正確なデータを吸い上げる、業務アプリの価値と重要性

安藤昭太氏(以下、安藤):たぶんこの何日間か、ITトレンドのセッションの中にもAIやデータ分析はたくさんあると思うんですけど。エンジニアの観点から言っても、やっぱり僕自身は「Platio(プラティオ)」のようにラストワンマイルがちゃんとデジタル化されて、正確なデータがちゃんと吸い上がってくるところはすごく価値があるなと思っています。

そのデータが正しければ、分析するだけでも価値があるけど、紙で書いたものをExcelに転記する時点で、データが間違った情報になったらもう……。

平野洋一郎氏(以下、平野):タイプミスとかありますよね。

安藤:そうすると、何億円かけてAIを作っても、入ってくるデータがおかしければもうアウトじゃないですか。そこができるのは、業務アプリを作れるもう1つの良さですね。僕は経営の方が考える良さかなとも思いますね。

平野:おっしゃったとおり、実際にラストワンマイルはこれまで紙に書くとか、移動してExcelに入力することがとても多いんですよね。ここをいかにモバイルで、現場で、その場でできるかですよね。

あとは正確性というところでいうと、例えば「Platio」は、現在の地図上の位置を自動で得られるんです。普通、スマホにはGPSの機能がありますからね。

自治体の事例として、熊本県の阿蘇郡小国町で職員の方が開発された、災害状況を報告するアプリがあります。山奥の町なので、災害時にはがけ崩れや橋が渡れないといった、いろいろなことが起こるんですね。

これまでは現場に行ってデジカメで写真を撮り、状況を紙に書きます。それで今度は役場に戻って、大きな地図で「この辺だったよな」とポイントして、デジカメのSDカードから読み上げてサーバーに入れる、といったことをやってらっしゃったんです。

これが「Platio」のアプリだと、現場で写真を撮ればGPSは自動で入ります。役場に取得データが共有されるから、早いし正確ですよね。しかも災害の時にいちいち全員が役場に行く必要もないわけです。本当にモバイルを活かして、現場がかなり改善できるんですね。

現場のDXを月額2万円で始められる、導入ハードルの低さ

安藤先ほどの京セラさんは企業なので、要は経営者が「やろう」となったらやれますよね。自治体はけっこうハードルが高いのかなと思うのですが、一般企業との違いはありますか?

平野:違いもあるし、実は同じようなところもあるんですね。違いは、やっぱり議会での意思決定というところです。予算執行がある程度以上になるとかなり厳しくて、年単位になってしまうところですね。ですから、なんとかシステムを入れる時は、だいたい年単位ですね。

安藤:そういう入札は、絶対相見積もりを取って、という感じですよね。

平野:はい。もう1つ違うのは、基本的には首長の方が選挙で選ばれるので、それ次第で突然方針が変わることもあるんですね。やっぱり数百万円、数千万円という大きな予算になると、なかなか長期で考えることができないんです。

ここでポイントなのが、「Platio」は実は月額2万円なんです。そのため、議会などではなくて、現場で改善をするために取っていたような予算で実現できます。小国町の事例は、まさにそうなんですよね。

安藤:そうですよね。ノーコードで安くなったり無料期間があったりと、いろいろあると思うんですけど。安さばかりを訴求するのはちょっと違うなと思うんですけど、最初の導入のハードルが低いことはすごく大事ですし。

例えば、今日僕らは「Platio」の話をたくさんしているので、視聴されている方がこの後使ってみるということも、できなくはないじゃないですか。すぐ体験できることはノーコードの良さだなとすごく思いますね。

平野:そうですね。スピードが早いのがなぜかというと、まさに安藤さんが先ほど(前半で)おっしゃったように、コミュニケーションが少なくて済むんですよね。やっぱり、現場が不便を感じて「こういうのが欲しい」と、IT部門に要望を出すだけでも随分時間がかかる。

さらにプラスで、予算措置が大きな金額になるほど時間がかかる。「今も災害が起きてるんです、でもシステムができるのは2年後です」みたいなことがあります。この小国町のシステムも2日で作られたんです。

エンジニア不足の解決のカギは「ノーコード」

安藤:いろいろな事例を聞く限りでは、災害もそうですし、何かが起きてすぐ対応しないといけない時にノーコードを使うと。それは日本国内もそうだし、例えば海外だと、コロナ対応のところは全部無料で使っていいですよ、というツールもけっこう出ています。ちょうど2020年ぐらいに、バーッとノーコードが増えたタイミングでもあったので。

平野:アステリアもコロナ禍が始まった時に、検温や業務報告が必要だといった、いろいろな会社の突然の要求に対して、半年間無償で「Platio」を提供していました。

安藤:今回はあまり触れられないんですが、アステリアさんの製品で「Gravio(グラヴィオ)」という、IoTをノーコードで実現するというものがありますよね。最初僕もびっくりしてたんですけど、ちょうど本で、病院の事例をインタビューさせていただいたんです。

コロナ禍で密な状況を避けるために換気をしないといけないんだけど、換気しすぎるとエアコンの温度が下がって病院の患者さんが困ってしまう。そこで、担当者の方がIoTのセンサーでCO2を測って換気していました。業務用のアプリもあるし、そういったIoTの製品もあるし、データ連携もあるというように、全部が揃っているのはすごく強みだなと思います。

あと、今はノーコード、ローコードという話がけっこうあって、両方並べられると思うんです。ローコードでもやれなくはない中で、あえてノーコードでがんばってやっているというか。エンジニアリングの裏側の人たちは大変だと思うんですけど、あえてノーコードでやるのはなぜですか?

