2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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中野信子氏(以下、中野):一方で、ゼレンスキー大統領は非常に西欧寄りのセンスを持った人で、演説もうまいんですよね。この戦時にあってすら、マーケティングのセンスを感じてしまう。
「自分の命をかけてウクライナを守る」というメッセージを効果的に発して、西欧諸国、日本を含めて世界中の人が、彼の味方をせざるをえなくなるような演説をするんですよね。「自分は非力だけれども、命をかけて国を守るんだ」という。すごくわかりやすい構図を現出して見せる、そういうメッセージを発するんですね。
私はちょっと天邪鬼なので、すこし引いた目線から「非常にメディアトレーニングをされた人だな」というふうに見ちゃうんですけど(笑)。
中西進氏(以下、中西):要するに、冷たいんですね(笑)。
中野:冷たいかな? 冷たいか(笑)。冷静に見て、メディアを使って人の気持ちを熱く盛り上げるのはとても上手な人だなと思うんですね。でも、できればあまり多くの人を熱くさせずに、また相手を追い詰めることで大惨事を引き起こさないように、タイミングを見計らってなるべく冷静に、早期に収めてほしいなとは思います。
中西:一日も早くね。ウクライナの話に関しては、方便はもっとあっていいように思いますよ。「侵攻だ」じゃなくてね、「それじゃあ今、停戦しましょう」「あなたが領土化するというなら、その話も聞きましょう」という方便。(本心では)ぜんぜん考えてなくても、そういうことをする。これが外交じゃないですか?
中野:わかります。戦争は外交の失敗、と言いますよね……。
中西:そうです。失敗してしまったんだったら、外交に戻すということでしょう。「いや、外交はありえないんです」というふうに言うのはね、やっぱり戦争になるわけですからね。
中野:現時点では、終結のための青写真がちょっと見えて来にくいというか。
中西:見えてこない。イエスかノーでやってるから、やっぱり外交が未熟なんですよ。
中野:そういうところはあったのかもしれません。一部には、得をする人もいるのでしょうね。
中西:まさにトルストイが言っているように、「外交の失敗が戦争だ」「そんなんで我々が止まるかよ」というのが、『セバストポリ』のセリフですよね。「外交の失敗を硝煙と血で贖うことはできないんだ」って書いてありますよね。だから、トルストイの出した命題が未だに解決されてないんですよね。
中野:21世紀、もう5分の1が終わっちゃったよ……。
中西:ロシアはもうちょっと軽やかな論理の中に生きて。それはずる賢いかもしれないけども、賢いことは間違いないんですから。ゼレンスキーはある意味じゃ愚直なんですよね。ジャンヌ・ダルクみたいに、「絶対に守る」というのでみながついてくるかといったら、外交ってのはそんなもんじゃないでしょ。
片方では旗印を掲げる大統領がいて、片方では副大統領あたりがそうじゃないものを出して、一体で取り組みながら矛を収めていく。何が今の目的かといったら、大義名分を通すことじゃないでしょう。これは強く言いたい。今は人命を救うことが目的なの。だから、領土問題の解決じゃないんです。領土問題は次の問題になるでしょうけど、まずは人命を救うこと。
自分の子どもまで戦禍にさらしてるわけでしょ。だから、もっと巧みに振る舞うべき大統領だと思いますね。逃げるんじゃないんですよ。しかし、残ってがんばるというがんばり方よりも、もっと外交的に巧みな振る舞いがウクライナには必要なんじゃないか。
それがくせ者のロシアに対する態度であって、イエスかノーかって言うのはせいぜい夫婦喧嘩ぐらいですよ。「いや、俺だ」「いや、俺だ」なんて言ってるような。
中野:(笑)。いやー。それでも今、3分の1の夫婦は離婚しますからね。
中西:いや、離婚は半分でしょ。
中野:イギリスだと6割ですかね。
中西:日本は半分だって言いますよ。
中野:そうなんだ、増えたんですね。
中西:僕が聞いたのは。松声を聞いてるのかもしれないけど。
中野:いやいや、状況もすぐ変わりますし。確かに増えたかもしれないですね。
中西:半分離婚してる。だからね、結婚を続けてるっていうのは、やっぱりアホなんですよ(笑)。
中野:(笑)。
中西:どっちかがバカなんだね。あるいは、都合が良いからですよ。僕らになると、もう明日死ぬかもしれない人間が都合では生きていられないわけ(笑)。
中野:(笑)。合理的に考えたら1人のほうが良いに決まってるんですが、「一緒にいたいよね」という理由で結婚するならば、わからなくはないというか。
