2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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山口周氏(以下、山口):最近存在感を示しているビジネスを並べてみると非常に特徴があるんです。IKEAは先ほど見ていただきましたね。あとはテスラ。化石燃料依存に終止符を打つ。課題も問題も非常に明確ですよね。だからガソリンエンジンとかも絶対に敵になるわけです。
パタゴニア、Google、Apple。それぞれ全部ビジョンが非常に明確。「どうしたいか」も明確です。
これは、20世紀の経営学の考え方からすると、異常なことが起こっているんです。みなさん、それはわかりますかね。全部共通して、異常なビジョンが描かれているんです。ビジョンの中に、顧客がぜんぜん含まれていないんですよ。
例えば「化石燃料依存に終止符を打つ」を誰が望んだんですかという話ですよね。テスラが創業されたのは、今から20年前の2003年です。20年前の時点で市場調査をしたらガソリンエンジンはいやだと言っている人がこんなにいます。今の世の中の自動車に対して不満を持っている人がいます。そんな調査が出てくるかといったら、出てきません。
この時点でイーロン・マスクという人が「化石燃料依存に終止符を打つ」と。なんでそんなことをやるんですかと言ったら、端的に言うと「俺が気に入らねえからだ」。もうそれだけです。
あるいはパタゴニアの「自然環境を保全する」というビジョンは相当ラジカルなね。シーシェパードみたいなのを使って、捕鯨船とかを攻撃していますから。やりすぎじゃないかという部分もありますけれども、強烈なわがままですよね。
あとGoogleもそうです。「世界中の情報を誰もがアクセスできるようにする」と言っているんですけど、顧客の誰がそんなことを望んだのか。誰も望んでいません。Googleは、今でこそあんなに存在感がある会社になりましたけど、ものすごく苦戦した会社なんです。この会社、資金調達に350回失敗しているんですね。
つまり投資家に「投資してください。自分たちはこういう事業をやりますから」とお願いして、350回断られているんです。なぜかというと、「世界中の情報を誰もがアクセスできるようにする」というビジョンを言っているから。そりゃそうですよね。だってYahoo!とかInfoseekとかLycosとかもう当時検索エンジンがあって、当時はみんな満足して使っていたわけですよ。
そこに、「自分たちも最後発で出ていきます」と。「いいけど、今の検索エンジンを使っている人にどういう不満があって君たちはどういう不満を解消するの?」と。「我々は世界中の情報を整理して誰もがアクセスできる、情報にフラットな社会を作りたいんです」と言って、もう一時期、ババ抜きのババみたいに思われたんですね。あのGoogle創業者の2人が来たら、みんな逃げるというぐらい嫌われていたんです。
それはそうですよね。当時僕が億万長者でもGoogleには投資しなかったと思います。だってぜんぜんビジネスになりそうもないことを言っているんですもん。でも、これらの共通項は、みんな非常にわがままな、独善的な『ありたい姿』を描いている会社で莫大な時価総額を生み出しているんですね。
今時価総額のランキングをとると、アメリカの、本当にここ30年で作られた会社がどんどん並ぶんですけれども、日本はまったく出てきません。20世紀的な戦い方をしているので。
ですからわがままになって、「世の中のこういうことが許せない」と言って、それを仕事にしていく人が必要だと思うんです。これはある意味で原点回帰だと思うんですね。ジョン・メイナード・ケインズという大変有名な経済学者がいますけれども。彼が『雇用、利子および貨幣の一般理論』の中で、経済は何によって動くのかについて、こういう指摘をしているんですね。
「何日も経たなければ結果が出ないことでも積極的になそうとする、その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマル・スピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるのではない」。
