日常会話でもビジネスでも役立つ、話す時の心掛け

永松茂久氏(以下、永松):この本は、「話し方」がタイトルには入っていますが、「話し方本」って世の中にたくさんあるじゃないですか。この本を作ってくださった出版社すばる舎さんの編集長・上江洲(安成)さんといろいろ語った中で、最後に2人で一致したのが「こういうふうに話そうというスキルの本はたくさんあるから、あえてこの本は話すためのメンタル作りの本にしましょう」ということで書かせていただきました。

実際に話し方って、絶対にスキルよりメンタルのほうが大切なんですよ。どんな人でもそうなんですけど、例えば家庭であっても、職場であっても、友人関係の食事の場であっても、本当に慣れている人が相手だったら、みんなめちゃくちゃ流暢にしゃべるんですよね。

でもそれが、例えば人前に立たされたりとか、会議の場所で「なんかいいことを言わなきゃいけない」と思った瞬間、メンタルが萎縮してしゃべれなくなってしまうと。だから、心構えというかメンタルさえいい状態に持っていければ、人は誰でも話し上手になれるってことをメインでお伝えさせてもらっています。

多くの人は、「流暢に話そう」「笑わせなきゃいけない」「論理立てて順番通りにきちっ、きちっ、きちっと話さなければいけない」と、そっち側にフォーカスが行っちゃうんですね。もちろんそういうふうに話せることは素晴らしいことです。

という大前提の下なんですが、実は人は自分を笑わせてくれたりとか感心させてくれる人よりも、自分の話を笑顔で聞いてくれる人、感心しながら聞いてくれる人のほうを好きになるんですよね。だから、そっち側にフォーカスを当てて、自分の思いを伝える以前に相手の思いを引っ張り出す。要は相手に話しやすくさせるために話すことを心掛けていくと、日常会話でもビジネスでも必ずうまくいきます。

話し方の基本は「嫌われない」こと

初対面で一番大切なことは、実は好かれる以前にまず嫌われないことなんですよ。「うわ、この人嫌な人だな」って思われたら、その後どれだけサプライズをかけようが、どれだけいいことをしようがなかなか挽回が難しい。だから、基本ベースとして、まず最初に嫌われない話し方をこの本の中盤ぐらいからけっこう入れています。

まず1つ目。一番リターンが多いのが「正論を直球で投げない」です。「いや、これは正しいんだ。だからあなたは間違っているよね」とまともに伝えると、実は正論って凶器にもなるんですよね。相手の心、メンタルを傷つけてしまう凶器にもなる。でも、ちゃんと正しいことを伝えなきゃいけない時は「変化球をつけてみませんか」とお伝えしています。

例えばその人の失敗やミスについて、「君はミスしたね」じゃなくて、「いや、実は自分も、もともとこういう性格だからこういうことでよく失敗していたんだけどね。ある上司がこういうふうに言ってくれて、それで僕は変われたんだよ」と言うと、相手もよほど鈍い人でない限り(笑)、「自分もそうだよな」って思うんですよね。これが「変化球で投げる」っていうことです。

2つ目が、これもあるあるですけど、嫌われる人ってよ~く聞いていると余計な一言を言うんですよ。「私、あの人を尊敬しているんです」「いや、あの人評判悪くない?」とか、「今日はがんばってバリッと決めてみました」って言ったら「ふだんとあんまり変わらなくない?」とか。コミュニケーションのつもりでも、相手の心を傷つけたり、相手がそれ以上しゃべる気をなくすような余計な一言は絶対言わないように気を付ける。

そして、いろんなテレビとかにもよく取り上げていただいているんですけど、「4つのD」というのを提案していて。「4Dワード」を使わないようにしようと。「でも」「だって」「どうせ」「ダメ」。たまたま並べたら4つのDだったんで「4D」って付けて、「格好いいな」とか思いながら自分で書いてみたんですけど(笑)。

この4Dをなるべく控えることによって相手も話しやすくなりますし、相手の反応が良かったら自分も話しやすくなるので、この4Dワードをなるべく使わない。

激アツな、若いビジネスパーソンへの提案

ある場所に講演に行った時に、一番前でメモを取りながら「はあ」って聞いてくれている激アツな若い人がいたんですよね。欲を言えば、ちょっと顔が怖いなと。要は真剣なんですよね。「熱いな、この人」と思っていて。

その後、講師を囲んでご飯を食べようみたいな懇親会があって、その若い人がぶわって僕の前に来て。付箋を貼ってたりとか、本当に本を読んでくださっていて、「ありがとうございます」って言ってて。普通、「どんなお仕事をされているんですか?」って聞くじゃないですか。そうしたら、「僕は保険のセールスをやってて!」みたいな激アツで。

