練習相手が見つからず断念したペアダンス

福田和代氏(以下、福田):ダンスの話もお書きになっていましたよね?

渡辺由佳里氏(以下、渡辺):そうそう、ダンス(笑)。本当は私、誰かとペアでダンスしたいんです。うちの夫はリズム感がぜんぜんなくて「やりたくない」って言うのね。

福田:それは仕方がないですね(笑)。

渡辺:そう、仕方がないので、私だけでダンスのレッスンにも行ったんですけれど、やっぱり自宅で練習しないとうまくなれないですね。

福田:そうか、練習量がぜんぜん違いますしね。楽器でもそうですね。

渡辺:そうするともう、ソロダンスでいいじゃないっていう(笑)。ですからソロダンスしているんです。

福田:いや、楽しかったです。すみません、YouTubeで私、観てしまって(笑)。

渡辺:楽しいですよ(笑)。

福田:楽しいですよね。「なんかいいなぁ」と思いました。

渡辺:「今日は踊りの日」と言って、家じゅうを踊りまくってますから。

福田:体が楽しい動きをしたり、笑ったりしていると心が軽くなりませんか?

渡辺:なります、なります。笑うところからもう始めてしまう。

福田:形から。

渡辺:そう、形から。どの文明でも、必ず「踊り」はありますでしょう? 喜びや、感情を表現するために、どこでも踊りを使ってきたわけですよね。

福田:そうですよね。歌と音楽とダンスと。

渡辺:だから、下手でもぜんぜんいいと思うんですよ。

福田:そうですね、なんか勇気づけられますね。

渡辺:盆踊りでもそうでしょう。盆踊りって、上手とか下手とかないですよね(笑)。

福田:ないですよね。あるのかもしれないけど、考えたことなかったです(笑)。

渡辺:私も考えたことないです(笑)。でも本当に「踊ればいいじゃん」っていうの、ありますよね。ですから躊躇されている方、私が許可を差し上げますので(笑)。

福田:さぁみなさん、渡辺さんが許可してくれたので(笑)。どうしようかなって迷っている方がいらっしゃいましたら(ぜひ)。

『アメリカはいつも夢見ている』の根底にあるもの

渡辺:ナンタケット島で早朝に音楽を聴きながら走っていてダンスに適した曲が流れてきたので止まって踊り出したんですよ。誰もいないと思っていたのに、クルッとターンして振り向いたら自転車に乗っているおじさまがいるではないですか。そしたらおじさまが「もっとやって」みたいな感じで……(笑)恥をかいていますけどね。

福田:(笑)。いやいや、恥じゃないですよ。きっと楽しそうだなと思って。

渡辺:きっとおじさん、楽しかったと思います(笑)。

福田:人が楽しそうにしていると、見ているほうもなんか楽しくなりますよね。

渡辺:そうですよね。ですからそういう時には「笑いを差し上げた」「世の中の人を明るくしてあげました」みたいな感じで(笑)。

福田:(笑)。それは大事なことです。功徳がありますよね。この『アメリカはいつも夢見ている』というタイトルは、「cakes」(渡辺氏がコラムを連載するサイト)の連載のタイトルでもあります。

今回は『アメリカはいつも夢見ている』というタイトルでありながら、アメリカの文化や日常の紹介だけでなく、どちらかというと根底で訴えかけるのは「私たちがもっともっと幸せになるにはどうしたらいいか」。

あるいは、本当は幸せなんだけど、それにまだ気がついていなかったり、見ないようにしている時に、ちょっと見方を変えるための方法とか。「なんだ。自分はこんなに幸せだったじゃないか」と気づくためのメッセージが、通奏低音のように、底流にずっと流れているような気がしたんですね。それが本当にみんなを元気づけてくれる。そんな本だと感じました。

さっきも少し渡辺さんとお話ししていたんですが、本書の第一章でお父さまとのご関係の話が出てくるんですよね。実は、読んでいて「私の父親とそっくりだ」と思いまして(笑)。

渡辺:(笑)。

福田:年齢的にもちょっと近いんでしょうか。まさに昭和の父親ですよね。

渡辺:うちだけではなかったんですね(笑)。いいお父さまに恵まれている人もわりといて、「いいな」と思ってしまうこともありますが、反面教師として父は私の人生をかなり良い方向に変えたんだろうと思っています。

人間関係に悩んだら行う、自分への問いかけ

福田:自分の子どもや周りの人をコントロールしたがる人っていますよね。そういう方との付き合いかたは、どうすればいいと思いますか?