これが書かれたのは100年前ですが、100年後の今をまったく見通しているような指摘だと思うんですね。数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として、やるかやらないかを決めるのは、経営学におけるファイナンスの理論の正味現在価値(NPV)の考え方ですよね。この正味現在価値の計算ができる人はいわゆる優秀な人材ということで、これまで企業はいっぱいやってきたわけですけれども。
ケインズが生きた時代は人類の中でももっともイノベーションが起こった時代ですが、ビジネスはそんなこと(正味現在価値)で前に進んでいるのではなくて、もうやらずにいられない。これをほっとかずにはいられないという衝動の結果として起こっているんだと。それはわかりやすく言うと、喜怒哀楽ですよね。もうめちゃくちゃうれしい。めちゃくちゃムカつく。めちゃくちゃ悲しい。めちゃくちゃ楽しいと思える。
先ほど見ていただいたIKEAのケースでももう放っておけない。この人たちになんとか自分が好きな家具に囲まれた暮らしを送らせてあげたいという共感とか、ある種の悲しみだと思うんですね。
幸いというか、非常にうれしいことに日本でもこの喜怒哀楽にもとづいて、ちゃんと事業をやってる人がいて、やっぱり成長しているんですね。代表例は、山口文洋さんだと思います。リクルート社内に置けるスタディ・サプリの起案者ですね。彼がこのスタディ・サプリの事業を始めようと思ったきっかけは、「教育格差」の問題なんですね。
もともと彼は、キャリア支援のビジネスを何かできないかと思っていて、 いろんなところに話を聞きにいっていたらしいんです。塾のない地域に住んでいたりとか、経済的な事情のために塾に行きたくてもいけない子どもが予想以上に多かったと。
ある母子家庭のお母さまが、「子どもが塾に行きたがっているのに経済的な事情で『諦めてくれ』と言わざるを得なかった」と言って泣いているところに出会って、すごいショックを受けてしまったんですね。
一番最初は、先進国で、豊かな国になったにも関わらず、「なんでこんな問題がほったらかしにされてんの」という悲しみですよね。なんて気の毒なんだろう、切ないんだろうと。そのうちだんだんほったらかしにされていることに怒ってきて。
だったらこの問題をリクルートという会社を使って解決してやろうと行動を始めたら、手紙がすごく来始めたらしいんですね。「離れ小島に住んでて、今まで塾に行けなかったんだけど、スタディ・サプリのおかげで勉強ができるようになった」とか「経済的な事情で厳しかったけど志望校に行けました」という手紙が来て、文洋さんは「人生で一番うれしかったことはその手紙だ」って言ってるんですよね。
それで、仕事が楽しくて楽しくてしょうがなくなっちゃって。この「喜怒哀楽全開で生きる」ということですよね。「感情が動く」ことと、「テクノロジーがわかって正解が出せる」。その両輪がこれからの人材には必要だと思います。山口文洋さんも非常にロジカルでテクノロジーにも詳しくて、ビジネスパーソンとしてのエクスパティーズ(専門的技術)を持っているんですけれども。
エンジンはどこかと言ったら、この国の教育格差や、子どもの可能性が経済的な事情や住んでいる場所のためにハンディキャップを負わされていることを「絶対に許さない」という気持ちですよね。これはわがままと言えばわがままですよね。誰からも頼まれていないのにもう自分が解決すると言い始めたわけで。自分で問題を見つけて許せないと言って動きだす。このわがままさがリーダーシップを生み出すのかなと思います。
そうなった時、ベテランと専門家が邪魔してきます。これに対してどう戦っていくか。自分をちゃんと守るということですけれども。
みなさんこの数字、なんだかわかりますか。
Facebook 19、Google 25、Amazon 31、Apple 21。これは創業者の創業時の年齢です。平均年齢24歳の人たちが作ったのがGAFAなんですね。24歳の人が日本の大きな会社に入ると何をしているかというと、議事録をとれとか、新入社員が入ってくるんで歓迎会の店を予約しろとか、そういう仕事をさせられているわけですね。
