演説の名手、バラク・オバマ元大統領のスピーチ

千葉佳織氏(以下、千葉):では最後に、米国の(元)大統領、バラク・オバマ氏です。いろんなスピーチが有名ですが、今回は私が特にお気に入りの、大統領になる4年前のスピーチを持ってきました。これはオバマ氏が初めて、民主党大会という大きな場で行ったスピーチです。だから彼の自己紹介もしっかり入っています。

「米国の交差点であり、リンカーンを生んだ土地である偉大な州、イリノイ州を代表して、この大会で演説をする栄誉を与えていただいたことに、深い感謝の意を表させていただきます。今夜は私にとって特に名誉な体験です。なぜなら、私がこの舞台に立っていること自体が、想像もできなかったことだからです。

私の父は、ケニアの小さな村で生まれ育った留学生でした。少年時代の父は、ヤギの世話をし、トタン屋根の小屋の学校に通っていました。彼の父親、すなわち私の祖父は、料理人であり使用人でした。しかし、祖父は息子により大きい夢を託していました。私の父は、努力と忍耐により奨学金を得て、魅惑の土地、米国に留学したんです。米国はそれまでにも大勢の人たちにとって、自由と機会を象徴する存在でした。

父は、米国留学中に、私の母と出会いました。母は、地球の反対側にあるカンザス州の町で生まれました。母の父親は、大恐慌時代の大半を通じて、石油掘削施設や農場で働いていました。彼は真珠湾攻撃の翌日、軍隊に入り、パットン将軍の軍団の一員として、ヨーロッパを行軍します。

その間、私の祖母は、赤ん坊を育てながら、爆撃機組立工場で働きました。戦後、私の祖父母は復員軍人援護制度で大学へ行き、連邦住宅局を通じて家を買い、機会を求めて西へ移動しました。そして彼らも、自分たちの娘に大きな夢を託していました。それは、2つの大陸に共通する夢でした。私の両親は、常識を超えた愛を共有しただけでなく、この国の可能性に対する揺るぎない信頼をも共有していたんです。

彼らは私にアフリカの名前を付けました。バラクとは『祝福された者』という意味です。彼らは、寛容な米国ではどのような名前でも成功の妨げになることはない、と信じていました。私の両親は裕福ではありませんでしたが、私がこの国で最高の学校へ行くことを想像していました。

寛大な米国では、裕福ではなくても自己の可能性を達成することができるからです。私の両親は、もう2人ともこの世にはいません。しかし、今晩、彼らが私を誇らしく見守っていることを私は知っています。

本日、私はこの舞台に立ち、私の受け継いだ多様な文化に感謝し、私の両親の夢が私の大切な娘たちに引き継がれ、生き続けていることを実感しています。私はここで、私の物語はより大きな米国の物語の一部であること、私が今日あるのは大勢の先達のおかげであること、そして、地球上の他のいかなる国でも、私のような人生の物語が実現する可能性すらないことを実感しています」。

オバマ氏のスピーチにみられる特徴

千葉:スピーチはこのように進みます。この後、どんどん「米国がどのような素晴らしさを持っているか」また「どんな課題があるのか」を話していくんですね。私がすごく好きなスピーチです。

こちらのスピーチからは7個目のポイントとして、「ストーリーテリング」がみられます。スタンフォード大学の論文によると「事実を羅列するだけではなく、ストーリーを加えて伝えると、22倍記憶に残りやすい」ということがわかっているそうです。つまり「ストーリーをいかに出せるか」がカギになってきます。

今回のスピーチで、バラク・オバマ氏は冒頭から自分のストーリーテリングを始めました。しかも、父、母、祖父、祖母まで。ここをしっかり伝えたことによって「バラク」という名前にどんな思いが込められているのか、またその思いがすごくポジティブであるとわかる。さらに、そのすばらしさは「アメリカの象徴である」という紐づけまで行っています。

このストーリーテリングなしで「アメリカは、たくさんの可能性を持っている場所だと思います」と言ったところで通じないわけです。その人が話している意味を見出すためには、誰であっても自分自身のストーリーを武器にしていく必要があります。

五感で得た情報や感情を描写する

千葉:そして、「当たり前を描写する力」が最後のポイントとなります。例えば、お仕事をしていると、このようなことがあると思います。「先日の全社総会では、アフターコロナの経営方針について触れました。抜本的な見直しなので、忘れないようにお願いします」。