渡辺:すごく難しいところですよね。私は、悩んだ時はいつも「どういう結果が欲しいんだろう?」と自分自身に問いかけるんです。いろんな悩みごとがあった時、「じゃあ、この中で私はどういう結果が欲しいんだろう?」「どうなりたいんだろう?」ということがまずあって。

ですから人間関係だと「私は、この人との関係をどうしたいんだろうか?」と考える。例えば、この本にも書きましたが、私の夫もいろいろ勝手なことをするんですね(笑)。

福田:勝手なこと(笑)。

渡辺:ムカつかないこともないんですけれど、結果的には、この人との関係があるからこそ今の自分があるんだという感謝もあって。だからこの関係は、やっぱり良好に保っていきたい。そして「良好に保っていくためにはどういうアプローチをすればいいんだろうか?」というところから始める。そして、「私はアンハッピーなところがありますよ」と夫に冷静に伝えるんです。

だから、ビジネスの話みたいに「こういう時に、こうだとこうですよね」と言う。あとはユーモアのセンスに切り替えて、ネチネチとやらない。気分を変える。自分の中の見方をともかく変えなきゃいけない。そういう作業をしますね。

ですから、「この人との関係はあまり役に立たない。むしろ自分を壊すだろう」と思ったら、つらくても距離を置いてしまう。「結果として、自分はどういうところに行きたいんだろうか?」「この関係を続けた場合、自分に何が起こるんだろうか?」「それでもいいのか?」と考えて、その価値があるのかを問うてみる。

アメリカの人生相談でも「ボーイフレンドがcheating(浮気)していましたが、反省して戻ってきました。でも私、どうしたらいいのかわかりません」みたいな話がよくあるんですよ。その時は「それでもこの人と一緒にいたいのかどうか」「それで幸せになれるのかどうか」ですよね。いなくても大丈夫な人かもしれないし……(笑)。

だから「最終的にどこにいきたいのか」「どういう結果が欲しいのか」というところから始めましょうというのがアドバイスですね。

愚痴を言いたくなる職場に対し、変えられる3つのこと

福田:今お話をうかがいながら、スライドでご夫婦の写真を紹介していました。ドラキュラの真似をしていらっしゃるもので、やっぱりユーモアが大事ですよね。

また、ご自身の感情やハッピーじゃない状況をきちんと言葉で説明されているんだなと思いました。日本の夫婦は、なかなかそういうことをしないですよね。

渡辺:そうですね。日本の「言わなくてもわかるべき」で育ってきたので、最初はすごく苦労しました。

福田:そうそう。

渡辺:言わないでいて、「なんでわかってくれないんだろう?」と思ってしまうことはよくありますよね? でも言わないとわからないですよね。 

福田:「わかるわけないじゃん」ですよね(笑)。

渡辺:そうなんですよ(笑)。「自分も努力しなきゃいけない」ということに気づくまでに、けっこう長年かかりました。やっぱり父親の影響が大きくて、そう簡単には治らなかった。自分のダメな所を自分で認める必要がありましたね。

最初のうちは、父の影響が残っていて苦労したんです。20代の頃、私は家に戻ると職場の愚痴を夫に言ってしまっていたんですね。そうすると、夫が「あと5分だけね」と言うんですよ(笑)。「あと5分だけは聞くけど、それが終わったらもう話題にしないでね」って。

夫がよく言っていたのは「人は変わらない。あなたが何を言おうと変わらないから、そこにエネルギーを費やしてもしかたない」「それなら『自分を変えるか』『場所を変えるか』『見方を変えるか』だよ」ということでした。

福田:それもいい言葉ですね。

渡辺:それがだんだん染み込んできたのかもしれないです。父親から離れることで、次第に能天気なアメリカ人の夫のほうに洗脳されてきたのかな(笑)。

福田:(笑)。この『アメリカはいつも夢見ている』の中には、本当に素敵なエピソードがたくさんありますよね。ここで全部ご紹介したいぐらいですが、それもできないので、みなさん本を読んでくださいね(笑)。

渡辺:お願いします、と宣伝(笑)。

「差別をしない努力」をしてくれる義母

福田:私は、中でもお連れ合いのデビッドさんのお母さまのお話が「すごくいいなぁ」と思いました。すごくお金持ちの家のパーティーに行く機会に、「着物を着て行ったほうがいいよ」と教えてくださったんですよね。このアドバイスはすごいと思いました。今スライドにピカソの絵の前での、お着物姿の写真を出しますね。この時のエピソードですよね?