中西:要求はそれぐらいなのに、選ばれた結果はこんなに大っきいんですよ(笑)。
中野:そうなんですよ。特に、続けるのはけっこう大変(笑)。
中西:手かせ足かせ、桎梏(しっこく:人の行動を厳しく制限して自由を束縛するもの)があるから、刑罰を受けたのと一緒ですよ(笑)。でも、こんな対談でいいんですか? いけないような気がする(笑)。
司会者:具体的に、ロシアとウクライナがどうすべきかという話になっていました。事態が動く可能性もあるなと思いまして。昨日館長もおっしゃってたんですが、平和を実現するためにはどうしたらいいのかっていうのを、お二人の知見から(教えてください)。難しいかもしれないんですけども。
中野:そうですね。一般化して言えることを科学(の視点)から言いますけど、人間が生きている以上、争いのない世界はありえない。事故率ゼロがありえないのと一緒で、争う率ゼロはありえない。だからこそ、その際の被害を最小限にし、大規模な戦闘、戦争を避ける努力をしなきゃいけない、というのが私の考えなんです。
戦争を避けるための努力というのは、放っておいてもできるものではない。放っておいたら自然と諍いが生じ、戦争になりかねないのが人間という生物です。たとえば、年齢や、経済状態、身体的特徴もそんなに変わらないような集団をランダムに2つに分けても、数日程度の働きかけで非常に仲が悪くなるということがわかっているんです。
お互いに私物を盗み合ったりすると、自分の集団では英雄扱いされたり。片方のベッドを壊したり、皿を割ったりすると、「お前よくやったな」と言われたりするわけなんですよね。そういう状況がたった数日で構築できる。
人間っていうのは、放っておいたら戦争する側にかなり寄った生物だということがわかります。しかしながら、ここで、戦争には持ち込ませないぞ、と自己に働きかけるのが「知性」だと思うんですね。
戦争を指向してしまう私たちの根源的な性質を、「そういうものだ」と把握した上で、「そうしないほうが得だよな」「お互いむかつくけど協力し合おうぜ」というふうに持っていけるかどうか。自分と違う、時には折り合うのが難しいと思える相手とでも、どれだけ協力できるかが「知」の力だと思います。知識で殴り合うためのものが知性じゃない。
司会者:以前著書の中で、協力し合うためには強烈な(共通の)敵の存在が必要だと書かれていましたよね。
中野:そう、おっしゃるとおりです。今の話を学術的にまとめたものは「紛争理論」と名付けられてるんですが、紛争理論では、互いに敵になってしまった集団を仲良くさせることは極めて困難だと考えられているようです。ロシアとウクライナの今の話が遺恨として残ってしまったとしたら、当事者の間では定期的に記憶が呼び起こされ、何百年も語り続けられてしまうでしょう。
紛争と平和を研究している学者がユーゴスラビアで実験したそうなんですが、もっとも融和しなかったのが歴史学者だといいます。なぜかというと、「600年前にお前たちはコソボの戦いで俺たちをこんな目に遭わせたじゃないか」という記憶を保持しておく役割を担わされている人々だからだと。
お互いに理不尽さへの葛藤を抱えたまま仲良くなるのは非常に難しいことでしょう。だけれども、緊急に解決しなければならない大きな問題が目の前に迫っている、となった時には、とりもなおさず協力せざるを得ない。そうした問題が実感を伴って目の前にあれば、とは思いますけれども。
司会者:それが、なかなか難しいことですよね。
中野:難しいでしょうね。
司会者:そういうものがないと(融和できないんですね)。
中西:さっきから繰り返してることですが、「何が一番大事か」ということが見失われているんじゃないかという気がしますよ。ポリシーばっかり言い合ってますよね。これは永遠に解決がつきませんよ。だから、むしろ罪悪です。なぜなら、目の前で殺されている現実を直視していないという、罪悪を犯していると思う。
今は大義名分や方程式を求めてるんじゃないんですよね。一番大事なのは、無垢の民の殺戮を避けるということですよ。それを真っ先にしておけば、それに伴う方法があるはずなんですよ。まずは方法を先に立ててやっているから、いつまで経っても解決をしないんだというふうに考えられるんですね。
中西:嘘も方便なんてことを言ってる限りは、なんの解決もしません。まさにそれが、100年前にトルストイが言ってるような、外交上の拙劣さですよ。なぜかというと、まさに(言ったような)歴史学者といったような、こだわりが根っこにあって。
