2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
澤円が語る、イノベーションを起こすために経営層と人事が作る、組織環境とは(全1記事)
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田中弦氏(以下、田中):僕、10回以上は澤さんのプレゼンを見ているんですが、1回もまともにお話ししたことがなかったので、今日は楽しみにしています。ありがとうございます。
澤円氏(以下、澤):(笑)。ありがとうございます。
田中:私はUnipos株式会社代表の田中と申します。「ピアボーナス」といって、従業員同士がボーナスと感謝のメッセージを送り合うという、かなり奇妙なサービスをやっております。よろしくお願いします。
澤:よろしくお願いします。澤と申します。何度か姿は目撃されているようですが(笑)、2020年まではマイクロソフトという会社で業務執行役員をやっていました。法人は前から立ち上げていたんですが、最近は圓窓という会社や企業の顧問をやったり、DXやマネジメント、プレゼンテーションそのものをテーマにすることがあるんですが、そういった講演活動なんかを行っております。
田中:よろしくお願いします。
澤:今回、DXやイノベーションというキーワードで対談させてもらっていますが、そういうキーワードが特定の人に刺さっているんじゃなくて、ビジネスパーソン全体のこと(課題)なんだよっていうのを知ってもらいたいなと思って。
全員に見てもらいたいし、全員に対してインフルエンスできるような人たちには、ぜひ今日の動画を見てもらって、我々が言っていることをうまいことパクっていろんな人に言ってもらいたいなと思いますね。
田中:みんなから「イノベーションをどうやって起こせばいいですか?」とすごく聞かれるんですが、そんなにイノベーションを求めているんですかね。
澤:ね。あと、めちゃくちゃ新しいイノベーションがバンと出てくるとか、燦然と輝くアイデアが降ってくるとか、そういう感じで考える人が多いかなと思うんですね。あともう1つおもしろいのが、「イノベーション推進室」とか言って、イノベーションそのものを1つの事業として考えちゃっている人たちがいると思うんです。
それが全部間違いだとか、ダメだとか言うつもりはないんですが。そもそも考えてほしいなと思うのは、(ヨーゼフ・)シュンペーターさんが言うところのイノベーションは「新結合」というもので、「遠い要素が新しい結合を生み出していくのである」と定義されているわけじゃないですか。
となったら、いろんな人たちがいろんなアイデアを気軽に出せて、化学反応を起こしやすいようにしていくのが重要かなと思うんですよね。
田中:そうですよね。
澤:となると、特定の部署のタスクとしてイノベーションを考えなさいというのとは、ちょっと違う気がするんですよね。
田中:「新規事業プランコンテストを今度やるんですよ」って、よく言われるんですよ。「誰が出るんですか?」と聞いたら、「まあ、3年目ぐらいまでですかね」と言うんですよね。ちょっと待ってくださいと。
澤:(笑)。
田中:「それこそ、部長とかがやったほうがいいんじゃないですか?」「すごく脂が乗っていて、業界のことも詳しくて、けっこう穴も見えてますよね。それに対して乾坤一擲どーんとはやらないんですか?」と言ったら、「いや、ちょっとそこまではムリかも」という話は、よく聞きますよね。
澤:確かに。部長クラスの人たちが新しいアイデアを出したら、相当大きいことができる。だって、予算もあるし。
田中:そうそう。人脈もあるし。
澤:人脈はあるし、使える社内のリソースも知り尽くしているだろうし。確かにそのほうがいいですよね。
田中:部署ごとにすごく断絶していて、例えばA部長とB部長とC部長を集めて話してくださいと言うと、「おっす、10年ぶり」という話になるのかなというくらい。
澤:(笑)。
田中:業務効率化が進みすぎたせいなのかはわからないですが。日本企業ってもうちょっとウェットで、お互いを知っている感じなのかなと思ったら、「イノベーションをどうやって起こせばいいですか?」と質問してくる企業ほど、ばらけている感じがしちゃいますよね。あれはなんでなんですかね?
