マネージャーとは、チームの存在理由を高める人

沢渡あまね氏(以下、沢渡):ある大手航空会社の話をします。10年前かな、調達・購買部門が不夜城と呼ばれていて、「あの部署には近寄るな」と言われていたらしいんですね。

小田木朝子氏(以下、小田木):不夜城(笑)。

沢渡:めんどうくさいことに巻き込まれるし、異動で行った日にはブラックな日々で疲れていくと。でも部門長が素晴らしくて、そこから働き方改革を軸に、まずは残業を減らす。ひいては業務を再設計・再構築できる人たちになっていく、ファシリテーターを育てるやり方に変えていった。当然、中の人のムダな仕事が減って、クオリティ・オブ・ライフは上がりますよね。

さらには社内から調達部門の人に業務改善の相談をされるようになったり、調達部門の人が他部署で働き方改革とかペーパーレスの支援をするようになった。それによって本人たちの調達という職種に対するエンゲージメント、帰属意識が高まり、社内でのプレゼンスも上がったという話があります。

このように、自分たちの部署。職種は何をする人たちなのかを定義して、価値を上げていく活動をしてほしい。それがブランドマネジメントで、長村さんの名著『急成長を導くマネージャーの型』の第3章(にも書かれています)。みなさん、第3章をチェックですよ。

第3章で「マネージャーとはチームの存在理由を高める人」と説明されているんですよね。長村さんは「チームの存在理由」イコール「役割×目標」という因数分解をされています。

長村禎庸氏(以下、長村):はい、そうですね。

沢渡:「チームの存在理由」イコール「役割×目標」。これをアップデートしていくこと。私も今複数の大企業で部門の顧問をやっていまして「この部門は何をする人たちなの?」を言語化して景色を合わせるワークショップをひたすらやっています。

長村:なるほど。

沢渡:こういう活動を、部長単位・課長単位で、新年度にキックオフミーティングでやってみるのもすごく大事だと思います。これは大企業、中小企業は関係ない。

長村:やっぱりそうですよね。

全員が同じ景色で仕事をすると「ムリ・ムダ」に気づけない

小田木:「業務内容に価値付けが必要な場面ってやっぱり多いですよね」。あと、「ブランドマネジメントができるとワークエンゲージメントも高まりますよね」というコメントもいただいています。

沢渡:おっしゃるとおり。

小田木:2、3にいきますか。

沢渡:じゃあ、2を手短にいきますね。そう考えると、マネージャーは小さな組織の経営者であり、いわゆるアントレプレナーシップを高めていく必要があると思います。上から言われたことをそのまま回していくだけでは、もううまくいかないですね。これだけ世の中が複雑化して、メンバーの働き方も多様化していますから。

自分たちの小さなチームの経営課題を言語化し、それをやりくりして解決していく。そのためのアントレプレナーシップの育成であるとか、スキル、武器をマネージャーに持たせる。ここを人事組織や経営企画の人たちには考えてほしいと思います。

小田木:「できる力」。

沢渡:そうですね。そして3つ目は「景色を変える」。私が越境を強調しているのもそうなんですが、社員がみんな同じ景色で同じ仕事をしていたら、ムリ・ムダになんて気付けないですよね。自分たちの価値が悪気なく下がっていることに気付くきっかけがないわけで、景色を変えるきっかけを作ってほしいですね。私は「景色を変えれば組織は変わる」というポリシーで、最近よく講演などでもお話ししています。

人のマインドはなかなか変わらないです。同じ仕事を10年間やっている人が、ムリ・ムダに気付けなかったり、あるいは新しいことを学ぼうというモチベーションは、安定的な組織であればあるほど生まれにくいです。

たまたま仕事のやり方を変えてみたら「おもしろい」と思って、ムダに気付いた。全員ではないですけども、そこから「新しいことをやってみようかな」「これ、なくしたほうがいいかもね」というような問題意識が芽生える。

たぶん日本では、(自ら大胆な行動や提案をする人よりも)景色が変わることによって内発的動機付けで行動が変わる人のほうが多いような気がします。(だからこそ、企業組織は)チームに景色を変えるきっかけを作っていってほしいなと思います。

