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第二部・第三部 櫻井氏講演・質疑応答(全4記事)

上司と部下の「利害関係の壁」が生む、オープンになれない1on1 スキルではなく仕組みで乗り越える“ななめの関係”の活用法

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「職場の『キャリア自律』を促す仕組み」をテーマに、現場社員ひとりひとりの意識変革に向けた施策や制度の在り方について語られました。本記事では、エール代表取締役・櫻井氏の講演の模様をお届けします。

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仕事は「外的動機付け」からだんだん「内的動機付け」になる

篠田真貴子氏(以下、篠田):それ(1on1)に関連した質問を、今、参加者の方からいただきました。「仮に、(社外の人と)話すことが『自己理解』『自律』につながっていくとして、直属の上司にはどうやってフィードバックをするんでしょうか? フィードバックを受けた上司は腹落ちするんでしょうか?」ということです。ナイスな疑問ですね。

櫻井将氏(以下、櫻井):そこはちょっと事例を見てみるのがいいかな。

篠田:そうですね。

櫻井:どこからいきましょうか。ちょっと待ってくださいね。

篠田:実際にエールのセッションで、上司ではない人から話を聴かれた人たちが、何を感じているかということですね。

櫻井:この資料は篠田さんが前回のセミナーで話したものをそのまま拝借しています。むしろ篠田さんに話してほしいぐらいなんですけど。

篠田:いやいや(笑)。

櫻井:内発的動機が大事なんですが、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」は、ゼロイチではないという話でしたよね。この間はグラデーションになっている。

特に仕事は、「これやってね」と言われるとか、外発的なことから始まることが多いですよね。僕も「このセミナーをやってね」と依頼されているわけで、それは自律的・内発的な始まりではないです。

「テーマはこれです」と言われて、はじめは「なるほど、それを話すのね」と思うくらいですが、事前打ち合わせをする中で「これはすごく価値がある」「意味がある」となってくる。

そして、資料を作っていると「せっかく人が集まってくださるのだから、私から伝えられることは何だろう」「自分にとっても意味のあることにしたい」と考え始めます。

僕が一番、内発的な喜びに満たされるのは、こうやってインタラクティブに人とやりとりしている時なんですね。それが一番うれしい。資料はさんざん作るんですけど、このとおり、ぜんぜん順番通りにしゃべる気にならないんです(笑)。

篠田:(笑)。

櫻井:「今ここでしゃべっていることが一番楽しい」みたいな状態になっているわけです。

でも、始まりは「外発的動機」なわけですよ。篠田さんの話はそういうものだったと思います。ここまでいかなくても、会社の中で仕事をするにあたっては「自分のやっていることに価値や意味を見出せる」くらいで十分じゃないか。こんな展開の話だったと思います。

篠田:はい。 

話を聴かれることによって、どんな変化が起こるのか

櫻井:そして「話を聴かれることによって、どんな変化が起こるの?」といった事例をいくつか話したいと思います。超具体的な事例です。

エールのセッションは、だいたい24回ぐらいとなっています。24週、6ヶ月ぐらい、週1回30分外部の人材と話すことを続けるんですね。最初は「はじめまして」です。

篠田:まったく縁もゆかりもない人ですよね?

櫻井:そう、まったく知らない人。「あなた誰?」から始まります。初めてする会話では「まあ、とりあえず話せました」ぐらいですね。

いろんなパターンがありますが、この(スライドの事例の)方は、「かつての自分の中での成功体験を思い出し、『あの頃はよかった』ではなく、今の自分と比較してどうなのか見つめ直す」という始まりでした。

それで、「自分が今後どうなりたいのか、しっかり決めていないことが巡り巡って、マネジメントに影響を与えているんじゃないか」と気づいた。これはけっこう深い気づきだと思います。

篠田:はい、そうだと思います。

櫻井:「自分がどうなりたいのか決めていないことが、自分のマネジメントに影響している」。これに気づくってすごいことですよね。これも1つの価値観だと思うんです。どんどん話していくと、自分が持っている価値観に気づくんですね。思考ではなくて、もっと感情的なこと、さらにはその感情を生み出している価値観みたいなものを、自分で知ることができた。

「感情」や「価値観」を話すことで、自分の解像度が上がる

櫻井:もうちょっと詳しく見ていくと、この方は「会社ではそういう価値観を出してはいけない」「一様な価値観のほうが良い」という思い込みが強かったということがわかるんですね。

