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渡辺由佳里さんに聞く『アメリカはいつも夢見ている』(全5記事)

作家・渡辺由佳里氏が説く、「下手くその達人」という開き直り 人の挑戦にケチをつける人は、「困った時に助けてくれない」

本に関するイベントを開催するオンラインコミュニティ「デジタル・ケイブ」に、新刊エッセイ『アメリカはいつも夢見ている』を出版した作家・渡辺由佳里氏が登壇。ミステリー作家の福田和代氏を相手に、これまでの読書体験や絵を書き始めた理由、新しい挑戦をする時の心構えなどを語りました。

作家・渡辺由佳里氏の経歴

福田和代氏(以下、福田):こんにちは、ミステリー作家の福田和代です。デジタル・ケイブの3月イベントに、ようこそご参加くださいました。今日は、2月25日に新刊エッセイ『アメリカはいつも夢見ている』をKKベストセラーズ社から発売されました、アメリカ在住の渡辺由佳里さんにZoomでお越しいただき、お話をうかがってまいります。

デジタル・ケイブ初の、日米をリアルタイムに結んでのイベントとなります。時差の関係で渡辺さんには早朝にお越しいただきまして、日本側は夜の開催となります。これも、初めてのことなんですよね。

視聴者のみなさまからのご質問は、YouTubeのコメント欄にぜひご記入ください。適宜読み上げさせていただきます。では、みなさまよくご存知のことと思いますが、恒例ですので私から講師のプロフィールをご紹介させていただきます。

渡辺由佳里さん。エッセイストで洋書レビュアー、そして翻訳家でマーケティング・ストラテジー会社の共同経営者でもいらっしゃいます。

私と同じ、兵庫県でお生まれになりました。多くの職業を経験された後、東京で外資系の医療用装具会社に勤務され、その後香港を経て1995年からアメリカに移住されました。現在はアメリカのボストン郊外で、お連れ合いでいらっしゃるビジネス講演者のデビッド・マーマン・スコットさんとお二人で暮らしていらっしゃいます。

2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長編新人賞を受賞されました。そして翌年『神たちの誤算』を発表されます。私も大好きな本『ジャンル別 洋書ベスト500』ですね。これ「ベスト100」じゃなくて「ベスト500」ですからね。それから『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』など、著書がたくさんございます。

翻訳書には糸井重里さん監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』、レベッカ・ソルニット著『それを、真の名で呼ぶならば』などがございます。

その後『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』を出版されました。もちろんこの『アメリカはいつも夢見ている』が最新刊になります。そして、洋書を紹介するブログ「洋書ファンクラブ」の主宰者でもいらっしゃいます。

さっそくみなさんからのコメントがたくさん入っています。「楽しみにしていました!」ということでパチパチパチと、拍手をたくさんいただいています。それでは渡辺さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

『少年少女世界の名作文学』から始まった読書体験

渡辺由佳里氏(以下、渡辺):よろしくお願いします。福田和代さん、お久しぶりです。お招きいただきましてありがとうございます。

福田:本当にご無沙汰しております。と言ってもリアルでお会いしたのは1回きりなんですよね。

渡辺:そうなんですよね。随分昔になりますよね?

福田:そうですね。京都の「ほんやら洞」で、堺三保さんと大原ケイさんと3人で、アメリカの出版事情に関するトークイベントをされたんですよね。

渡辺:そうなんです。すごく楽しいイベントでしたよね。

福田:本当に楽しかったです。内容がまたおもしろくて。それを話し出すとちょっと止まらなくなると思いますので(笑)。

渡辺:そうですよね。半日ぐらいはかかりますね(笑)。

福田:本当に楽しそうにお話をされていたのが印象に残っています。ところで、Zoomでアメリカと日本をつないでいるから「タイムラグがあると思っていたら、ないですよね」と2人で話していたんですよね。

渡辺:そうなんです(笑)。私も「なんか不思議だなぁ。いつもとどこが違うんだろう?」と思っていたら、タイムラグがないんですよね。

福田:普通にしゃべれますよね。すごく不思議な感じがします。

渡辺:2人で異次元のお部屋に入ったような感じですよね(笑)。

福田:(笑)。「渡辺さん、本当は日本にいらっしゃるんじゃないですか?」って、さっき冗談で言ったぐらいですもんね。不思議。

渡辺:(笑)。不思議ですね。

福田:ちょっとレスポンスの間が空いたら、「この間が地球のサイズですよ! 今、日本とアメリカの間の海底ケーブルを、私たちの映像が飛び交っているんですよ!」と、視聴者のみなさんに想像力を駆使してもらおうと思っていたんです。でもぜんぜんないですよね。どうやったらこんなことができるんでしょうか?