マネージャーに意見を言うのは、メンバーの「善意」に過ぎない

小田木:ありがとうございます。ブランドマネジメント、小さな組織の経営者、そして景色を変えられる人という3つが出てきました。長村さんの3つを出して、もう一回全体を見てみましょう。沢渡さんありがとうございます。シンキングタイムなしとは思えない。

沢渡:ありがとうございます。「小田木さんが入力されていたんですね。すげー」という(コメントがきています)。そうそう。小田木さんのライブタイピングがね。

小田木:ちょっとチャレンジし過ぎちゃったな。

長村:これ、本当に楽しいですね。

小田木:ありがとうございます。楽しんでいただけてなによりです。長村さん、お待たせしました。

長村:そうですね。スキル(だと思います)。メンタリティも含んでいると思うので、一番初めはイーブンなメンタリティですね。これは外せないなと私は思っています。

小田木:社名だけに、ですよね。

長村:そうですね。社名をつける時にもよく考えたことなんですが、不確実な時代なので、今までのやり方をアップデートしなきゃいけないシーンはきっと多いと思うんですよね。「去年と同じやり方でやります」は通用しないと思いますし。

「どうやっていいかわかりません」というシーンに、これからかなりぶち当たると思うんですよね。その時に、マネージャーだけで考えて「こうやればいいかな」とみんなに下ろしていくやり方は、たぶんもう難しいと思いますので、メンバーの方々と一緒に考えていかなきゃいけないんですよね。

ところが、メンバーよりも偉いと思っているマネージャーさんに、メンバーが意見を言うかというと(言わない)。もともとメンバーのジョブ・ディスクリプションに「意見を言うこと」なんて書いてないんです。メンバーは与えられた目標を達成することが職務要件なので、「マネージャーに意見を述べる必要がある・義務がある」とは一言も書いていなくて、マネージャーに意見を言うのは、メンバーの善意でしかないんですよね。

メンバーから意見を引き出すための、マネージャーの心得

長村:マネージャーは、メンバーに意見を言ってもらおうとしたら、そのための努力が必要です。さまざまな努力があると思うんですが、メンバーよりも人間的に偉いとか、基本的には地位が上だと思っている限りは、絶対にメンバーは意見を言おうと思わないですから。

やっぱり自分がイーブンなメンタリティを持って、「役割が違うだけで対等だよ」「同じ組織で働く役割の違いだからね」という立場に立って、初めてわいわいがやがや意見が言えると思います。

このイーブンなメンタリティを持っているかどうかですよね。これでメンバーの意見を引き出せるかどうかというのが変わってきて、意見が引き出せる人は新しい解を生めるでしょうし、引き出せない人は新しい解が生めないですよね。

だから「うちのメンバーは消極的で意見を言いません」という方がよくいらっしゃるんですけれども、「その前にご自分を見直してみたらどうですか?」と、私はよく言いますね。「ふだんから横柄な態度をとっていませんか?」「いくら頭ではイーブンだとわかったとしても、態度や言葉遣いに出ていませんか?」と、一つひとつを見直すことが大事だと思います。

沢渡:私と小田木さんで、よく「リスペクティング行動」と言っているんですけれども、相手をリスペクトする行動を積み重ねていかないと、イーブンな関係性は生まれないですよね。

長村:そうですよね。

沢渡:相手を子ども扱いしたり、業者扱いした瞬間にヒエラルキーができてしまうので。

長村:そうなんですよ。だから実はけっこう難しいんですよね。指示や評価をする役割を担わなきゃいけない中でも、イーブンだと思われるのは相当難しいことだと思います。かなりふだんから意識して行動しなきゃいけないというのはありますよね。

沢渡:おっしゃるとおりですね。

人の成功を願うことは「手段」ではなく「目的」

長村:もう1つは「人の成功を願う」ということを言いたいです。「なんだそれ?」と思われるかもしれないんですが、僕は人的資本経営をすごくいい考え方だと思っていまして。

沢渡:人的資本経営。

長村:不確実な時代(において)、本当の資産・資本は人だよねという考え方です。僕も本当にそうだと思います。何か特定のものがあって、それをずっと売り続けていればOKという時代ではないですし、お金を投下したら何もかもを成し遂げられるというわけでもないと思うので、人のアイデアしか頼るものがないと思うんですよね。

「その人にお金をかけていきましょう」「その人に時間をかけていきましょう」ということはすごく大事なメンタリティだと思っています。私のマネジメントのところには戦略、組織と人、自分と書きましたが、すべてメンバーの成功を願ってやるところにフォーカスするのがすごく大事かなと思います。

