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守島基博氏 インタビュー(全2記事)

人事評価に対する、社員の「不満」をどう受け止める? 納得感を高めるために、会社が従業員に伝えるべきこと

日本企業が「人材不足」という課題に直面する中で、中小企業やベンチャー企業などでは、きちんとした人事評価制度が制定されていないところも少なくありません。求められる人材も働き方も大きく変化する中で、そもそも人事評価制度はどうあるべきなのか、イチから人事評価制度を作ろうとする企業はどこから着手すればいいのでしょうか。今回は、『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』著者である人材マネジメントの専門家の守島基博氏に、評価制度に対する社員の「不満」との向き合い方をうかがいました。

ビジネス戦略に「人の力」を結びつけることが重要な時代

ーー今日は、イチから人事評価制度を作ろうとする企業の方に向けて、そもそも人事評価制度はどうあるべきなのか、何から着手すればいいのかをうかがいたいと思います。

守島さまの著書『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』には、「再び戦略人事の時代だ」と書かれていました。「戦略人事」というのは、従来の管理業務中心の人事ではなく、経営戦略と人材マネジメントを連動させる人事のことだと思います。なぜ今、こうした人事が求められているのでしょうか?

守島基博氏(以下、守島):(理由は)大きく考えて2つあると思います。1つは、大企業、中堅企業をとわず、どんどん新しいビジネスをやっていく、もしくは新事業を立てたりイノベーションを起こしていかないと、企業が生き残れない時代になってきました。

昔からそうだったのかもしれませんが、経済が安定的に成長してる時は、今までの事業を改良・改善して少しずつ育ててしていくことで企業が成長したわけです。今はだんだんと経済自体の成長がストップして、新たな事業や新たな商品を世に出していかないと生き残れません。

AIは、過去のものを学んで未来へ適用していくことにはものすごく効率的なんですが、新事業を起こしたりイノベーションを起こすのは、AIにやらせようと思ってもできないんですね。したがって、当たり前のことなんですが人がやらないといけない。

そういう意味では、人のアイデアや考え方・やる気を引き出して、企業のビジネス戦略の実現に「人の力」をどうやって結びつけていくのかが、すごく重要なフェーズに入ってきたんだろうなと思ってます。

人事評価制度のあり方は、目指す「目的」によって変わる

守島:もう1つ。働く人たちも変化しており、多様化しています。女性が活躍するようになってきたし、外国人労働者もいるし、高年齢労働者もいる。そういう、表面上のダイバーシティという考え方はもちろんあるんですが、それ以上に重要になってきているのは、一人ひとりの考え方や価値観が大きく多様化していることです。深層のダイバーシティと呼びます。

「仕事と家庭を両方とも重視していきたいんだ」という男性も増えてきたし、実際にそうした行動を取るようになってきた。昔からそういうふうに考えてた人はいるのかもしれませんが、結果的に今までそういう行動は取れていなかった。

ダイバーシティが広がる中で、多様な働き方にも対応していかないと、先ほど申し上げたような新しいアイデアややる気、イノベーションを起こす人材は、なかなか活用していけません。(今、企業が向き合うべき人材マネジメントの課題は)その2つじゃないですか。

ーー時代的に、今まで以上に「人」にフォーカスし、個人の力を引き出すことが必要になっているんですね。ここからは評価制度導入についての具体的なご質問になるんですが、人事評価制度を導入しようと考えている企業は、まず初めに何から着手すべきなのでしょうか?

守島:「うちの人事評価制度は何を目的としているのか」ということを、明確に従業員に伝えていくこと。もしくは、目的をちゃんと考えた上で人事評価制度を作っていかないといけないんだと思います。

人事評価制度にもいろいろありますが、例えば、成果の高い人には高い人なりに、そうでない人たちにはそうでないなりの報酬をあげていく制度を求めているのか。つまり、できる人とできない人を見分けていくことを人事評価制度の目的とするのか。

それとも、個を成長させていくことを目的にするのか。働く人たちにはいろんな弱み・強みがあるから、強みを伸ばし・弱みを補っていくような、個の成長を求めて人事評価制度を作っていくのか。目的を決めることによって、人事自体もそうなんですが、人事評価制度のあり方は大きく変わってきます。