篠田:ああ、なるほど。

櫻井:「自分の価値観が周囲と合っていなくても、その価値観を変えたり、犠牲にしてはいけない」「むしろ大切にしなきゃいけない」と思う。

篠田:へえー! じゃあこの方は「自分の価値観」に対して真逆の理解に至ったんですね。

櫻井:そういう感じですね。「自分に対する思い込みが強い」「すぐ変えることもできない」。でも「自分のココロに思うことを素直に見つめて、それを否定しないことが第1歩なんだと気づいた」と、こういうプロセスを踏むんです。

先ほどの質問にお答えしますね。上司とのやりとりって、「行動」や「思考」についてのことが多いと思いますが、エールでは「感情」や「価値観」の話をするんですよ。

その「価値観」を持った自分が、この仕事に対して、「どう考えて」「何をする」ということですよね。だから上司には「自分の価値観として、こういうことを大切にしている。だから、この仕事に対してこうしていきたい」というコミュニケーションができると思います。

エールのサポーターと「感情」や「価値観」の話をして、自分の中の解像度を上げていく。そして、解像度が上がった状態で「なぜ自分はこうしたいのか」「なぜこういう行動をしているのか」と上司とすり合わせる。こんなケースが多いですね。

「感情的に伝える」ことと、「感情を伝える」ことは別

篠田:なるほど。先ほどの質問の、上司へのフィードバックは、「本人が自分の中で、価値観や感情への解像度を上げた上で、上司との関係性の中でアプローチしていく」ということですよね。

櫻井:そうですね。さらに言うと、先ほど「自分がどうなりたいか決めていないと、巡り巡ってマネジメントに影響する」とか「自分の価値観が周囲と合っていなくても、その価値観を変えたり、犠牲にしてはいけない」「むしろ大切にしなきゃいけない」とか、普通に考えると、上司とは話さないですよね(笑)。

櫻井:確かにそうなんですよね(笑)。楽天大学の仲山進也さんの言葉で、「感情的に伝えることと、感情を伝えることは別なんだ」というのがありますよね。

感情的なことに関して、「うれしい」はともかく、「嫌だ」「ムカつく」「イラッとした」など、ネガティブなことは上司の前で話せませんよね。でも、その感情が生まれてくる背景まで理解していれば、話せる。

篠田:ああ、確かに。

櫻井:「自分はこういうことを大切にしているので、それは嫌だと思うんです」と、冷静に話せる。でも、心の裏側を話すことは、上司も自分もきついんですよ。だから、外部の人と話してきちんと整理できた上で、上司との場に持ち込むことができればいいですよね。

篠田:なるほどですね。今、質問者の方からフォローアップコメントとして「1on1は本人の気づきを促すもので、アドバイスをしてはいけないんでしょうか?」といただきました。

1on1自体は、会社によってさまざまな目的があると思うんですね。アドバイスをする1on1をされている会社もあるし、それはそれでいいと思います。

あくまで「『キャリア自律』に向かうために、組織としてどういう『仕組み』を作るのか」ということだと、今スライドに表示されていることが1つの好例ですよね。

これぐらい「自分の価値観はこうなんだ」と自覚できたら、自律的にキャリアを作っていくことができますよね。「やらされ感」ではなく、「これって楽しいな」と思える出発点ですから。ここに至るためにも、やっぱり本人の気づきを促すタイプの打ち手が必要になってくると思います。

1on1の問題は「構造」の問題を「人のスキル」で突破しようとすること

篠田:他の方からもコメントいただきました。「上司が、初対面の別部署の人とキャリア面談ということで、定期的に1on1をしていました。やる側としても気持ち的に楽だったそうです。かつ『そんなことで悩んでいるんだ』と、自分の部下からは相談されないような内容もあって、発見があったそうです。やはり利害関係がないのは意味があるんでしょうね」。

櫻井:エールでは、あまり「部下」という言葉は使わないんですが、このZoomで、私が働く仲間と1on1をするとしても、なかなか話せないと思うんですよね。

でも、もし前職の後輩が相談してきたとしたら、オープンに話せます。その後輩にしても、急に「当時はそんな話してくれなかったじゃん」みたいなこと、みなさんも経験あると思うんです。