「メンバーの成功を願ってそれをやります。結果的に成果が出ます」という感じだと思っています。「成果を出します。そのためにメンバーを大事にするべき時が来たら大事にします」という考え方は、もうやめたほうがいいと思うんですよね。

「人の成功を願います。それはもう最終目的です」くらいに思っていただいて、結果的に蓋を開けたら「成果が出てました」ということかなと思います。それくらいの気持ちで、人の成功を願うということを「手段」じゃなくて、マストの「目的」くらいに捉えていただくことがすごく大事かなと思います。

沢渡:長村さんのお話で、今すごく本質的なところを(感じました)。私、勝手に腹落ちしてたんですけれども。

小田木:いいですね。腹落ち。

KPIに縛られた、「近視眼的な資本主義社会」の問題点

沢渡:四半期単位のKPIに縛られた、近視眼的な資本主義社会で何が起こってきたかというと、目先の成果にしか投資しない・させない環境を作ってきてしまったと思うんですね。一方で、組織カルチャーを変えたり、イノベーションやトランスフォーメーションが起こる組織風土を作るには時間がかかる。

5年から10年かかるかもしれないし、成果が出ないかもしれない。でも中長期的な変化に投資をしていき、かつ人のようなITや育成のような見えないものに意味づけをして、きちんと投資をしていく。その世論形成と、そこは大事だからちゃんとお金をかけたほうがいいよねという、「わかっていらっしゃる」投資家や株主を自社のファンにしていく。

すなわちこれが、広義の意味でのブランドマネジメントにつながってくると思うんです。こういう社内世論を創っていく。そして中長期的な成果を見据えて、人という資本に投資をしていく。この世論を経営層と共に、景色を合わせながら高めていくことがすごく私たちにとって大事なのかなと思います。

長村:いやぁ、本当に大事ですよね。だから四半期の開示とか、個人的にはなくしたほうがいいんじゃないかと思っているんです。自分も前職は上場企業で取締役をしていたので、四半期の開示は本当にきついんですよね。あれをやるとなった瞬間に、人の育成や人を大事にするという行為がどうしても手を付けにくくなる。育成はやっぱり、短期施策にはなりえないですから。

沢渡:おっしゃるとおり。中長期なんですよ。

「両利きの経営」は、マネージャーの経営課題でもある

長村:来月の売上を上げるための育成……というのはないですよね。現実解としては、本当に短期の成果目標は厳しいと思うんですが、できるだけ短期的な成果に刺さる打ち手を持ちながらも、マネージャーのみなさんの時間の半分くらいは、中長期の人の育成や次のプラン作りなどに時間をかけたいですね。みなさんの業務の中でのポートフォリオの分け方もすごく大事だなと思います。

沢渡:そうですね。

長村:どっちかに寄ると良くないと思うので。

沢渡:目先の成果を出す仕事と、中長期的な変化を生んでいくという、いわゆる両利きの経営だと思うんですよね。この両輪をいかに回していくかが、今世の中の企業の経営課題であり、マネージャーの経営課題でもあると思います。

うちのチームは、目先の仕事だけで疲弊していないか。中長期の人の育成とか、あるいはそこでエンゲージメントが高まる仕事のやり方に変えていけるか。こういったことは、たぶんチームのリーダーの両利きの経営に関わってくる部分なのかな。やっぱり余白とか武器をどう与えていくか、作っていくかを考えていきたいんですよ。

長村:だから本当に難しい仕事だと思うんですが、やりがいもあってね。そこは本当に楽しいところですよ。

沢渡:そうですよね。

小田木:ありがとうございます。

イーブンでいたいのに、縮まらない管理職とメンバーの距離

小田木:長村さん、1つ質問をいただいてます。「管理職になってもイーブンでいたいと頭の中では思っているし、自分はそう振る舞っているつもりでも、周りが『いや、もう課長ですよね』『上司ですよね』と、一歩引いて見てしまう。なんとかできませんか」というコメントです。

沢渡:わかります。

長村:難しいですよね。そう見られるのは仕方ないと思っています。名刺に課長と書いた時点で、かなり圧はあると思います。それは自然ですよね。「みなさんを評価する権限を持っています」ということなので当然警戒されるし、目の前で好きなように振る舞ってもらえるかというと、それはけっこう難しいかなと思います。