ヤマト運輸と佐川急便の評価制度の違い

ーー「どういう制度を導入するか」というよりも、まずは「そもそも何のために評価制度を導入するのか」を、社員にも明確に伝えていく必要があるんですね。

守島:そうそう。例えば、今はいろんな事情で変わっているんですが、ヤマト運輸さんと佐川急便さんってほとんど同じビジネスじゃないですか。だけど、佐川とヤマトは歴史が違うので、違ったタイプの人事評価制度を持ってるんですね。

だんだんと(その風土も)薄れてはきてるんですが、ヤマトは、みんなでまとまって集団的にビジネスを高めていこうというカルチャーです。いろんな営業所がありますので、営業所の中でも協力体制をうまく作っていくための人事評価制度なんですね。

それに対して、佐川は(ヤマトよりも)後発だったこともあり、一般的な言葉で言うと成果主義的な評価制度なんですね。できる人たちにものすごく多くの配分をあげる、格差がものすごく大きい制度。今はそれも変わってきてますが、かつてはそうだったんですね。

(企業の方針として)何を求めているのか、成果のあげる人たちにインセンティブを与えていきたいのか、それともチームの協力を培っていきたいのかによって、人事評価制度は違ってきます。

ーー逆に言うと、現状の会社のカルチャーを変えたい時に、人事評価制度を見直すこともあるんでしょうか?

守島:十分あります。というか、カルチャーを変える時には人事評価制度は一番重要な武器じゃないですかね。特に、中小企業の方々が考えなくちゃいけないことがあります。

例えば、「うちの企業って、今までは和気あいあいと仲間意識が強い企業でやってきたな」という場合。もうちょっと成果主義的に、みんなが自分で成果を考えてがんばっていくような文化にしていきたいのであれば、人事評価制度も変えていかないといけません。

そうじゃなくて、「和気あいあいとしたカルチャーを壊してしまうと、うちの企業の良さがなくなっちゃうね」と社長さんがお考えになるのであれば、極端な成果主義は入れないで、協働を推進する人事評価制度を入れていかないといけないんです。

評価制度を導入するベストなタイミングとは?

ーー組織の規模感にもよるとは思うんですが、評価制度の導入を検討すべきフェーズやベストなタイミングはありますか?

守島:まず、「人事評価の制度を導入する」という話と、「人事評価そのものが行われているか」は別の話だと思います。例えば私の大学のゼミ生は13人ぐらいいますが、そのぐらいの小集団だったとしても、どこの企業でも、どんな場面であったとしても、必ず「評価」はあるわけです。

評価というのは、「こいつはできる」「こいつはできない」「こいつは伸びるかもしれない」「こいつは伸びないかもしれない」ということを、私のような担当の人間が考えていくこと。(評価制度がなかったとしても)人事の評価は必ずあります。リーダーはその評価に基づいて行動するわけです。

ですから、評価をその人の感覚だけに任せていて、それによって問題が起こってくる段階で、人事は評価を「制度」にすべきなんですね。

制度にすることによって、公平性や納得性が目指せます。今はリーダーが勝手に評価をやっていたとして、それによっていろんな問題が起こっているとお考えになるのであれば、評価を制度化しないといけないんだと思います。

通常の企業であれば、10人の人間がいる時と20人の人間がいる時は情報量が変わってくる。つまり、(人事評価を制度化するタイミングは)規模が大きくなった時が一番多いです。

だけど、それだけじゃないのかもしれない。例えば、自分の部下がお客さんのところにずっと行ったきりになっていて、ほとんど会社に帰ってくることがない場合は、規模がどんなに小さかったとしても制度を入れていかないといけない。そうでないと、評価するリーダーの判断任せで、納得性が確保できない状態になる可能性があります。

一般的には規模なんですが、ビジネスの形態や内容によっても違ってきます。いずれにしても、その人1人に評価を任せておくことが難しくなった段階で入れるのが正しいんだと思います。

「評価される仕事しかしなくなる」ことは、一種の必要悪

ーーなるほど。ただ、評価制度を導入することで「評価される仕事しかしなくなる」という側面もあるように感じました。このあたり、守島さまはどうお考えでしょうか?

