求められる、キャリコン「流派」の選択肢

佐野創太氏(以下、佐野):西洋ではアウフヘーベン、つまりAとBという一見すると相反する価値観や意見を戦わせることで新しい視座、第三の道が生まれるという考え方があります。「共感傾聴は絶対大事!」という人と、Bさんが書いてくださったのが……。

加美雪絵氏(以下、加美):「論破してくれる人」(笑)。

佐野:そうそう(笑)。「論破カウンセラー希望!」って流派があって。これが戦うとおもしろいんですよ。

加美:対談とかしたいな(笑)。キャリアコンサルタントも、もっといろんな在り方とか価値観をシェアできたらいいなとすごく思います。事前にこの3.0の考え方を、何人かのキャリコンの人に見て意見をもらったんですが、「こういうの面白い、今まで言う人がいなかったからもっと言ってほしい」と言う方もいたりして。

「このやり方だけだと何かおかしい」と思っても、「何かおかしい」だけで終わって「じゃあどうするのか」の選択肢がないとしんどいじゃないですか。そうした時に、「こういうのとか、こういうのとか、こういうのもあるよ」という、3.0なのかZなのかNewなのか、そういう次のやり方を考えてシェアしあえたらおもしろいですよね。

佐野:そうですよね。「ひろゆき的論破カウンセラー」とかいてもいいと思うんです(笑)。

加美:いいと思う(笑)。

佐野:アベプラ(Abema Prime)で共演したんですけど、めちゃめちゃいい人で。

加美:あっ、ひろゆきさんとですか。

佐野:そうです。エンタメ要素が強いのか、楽しみたいみたいな価値観が強いのか。お話ししててずっと笑ってましたもん。

加美:そうなんだ(笑)。あの方も在り方が揺らがないですもんね。

「はたらきかたの価値観」をアップデートする重要性

佐野:やっぱりAさんすごい。またコメントくださいました。「全員3.0になるわけではない」。そうです。なのでたくさんあるといいんですよ。で、「自分は1.0のプロです」とか「2.0のプロです」とか、なんなら「私5.0です」って人もいると思うんですよね。

加美:いいですね、5.0。私も4.0考えてますよ。

佐野:たくさん出てくると、求人サイトじゃないですけどスタートアップも選べるし、大企業も選べるし、老舗企業も選べるし、みたいになる。キャリア相談も、たぶんもっとみんなが利用しやすくなると思うんです。今は1つ、ないしは1.0なのか3.0なのか相談する人からしたら判断しにくいじゃないですか。

加美:キャリコンの「カウンセリングはこうあるべき」の「べき」は、けっこう時代に合わないままギュッっと行き詰まってるかなってすごく思うんですよね。勉強会とかで、みんなで行き詰まった話をずっとしているような感覚もあったりして。

今回、この「はたらきかた3.0」の話をキャリコンの方にした時に、「でも市場価値とか他人軸に縛られてる人がいた時に、『それって他人軸ですよね』って言ったら、そこでラポール(信頼関係)が切れちゃうんじゃないですか」というご意見をいただきました。

自分が「はたらきかた3.0」の価値観、つまり自分軸で生き、それに納得できていると、「えっ、他人軸で生きてていいんですか?」ってナチュラルに言えるし、クライアントのことを思っての発言だから信頼関係が切れないんですよ。

でも自分が「はたらきかた2.0」の価値観で生きているのに、同じ2.0の人に「それでいいんですか?」って言えるわけがないじゃないですか。もちろん3.0が正解じゃないし、0.0とか4.0とか、いろんな在り方があると思うけど、自分のやり方をアップデートすることはすごく必要だと、今あらためて思いましたね。

共感傾聴だけではダメな理由

佐野:(チャットを見て)「クライアントがどのポジションにいる方なのか見る」。大事ですね。「期待感」も大事だし、「今いる居場所」も本当にそうですね。「街場のキャリコンがもっと増えてもいい」。確かに。

加美:街場、楽しいですね(笑)。

佐野:キャリコン酒場とか転職酒場みたいなの、なかったでしたっけ?