あるいは、「先日の全社総会では1,000名のみなさまにお集まりいただきました。オンライン上ではありましたが、全員が集まりコメントを寄せ合って、改めて人と人とのつながりのあたたかさに触れました。そして、みなさまの言葉の節々から、新しい動きへの期待も不安も、両方とも感じられました。

経営方針を、抜本的に見直します。みなさまの言葉の重みをしっかりと背負い、私も進みます。だからこそ、みなさまもぜひこの新しい道を信じて、忘れないでください」というもの。

おそらく後者のほうが心に響いたのではないでしょうか? 視覚情報、感情、触覚の情報など、いろいろと書いてあるから想像することができるんです。つまり、見て、感じて、当たり前のことを言語化する。「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」「感情」。こういったものを意図的に描写する意識を持つことが大切です。

では、オバマ氏のスピーチに戻ります。例えば、父や母がどんな生活をしていたか。これも描写力です。

「夜、子どもたちを寝かしつけるときに、彼らが食べるもの、着るものに困らず、危害から守られている、と実感できることです。それは、私たちが考えていることをそのまま語り、文章にしても、突然誰かがやってきてドアをたたくことはない、という事実です。私たちがわいろを使ったり、有力者の息子を雇ったりしなくても、自分のアイデアで、自分の事業を始めることができる」

この部分は意識的に描写をしているんですね。だから聞いているほうも想像力が働きます。当たり前のことでも「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「感情」を言葉に出していくことで、全体の空気を作る。

これが、歴史的なスピーチ・プレゼンの共通項なんです。そのために、「五感と感情の描写フレーム」などを使いながら、トレーニングを行うこともあります。ぜひ、この考え方を覚えてください。

歴史的な演説の2つの共通点

千葉:では、本日のまとめです。経営者の方、リーダーの方にとって伝える技術は大切ですよね。「内容」と「話し方」の両方から学習していくことが重要です。内容については、今回は特に歴史的なスピーチから紐解いていきました。8つのポイントを紹介しましたが、最終的に集約できるのは「他ならぬ自分が話す意味を考えること」と「聞き手とのコミュニケーションを取ること」です。

この2つが、歴史的な演説の共通点です。そして、みなさまの日常生活にも取り入れることができるので、どうぞ本日のこの講演を活用いただきたいと思います。

では後半は質疑応答となります。スピーチのスキルを身に着けたい方のために、インプットだけでなくアウトプットできるように、弊社のサービスを簡単に紹介します。

まずは個人向けのスピーチトレーニング、「GOOD SPEAK Personal」というものがあります。動画を撮影して、「SCI(Speech Characteristic Index)」という弊社の独自の指標に基づいて課題を明確にしながら、ご自身の目標に沿ったカリキュラムをカスタマイズします。ご自宅での学習も徹底的にサポートして、伝える力を磨いていくサービスです。

上場企業の方、IPO前、そして起業された方など、多くの方々にご利用いただいております。また「GOOD SPEAK Group」というスピーチの学校もあり、挑戦されるすべての方にご利用いただくことができます。営業職の方、メディアに出演されている方、マネージャーを希望されている方、リーダーの方やそのグループの方々などにご利用いただいています。

パーソナルトレーニング(短期間でプロフェッショナルになるもの)、グループトレーニング(仲間とともに高め合うもの)の両方があります。今回せっかくのご縁ですので、これからのみなさまの挑戦に役立つことができれば、非常にうれしいです。

「言語化力」「構成力」を高めるための、普段の生活でできる工夫

千葉:では、質疑応答に入ります。ちょっとした疑問点やお気づきの点でもかまいません。ご自由にお書きください。弊社のサービスに興味のある方は、別途個別相談会も実施しておりますので、その旨アンケートにてよろしくお願いします。ではこの後、集まった質疑に答えていきますので、お書きください。

では、最初の質問です。「言語化力、構成力を向上させるために、日々の生活の中で意識すべきことがあれば教えてください」ということですね。

ありきたりな回答ですが、インプットとアウトプットが大切です。まずインプットにはいろんな方法があります。例えば、私は『感情表現辞典』とか『感情類語辞典』というものをよく読んでいます。「こういう言い方があったんだ」「こんな日本語はあまり使ったことがなかったな」という発見ができるので、とても楽しいんですね。