澤:さっきおっしゃっていた、「新規事業のピッチコンテストがあるので、メンターをやってください」という依頼がちょこちょこ来るんですよ。
田中:なるほど。
澤:ピッチの内容をレビューさせてもらったり、実際にやってもらってアドバイスしたりするんです。いろんな会社でやらせていただいて、けっこう共通しているのが、その内容が業務改革レベルなんですね。
田中:なるほど。
澤:新規事業と言っているんだけども、(実際の内容は)業務改革。「今ある業務がもうちょっと効率化されます」と言っていて、この違和感は何だろうかと思って。「最終的にこのピッチの審査をし、『オッケー』と承認するのは誰ですか?」と聞いてみたら、その会社の役員さんだけなんですね。「なるほど。その役員のみなさんは転職経験はありますか?」と聞くと、日本の企業だとほぼほぼゼロなんですね。
田中:なるほど。
澤:「じゃあ、他の会社で働いた経験がない方々で、その人たちが新規事業のピッチコンテストを審査する。新しいアイデアがどういうものかという知識を、その方々は十分お持ちなんでしょうか?」って言うと、みんな下を向いちゃうんですよね。
これは「単位」という言い方をするんですよ。その会社のことはよくわかっているかもしれないし、そういう文脈での判断はできるかもしれないけれども、ブレークスルーなものが価値があるかどうかを判断するための「単位」を知らないっていうのが、ちょっと問題じゃないかと思います。
よくスポーツで例え話をするんですが、100メートル走って100メートルという長さの単位に対して、何秒ぐらいで走れるかという単位で競うものですよね。それしか知らない人に柔道のジャッジをしろと言っても、ぜんぜん単位が違うので無理なんですよね。
なのでやっぱり、いろんなスポーツを知っていることによって知見って広がっていくという見方ができるんじゃないかと。他の会社のことを知っているとか、場合によっては出向しちゃってもいいと思いますが、知見を広げることが必要じゃないかなと思うんですよね。
田中:たぶんDXもそうですし、イノベーションもそうなんですが、枕詞で「会社の運命を変える○○」ってやらないと。例えば「会社の運命を変える新規事業プランコンテスト」と言った途端に、たぶん(内容は)業務改善レベルじゃないですかね。
澤:ぜんぜん、それじゃダメですものね。
田中:枕詞は、人によってぜんぜん違う。「会社の運命を変える」というふうにやらないと、たぶんインパクトがないんだろうなという感じがぷんぷんしますよね。
澤:あるいは「会社の過去の歴史を否定していいんだよ」とか。間違っているとかではなくって、突飛もないアイデアを考えたり。あと、SFプロトタイピングでしたっけ? SFを参考にして、それを実現するためにはどうすればいいかっていう考え方。
田中:なるほど。
澤:『月世界旅行』というのを書いた人がいて。『月世界旅行』っていうのは、1800年代に(『月世界旅行』を)読んだロシアの人が実際にロケットの開発に携わって、「ロケット開発の父」と言われるようになっているんですね。その人の原体験はSFを読んだこと。作り話なんですよね。
田中:なるほど。
澤:だけど、SFと自分のパッションをかけ合わせたら、本当に実現できちゃったっていうことなので、これをどんどんやっていけばいいと思うんですよね。中二病丸出しで、「子どもの頃に見たあれを実現したいよな」と思ったら、それをどうやったらできるだろうかって(考えれば実現に向かっていけると)思って。
かつ、会社というものがあって組織のリソースが使えるんだったら、そのリソースを使ってどうやったら実現できるかなと(考える)。これを妄想するのには、今は非常にいいタイミングかなと思いますね。
田中:そうですよね。「今やらずして」という感じはしますよね。たぶん、焦ってやることじゃないと思うので。正直、今の世の中は停滞しちゃっていると思うんです。きっとイノベーティブな会社って、停滞している中で生まれて来るなと思っていて。だいたい不景気の時に生まれているって、よく言うじゃないですか。
澤:そうですね。