加美:あった気がする、バーみたいなやつですよね。

佐野:「良いマッチング法とか、考えたいですね」とコメントをくださったのは、Cさん。

加美:共感傾聴って相手の鏡になることなんで。私は鏡になるカウンセリングもすごく好きですけど、鏡のその先に何を見せるかって、キャリコン自身の生き方や価値観、生きざまがめちゃめちゃ出ると思っていて。そのまま鏡で映して、「今のあなた、そのままで最高ですよ。大丈夫」ってなると、それより先が見えなくて、現状維持になっちゃうんですよね。

佐野:「自分がキャリアコンサルタントの起用をする時に困ったことを思い出した」とチャットいただきました。これは「キャリアコンサルタントの違いが見出しにくかった」という意味でしょうか。

加美:わかんないですよね。やさしく寄り添われるだけだと進まなくてモヤるっていう。私は自分がクライアントとして受ける時にも、「それって現状維持の視点ですよ」とか「それ他者評価を気にしてますよね」って言われると、「そうだ、ダメだ」って視点が上がるので、私はザクザク切ってくれるセッションをしてほしいんですよね。そういうのを求めてる人もいるし、今はそうじゃないって人もいますしね。

クライアントの未来のために必要な「否定する勇気」

佐野:マッチングの制度は大事ですね。来る方も何を求めているかが明確、ないしはその場で明確になって、今までのキャリコンの人が合わなければ、ほかの人を紹介してもらえたらいいですし。

加美:それはすごく大事だと思いますね。「キャリアコンサルタントとしての教え自体が時代に合わず行き詰まっている」。本当にそうなんです。自分の価値観を知って、共感傾聴しつつも、その先に踏み込むってことですよね。

どなたかもチャットに書いてくださってましたけど、1.0と2.0のクライアントの方への関わり方や価値観が理解できて、当たり前にできるっていうこと。自分はさらにその先の価値観をアップデートしているからこそ、どのフェーズの人でも受け入れて踏み込むことができると思うんですね。

あとは、クライアントの未来のために否定する勇気も必要ですし。セッションの中で「なんだあの人は」とクライアントが思っても、1週間後や1ヶ月後、半年後に「あの時は腹が立ったけど、こういうことだったんだ」って、後から腹落ちすることが私も受け手側としてあって。その場をいい感じに終えるよりも、クライアントのその先の未来のためにどう関わるか。

(チャットを見て)「異なる提案をする」「自分がどこの価値観かを客観的に認識する」、本当にそう思いますね。ありがとうございます。なのであらためて、今日最初にキャリコン3.0の定義をさせていただいて、共感傾聴のその先の関わり方や在り方を提言させていただきました。

私はこの「はたらきかた3.0」、他人軸ではなく自分軸で生きる生き方を、まずは私自身が実践することが何よりも大切だと思っています。今、個人の方向けの継続セッションで最終的に職務経歴書を完成させるというのをやってるんですけど。それも、なんで継続で複数回セッションしてからつくるかと言うと、初回からただ「職務経歴書を一緒に作りましょう」だと、現状の棚卸だけになっちゃうんですよね。

でも、他者評価と自己評価の切り分けを対話の中で繰り返しながら自分の本当にありたい姿を見つけると、「過去にこれをやりました」の羅列ではなく、「未来のありたい自分のために今まで何をしてきたのか」と未来からの逆算で自分の経歴を見られるようになるんです。

セッションの中で、他人軸を切り離して自分の本音に向き合うことで自分のセルフイメージや未来が明確に描けるようになる。たぶん佐野さんの退職学の関わり方に近いと思うんですけど「共感傾聴」のその先の、そういう関わりができる人が増えたらいいなと思っていて。そういった勉強会をいろいろやっていきたいなと思っています。

「共感傾聴しない」を、あえて主張した意義

加美:佐野さんも一言お願いします。

佐野:これはもう終わりのメッセージみたいな感じで大丈夫ですか。

加美:そうですね。

佐野:今日はありがとうございました。「共感傾聴しない」なんて言うと、「は?」ってなると思うんですよね。今回あえてこれをさせていただいた意図を言うと、「共感傾聴しない」とか「否定する」って言うと、あらためて共感傾聴の意味を逆に考えたと思うんですよね。

なので今日聞いていただく中で、自分が思っていた共感傾聴はちょっと弱かったと思った方もいらっしゃるかもしれないですし、自分を肯定できた方もいらっしゃったかもしれないです。いろんな考え方が浮かび上がってきたんじゃないでしょうか。

その浮かび上がってきたものが、きっと今日のこの1時間の価値です。ぜひ今日浮かんだ感想を、僕や雪絵さんにどんどん送っていただきたいなと思います。「私はこう思いました」でぜんぜんいいので。