渡辺:たぶん、SFの世界みたいに……。私は、何かあるとすぐ「超常現象」とか「SFの世界」とか、そういうことを考えちゃう人なんですよ(笑)。

福田:SFがお好きだと、さっきTwitterで拝見して「おぉ」っと思っていました(笑)。

渡辺:読書体験として一番はじめは海外文学でした。5歳ぐらいから『少年少女世界の名作文学』を読み始めたので。SFに入り込んだのは、たぶん小学校3、4年生くらいだと思います。母が全集を買ってくれて。

福田:それも全集ですか!

渡辺:だから1冊ずつ来るんですよね。母は「全集が出る」というと何でも予約をする人でした。それが来るのがすごく楽しみだったんです。中には怖いものもありましたが。

シャーロック・ホームズより、アガサ・クリスティが好きな理由

福田:どんなのがお好きで、どんなのが怖かったですか?

渡辺:ハインラインの、なんかナメクジみたいな異生物が来るのが怖かったですね。「ナメクジみたい」というのは勝手に私が決めているんですけど(笑)。乗り移るのがあったじゃないですか。それがすごく怖くて。怖いから部屋の隅に本を放り投げたんですけど、そうしたら隅に行けなくなってしまって(笑)。

福田:もう触ることもできない(笑)。

渡辺:ですから、SFの夢もよく見ていましたね。

福田:きっと、いろんな本をお読みになってきましたよね。ミステリーもお好きだということで、最近私の本まで読んでくださっているとお聞きして。「えー!」って(笑)。

渡辺:『繭の季節が始まる』は、SFとミステリーが混じっている作品ですよね。近未来SFの部分がありますでしょう。そういうところが私の趣味にぴったりで(笑)。

福田:そうか、SFもミステリーもお好きなんだ。

渡辺:私、ミステリーがすごく好きなんですよ。

福田:ミステリーはどんなものをお読みになって、お好きなのはどのへんですか?

渡辺:一番はじめは、やはりアガサ・クリスティとか、そういうのから入りましたね。

福田:定番からいきますね。

渡辺:定番からですね。中学生の頃から。あ、でもその前からシャーロック・ホームズは読んでいましたね。シャーロック・ホームズも好きですが、私はどちらかというとアガサ・クリスティのほうが好きなんです。人間がいっぱい出てきますから。いろんなキャラがぶつかり合うところがすごく好きなんですよ。

ミス・マープルとかが大好きで。ミス・マープルは温厚そうなおばあちゃんなのに、行く先々で殺人が起こるじゃないですか。

福田:「なんでこんなに起きるんだろう?」っていうぐらい(笑)。

渡辺:うちの娘とも言っていたんですけどね、甥っ子さんがミス・マープルを招待するでしょう。「自分だったら絶対しないよね」とか言って(笑)。

福田:誰か死ぬのに(笑)。

渡辺:「おばさん来たら誰か死ぬもんね」って(笑)。そういうの、すごく好きですね。

絵画にも広がった創作の衝動

渡辺:今すごく好きなのはサイコロジカルスリラー、心理スリラーですね。

福田:はい、はい。心理スリラーか。例えばどのへんでしょうね? 最近の人ですか?

渡辺:もうほとんど読んでいますから。何を聞かれても「全部知ってる」みたいな(笑)。

福田:渡辺さんといえば『ベスト500』の方ですからね。

渡辺:今取り掛かっているのはそれ以上なんです。

福田:いやどうしよう。今度は何ですか? 『ベスト1000』ですか?

渡辺:もう数えるのやめたっていう感じです(笑)。

福田:すごいことになりそう(笑)。

渡辺:ストレスが溜まるとサイコロジカルスリラーに逃げるんですよ。

福田:(笑)。渡辺さんって本当に、時間の使い方がすごくお上手なんだろうなと思うんですよ。『アメリカはいつも夢見ている』、実は私も1冊買ったんですけど、その前に送ってくださったものもあって。お葉書が付いていて、その背景に使われている絵が、渡辺さんご自身がお描きになったということなんですね。

それがあまりにも素敵だったので、「このお話をぜひしたいです」とお願いしました。みなさんにも、どんな絵なのかを見ていただきますね。今スライドで全体像を見ていただいています。

この、右下の隅あたりを拡大したものが、葉書の背景になっているんです。全体像はめちゃめちゃ大きいんですよね?

渡辺:私の身長と同じなんです。

福田:すごく大きいですよね。絵はいつからお描きになっていたんですか?