守島:まず最初に、自分が評価される仕事だけやって、評価されない仕事は無視するというのはどんな評価体制でも起こります。それは一種の必要悪であって、しょうがないことだと考えています。

さらに言うと、それがない企業の評価制度は意味がないんだと思います。「うちの企業では売上がものすごく大切なんだ。だから売上だけを上げてください」「お客さんとの長期的な関係が重要なので、そこを評価します」といった、根本的な部分に関わる強いメッセージを出すのが評価制度です。

それが評価制度の目的ですから、ある意味では評価制度が持っている一種の本質的な特徴です。「評価される仕事しかしない」というのが悪さをすることはありますが、制度そのものそのものの欠点ではないと思うんですね。

そしてもちろん、環境の変化などで、今までは重視されてこなかったような要素が現場では重要になることもあり得ます。例えば、コロナというパンデミックが起こる中で、上司と部下の信頼関係、それから同僚の間にどこまでオープンなコミュニケーションができるような信頼関係が作られているかなどが重要になってきたなどです。

信頼関係のない職場では、評価制度は絶対にうまくいかない

守島:そこでテレワークや在宅勤務になったからと言って、突然1on1といったフォローする仕組みを作ったとしても、上司と部下の信頼関係がまったくゼロの状態だと意味がないわけです。そうした時は、まずは信頼関係を作ることが重要だと思います。信頼関係がない職場でどんなに評価制度を入れたとしても、絶対にうまくいかないですから、上司と部下のフォローする関係は信頼関係がベースになっているのです。

つまり、(社員が増えて)コミュニケーションの規模が大きくなったり、在宅勤務など、物理的な意味も含めて働く人たちとの距離が大きくなると、(コミュニケーションを取ることは)なかなか難しくなるので、そうなったら人事評価を変革する、または「制度」として入れるべきだと思いますね。

したがって、コミュニケーションは十分あるのに「1on1をやってください」「1週間に1回は部下と10分以上の面談をしましょう」と言っても、結局は意味がないと思います。人事評価を「制度」にするタイミングは、いろんな要員で判断をしていかないといけないんです。

――評価に対して納得感を持つためにも、上司・部下のコミュニケーションが活発に行われていて、かつ信頼関係があることが前提として必要なんですね。

守島:評価って真剣勝負なんですよ。例えばお相撲さんの評価は、土俵の上で勝ったかどうかだけで決まるじゃないですか。実は、本当は評価の世界も同じで、人事評価とはそれだけ真剣なものなんだということを、働くほうにも理解をしていただけるのかによって、評価制度が不満の種にならない可能性が高くなります。これが1つの大きなポイントだと思いますね。

不満は必ず生まれるから、「どう解消するか」が重要

――そうですね。実際に、社会の中で評価制度自体に不満を持っている人は6割から7割ぐらいいると言いますもんね。

守島:アンケートに答える時には会社に気を遣って、「満足しています」と言う人もたくさんいると思うので、たぶん実際には9割くらいはいると思います。

――確かにそうかもしれませんね(笑)。それだけ不満が生まれてしまうということは、評価がどこか一方通行になってしまっているんでしょうか。

守島:評価制度って絶対に不満は起こるんですよ。だから、どうやって不満を解消して、働く人たちに納得感を持ってもらうのかに心を砕く必要があります。

コミュニケーションやフィードバック、ノーレイティング(社員をランク付けしない評価制度)とか、評価の基準を明確化していくのは企業の責任です。働くほうも、それに対して真剣に向き合っていくことが責任であって、不満自体は悪いことじゃないんですよ。ちゃんと向き合えば、必ず不満は出ますから。

不満がずっと続いていくと会社を辞めてしまうけど、「この企業で不満をどう解消していくのか」を、ちゃんと働く人たちにわかってもらうのも企業のやるべきことだと思うんですね。不満は次への展開のエネルギーになるわけですから、不満があることが問題じゃなくて、不満を解消してないこと・解消の努力をしていないことが問題だと思いますね。

――つい、「不満が出るのはよくない」「不満が出ないようにしなければ」と思ってしまいがちですが、不満を活かす方向で考えたほうがいいんですね。

守島:働いている上で不満のない人なんて、たぶん世の中にいませんからね。

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