今日はチャットが、賛成意見ばかりじゃなかったのも逆にすごく良かったと思っていて。みなさんの視点でみなさんの物語を書いてくださって、それに対して僕もすごく楽しくコメントしたり、それはちょっと違うんじゃないかなって逆に反論させていただいたこともありました。

こういう関わり方って、キャリアコンサルタントやキャリア支援の業界が盛り上がっていく、すごく良いエネルギーになると思うので、ぜひこの熱をまた勉強会やイベントに持ってきていただいて。たぶん雪絵さん、どんどん過激なイベントをやっていくはずです(笑)。

加美:やりたい(笑)。

佐野:(笑)。もうイベントの背景画像が燃えてますんで。

加美:そう、燃え燃えのイベント背景ですからね(笑)。

佐野:こうやっていろんな価値観とか流派がどんどんぶつかっていくといいですね。

「市場価値」は「人間価値」を高めた結果として得られるもの

佐野:じゃあ最後に、チャットにあった「参加者の方にギフトとして質問すると何になりますか?」にお答えします。「あなたにとってのキャリコンの流派はどんなものがありますか?」という問いをギフトにさせてください。意味としては「もし自分だけの流派、自分だけのキャリコンを作るとしたら、どんなものがありますか?」ですね。

僕は退職学の本で、「市場価値」は求めるものではなく「人間価値」を高めた結果として得られるものだと書きました。「唯一絶対の自分」なんてものは存在しておらず「対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」」という、平野 啓一郎さんが『私とは何か――「個人」から「分人」へ』 (講談社現代新書)の中で提唱している「分人主義」をキャリア支援の中に入れるべきという考えも明記しました。

1つ流派を作るといろんな方と話せるし、逆に「それ違うんじゃないか」っていう意見もくるんですよ。僕もAmazonレビューに、1とか2とかついたりするんですよ。

加美:そうなんですね。

佐野:へこみます(笑)。精神的にきつさはあるんですけれども、またそこからレベルアップしたりするので。ぜひ我流の……たぶん我流がいいんじゃないかな。キャリアコンサルタントの資格を取られたってことは、もう勉強をされて実践もされてると思うので。ここからはさらにマイ・キャリアコンサルティングみたいなのが出てくるといいんじゃないかと思います。

キャリコン自身が、毎日価値観をアップデートして本気で生きる

加美:問いですよね。私、このイベント前の打ち合わせで、佐野さんに「心に尾崎豊を住まわせました」って言ったじゃないですか(笑)。

佐野:世代と音楽性を色濃く打ち出すスタンスですね(笑)。

加美:はい(笑)。「共感傾聴しないキャリアカウンセリング」って、勉強してたら違和感を持つ方も多いだろうし、みんながいいねって言ってくれるものではないとはわかってたんです。でも、それくらいの熱い気持ちで、恐れず自分の思ってることを言おうと決めました。そう思った背景は、キャリア支援をしてる私たちがすごいモヤモヤしてたり悩んでたら、相談するクライアントは嫌だろうなと。

もちろん私も毎日悩んでモヤモヤしてるんですけど、悩みながら壁にぶつかりながらも、毎日価値観をアップデートして本気で生きることが対人支援者としてすごく必要なことだと伝えたかったんです。

だからこのキャリコン3.0って考え方を広めて、他者評価とか他人軸とか、今までの古い価値観に苦しんでる人が自分軸で生きられるようになるのは、本気で生きる人であふれる社会を作るための第一歩だと思います。なので私からの問いは、「本気で生きているか?」です。

対人支援する人もしない人も、本気で生きてる人は言葉でも在り方でも、相手にエネルギーとしてその価値観が伝わるし。今もしモヤモヤして悩んでいて、キャリコンで対人支援したいんだけど、私自身もモヤモヤしているからどうなんだろうってことであれば、勉強会でも私の対人セッションでも、1回お話したいですね。

対人支援したいというその思いは、絶対すてきなものなので。そこには自分の生き方、在り方の軸をバーン! と定めることがすごく大事だなと思いますね。

今日は、こんなにたくさんの方にお申し込みいただいて。結局リアルタイムでの参加の方は30人ぐらいかなと思ったら最終的には70人、もっと来られてましたかね。たくさんの方がリアルタイムで来ていただいて。「違うよ」っていうのも含めてすごく自由に意見もいただいて、いい時間でした。ありがとうございました。