私はいろんな会社と付き合っていますけれども、「産業構造を変えるような抜本的なアイデアを出せ」という仕事をやらされている新入社員はいないです。全部雑務をやらされていますね。日本の会社は新入社員が一番能力がなくて、責任も負えないというふうになっていて。年次が上がるごとにどんどん優秀になっていって、一番上の年次のところの定義を見てみると、もうスーパーマンみたいなことが書いてあるんですね。
経験ない、知識ない、スキルないで、何もできない新入社員から、経験ある、知識がある、スキルがあるという東京の一番上の人たちがいて。その東京の一番上の人たちが、200人とか300人とかいるんですよ。スーパーマンみたいな人が、200人とか300人いて、この体たらくですか!? という会社が沢山あるわけです。
片や、こういう状態(GAFA創業者の創業時の平均年齢は24歳)になっているわけですね。この話、前に出したら非常に嫌な顔をされて。「山口さん、統計でいう『サンプルの誤謬』ってわかりますか」って。要するにサンプル数が少なすぎるという話です。
めちゃくちゃ腹が立ったんで、もっと母集団の大きいデータを用意してきました。これは去年の年末の時点で、創業から10年以内に時価総額10億ドルを達成したいわゆるユニコーン企業の創業者の創業時の年齢になります。
やはりピークは20代の後半から30代の前半にかけてです。日本の組織で見られる24歳で会社に入って50歳くらいまで全般的に能力が上がり続けるモデルからすると、著しくおかしなことが起こっているという話なんですね。
これからいろんな環境変化が起こる。テクノロジーの問題もあるし、コロナの問題もあっていろんなパラダイムシフトが起こっているんですけれども、この時に何が予測されるか。トーマス・クーンという「パラダイムシフト」という言葉を初めて唱えた人が、こういうことを言ってるんですね。
パラダイムシフトを成し遂げる人間のほとんどは年齢が非常に若いか、その分野に入って日が浅いかのどちらかである。そういう特徴を持っていると。要するに、これは今に始まった話じゃなくて、科学の歴史をずっと見ても、その道何十年もやってきた人がパラダイムシフトを起こした例は少ないと言っているんです。
年齢が非常に若い。そしてその分野に入って日が浅い。これは非専門家・アマチュア、かつ若い人がやっているということなんですね。確かに20世紀の画期的な科学業績というのをあらためて振り返ってみると、だいたいどの教科書にも必ず出てくる3人。
進化論を唱えたダーウィン。進化論を唱えたんで生物の先生だと思っている人が多いんですけど、この人は地質学者なんです。地面の専門家なんです。ビーグル号にも地質学者として地質を調べるために乗って、『種の起源』という本を書いてるんですね。ですから生物学者としてはアマチュアです。
グラハム・ベル。これは電話の発明者です。通信とか電子の、電気の専門家と思っている人が多いんですけれども、この人は音声学の先生なんです。ろうあ教育の先生ですね。ヘレン・ケラーってみなさん覚えているでしょう。目が見えない、耳が聞こえない、口がしゃべれないって三重苦。
そのヘレン・ケラーを教えたのはサリバン先生という方ですけども、ヘレン・ケラーの家にサリバン先生を紹介したのは、グラハム・ベルなんですね。この人は、ろうあ教育の専門家ですから。
これも非常に感動的なストーリーなんですけど、ベルはお母さんがろうあ者で、奥さんもろうあ者なんです。ろうあの人とどうやったら豊かにコミュニケーションを取れるかが、彼の衝動なんです。電気を使ってみたり、振動させてみたりということをいろいろやっていた時にたまたま電話の原理を思いついちゃったということですね。
究極がこれですね。アインシュタイン。この人がノーベル物理学賞を取った論文って光電効果の論文で、これを書いた時って大学の研究者じゃなく、特許局の職員だったんですね。特許局の職員として働きながら、アマチュアの研究者として1年間に5本の論文を出すって恐るべきことをやってのけていたんですけども。
例えば哲学の世界におけるウィトゲンシュタインもそうですし、アマチュアがものすごいことを成し遂げるのが20世紀だった。だから遠慮せずに、どんどん発言して上に食ってかかればいいってことなんですけど。
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