「いや、あなたが講演したほうがいいんじゃないですか」って言いたくなるぐらい、「こうこうこうでこうなんですよ。僕は保険を通して世の中の困った人をこういうふうに助けたくて」と。ずっと「はい、はい」って僕は聞いて「そうですか」って。いっときずっとしゃべってたんで、「すみません、一回ちょっと質問をしていいですか」って言ったら、「どうぞ」みたいな。

「保険、売れてますか?」って聞いたら、本当にナイアガラの滝から落ちるぐらいに「はあ」って。「永松さん、僕の思いをわかってくれないんですよ」ってね。「いや、わかんねえだろうな」と思いながら、僕も何個か質問したんですね。「いつもそういう感じでお話しされているんですか?」「はい。やっぱり熱さは大事じゃないですか」と言って。

「保険とは」「こういう商品があって」と、その場で話すぐらいなので、絶対お客さんにたくさんやっているなと思って。結局、その人が言いたかったのは、「どうすれば僕の思いが伝わるのでしょうか? どうすればもっと売れるでしょうか?」と聞かれたので、「○○さん、1個提案なんですけど。たぶん思いが強すぎると思うんですよね」と言って。「だから、その思いをかなり抑えて、相手が何を求めているかにちょっとフォーカスしてみたらいかがでしょうか」と言って。

ビジネスは「聞いた者勝ち」

それから、半年か1年後ぐらいですかね。そのエリアで違う主催者から講演に呼ばれて行ったら、またその人が一番前にいるんですよ。会場に入って、「あ!」みたいな感じで講演を始めたんですけど、ちょっと雰囲気が変わっていたんですね。スーツとかも変わってて、着る服も変わってて、なんか髪も変わってて、聞き方も変わっていたんですよ。前回みたいな激アツがなくて。

で、また懇親会に行きました。そうしたらその彼が僕のところに来ないんですよ、いろんな方を……。「どうぞ、行ってきてください」とかやっていて二次会の間に来ずに、三次会で僕が誘ったんですよね。「その後いかがですか?」って言ったら、「いや、永松さん。実は売上が5倍になってしまいました」と。

「すごいですね」と言って。「何をやったんですか?」と聞いたら、「いや、お客さんの話をひたすら聞きました。そうしたら、相手が求めていることと、困っていることと、自分の思いがあまりにも違うことに気付いて、そこから僕は聞き専に変わったんですよね。本当にありがとうございました。そのお礼だけ言いたかったので」って。

「僕はもうお礼だけ言えたら十分なので」と言って、「この子、いい子なんですよ」と今度はあっせんし始めて。「人間ってここまで変わるのか」って。僕はちょっと逆に、今度は熱く語ってほしかったんですけど。でも、やっぱり聞くって大事だなって。人はいろんな思いを持っているじゃないですか。そして(相手を)「話しやすいな」と思ったら、ゆっくりゆっくり口を開くようになりますよね。

だから、まずは何よりも安心感を相手に与える。「あ、この人には話していいんだな」って。そして「自分の言いたいことや思いを言っていいんだな」って。そうすることで、相手が何を求めているかがわかって、そこに対して提案をすることができる。だから、僕はおそらくビジネスは「聞いた者勝ち」だと思います。

この本の中では、感嘆・反復・共感・称賛・質問の5つのサイクルを繰り返せば相手との会話がうまく弾みますという「拡張話法」についてもお伝えしていますが、ここは尺がありますので、良かったらぜひ読んでいただければと。

お客の要求に全力で応えるうちにビジネスが展開

20年前、僕は3坪のたこやき屋をやっていました。当時、「40歳になったらたこ焼き屋を50店舗作る」と言っていたんですが、1店舗目でつまずいてしまって。苦し紛れに作った店が「陽なた家」というダイニングレストランだったんですよね。「これでテイクアウトだけじゃなくて、焼きたてのたこ焼きをテーブルに出せる」という思いで作ったんですが、なぜかブレイクしたのはバースデーのお祝いだったと。

たまたまスタッフが誕生日だったので、わーってバースデーをやったらお客さんたちが感動して、そこからどんどんバースデーの予約が入って、大分県中津市っていうちっちゃい町なんですけど、2003年に始めて2009年、2010年が本当に店のピークでした。その時は年間3,000件のバースデーをやってたんですね。

