2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
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松本俊彦氏(以下、松本):先生は(『〈叱る依存〉がとまらない』を)書く時に、わりとスムーズに一気呵成に書かれたんですか? それともけっこう苦しみながらだったんですか?
村中直人氏(以下、村中):めちゃくちゃ苦しみました(笑)。
松本:そうですか(笑)。でも企画から1年半後には世に出ているわけじゃないですか。僕は編集者の人たちによくやっちゃうんですけど、「書く書く詐欺」というんですか?(笑)。
村中:(笑)。
松本:それはあまりやらずに済んだという感じですか?
村中:そうですね。でも、書いている間にある種の使命感的なものが芽生えたのは確かな気がします。それこそコロナ禍がどんどん深まっていて、悲鳴のような声がメディアからも、ダイレクトな人間関係からも聞こえてくる中で、早くこの概念を世に届けたいという気持ちはありましたね。
ただおっしゃったように、「一般書で出そう」というところは私にとっては非常にハードルの高いことでありまして。つい一昨日も編集者さんとのトークをTwitterで配信してそこでも話したんですけど、コメントのやりとり1往復を1回として考えた時に、2,000~3,000回くらいやって、細かい表現の違いを全部逐一すり合わせました。
村中:それこそ「叱ることを叱る本にしたくない」という点であったり、「こっちのほうがわかりやすいんじゃないか」とか、「てにをは」のレベルまで。私はどうしても専門家向けの発信に慣れてしまっているので、それを一般の方にとって受け取りやすいように、お力を借りながらやるのは、生みの苦しみを感じましたね。
松本:でも、読みやすいシンプルな文章になっていますよね。苦労されたとは言っても、一見すると一気呵成に書いた感があるんですよ。
村中:(笑)。ありがとうございます。
松本:いい意味でちゃんとテンションが保たれているので、すごいなと思いました。でも逆にこういう本を出すことによって、例えば、プライベートで支障をきたしていないのかなと。例えばご家族から「叱ってるじゃん」とか言われたりはありますか(笑)。
村中:その防御線は抜かりなく張っていまして(笑)。ちゃんとあとがきに、「私はできるとは言っていない」と書いてあるんですね。
松本:(笑)。
村中:できていない私ですけども、それをちょっと置いておきながら、社会のことも心配していますよと。
松本:ある程度の当事者性を持ちながら。
村中:はい、もちろんです。
松本:高みからではないということですね。
村中:うまくできていたら……。どっちかと言うと、思いついてしまったわけですよ。いろんな科学的な情報を合わせた時に、「叱る」という行為をアディクション(依存症)で捉えるということがすごく大事だろうと私は気付いてしまったと思っていて。それにずっと私は独りで苦しめられていたわけです。
自分の行動に対して「今のはちょっと『叱る』に依存していなかったか?」と、自問自答が始まるわけですね。この苦しみを全国の人に味わっていただきたいと(笑)。
苦しみと言ったらおかしいですけども、この自問自答の葛藤を、もしそれこそ日本国民1億2,000万人、成人している人だったら何千万人かわからないですけども、みんなに標準装備されるようになると、やっぱり社会は変わるんちゃうかなという思いもあって。
松本:そうですね。
村中:その意味では、私だけがこの概念に悶々とするのを早く終わらせたいという気持ちも、この執筆のエネルギーになった気はします。
松本:実際に先生が心理士として、臨床のフィールドでは特別支援、発達障害の方たちの支援をやったり、発達障害の子を育てるのに悩んでいる親御さんたちのサポートなんかもされてきていて。まさに自分自身もどうやってこの子の行動を変容させていこうか、それからつい叱るのが止まらなくなってしまう親御さんをどうサポートするのかというのは随分悩んでこられたんですかね。
