじゃないですか。日本だといろんな場面で聞く……。日本じゃなくてもかもしれないですけど。

片田:日本人は好きですね。

尾倉:そうですよね。僕の我慢のイメージは、感情に対して「本当は」というのを無視してやっていることを我慢と言うのかな。逆にそうじゃなかったら我慢していないのかと思うんですけど、基本的に我慢は必要ないんですか。

片田:私も同意見ですよ。だから、私は我慢したことはほとんどないです(笑)。たぶん、「嫌だな」と思うものも実験として楽しんじゃうんですね。自分の心を試す。「あぁ、こういうふうに動くんだ」とおもしろがっちゃうんですよ。そうすると、我慢している感覚はほぼない。そういう楽しみ方はありますね。

尾倉:我慢している感覚がない。なるほど。

片田:遊んじゃう。

尾倉:それもやっぱり捉え方ですよね。

片田:それこそ、どう認識しているのかという、ABC(理論)の真ん中(「B」のBelief。出来事をどのように意味づけするか)だと思いますよ。

自分次第で決められるものとそうじゃないものの区別が曖昧

尾倉:コントロールできるもの・できないものを分ける時も、本の中で「権内・権外」という言葉をずっと引用して使っていました。簡単に言えば、自分の努力でどうにかなるかどうか、ですよね。

片田:そうです。「コントロールできる」という言葉を、「自分次第で決められる」という言葉にチェンジするとわかりやすいです。

例えば、飛行機が定刻になっても飛ばない時に、うわーってなる気持ちはわかる。でも、飛行機が何時に飛ぶかを自分で決められますか? コントロールできないでしょう。だけど、多くの方はイライラしちゃうじゃないですか。

たぶん、自分次第で決められるものとそうじゃないものの区別が曖昧というか、いまいち考えたことがない。なんとなく影響を及ぼせそうな感じがしちゃうんでしょうね。だから、CAさんに「何時に飛ぶんだよ!」と怒っちゃったりね。言っても無駄なんですよ(笑)。

尾倉:今の話は非常にすんなり来るんですけど、難しいなと思うのは、自分と距離感が近い相手だと思います。

片田:もちろん。難易度が上がる。

尾倉:家族や会社で言うなら、社員同士や恋人同士は一気に難易度が上がるなと思います。

片田:上がりますね。私の中でレベルがあって。

尾倉:あぁ、レベルという概念があるんですね。

片田:私の中だけで、本には一切書いていないんですけど。

尾倉:そうですよね。ちょっと気になりました。

コントロール権外のものの4つのレベル

片田:客観的な物事がレベル1です。電車が来ない。飛行機が遅延している。こういうのがレベル1。あんまり関係のない他人がレベル2です。レベル3は夫婦や上司とか利害関係のある他人。

レベル4は複合です。物事が起きたんだけど、利害関係のある他人が絡んできて、レベル1・2・3がぐちゃぐちゃに起こっている状態。

尾倉:なるほど。

片田:多くの方が悩むのがレベル4の複合です。レベル1、レベル2は練習してこなしていかなきゃいけないんだけど、みんな練習していないのにいきなり本番をやっちゃっている。

尾倉:なるほど。じゃあ、みなさんレベル1の電車や通りすがりの人からってことですよね。

片田:そう。どうでもいい人に足を踏まれたとか、電車ですげー押されちゃったとか。

尾倉:なるほど。レベルという概念は本の中になかったんで、おもしろかったですね。

片田:最近思いついたことです。

尾倉:あ、そうなんですね。本を書いた後に、という感じですね。

片田:そう。そういうのはいっぱい思いつきます。

尾倉:それは重要だなと思いました。

関係性が近いほど「期待」は大きく、「失望」も大きくなる

尾倉:本に「34のやめる」とあったと思うんですけど、今回の企画にあたって34個を読みながら、納得できるものも納得できなかった時の自分を思い出して、全部に質問を考えてみたんですよ。

それをやっていると、自分の整理がついたのはもちろんメリットとしてありました。とは言え、難しいよねと思うものもあって。それがさっきの子どもや恋人だったり。

片田:利害関係者ね。

尾倉:しかも、縁を切りたくないと言うか、切れない利害関係者と言ったらいいんですかね。そういうのがいろいろあったんですけど、いきなりそこからやるんじゃないというイメージですか?

片田:そうです。やっぱり遠い、簡単なレベル。「まぁ、なんとかなるよね」という出来事レベルから始める。そこから慣れていって、だんだん人に変えていく。私たちは人に期待しちゃうんですよ。

尾倉:その話もありましたね。

片田:関係性が近づけば近づくほど期待は大きくなるので、同時に失望も大きくなる。だんだんレベルを上げていくんです。

尾倉:なるほど、期待。

「人を操作するという発想をやめる」

尾倉:今回、僕が1個聞きたいなと思ってたのが、やめることの中に「人を操作するという発想をやめる」という項目があったと思います。

片田先生の主張としては、そもそも相手をちゃんと信頼して、任せるという発想が重要だという話があったなと思っているんですが。この「信じて任せる」という事に対して、難しいなと思う局面が2通りあるなと思いました。

1つは、そもそもよくわかんない相手に信じて任せるのは難しいよねと。だけど、日常で(そんな場面は)溢れているなと思っています。例えば会社に所属して、初めましての人たちでチームが組まれましたと。そのチームの人に成果を出してもらわないと、自分の評価にも響くんです。

だからちゃんとパフォーマンスを出してほしいと、ある種の期待もしています。だからこそ任せるのが難しいよねというケースが、1個あるんじゃないかなと思いました。1個ずついきましょう。まずここはどう捉えてますか?