田中:Googleにしてもそうだし、ソフトバンクにしても、ネットバブルが弾けたくらいで非常にきつかったと思うんですが、その時にやっていたことが今になって花開いているわけです。だから、きつい時や景気が停滞している時に一番イノベーティブなことが起こるんだとすると、「今一番取り組むべきことは何か」というマインドセットに変えるのは、必要じゃないですかね。
澤:イノベーションというキーワードが、どうしても独り歩きしすぎちゃっている。そのわりには、行動にものすごく制限をかけすぎちゃっている。ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような状態が起きているので、もうどんどんブレーキを離していいかなという気がしますね。
田中:どこまで離していいものなんですかね。
澤:さっき言ったように、たぶんリアルではアクセルを踏んでブレーキを踏まないと死んじゃいますが、思考に関してはノーブレーキで構わないと思うんですよね。
田中:確かにね。最初の手法の枠組みが、いきなりある程度制限されていると、もうこの枠内でしか絶対に生まれないですものね。
澤:山口周さんという方がいらっしゃって、僕はすごく仲がいいんです。彼と話をしている時に言っていたのが、彼のマネージャーだった方に言われたのかな? 「10回自分の前で思いっきり転んでみろ」というアドバイスをしたんですって。
田中:リアルにですか?(笑)。
澤:これは比喩的な表現だと思います。だけど、思いっきり10回転ぶって、そうそうできないらしいですよ。4回目ぐらいでうまい転び方が身に付いてきてしまって、思いっきり転べなくなってくる。だから、失敗しようと思ってもそうそう失敗ってできないものだから、逆に言うと、失敗を恐れずに何かをやっても、だいたいうまくいくことのほうが多いから安心しろという言い方だったんですね。
田中:なるほど。そうですよね。そういう失敗もおもしろがれると、すごくいいんだろうなと思っています。
田中:上の人や会社が「やっちゃったね」と言えるかどうかって、けっこう大事だなと思うんですよね。
澤:僕がマネージャーをやっている時、チームにいたメンバーの1人が、僕よりもずっとキャリアも立場も上の人だったんですね。その人がある組織改編の折で、自分がマネージャーをやらなくてもよくなった瞬間に「プレーヤーに戻る」って言い出して。
外資系だとインディビジュアルコントリビューター(IC)って言うんですが、ICに戻れるタイミングになった時に、「澤さん。僕を入れてよ」と向こうが言ってきて、僕のチームに入ってくれたっていう、ちょっと変わった人がいたんです。
田中:なるほどなるほど。
澤:マネージャーは僕なんだけど、その人は僕のメンターでもあった。そういう関係性だったんですね。その人がすごくおもしろくて、いい意味でプライドがないんですよね。わざわざ自分がプレーヤーになって、僕のチームに入ると言ってくれたり、会話をしている時に「澤さん。僕ね、失敗したことがないんですよ」と言うんです。これだけ聞くと、ちょっと嫌味な感じがするじゃないですか。
田中:する、する(笑)。
澤:「澤さん、僕失敗したことがないんですよ。ただ、大抵の場合は思っていた結果が出ないんですよね」と言うんですね(笑)。
田中:(笑)。「それ、失敗じゃねえか」っていう。
澤:そうそう(笑)。一般的に見ればね。だけど、本人はそう思ってない。
田中:なるほど。
澤:「違う結果が出るから毎回おもしろいんですよ」って、おもしろがっているんですね。僕の場合は失敗すると思いっきりへこむタイプなので、うらやましい性格だなと思うんです。
違う結果が出たら全部エピソードになるし、コンテンツになる。失敗だと定義することもなく、「素晴らしいですね」と褒めるマネジメントだと、マネージャーとしても楽しめる。そういうマインドセットをどんどんみんなが持っていくと、すごく変わってくるかなと思いますね。
田中:そうなんですよね。例えば、部下の人とおもしろい話やいい話をしているとするじゃないですか。だいたいそれ、失敗の話が多いですものね。「こういうことをやっちゃってさ」「若い頃は」みたいな。