村中:そうですね。私は支援者養成の講座では、そういうことを「もぐらたたきゲーム状態になる」という話でよくするんですよね。
何かが起きているんじゃないかと目を皿のようにして、実際起きたら「駄目でしょ、駄目でしょ」と、出てきたもぐらを叩くようなことがずっと繰り返される。発達障害圏のお子さんの子育てだけじゃない。教育場面でもそうですし、実は支援場面においてもすごく「あるある」です。
そこで私が何を思ったかと言うと、ここから抜け出す時にどうすればいいかということなんです。いろんな専門知もあるんですけど、特に発達障害に関しては、そもそも思っている「あるべき姿」から問い直さなくちゃいけないんじゃないかと。
例えばワニワニパニックやもぐらたたきゲームで、ワニやもぐらが出てきたと思うということは、やっぱり自分の中に「こうあるべき」という基準があるわけじゃないですか。
松本:そうですね。
村中:それが破られるから瞬発的に「駄目でしょ」と言うんです。これが、脳や神経の特性由来で多様な子どもたちの場合は、まったく一筋縄ではいかないというか、あるべき姿なんて無限にあるよねと。
村中:そういう考え方を一言で言ってくれるのが「ニューロダイバーシティ」というキーワードだと思うんです。そこと向き合ってきたことが、例えばこの本の最後の章に書いたこととつながっている気がします。
松本:先生は著書の中で「ニューロダイバーシティ」とか、それからこれは先生の独自の言葉かもしれませんが、「ニューロマイノリティ」。要するに、いろんな人それぞれの部分があるにもかかわらず、叱る側が自分の中の「こうあるべき」というイメージを押し付けて本人に強要して追い詰めてしまっていると言われています。本当にこれは大事な言葉で、もっともっと人口に膾炙してもいい言葉ですよね。
村中:そうですね。「ニューロマイノリティ」という言葉、私のオリジナルというわけではないのですが、これをこんなにずっと使い続けている人はまだまだかなり少ないと思います。というのは、世界的に見ると私が「ニューロマイノリティ」という言葉で表現していることを、英語の論文や文章だとほとんどの場合は「ニューロダイバージェント」と書いてあって。
松本:ニューロダイバージェント。
村中:直訳すると「神経多様性者」ですね。もうちょっと柔らかくすると「脳・神経の多様性を生きている人」という意味になるんですけども。それがなぜ、例えば発達障害の方、自閉症やADHDの人とイコールの言葉になるのかということに関して、私はすごく違和感を感じているんですね。
ニューロダイバーシティ運動の中でも、「ニューロダイバージェント」イコール「ヒューマン・ビーイング(人類)」だという議論はもちろんあるんですね。私はそれを支持しています。だから、神経多様性者というのは多数派と少数派を合わせた全員であると。
となってきたら、一番ふさわしい言葉は、その中でも確かに特定の少数派の人たちがいるよね。だから「マイノリティ」という言葉にしておくのが最も適切なんじゃないか。こうなると、いわゆる多数派と少数派のマイノリティ問題であるという再定義ができるんじゃないかと思うんですね。
松本:さらに先生の著書を読んで気付かされたのは、実は支援者とか医療者の中でも、良かれと思って、患者さんのためと思っていながら、何か目に見えない処罰感情が働く。1つの例として挙げていたのは、産婦人科医療の領域にある経口の妊娠中絶薬の問題みたいなもの。
その話を読みながらふっと思ったのは、依存症というかアディクションのところを少しモデルにしてくださったんだけど、実は自分が関わっているアディクション臨床の中でこそ、この処罰感情はけっこう強いんだよね。
村中:そうなんですか。
松本:例えば入院中に外出して飲酒しちゃったりすると、本人が「失敗しちゃったけど治療を続けたい」と言っても強制退院になったり、あるいは強制退院にしない代わりに、「2泊3日隔離室にいなさい」とかね(笑)。そうすることが本人の治療にいいというエビデンスがあるわけでは決してなくて、「落とし前をつけろや」ということで。
村中:なるほど!