片田:疑っていいんじゃないですか。(笑)。

尾倉:あぁ、疑っていいんですね。それはおもしろいですね。

片田:いやぁ、さすがに私も「大丈夫かな?」って見てると思いますよ。

尾倉:というと、「信じて任せる」というのは「疑うな」という意味ではないですよね。

片田:もちろん、人は疑われているより信じられているほうがパフォーマンスを発揮しやすいので、どちらかを選ぶ(必要があります)。ただ、それは私たちが選べますよね。コントロールの権内にあるから。

だけど最終的に、その人がどう動くかというのはコントロール権外なんですよ。どうしようもない。だったら信じたほうが得じゃないかという話です。別に疑っていいんですよ。私も基本疑います(笑)。

戦略的に「疑い」を手放したほうがいい局面

片田:でも、戦略的に疑いを手放したほうがいいと思う局面はありますよね。「これは信じる道を自分で選択するんだ」って。

尾倉:例えばどういうケースがありますか。

片田:それこそ、こちらがその人をどう見ているか、「片田さんは自分のことをどう見てるのかな」と相手がうかがっている時に、こちらが疑いの目を向けちゃうと、お互い疑い同士の関係になっちゃうので、いい結果にはならないです。

だったらもう全部手放してしまう。こっちの判断で「仮に騙されたとしても私はこの人を信じる」って決めることができるので。もし裏切られたら、それはしょうがないよ(笑)。だって自分で決めたんだもん。

尾倉:でもそうすると、「裏切られたら仕方ないよ」と思えないと……。「器」という表現がいいかわからないんですけど。僕はリスクヘッジって思っていて。

片田:もちろん。確かにそれはありえるよね。

尾倉:そのリスクヘッジができていれば、わりと任せられると思うんですよね。最悪裏切られても、起きた損害をどうにかできるとか、「このくらいだったら僕の感情は爆発しないな」とか。そう思える範囲のものは、任せられるのかなと思っています。

人を信じるためには、自分のリスクヘッジできる力を大きくするしかない

尾倉:いろんな人を信じるためには、つまり信じて任せるという行為ができる人間になるためには、自分の器を広げたり、自分がリスクヘッジできる幅を広げることが重要なのかなと、あの本を読みながら思ったんですよ。

片田:自分が大きくなるしかないよね(笑)。

尾倉:やっぱりそうなんですね。

片田:後ろに何もセーフティーネットがなくても、でも「あなたのことを信じる」と言われたら、人はどう反応するかという話ですよ。本当に何もないのに、こいつマジだってなるんだったら、それは自分の選択次第でその人との関係を良好なものにできるという意味だから。(リスクヘッジできる)腕があったほうが安全なのは明らかです。

尾倉:そういうところをしっかり作っていくのも重要ですね。

片田:もちろん。というか、自然とできていくと思います。だって本に書いてあることをやることで、「自分にできること」を淡々とやっていくことになりますから。単純に自分の力が増大していくだけですからね。

尾倉:そういう意味で「感情を受け入れる」という表現になるのかもしれないなと思いました。

片田:感情を受け入れる。受け入れて、できる範囲をやっていくと、ちょっと広がる。受け入れてやる、受け入れてやるを繰り返していくと、ちょっとずつ受け入れられる状態・提供できる幅が広がっていく感じです。

尾倉:そういうアプローチですね。

自己啓発の本に書いてあるのは「トレーニングメニュー」

尾倉:さっき「レベル」という話があったと思うんですが、僕も「僕のレベルだったら……」と自分と照らしながら本を読んでたんですよね。

その時に「まだ難しいな」「いや、ぜんぜんできそうにないな」と思った方もいらっしゃると思うんです。頭ではわかるけれども、実際にできるかどうかはわからない。これは片田先生の本に限らず、あらゆる自己啓発本がそうだとは思うんです。

僕は自分の腑に落ちるような何かしらがない限り、行動は変わらないなと思っているんですけど。片田先生の本を読んで、「頭ではわかるんだけどできないんだよな」という人がいたら、その人はまず何からすればいいですか。

片田:うーん……。みなさん、自己啓発の本って「ノウハウが書いてある」という前提で読まれてるでしょ。

尾倉:あー、そうですね。

片田:こうしたらうまくいくというハウツー、ノウハウが書いてあると思っているでしょう。だけど私は、あれは「トレーニングメニュー」だと思って書いてるんですよ。

尾倉:なるほど。トレーニングメニュー。

片田:1回やってみて、「ベンチプレスが上がりません」でやめるのか? という話ですよ。どう? 簡単なもの、軽いものから上げていって、ちょっとずつ上げられる重さを増やしていけばいいだけです。だからトレーニングメニューなんです。

尾倉:なるほど。ベンチプレスで10キロが上げられなかったら、5キロにしてみればいいということですね。

片田:そうです。

尾倉:10キロ上がったから、次は13キロにしてみようとか。

片田:そうそう。いきなり自分の体重と同じ重さを上げても、それは上がらない。トレーニングをやってないんだもん。

尾倉:そういうふうに捉えるんですね。

「イラッ」とした時は、意識して「区別をつける癖」を持つ

片田:ちなみに私はコントロールできるものとできないものの区別を毎日、おそらく1日20〜30回はトレーニングしています。

尾倉:どういう意味ですか? 誰かと話す時に意識するということですか? 

片田:そうです。例えば、話しながらイラッとしたりするでしょう。その時に、「あれ、何この『イラッ』。ああそうか、相手の行動に私が必要のない期待をかけてたんだな」「不自然に期待してたな。それが今のイラの原因だ」と。そして「これはコントロールできるものじゃない」と区別をつける。こういうことを1日最低20回はやっていると思う。

尾倉:へぇー。それは別に数えてるわけじゃなくて……。

片田:そう、そう。結果的に。

尾倉:意識的に、そういう癖をつけているというイメージですね。

片田:癖です。

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