1つやってみてほしいなと思うのは、メンバーの話を本気で聞くことです。本気で聞くというのは、じっくり聞くのももちろんそうなんですが、本気で聞いた中から何かを学び取ろうとする行為が発生すると思うんですよね。

相手が自分のことを対等だと思うわかりやすい方法は、相手にティーチングしてもらうことなんです。例えば小田木さんが私になにかを話しかけてくれました。私がそれによって学んだという時間が過ごせれば、小田木さんも私に何か教えたということになると思います。やっぱり、教える・教えられるという関係になるんですかね。

一方的に僕が教えるだけじゃなくて、小田木さんも私に教えました、というこのファクトがあれば、私のことは上だとは思いにくいですよね。相手にティーチングさせるのも1つの技術です。みなさんにやってもらうためにも、相手の話を本気で聞くことを1回やってみてほしいと思います。

上司・部下がいる中では、弱音を吐けない人も少なくない

長村:(内容は)なんでもいいと思います。例えば「週末どんなことをしていたの?」「実はスノーボードに行っていました」「自分はぜんぜんスノーボードを知らないんだけれども、どんな道具があるの?」「そんな道具でやるんだ。どうやって練習するの? どこが楽しいの?」「あぁ、おもしろそうだな。ちょっと自分も1回やってみようかな」という感じでやりとりします。それで、1回スノーボードをやってみてください。

やってみたら、メンバーはあなたのことを対等だと感じると思うんですよね。「あ、この人は私からでも学ぶんだ」「私もこの人に教えられることがあるんだ」というように、下から上のコミュニケーションも十分通用するということを、事実をもって相手に体感してもらうといいと思います。

小田木:丁寧に答えていただいて、ありがとうございます。

沢渡:もう1つだけいいですか。課長がみんなで悩む場を作ってほしいと思うんですよ。課長だから1人で解決しなさいとか、「課長だから」「会社側の人間だから」は、ある意味建前じゃないですか。

長村:そうですよね。

沢渡:本音の部分で「課長だってサラリーマンだからさ」という話も当然あるわけなので、1人で悩まない。メンバーと一緒に悩めばいいし、課長同士が一緒に悩む場とか、あるいはそれこそ越境で他社の部課長と一緒に悩む場があってもいいと思うんですよ。

私も「組織変革Lab」という越境学習プログラムを主宰しているのですが、この場では複数の企業の部課長が一緒に悩むんですよね。

長村:なるほど。

沢渡:こういう場はものすごく大事で、社内だと本音を言えなかったり、上司・部下がいる中では弱音を吐けない人も少なくないのですよね。やっぱり、マネージャー同士が安全に共に悩める場を、社内あるいは社外に作って、1人で悩ませない組織のサポートがすごく大事かなと思っています。

長村:確かに。本当にそうですよね。

正解のない時代では、つい決断を先送りにしてしまう

小田木:ありがとうございます。長村さん、3つ目の枠もお願いします。

長村:そうですね。3つ目は決断、決めるということです。不確実な時代なので、いくらうねうね考えていても答えが出ないことはけっこう多いと思います。(だけど)決めないとアクションは生まれないですよね。

アクションが生まれないと成果が生めないので、何か決めましょう。(まずは)みなさんが決められる範囲の小さなところから始めるといいと思うんですよね。例えば、会議は1時間でこういうことをやってたけれども、思い切って30分に減らしてみようとか。これはけっこう大きな決断ですよね。こういう決断はいいと思います。

「今まで自分たちはアナログなツールを使っていたけれども、このデジタルのツールを使ってみよう」というのも決断ですよね。こういう決断でいいと思います。決断を繰り返さないと変わらないので。

昔は答えがわかっていたので、決断しやすかったと思うんですよ。「あの上司もこうやっていたから自分もこうしよう」で済んだと思うんです。今はお手本がない中で決断をするので、めちゃくちゃ難しいんですよね。だから、決断を意識しないとずっと先送りしちゃう。「決断するぞ」と意識することは本当に大事だなと思います。この3つですかね。

小田木:いいですね。「『決める』と決める」。ここまでで、沢渡さんと長村さんからマネージャー要件を3つずつ出していただきました。