渡辺:特に学校で学んだわけではないんですが、子どもの頃から絵を描くのが好きでした。いろいろ絵を描いているうちに、誰かが「欲しい」と言い出して。最初は小さいものを描いていたんですが、ある日突然、何か大きいものを描きたくなって。

福田:ある日突然(笑)。

義母のために書き始めた絵が評判を呼び、販売も始める

渡辺:はじめはドールハウスのために描いていたんですよ。私の義母がドールハウスのコレクターで、お店によく行っていたんですね。そうすると、小さい油絵が売っているんですけど、すごく高くて。それで義母に「これぐらいなら私、作れますよ」と言って作り始めたんです。

そうしたら、義母のお友だちもみんな「欲しい」と言い出して。作っているうちに、お店の人まで「売りたい」と言う。こんなふうにドールハウス用の絵をちまちまやっていたんだけど、ちまちまやっているのがいやになって、いきなり大きいものが描きたくなった(笑)。

それで、夫の事務所にあった大きい絵を見た人が「欲しい」と言って。そういうことで売り始めたんです。「売っていいのかな私……」みたいな感じで(笑)。

福田:いいんですよ!(笑)。私も売ってほしい気持ち、わかります。渡辺さんのこのお葉書を見た時に、「こういう絵が掛けてあって、その前でお茶を飲んだら、すごく心が休まるだろうな」って思ったんですよ。「欲しい」と言った方々の気持ちはたぶんそういうことなんだろうなと思いました。

渡辺:どうもありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。私は絵を描く時に、「自分が気持ち良くなるものにしたい」というのがあるんですね。暗い絵も、すごく素敵だとは思うんですが、自分の家には置きたくないなと。怖いっていうか(笑)。

福田:家に置くのは、やっぱり気分を良くしてくれるものがいいですよね(笑)。

渡辺:うちの夫から絵を描いてくれとリクエストされたので、自分の好きなものにしたいなと思いました。夫はリクエストすれば何でも出てくると思っている人なんですよ(笑)。

福田:(笑)。

絵画では、好きな世界の中に「個人的なものを埋め込む」

渡辺:お送りしていない、もう1つの油絵は、私が好きな宇宙の感じ。その中に、個人的なものを埋め込むのが好きなんですよね。私の祖母が遺した腕時計もあるんです。そんなに価値のある腕時計じゃないんですが、私を小さい時から子どものように扱ってくれた祖母のものなので、タイムレスな宇宙の中に埋め込みたかったんですね。埋め込みたくて作った絵でもあるので。

この葉書の全体像のミックスメディアのものは、私の好きな森のイメージ。その中に、自分の家族の木を作りたかったんです。そこで、私自身が出した本、今の人生を作るもととなった本の初版のもののページをコラージュしました。夫や娘が出した本のページも入れました。初版のもので、人生の中で意味があるものを出してきて、そのページをコラージュで木の幹にしました。

また、私の子どもの頃の着物の地も使いました。シミがあって、モスボール(防虫剤)の匂いが染み込んでいて、次の世代が着られるようなものでもないし(笑)。「じゃあ、これを幹のところに使おう」と思いついて、引き裂いて三つ編みにしてボリュームを出しました。わりと、そういうのを考えるのが好きなんですよ。

福田:なるほど。今、この絵をもう一度みなさんにじっくり見ていただいています。この幹のところ、もう少し拡大するとよくわかるんですが、いろんなものが貼り込まれているんですよね。

渡辺:そうなんです。そのへんは、作っていてすごく楽しかったですね。

「下手くその達人」として、自分の好きなものを作る

福田:ファミリーツリーみたいな感じなんですか?

渡辺:そうなんですよね。「こういう世界にいたい」みたいな、自分の好きなものを作りたいんです。まだまだ技術的にはアレなんですけれど、本の中にも書きましたが「下手くその達人」ということなんです。

最初の頃は「私みたいに、ちゃんと美術大学に行っていない人間が、絵を描いて飾ってはいけないんじゃないか」みたいに臆病になっていたんですよ。でも、もう開き直って「いいじゃん、これで」って。自分が好きでやっていることだし。

福田:ぜんぜんいいと思います。私もそうですが、多くの人はそこで臆病になってしまう。「これをやって、結局何になるんだろう?」とか。この前もTwitterで見かけたんですけど、「その歳から始めてもプロになれるわけがないのに、楽器なんかやってもダメだよ」と言われたと。そういうの、よく見かけますね。

渡辺:うん、うん。そうですよね。

福田:でも「下手くその達人」って、すごく素敵な言葉だと思いました。そういうことじゃなくて、自分が好きだったらやればいいんですよね。渡辺さんが「やりたかったらやればいいじゃない」とお書きになっていて、「ああ!いい言葉だなあ!」と思いました。

渡辺:本当にね、そういうふうに自分を許してあげることですよね。どんなにがんばっても、モデルのような体型になれるわけじゃないし(笑)。だからといって、自分を卑下する必要もない。本当にすばらしい音楽家になれる人って本当にわずかですよね。

ですから、それを目指している人がいても構わないけど、それだけじゃない。自分が奏でる音楽でハッピーになれるのなら、それで十分すばらしいと思うんですよね。それを、自分に許可してあげればいいと思うんです。他人の言うことは聞かなくてもいい。

福田:本の中でも、いろいろ言ってくる人がいるけど「じゃあ、その人は自分のために何かしてくれるのか?」ということを書かれていましたよね。

渡辺:そうなんです。そういう人って困った時に助けてくれないから(笑)。

福田:本当に、そのとおりですよね。

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