松本:「依存症は病気だし、飲んじゃうのは病気だよね」と言いながら、そこだけすごく強烈に自己責任を求めている。それから、これも100パーセント悪いと言っているわけじゃないんだけど、「底つき体験」という、突き放しとか手を放せというものもあります。
これは感情的に巻き込まれたご家族が、本人と距離を持つという意味で使うのはすごく正しいんだけど、時々支援者や医療者が自分たちの仕事をサボるために、「この人、まだ懲りていない。底つきが足りないよね。しばらく痛い思いをしてもらおうか」ということで援助をネグレクトするというね。
村中:なるほど…。
松本:そういうのが少なくとも2000年代ぐらいまでは、あったんですよね。アディクション臨床の中にも支援者の処罰感情が紛れている。だから僕らは「叱る依存」という言葉を知りながら、自分自身のこととして読まなきゃいかんぞと思ったんですよね。
村中:今おっしゃっていただいたことを私は本の中で「苦痛神話」という言葉を使わせてもらったんですけど、その根深さを考えさせられるエピソードを教えていただいたなと思います。
どこかで「失敗した人は痛い思いをせなあかん」とか「苦労せんことには成長せん」とか、そういうのってものすごく人間の奥底にまで刷り込まれているというか。かく言う私も「この発想、めっちゃ苦痛神話やん」と思って落ち込むことがいっぱいあるんですけど。これは本当にみんなが向き合うべきですよね。
松本:そうですよね。
村中:今、依存症治療の文脈でおっしゃっていただきましたけど、それはぜんぜん人ごとじゃなくて、誰でもこういう発想にはなりますよね。
松本:わりとちゃんとしている人とか、信頼できる支援者がそれを言ったり。やっぱり人間って「苦痛によって変わる」「艱難辛苦を乗り越えて」みたいなのが好きなんですかね。その最たるものが刑罰なんだろうと思うけれども、なぜか医療もその刑罰のモデルの中で依存症医療が実は発展してきたという。
松本:自助グループみたいに当事者の力もあるよねということは認めるんだけど、でもそこでこそ「底つき」という言葉がよく使われたりもする。底をついたら死んじゃう人もいるので。
村中:なるほど。「底つき」という言葉を「この人はまだ辛酸をなめ切っていない」という意味で使われることがあるということなんですね。
松本:そうなんです。本当は「ヒッティングボトムズ」と言うんです。当事者の方たちが回復した後に、「あそこが自分のターニングポイントだったな」と言うのが底つきなんですけど、それがなんか違うんですね。だんだん変わってきちゃっているんですよ。
村中:なるほど。ちょっと発想を飛躍しすぎかもしれないんですけど、発達障害の領域で言うと、似たような感じを「障害受容」という言葉に感じてしまうところがたまに私はありまして。
例えば親御さんが「あの瞬間からちょっと風向きが変わったよね」というような文脈で使われる分にはすごくいいと思うんですけど、どうも支援現場、教育現場では、「あのお母さん、受容がまだできていないよね」みたいな文脈で使われてしまうことがあって。
その裏側には、「苦しいやろうけど、苦しみをちゃんと受け止めて乗り越えなあかんわね」と。それこそ先ほどのお話で、「このお母さん、まだ辛酸をなめ切っていないよね」みたいな発想を、やっぱりどうしても抱いてしまうみたいな。そういうことも、全部とは言わないですけど、起こり得てしまうのかなとお話を伺っていて思いましたね。
松本:先生の本は、警察とか法務省とか、あるいは厚生労働省の麻薬取締部の方とか、要するにどちらかと言うと刑罰とか取り締まりによって薬物問題を解決しようとしている人にもぜひ読んでもらいたいなと思って。
刑罰によって変わるとみんな思っているんだけど、エビデンスは反対の方向を示しているんですね。でも本当に最近思うのは、よく「エビデンスがあるのか」と聞かれるんですよ。役所なんかでは特に。
でもどんなにエビデンスがあっても、その物語を人々が受け入れられないと、「頭でっかちなことを言うな」とか「とは言っても日本は違うんだ」とか、逆ギレされることがあるんだよね(笑)。
村中:それと似たことを感じたことがあります。1ヶ月ちょっと前に『〈叱る依存〉がとまらない』という本を出させていただきましたが、実は2年前に同様の内容のブログを書いていたんです。そういうところで、この概念に初めて触れた人が、第一声に何を言うか。それで「その人と『叱る』という行為の距離感」がわかる気がするんですね。
「叱る」という行為が関りのメインになってしまっていて、それ以外の行為が思い浮かばない状況に陥っている方の典型的な反応があって。それは拒否反応というより、もう恐怖反応に近いんですね。
「私からそれを取り上げられたら、どうすればいいの?」という恐怖、不安のような文脈からの反応なんですよね。先ほどのお話にあった、懲罰をベースとする「禁止」と「罰」による現在の政策も、もしかしたら政策を作り・支える側の人たちが、それ以外の方法を思いつかないからなのではないかと思いました。
村中:だから、先生がおっしゃるとおり、恐怖に近いような拒否をすることでしか反応ができない状態が起こっているのかもしれない。こんなことを連想しながらお聞きしていました。
松本:政策を作るのは官僚の方たちですが、官僚を動かすのは政治家で、その政治家を支持しているのは国民ですよね。国民が「少年犯罪はもっと厳罰にしたほうがいい」と言っているから「少年」の年齢が引き下げられました。「国民総叱る依存」の流れになっちゃうのが嫌だなと思っているんですけどね。
村中:そうですね。それって結局、「国全体を覆う停滞感」とか「国全体を覆うストレスフルな環境」というものと、無関係ではない気がしますね。
松本:そうですね。
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