また最近、AKB48やHKT48に所属されていた指原莉乃さんが、ご自身で作詞をしているという記事を読みました。その時に、彼女も辞書をよく読まれるとのことでした。言葉を増やすために、「本を読みましょう」と、よく言われますが、もっとダイレクトに「辞書」や「類語辞典」を参照してみる。そして「こんな言葉があるんだ」と知っていく方法があるんですね。

またアウトプットは、例えばテレビを観ている時などに、日常的にアナウンサーに合わせてシャドーイングをしてみるんです。言葉を真似してみたり、表れる映像に対して描写してみたりする。「〇〇な煙が出ていて、〇〇になっていて」など、パッと言葉を作っていくために、語彙力を広げる訓練になります。

次のご質問です。「貴社のプログラムは、リアルとオンラインのどちらでしょうか? 『Group』と『Personal』の場合も教えてください」。我々のプログラムは、リアルもオンラインも両方ございます。「Group」と「Personal」どちらも、完全リアル・完全オンラインを選択いただくことができます。

スピーチが参考になる日本人経営者

千葉:次です。「今回お話されたことは、すばらしい内容ですが、実践するとなると難しいと思いました。例えば通常の言い方『全社総会を忘れずにお願いします』はすぐに出てきますが、改善例が言えるようにするには意識して練習するしかないのでしょうか?」というお言葉をいただきました。ありがとうございます。

そうなんです。理解したからすぐに使えるかというと、そうではないんですよね。だから、先ほどお伝えした「五感」と「感情」を、日々書き出すように意識してみるだけでも変わります。自分で1分間、今日あったことについて、五感と感情を入れながら話してみるんです。それだけでも、少しずつ言葉が出てくるようになりますね。「理解」と「実践」があって、「実践」をするには努力が必要です。コメントありがとうございます。

他にもいただいています。「日本人で、スピーチが参考になる方を数名教えてください」というものです。私が一番好きなのは豊田章男さんのスピーチですね。おそらくトレーニングをされていると思うんですね。ご自身で学習をされて、お上手になっているので、すごく魅力的なんですよね。他には孫(正義)さん、南場智子さんなども、とてもお上手でいらっしゃいます。ぜひ、ご覧いただきたいと思います。

「原稿を見ないで話すコツ」ですね。まずは、目線を上げる練習をしていきます。強調したいワード、語尾など、ここで上げていくというのが第1段階です。完全に原稿を見ないのであれば、1週間前からご自身の声を録音して、暗記する方法ですね。私は、重要なピッチを行う時にこの方法を使います。

冒頭の言葉は、リスナーの人数で変えていく

千葉:最後の質問となります。「初めてこのような機会を得ました。小さい会社を経営しており、スタッフ5名に自分の思いを伝えるのに冒頭の言葉が詰まってしまいます。私はどういうことを心掛ければいいのでしょうか?」ということですね。

5名の方だとそれぞれのお顔が見える状態だと思いますので、奇をてらったことを思い切って言うよりは、みなさんの空気感に合った言葉を選んでもらえれば大丈夫です。では、その「空気感」ですが、素直にいろんな方々のお話を聞いて「じゃあ今日は〇〇さんに問いかけてみよう」など、そういう始めやすいところからやっていただくといいと思います。

これが何百人、何千人となると「惹きつける冒頭を作っていかないと」など、構成が大事になると思いますが、少人数なので自然な「問いかけ」や「呼びかけ」がいいと思います。例えば「〇〇な方は、いらっしゃいますか?」とか「今日は〇〇について話したいと思います」など、まずはシンプルに始めてみる。

そして、周りの反応を見ながらだんだんと高度なものに挑戦していただく。そうすれば、みなさんの興味を惹きつけることができると思います。極力同じような冒頭は使わず、朝礼では日々変えてみようという意識をお持ちいただくことだと思います。

すべてのご質問に回答させていただきました。では21時になりましたので、本日はこちらでお開きとさせていただきます。本日は、数あるセミナーから、「歴史的な演説から紐解いていく言語化力・構成力」にお越しいただきまして、ありがとうございます。

我々は「伝える力を科学する」ことで、人生にスポットライトが当たる社会にしていこうと考えています。これからもぜひ、私たちの挑戦を見届けていただけるとうれしいです。せっかくのご縁ですので、これからも何か情報交換ができたらいいなと思います。また、私たちの発信をご覧いただいてみなさまのきっかけを得ていただけたらうれしいです。本日は夜分遅い時間に、貴重なお時間をいただきました。どうもありがとうございます。