渡辺:そうなんですよ。「これピカソに見えるなぁ」とか思っていたら……。

福田:本物のピカソだったっていう(笑)。

渡辺:「誰かの自宅にピカソがある」っていうシチュエーションがよくわからなくて(笑)。

福田:ないですよね(笑)。

渡辺:「もしかしてこれ、ウォーホール?」「そうですよ」というのもあって、「げげげ! いきなりとんでもないところに来てしまった」みたいな(笑)。

福田:本当ですよね。そういうアドバイスをさらっとされるお義母さまもすごいと思いました。

渡辺:いろいろとんでもないことも言う人なんですが。私なんか「は?」って一瞬目が点になることもあるんです(笑)。私が政治的にも、一番違う立場にいたりするので。それでも仲良くやっているのは、初めて会った時から私に対して差別をしない努力をしてくれているのがわかるからです。

裕福な家庭で育ったWASP(​​白人・アングロサクソン・プロテスタント)の彼女にとって「自分の長男が日本人の女の子と付き合っている」というのは、内心ショックだったと思うんですよ。でも、そういうことを義母はぜんぜん出さなかったんです。

花嫁が「見えない」結婚式

渡辺:うちの父親は偏屈で、結婚式には来ませんでしたし、母にも来させなかったんです。アメリカの結婚式では、花嫁の父親が花嫁を連れて入場するのがしきたりなんです。そこで、義母が自分のお父さんに頼んで、私は夫のおじいちゃんのエスコートで教会に入場してきたんです(笑)。

そのおじいちゃんが、186センチの夫よりも背が高い人で、190センチくらいあるんです。オランダ系の方なので、すごく細長くて。花嫁が入ってくると、参列者全員が立ち上がるのがならわしなんですが、。プロに撮ってもらったビデオを観ると私が皆に埋もれて全然見えない。おじいちゃんだけが参列者の合間をゆるゆる歩いていく(映像)がずっとビデオで流れているという(笑)。

福田:(笑)。

渡辺:花嫁がチビすぎるのが計算に入っていなかった面白いビデオです(笑)。お義母さんはそういう手配も全部やってくださったわけで、それについての感謝がすごくあります。うちの父親みたいな態度をとることもできたわけですよね。また、そういった花嫁の家族に対する不満で結婚に反対することもできたと思います。でも、義母は反対するどころか、結婚式の采配を振ったわけです。

娘がいないので、やりたかったこともあるみたいです。アメリカでは花嫁の親が采配を振るんですが、義母は息子3人なので機会がなく、「一度やってみたかったの!」と乗り気で。私も日本で仕事が忙しかったので、「じゃあどうぞ」と言うと、もうさらにやる気になって(笑)。

結婚前の恐怖エピソード

渡辺:当時はインターネットもメールもないので、通信手段は手紙です。ものすごく分厚い封筒がやってきて、中を開けると、お義母さんがウェディングドレスの試着をしている写真がいっぱい入っていて(笑)。

福田:お義母さんが試着(笑)。素敵! いいですね(笑)。

渡辺:それと、怖いエピソードがあるんです。その封筒の中には、お義母さんだけじゃなく、若い女性が試着している写真もあったんです。その子は夫の家族の知り合いの女性で、「お手伝いしてあげます」と言って、お義母さんについてきたみたいなんです。でも、その彼女はうちの夫と結婚したくて、以前からずっとつきまとっていた女性なんですよ(笑)。

福田:ヤバい匂いがします……(笑)。

渡辺:「お母さん、なんでこの人がついてきてウエディングドレス着てるの……?」って。なんかこれ、サイコスリラーの世界でしょう?

福田:確かにそうですね。でもひょっとすると、それでちょっと満足されて、ある意味気持ち的にホッとされたのかもしれませんし(笑)。

渡辺:それで、私はお義母さんが着ていたドレスを選んだんですけど、お義母さん身長が180センチ近いんですよ。私が着るとぜんぜん違って(笑)。でも、お義母さん、すごく楽しんでいたみたいです。

福田:そういう方で良かったですよね。

渡辺:いろいろぶつかっても、すぐに忘れてくれる。根に持たない人ですね。

福田:それが一番ですよね。逆にぶつからない人のほうが、心の中にじっと抱え込んじゃって、本当は言いたかったことが後で爆発したりすると怖いんですよね。

渡辺:そうなんですよね。ドラマの『ダウントン・アビー』ってあるじゃないですか。始まった頃に私ちょっとハマっていて、お義母さんにも「絶対好きだと思うから」と薦めたんですよ。そうしたら、伯爵夫人のドウェージャー・ダッチェスが、言いたい放題のおもしろいキャラクターでしょう? それに感化されて、しばらくドウェージャー・ダッチェスになっていました(笑)。

福田:言いすぎ、みたいな(笑)。

渡辺:そのせいか、80歳を越えているのに、50年以上仲良くしている友達たちと女子高生みたいなケンカをしたりして。それを愚痴る電話をかけてきたり......(笑)。でもありがたい方です。

福田:あっさりされているのが一番いいですよね。