自慢話をするとすごく嫌なやつなんだけど、失敗から何かを学んでいて「こういうのをやったよ」という話って、普遍的にその人にも参考になったりするので。実は意外と、マネジメントの時も失敗から学ぶことをやっているはずなんですよね。なんだけど、なぜか失敗が許されないようになっていると。ちょっともったいない感じがしますよね。
澤:やっぱり「恥の文化」で、恥をかきたくないとか、「自分の恥ずかしいところを見せると自分は負けなんじゃないか」というマインドセットが強いかもしれないですね。
田中:そうですね。でも、飲み会で出し物をするという最低の文化があるじゃないですか。
澤:(笑)。
田中:あれ、恥ずかしいと思うんですよ。あれをやらせているのに「恥の文化」っていうのは、完全に矛盾している感じがしていて。
澤:しますね。
田中:あんなに恥ずかしいことはないですよね。
澤:なんだけど、仕事ではそれは許されないというね。
田中:そうそう。そのギャップがうまく解消されると、イノベーションと言うとちょっと格好いいんだけど、もうちょっと発想が柔らかくなる感じはするんですけどね。
澤:僕はもう52歳で、大昔は「人生50年」と言われた時代もあるので、そうして見ると僕は今、延長戦に入っていると勝手に自分で定義しているんですね。
田中:もうですか(笑)。
澤:もう。一日一日の積み重ねで、すごく楽しい時間が増えていっているという考え方をするようにしたら……たまたま昨日、かみさんとの会話の中で出てきた話題なんですが、人生って基本カウントダウンですよね。寿命があって、そこから減っていく。
ある人が「一日一日増えているってマインドセットに変えたら、一日一日の輝きがぜんぜん変わった」という話をしていて。それをどこかで読んだか聞いたかしたらしくて教えてくれて、素晴らしいなと思ったんですよね。
「確かに最近、僕はそういうモードになっているわ」と思って。2020年の8月に会社を辞めて、自分で仕事を自由に選べる状態になって、時間の使い方も自由になって、日々すごく楽しいんですね。考えてみたら、一日一日を足していってるんだなって。
「足す」という行為の中に、例えば組織で働いている人だったら、一緒に働いている人たちと何かを足していっているという感覚になると、すごく前向きな気持ちになれそうな気がしますよね。
田中:そうですね。この間、僕は飲み会をちょっと変えてみたんですよ。
澤:ほう。どんなふうに。
田中:チェックインをやったんですよね。
澤:ほう。飲み会で。
田中:大したことじゃないですよ。1ヶ月ぐらいそのメンバーで会っていなくて、「一番おもしろかったことって何?」と聞いた。ただ単にそれだけなんですよ。前だったら、早くに「乾杯」と言って仕事の愚痴が始まったり、誰かの悪口が始まっちゃったりするわけですよ。
澤:(笑)。
田中:仲良くなるから、それは別にいいんですよ。なんだけど、そこでチェックインをやると、一番おもしろかったことに対する話題とか、途端にいつもとぜんぜんレベル感の違う仕事の話をしているわけですよね。「あれ。なんか居酒屋なのにおかしい」と思って。
澤:(笑)。
田中:「一日一日が違うものだ」と思ってやるだけで、ふだんの仕事も変わるんだろうな。やっぱり、惰性で仕事をしちゃっていることもあるんだろうなと思っていて。
澤:今回のテーマは「イノベーション」となっていますが、誰かが一生懸命考えて、ものすごく燦然と輝くようなニューアイデアだとか、そこまで構えなくてもちょっとした思いつきが気軽に共有できるような状態になると、自然とイノベーションが起きてくるかもしれないですね。
田中:「こんなの考えたんだけどな」と言っても、それに乗っかってくれる人が現れない限り、イノベーションって絶対に前に進まないですよね。
澤:「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」というものがあって、フォローしてくれる人を増やすためのアクションはどこかで必要なんだろうなと思いますね。それこそ年齢とかは関係なく、フラットにいろんなものを出し合う。ダメ出しをするんじゃなくて、とりあえず全部を肯定して受け入れる。雑におもしろがる、というカルチャーを作るといいかもしれないですね。