それは「聴く側のスキル」でも「話す側のオープンさ」でもなく、「関係性」だと思うんですね。これを「上司の1on1力」だけで片付けようとしても、無理だろうなと。

構造の問題を、「人のスキルで突破しろ」と言っているような気がして。「違う構造の仕組みを用意しないと解決できないんじゃない?」ということが、1on1がはらんでいる、一番大きな問題・課題だと思います。

篠田:私の話したパートに対するみなさんの感想の中で、いくつか「本人が自律を高めても、上司がそれを阻む」というコメントがありました。

それはどうなんでしょうね? 想像ですが、働き盛りの30代の社員に対して「自律的になると辞めてしまう」「自分の部署から他部署へ行ってしまう」と考えてしまうのかもしれません。上司としては「私の部の運営はどうするんだよ」みたいな気持ちが正直あるんでしょうね。

でも逆に、私は今53歳なのですが、自分の部署に年上の、例えば58歳の方が入ってきたら自律的になってほしいなと思ったりするので(笑)。自律を阻む・阻まないというのは、年齢の関係もあるんでしょうね。

櫻井:ありそうですね。

管理職は一番「聴かれる機会」がない

櫻井:おもしろいなと思うのが、エールって部門長の方から依頼されるケースが多いんですよ。新しい施策を全社的に取り入れることって、人事の方にしてみればハードル高いじゃないですか。だからまず、部門から導入して、成功事例を作って横に広げていくパターンが多いんですね。

部門長は「マネージャーに聴く力を高めてほしい」とか「より自律的になってほしい」と言ってエールを導入してくださるんだけど、僕は最初に「部門長も絶対受けてください」と言って、エールのサービスを受けてもらうんですね。

それで、部門長の下のマネージャー陣がよく言うのは、「結局、部門長が一番変わったね」ということなんですよ(笑)。

篠田:(笑)。

櫻井:僕自身も、部門長をやっている時はそうだったんですけど、管理職の方は一番板挟みにあっていて、たぶん一番聴かれる機会がないんですね。組織の中で、役割として(の自分)でしかいられないと思うんですよ。そこをもっと広く、自分のプライベートでの価値観も解放してあげられるといいですよね。

(スライドにも)事例として書いていますが、マネージャーとしてだけじゃなくて、母親として、妻として、1人の女性として、さらに家でゴロゴロしている自分も(認めてあげる)。このように、いろんなことを大切にしている、いろんな自分がいる。でも、役割としての自分だけで振る舞っている部長さん、課長さんがすごく多くて。

ここを、ちょっと違う仕組みで解放してあげると、「自分の中にも、こんなに大切にするものが複数あるんだな」と思える。そしてそれが「みんなもそうだよな」と、他者を受け入れることにつながっていくという。管理職の方が「聴かれる」ことによって、部下の方に連鎖していく事例は多数あります。

上司が「自分の多面性」を持ち込むことで変わる職場

篠田:ありそうですよね。まだ1on1もない時代、私が若かった頃の話なんですけど、かなり怖い上司がいたんですよ。その方に、たまたま家から電話がかかってきて、話しているのを聞いちゃったことがあって。そうしたら、お子さんにはめっちゃ優しくて、「そ~う!」とか言ってるんですね(笑)。

「え!? 部長優しくできるじゃないですか。私にも優しくしてくださいよ」「やればできるじゃないですか」とか言って(笑)。

櫻井:「やればできるじゃないですか」って(笑)。

篠田:そんなことを、ちょっと思い出しました。

櫻井:そうそう、みんないろんな面を持っているじゃないですか。特に、日本の管理職の方々は、みなさん本当にすごく愛情深い。人のことを思っている方が多くて。

篠田:めっちゃ愉快な人だったりとかね(笑)。

櫻井:そこをもうちょっと統合的に捉えられるように、構造として準備していくことが大事だと思います。

篠田:確かに。上司の方ご自身は、これまで日本企業で育ってこられたから「キャリア自律」を望んだり、考えたりしてこなかったと思います。でも、上司の方がそうやっていろんな自分の多面性を職場に持ち込んでくれたら、部下の人は結果、キャリア自律していく、思考していくんだと思います。

その前提として、「自分はこういうことも大事にしています」とか「この職場では発揮していないけど、実はこういうことをめっちゃがんばっている」みたいなことも、出しやすくなりますよね。

櫻井:そうですよね。

篠田:なるほどね。

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