2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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中西進氏(以下、中西):大きく言えば、ウクライナで起こっているような戦争と平和の問題があるでしょう? これは心理学とか脳科学から十分に考えられることだと思うし、戦争の時はどういう脳なのかとか、非常に興味のある発言ですよ。
中野信子氏(以下、中野):なるほど。
中西:これを載せたら、北日本新聞の売り上げが倍になるのよね(※2022年3月24日、本対談の記事が北日本新聞に掲載)。それを期待しているわけ。
中野:わかりました。でも脳科学から見た戦争と平和というのは、確かに重要なテーマですね。
中西:そうだね。やっぱりクレイジーでしょう?
中野:そうですね。
中西:だから戦争は一人ひとりの戦い。war(戦争)ではなくてbattle(戦い)のほうね。battleの力ってもう異常ですよ。
中野:そうですね。combat(戦闘)的な。
中西:combat、そうそう。撃てば向こうは死ぬんだからね。
中野:そうですよね。
中西:殺人なんて、普通は死刑でしょう。
中野:平時における殺人と戦場における殺人は、意味が真逆になってしまう。現象としては興味深いものなので、戦時の心理学を研究している人もいるくらいです。まず、生まれつき人を殺せるタイプの人と、そうでないタイプの人がいる。
中西:アグレッシブだということ?
中野:人を殺すのに痛みを感じない人のことです。数は多くはないんですが、100人に1人程度はいると言われています。この研究は人の興味を惹くようなので、知っている人もいると思うんですけど、第2次世界大戦中の空軍で敵機を撃墜した人っていうのが……。
中西:撃墜王。
中野:そう。撃墜王という人がいるんですよね。その撃墜王以外の人は何をしているのかというと、敵機に向けて撃つんだけど、意識してなのか無意識になのか(攻撃を)逸らしてしまうんですって。例えば「そこに家族のいる人が乗っているのだ」などと考えてしまって、撃てなかったと。
中西:あぁ、そう。
中野:撃とうと思っても、撃ち落とせなかった人がほとんどだったという。
中西:素人はいろいろ区分けをしないと成り立たないような気もするんだけど。職業軍人は(人を)殺すとか、素人の軍人傭兵みたいなのは撃てないとか、そういう区別はあるの?
中野:これは第2次世界大戦中の話なので、まだそこまで研究が進んでいなかった頃なんですね。戦闘用の飛行機も新しいものでしたし、戦術も試行錯誤的な部分が大きかったのでしょう。そんな時期に、敵機の半分を1人で撃ち落とした人がいるという現象が起きてしまった。
中西:戦った半分。
中野:そう。その人はためらいなく撃てた一方で、他の人はためらってしまって撃てなかった。実はそのためらいこそが、私たちの相手への共感とか、人を殺すことは許されないと無条件でブレーキをかける「良心」ということになります。こうした共感や良心のブレーキが働かない人が、100人のうち1人はいるということなんです。
撃墜王は決してアグレッシブな人というわけではない。ですが、他人の痛みを感じることはないという人で、相手をゲームのように撃ち落とせる人でもあります。ただ、そういう人が100人に1人しかいないとなると、戦闘としては非常に効率が悪い。
じゃあ、もっと効率よく戦闘を行うにはどうすればいいのかということで、軍として研究が進んだんです。殺しても心が痛まないように、例えば敵の影を見たら反射的にミサイルのボタンを押すようにするとか、敵方は人間ではないんだという刷り込みを行うとか、いろいろな方略があります。
そんな訓練がシステマティックに行われる以前は、例えばアメリカでは、ベトナム戦争ぐらいまでは帰還兵が平時の社会になじめずに非常に困ったそうです。それ以降は、戦場では戦場の振る舞いを、日常生活では日常生活の振る舞いをできるよう、次第にトレーニングも洗練されていったといいます。
まぁ、実際のところはどうなんでしょうね。アフガニスタンに行った兵士が、アメリカの田舎の自分の家に帰った時にどんなふうに思うのか。フラッシュバックしないのかなって。する人もいるんじゃないかなと思いますね。
中西:スピットファイアという戦闘機の別名は、「怒った猫」「かんしゃく持ち」らしいんですよね。高速で移動する相手の飛行機を落とす、ということに例えていることから言うと、異常なことじゃなくて、非常に体格的、性格的になっている。いわば生活のビヘイビア(振る舞い)に過ぎないようなことでもあれば、性格としての振る舞いでもあるわけでしょ。
そういう瞬間的なものなのか。いわゆるベトナム帰りというのは、(日常に)なじめなくて戦争を引きずってきた人たちですよね。『プラトーン』の映画にもありましたよね。ああいう戦争をしてきた人はもう性格が破壊されてしまっている。そんなふうにさまざまに考えていないと言えるのが常識じゃないかと思う。
中野:そうですね。
中西:今のお話はそうじゃなくて、生まれつきの性格として区別ができる。
中野:性格として区別ができるという人がいて、その上に、心理学的な技術として普通の人でも戦場に適応できるように良心の領域をオフにできるようになってきたということですかね。戦場にいる時は、相手の痛みを感じる領域はオフにして考えない。
人間を人間と思わないモードを作って、その“スイッチ”を入れているという言い方でもいいかもしれません。ですので、戦場での犯罪というか、民間人に対して略奪したり、家を燃やしたり、レイプしたりするのを、良心を備えているはずの普通の人でもできてしまうというわけなんですね。
中西:なるほどね。何万人という兵隊を募集するわけだから、そこまでしなければ戦争は成り立たないですよね。
中野:そういうことですよね。
中西:僕らは軍隊に招集された経験がないから想像でしかないけど、まずは一般人という集団から兵士という違った種への集団の中に送り込む。それが招集するということで、(良心のスイッチをオフにした)人間でなければ戦争には耐えられない。
実際に鉄砲を撃たれる身じゃないから、脱走したりヘジテイトすると考えていたわけね。その時に何が働くかと言ったら、相手を殺さなければ自分が殺される。
中野:そうですね。
中西:だから、しゃにむに殺すということは自分を助けることになる。そうとしか考えなかったんだけれども、「相手にも妻子がいるだろう」「日常生活があるだろう」と考える人が多いというのが今の話。
中野:そうですね。もともと私たちは、そういうことを考える領域を前頭前野の中に持っているんですね。前頭前野の機能は非常に高次なものなんですが、一方で麻痺しやすいというか、オフになりやすいと考えられるんです。
どういう時にオフになりやすいかというと、眠い時や疲れている時、非常に激しい訓練で頭にまでリソースを回せない時、アルコールを摂取している時、それから非常に強い欲がある時ですね。
中西:いずれもアブノーマルな状況ですよね。
中野:そういえると思います。
中西:それでもやっぱり、人間性というのは信じることができるんだろうか?