田中:そうですね、長くやってほしいですよね。たぶん、1週間とか2週間でイノベーションが生まれることってないと思うので、じっくりやって、かつ環境を作る。きっと難しいんでしょうけどね。
澤:種はどこでぱっと出てくるかわからないですからね。僕はよく「脳内常駐タスク」という言い方をしているんですが、頭の中にそういったものをずっと置いておくと、いろんなところでつながりやすくなる。
これはどういう仕組みかと言うと、例えば時計や洋服が欲しいとか、女性だったらアクセサリーやバッグが欲しいと思った時って、「あのメーカーのあのブランドのあれが欲しいな」って具体的に思うと、(欲しい物の存在に)気付くから、それが世の中に満ちあふれているように見えるんですよね。
田中:そうか、そうか。
澤:「あの色もあるんだ」「あんな形もあるんだ」みたいな感じで(気がつく)。でもそれは絶対に数が増えているわけじゃなくて、気付くアンテナが立っただけなんですね。
田中:そうですよね。
澤:気付くアンテナが立って、鋭敏に感じ取れるようになってくる。これを僕は「脳内常駐タスク」と言っていて、ずっと脳内常駐タスクを乗っけていると、目の前に入ってくる情報の質がぜんぜん変わってきます。
田中:わかります。車とかもそうですよね。
澤:車もそう。生産台数が増えているわけじゃないのに。
田中:そうそう(笑)。なぜか気になる。
澤:それって自分のマインドセットを変えているだけですよね。それをみんながやると、ちょっとしたことで化学反応が起きやすくなるかなと思いますね。
田中:本当にそうだと思いますね。
澤:Uniposさんのサービス、タクシーに乗るたびに広告が気になっていたんです。
田中:ありがとうございます。
澤:どういった企業さんが使われているのか、その中でもユニークなお客さんって思いついたりしますかね?
田中:Uniposの「ピアボーナス」といいまして、従業員同士がオープンな場で仕事のフィードバックやお礼、あとはボーナスを50円から100円ぐらい渡すシステムなんですが、サービスを開始してから4年半ぐらい経っているんですよ(※2021年時点)。4年半前は、ほぼ僕の友だちしか使ってくれなかった。
澤:(笑)。
田中:インターネットの会社ですよね。ただ、「お互いをすごく知るっていいじゃん」という感じだったので、COVID-19以前はインターネット関係の人しかほぼ使ってなかった。ところがCOVID-19が起こって、実は一回壮大な解約祭りが押し寄せたんです。要は、従業員同士でボーナスを贈り合ってお互いの認識を改めましょう、というものをやっているぐらいだったら、チャットツールを入れとけと。
澤:(笑)。なるほど。
田中:もしくはリモート会議ができるようにしておけということで、壮大な“お祭り”が起こったんですよね。ところが、みんながチャットツールを入れてそれが一段落したら、「あれ。俺たちばらばらじゃねえか」という話が巻き起こった。
この1年間ぐらいは、例えばゴキジェットとかを作ってらっしゃるアース製薬さん。全国に支店があって工場を回っているところとか、伊勢丹新宿店さんとか小売の方たち。自分たちの思い描いていたよりもはるかに広い範囲の人たちが、実は組織でばらばらになっていて、「誰が何をやっているかわからないんだよね」というのを解決したいということで、1,000人、2,000人の会社さんが使ってくださるようになってきましたね。
澤:いいですね。
田中:その中で最近一番おもしろいなと思ったのは、保育園で使われ出したんですよ。
澤:保育園。
田中:ハイフライヤーズという会社で、千葉に13園ぐらいあるんですね。ご存じだと思うんですが、保育士さんってけっこうハードな職業ですよね。
澤:大変ですよね。
田中:子どももハードだし、お母さんやご両親ともお付き合いしなきゃいけない。でも、当然会社の売上も維持しないといけないのでけっこう大変です。13園全部が独立採算みたいな感じなので、ばらばらなんですね。でも実は、その中で悩んでいることはどの園も一緒なんですよ。