「俺たちたこ焼き屋なのに、なんでバースデーをやってんだ?」っていつも首をかしげながらやってたんですけど、お客さまが求めてくれたことを全力で、120パーセントで返そうというコピーを作って。とにかく「はい、喜んで」状態ですよね。「バースデーをやって」「はい、わかりました」「たこ焼きにこういうのを書いて」「任せてください」とかやっていたら。

ある時ぽんって「ウエディングをやって」「はい、喜んで」というのがあって。「受けちゃったけど、お前、ウエディングが来たぜ」みたいな。そこからウエディングをやるようになったんですよ。見よう見まねで。そうしたら、一回やったら次にまたリピートが入ったりして、土日はほとんどウエディングで店を回している感じだったんですよね。

そこからいろんな飲食店、居酒屋とかの店舗展開もしてたんですが、事業の一環として軸になっていたウエディング事業に、たまたま出版社の編集長をやっている方が新婦のおじさんで来たんです。僕らが唐揚げとかたこ焼きを銀皿に盛って運び、こっちではウエディングがパパパパーンとか「ケーキ入刀です」とかやってたんですけどね。

それをやっている時に「なんて変な店だ」と思ったらしくて。普通、(結婚式は)コース料理が出るじゃないですか。中津は唐揚げの町なので唐揚げの山盛り。その隣はたこ焼き山盛りみたいな。「変な店だな」と思っていろいろ話を僕に聞いてくださったら、その方の琴線に引っ掛かったみたいで、「君、本を書かないか?」と言われて、「書きます」と答えて。「はい、喜んで」状態ですよね(笑)。

「はい、喜んで」が、人生を好転させる

で、本を書いたらいろんなところから講演のオファーが来て、「はい、喜んで」ってやっているうちに、本(の売れ行き)がだーっと伸びてきてですね。5年前に出版で日本一を目指そうと決めて東京に来て、今、本を書いています。そうしたらたまたまぱかっとハマったのが『人は話し方が9割』だったのかなと。

だから、僕の人生って夢を持ってそれを追い掛けるっていうより、「はい、喜んで」みたいな、「目の前の人に期待以上を返そう」というのをやっていたら、逆にどんどん導かれて。気が付いたら「おいおい、たこ焼き50店舗はどこへ行ったんだよ」って、自分で突っ込みどころ満載な人生なんですけど。でも、こうやって振り返ってみるとすべて必然だったのかなっていう。

だから、今、例えば夢を持てない人やビジネスパーソンがけっこういらっしゃるんですけど、夢を持てなくて普通なんですよ。持ちにくい世の中ですし、立てた夢も叶うかどうかわからないじゃないですか。ただ、確実なのは、出会った人が期待以上に喜んでくれたら、必ずその人のことを好きになるんですよ。

そして、「あの人が好きだから」っていって人が集まってくると、いろんないい話が来るようになる。そして、それをまた120パーセントで返していくと、恐らく想像を超えた未来へ行けるのかなと思うんですよね。その一番最初の基軸、大切なところが「嫌われない話し方」であり、「相手に好かれる話し方」である。というところで、人は話し方が9割です。

話し上手になるために、一番大切なこと

「話し上手になりたい」とか「もっとうまく人とコミュニケーションを取りたい」って思う時に一番大切なことは何かと言うと、「苦手な人と話すのはやめましょう」ということなんですよ。「自分はあの人とのコミュニケーションが苦手なんだよな。だから、あの人を納得させるように話し方を学ぼう」って絶対しないほうがいいんですよね。これでは、どんどん話すことが嫌いになっていきますから。

じゃあどうすればいいのかって。苦手な人との話を極力避けて、時間が空くじゃないですか。その時間を自分の話しやすい人に使ってください。そして、「その話しやすい人とのコミュニケーションを今の何倍にも膨らませてください」とお伝えさせてもらいたいなと思います。

真面目な人であればあるほど、いきなり苦手な人に行こうとするので、それは絶対やめてください。なんなら話さなくていいんじゃないですかって。自分のうまくコミュニケーションを取っていける人との時間を増やすことで、「話すのって楽しいな」と思える。そして「話すとこんなに意思を通じ合わせることができるんだな」という成功体験を作っていただきたいと思います。

最後に、書き方で意識したことがありまして。「日本で一番簡単な『話し方』の本にしよう」と思って書いたんですね。小学生でも、おじいちゃん、おばあちゃんでも、誰でも読めるように絞り込んで、シンプルな書き方でお伝えしようと思って書いています。「読みやすいよね」という言葉はたくさんいただいていますので、本が苦手な方でもリラックスして読んでいただけたらと思います。