中野:「人間性」をどう定義するかによりますかね。
中西:日経新聞に日経アジア賞というのがあって、文化部門の座長を20年くらいやっていましてね。『戦争の悲しみ』という本を書いた元ベトコン(南ベトナム解放民族戦線の俗称)の北ベトナムの人を選んだんですよ。僕は握手をしたことがあるし、その写真もあるんだけれども、本人と会った時に「異常な状態に自分を置いてしまったら、それでいけるんだ」と言っていましたからね。
中野:それは興味深い発言ですよね。「異常な状況に置く」ということが、たぶん良心の領域をオフにするということなんだと思うんですよね。
中西:別種の人間を作り上げるという。
中野:そういうことですよね。もし戦争に特化した人間を育てるとしたら、そうなると思います。
中西:職業軍人ですよね。あるいは、正規兵というか。
中野:ちょっと怖さを感じますよね。
中西:今度はロシアには非正規兵が多いみたいですね。
中野:呼び寄せているとも言われていますね。
中西:いろんな強いところからわざわざ職業軍人を集めているけど、それが種が尽きたら一般の人間に手を出すしかないでしょ。だから怖いですよね。
中野:そうですね。民間人の一人ひとりが銃を取るような時代が来て、効率的な訓練が施されるとしたら、非常に恐ろしいことが起きかねないなと思います。一方で、先ほど「異常な状態」とおっしゃった、良心の領域がオフになるということが、私たちのネット社会だと、すでにけっこう起きやすい状況になっているようにも思うんですよね。
中西:そう、そう。そのことを病気として考えるか、1つの症状として考えるか。
中野:あぁ、自分は症状だと考えます。
中西:症状ならばまだ可能性があるけど、別になってしまうと大変だと。さて、その2つの領域を今問題にしているんだけれど、非常に紙一重で、日常生活の平穏を装ったような社会で潜在的に起きているんじゃないかという気がするの。その時の説明として、「あなた」と「私」というものの区別がなくなる。
中野:あぁ、おもしろいですね。
中西:例えば、最近は刃物を持って出掛ける人間が、いきなり(他人を)殺そうとして「お前どうしたんだ」と聞いたら、「自分は死にたかったんだ」と。だから「早く死刑になって殺してほしかった」と告白をする人が1人にとどまらないんですよね。
みんな「死にたいからそういうことをした」と言う。それは、自分で自分を殺せばいいのに殺せなくって、自分を殺すために他者を殺すということでしょう。だから「私とあなた」とか「私と彼」というものが混乱している。
中野:なるほど。混乱しているというか、相手を意思のないものとして扱っていて、人間と思っていないのではないでしょうか。つまり、自分の命を絶つための間接的な道具とみなしている。
中西:それならまだ、救われようがあると思います。
中野:と、なると……?
中西:自分も生きている、自分はなかなか死にきれない。殺す相手が物だったら自分のサンプルになりませんよね。だから、あくまでも切れば血が飛ぶような生身の人間であって、はじめて「自分は殺せる」と納得できるという論理だと思ったのね。
中野:なるほどなぁ。自己へのまなざしがリスペクトを欠いたものになることが、自他の境の散逸につながっていくということなのか。
中西:対象と自己の特異性は、こういう生活がシステム化してくるとどんどん失っていくでしょう。機械化された近代文明の発達の中で、one of themとして自分も彼と考えるという社会が増えているんじゃないか。
中野:そうですね。少なくとも、均質化される方向にはすごく圧力がかかっていると思えるんですよね。これは人間だけではないんですけれども、多くの生物種では有性生殖をします。有性生殖は相手に出会わないといけないし、そのうえで相手を選ばないといけませんから、かなり労力も時間もかかりますし、コストとしては高いんですよね。
なので環境の圧力がなくなれば、自分1人で子どもを作れるように単為生殖側に寄ろうとする。でも、単為生殖をすると遺伝的多様性が減じてしまうので、疫病や感染症など、単一の要因によって種すべてが死に絶えてしまうということが起こりやすくなります。だから、わざわざコストをかけて有性生殖をしているんですよね。
それほど多様性は大事で、コストをかける価値があるものなんです。だけど、レイヤーが1つ上の認知の次元から見ると、「みんなのようでなくてはならない」「みんなやっている」と言われると、私だけやっていないことが罪なような気がしてしまう。
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