澤:なるほどね。
田中:実はこれ、日本の企業の典型だなと思っていて。
澤:確かに。
田中:だいたい、A事業部とB事業部のお互いの無関心さがけっこうあるんですよね。例えば部下のマネジメントの仕方や、お客さんのクレームの処理の仕方とか、そういうのは共通なんだけど、だいたい共有されないんですよ。1つの屋根の下にいる会社のはずなのにバラバラのことを一生懸命やっているのは、日本企業の縮図な感じがします。
じゃあハイフライヤーズではどうやったかと言うと、毎日ママさんから保育士さんに対して日記を渡していたらしいんですよね。要は、ママさんから言われた「こういうふうに行動していましたよ」という言葉を、他の人に共有したんですよ。
そうすると、「私もこう言われたことがあるんです」「こういうママさんいる」とか、13園にいきなり横のネットワークがパッとできたんですよね。そうすると、「ちょっと電話で相談させてもらっていい?」とか、また横のネットワークができるようになった。
この事例で気付いたのは、やっぱり組織はばらばらなんだなということと、他の人たちも同じことで悩んでいるはずなのに、聞けないのはすごく損失だなと思っていて。そこの会社は、離職率が34パートセントぐらいあったんですよ。
澤:けっこう高いですね。
田中:けっこう高かったです。今は10パーセントくらいなんですよ。
澤:それはすごい。
田中:ユニポスを入れて半年で、それだけ離職率がめちゃくちゃ下がった要因は、みんな同じ悩みを抱えていて、みんな同じことでつまずいているんだけど、場所がばらばらになっているからうまくいっていなかったということです。
Uniposって、難しいことをやろうとしているとは思っていないんですよ。「横のつながりをちゃんと作ればいいのに、なぜみんなけんかしているんですか?」っていう、これだけなんですよね。
澤:お互いが自己開示できる状態になったら、早めに問題の芽を摘むことができるし、なにしろ安心できますよね。「自分だけじゃないんだ」って。
田中:そうそう。あと、会社に入った時って「社会に対して何かいいことをしよう」「この製品を通して社会に対してインパクトを与えてやろう」とか、たぶんそういうのを持っていたはずなんですよ。
なんだけど、自分の目の前の仕事や、つまずいていることが共有されていないと、「あれ。何のために仕事をやっていたんだっけ?」みたいになっちゃうので、それはもったいないですよね。
澤:イノベーションというキーワードは、ものすごくいろんなところで聞くと思うんですが、「自分なんてイノベーションを起こせない」と思っている人もけっこういるんじゃないかなと思いますが、そんなに難しく考える必要はないと思うんですね。
そもそもビジネスって全部が社会貢献で、会社組織も世の中を良くすることが目的で作られていると思うんですが、その中で自分はどうやって世の中を良くしたいのか、世の中をおもしろくしたいのかなとか、それを考えるところからスタートで構わないと思っています。
いろんな方々が仕事を始める時に、最初は不安な中でスタートしたり、「でもこんなふうに活躍したいな」と思ったりしたんじゃないかと思うんですね。ぼんやりとでもいいので、その時の気持ちをなんとなく思い出して、それに対して行動していく。それこそ組織の中はみんな仲間なわけですから、思いついたことをどんどん社内で発信していく。そうすると、たぶん仲間ができるんですよね。
「同じようなことを思っていた」「自分はこんなことをやりたいと思っているんだよね」という人たちが集まってくると、最初は小さいかもしれないけれども、会社の中で自然とだんだん大きくなっていって、イノベーションになっていくのかなと思います。
イノベーションは小さなムーブメントから始まると思うので、そのムーブメントのきっかけになるのは、これをご覧になっているみなさん一人ひとりなんじゃないかと思っております。
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