モスクワ公国とキエフ公国の争いみたいな、君主の公国時代のことまで引っ張り出して勢力争いをしているという、その愚かしさですね。歴史観に対する不信感っていうのは、僕もまったく同感です。そんなものは今、解決にはならない。尖閣列島だって竹島だって、そんなことを言ってるからいつまでも困るんですよ。
昔だったら、国連委任統治という手段があって、第三者に委ねることができたんですね。今はそれができないから、両方でお互いの権益を認めながらやりましょう、ということしかないでしょ。しかしその反対には、確実に努力もしていく。永享を目指した解決をしていく。当面と使い分けないといけないですよね。
ですからプーチンだってなんだって、戦車を引っ込める、ミサイルは撃たない。ということをしておいて、市民生活が戻ってくる。そこで、仮に(ウクライナ)東部の何州かがロシアへ行ったって構わない、クリミアがどうなったって構わないということから、まずは出発をしてくべきじゃないかと思う。
大統領というのは、大きな国の関係者のトップですよ。我々が大事なのは、生きている人間、個々人ですからね。まずはそれをトップにしないと、政治は本当じゃないんですよね。大統領の方程式のようにはいくべきではないですね。
司会者:現代のモラルとか、いろいろとお話が広がって興味深くお聞きしました。
中西:私が言っている「方便」がね、頭脳のどういうような働きなのかはわかんないけれども。
司会者:「嘘も方便」の方便?
中野:言い換えれば「虚構」ですかね? 現実とは異なる物語があるわけですが、現実とは異なる物語を共有することで、トリッキーであるけれども、現実にある困難を乗り越えさせるということを我々はしばしばやるんですけど。それが方便ですよね。
本来、誰しもがそういうことを使える能力は持っているんですが。あまりにも自分の主義主張にこだわりすぎると、その物語をうまく使えないんです。物語性をうまく使って、虚構だけれども現実の困難を乗り越えるために使えるかどうか、という知恵を発揮できるかどうかが、すごく試されてる局面だなと思います。
中西:都合の良いサポートじゃないですか。
中野:そうですね。そういう意味では、本当は文学者はめちゃくちゃ大事なんですよ。
中西:それが文明というもんじゃないですかね。文明なんて虚妄ですよ。さっきバニティ(虚栄)明治って言ったけど、バニティ令和だってあっていいわけですよね。
中野:ああ。まさにそれですね。
中西:そのほうが、より聡明なんだ。
中野:そう思います。もし本当にロシアが自分たちのことを田舎だと思って卑屈になっているとするなら、「いや、ロシアは栄えてるんだ」と文化の上から自らを鼓舞してみせるのは有効かと思います。
それが虚栄であっても、自己肯定感を高めるために有効な虚栄であれば、価値のある虚栄ではないですか。それで戦争が回避できたり、人々の苦しみが取り除かれるなら、虚栄をうまく使うという知恵は選択肢として大いにあると思います。
中西:政治のリーダーそのものが虚栄じゃないですか。
中野:そうかもしれないですね。それはうまく使ってほしいですね。
中西:「私は聞き上手です」なんて今の総理大臣が言ったけど、あれも虚栄ですよ。
中野:(笑)。
中西:虚栄を虚栄として認めるっていう知恵は、国民にありますよ。それが政治というものなんだ、ぐらいはみんな知ってる。だから、正直な人というのは政治家には向きませんね。それは「馬鹿正直」です。
中野:それは人間ではないですね。
中西:血が通ってないですね。絵に描いたような統治者ですから。
中野:正直すぎる人は、おもしろくない人かもしれない。
中西:昔、良い時代はみんな女帝なんですよ。卑弥呼とかとかもね。
中野:ああ、虚構を巧みに使った。クレオパトラもそうでしたね(笑)。
中西:推古天皇、持統天皇もみんな。そうでなければ、女性が威張っていた北条政子の時代とかね。もう、みんな女性なんです。
中野:そうですね。イギリスも女王の時代に栄えてますね。
中西:イギリスもそうですね。女王の時代から繁栄。
司会者:ありがとうございます。
中野:今日は紛争理論から、武力衝突を回避するために虚構・虚栄を使いこなす知恵が重要だという提言まで、中西先生に縦横にお話を伺いました。技術の発達に伴って兵器も強力化し、その影響が後世にまで残りかねない時代となりました。
令和、美しい調和とは、単一では為し得ないもので、複数の異なる要素あってこそのものだと思います。ますますそれらを結ぶ、美しい虚構を支える文学の力、言葉の力が大切だと実感します。今日はありがとうございました。
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