平野:最初の「ASTERIA Warp(アステリア・ワープ)」の開発もそうなんですが、エンジニアじゃなければコンピュータを制御できないという状況をなんとかしたかったんですね。

私たちが「ASTERIA Warp」を出した2002年も「エンジニアが何万人も不足してます」と言われていて、今でも言われるじゃないですか。ずっと言われている中で、エンジニアではない人たちがコンピュータを動かせたら、もう一気に解決するわけですよね。

最初の「ASTERIA Warp」はシステム間のデータ連携なので、システムのことが理解できる人が使うものでした。でも、「Platio」は、もうモバイルアプリですから、現場でいいわけですよね。

エンジニアを育てないと日本の未来がないということを解消したかったし。今から小学生にコーディングを教えたって、手遅れなわけですよ。20年後の話になっちゃいますから。

そうじゃなくて、私たちの強みを使って「今すぐ何ができますか?」ということ。やっぱり、ノンエンジニアの人たちがコンピュータを、自分たちのロジックで動かせることがとても大事だと考えています。

既存社員がノーコードを学ぶことが人材不足解消の近道

安藤:確かにそうですね。今回のテーマにも「人材不足」と入っていて、僕らの中でも今、エンジニアじゃない人がどうITを使うかという話をしていると思うんですけど。

僕自身も人材不足という経営課題が上がった時に、すぐ新しい人材を持ってこようとする経営者の方たちが多いと思っています。エンジニアの人数が限られているので、採用がめちゃくちゃ難しいという話をすごくよく聞きます。

今いる既存の社員がITを得意になることは、人材不足を解消するうえでの1つの大きな役割だなと思っています。そういう意味だと、さっきの「Platio」のように、現場の人たちが少し時間を使って学ぶ。それを管理職の方や経営陣の方たちが少しサポートする。

時間をちょっと空けてもらって使ってもらうことが、人材不足を解消するための分かりやすい一歩であり、明日からでもすぐできることかなと思いますね。

平野:もうまさにそうだと思っています。先ほどの倉庫の例で言うと、事務所を行ったり来たりするとか、Excelに転記する。この時間より短くてもできるわけですよ。最初の習得のための期間を1ヶ月ぐらいで考えれば、圧倒的に短い時間で「Platio」のアプリができていますから。

安藤:そうですよね。今回のイベントの中にもいくつかノーコードの話がありますし、インターネットやタクシー広告などでも、ノーコードと出てきますよね。みなさん「ノーコードはこういうものだよね」と分かってはいるけど、分かった気になってるみたいな。

僕らが情報発信している時は、実際にツールを使ってみないと分からないところをすごく大事にしています。だから、「まず登録して使うところまで、一歩でいいから行こうよ」とお伝えしています。

今回の「Platio」はテンプレートもあるからすぐ使えるじゃないですか。だから実際に体験してほしいなと、すごく思いますね。

ノーコードは使って体感してみるもの

平野:セミナーや問い合わせで「ノーコードは技術だ」と、よく誤解されている方がいらっしゃるんですよね。「いや、技術じゃない」と。ブロックチェーンなどとは違うんです。やっぱり、ノーコードは使って体感してみるものなんですよね。

安藤:そこは僕自身もよく情報発信をしています。やっぱりAIやブロックチェーンは既存の技術の組み合わせなんだけど、概念として新しいものなんですよね。

でも、ノーコードは技術的な新しい概念ではない。技術用語ではないと。僕は最近、「マーケティング用語です」という、ちょっと強めの言い方をしてるんですけど。

なぜマーケティング用語として伝えることでポジティブに受け入れられるかというと、ノーコードができることによって、エンジニアじゃない人たちの「俺もできる感」が生まれると、すごく感じているんです。そこをもっとノーコードとして広めたいと思いますね。

逆に元エンジニアとして言うと、エンジニアの人たちはノーコードと言われているところに恐怖を感じないでほしいというか。みなさんはみなさんで必要です。僕も今もコードを書いていますけど。

平野:そうですね。確かにそういった側面があります。私たちが2002年に「ASTERIA Warp」を出した時に、大手システムインテグレータの方々からかなり抵抗圧力がありました(笑)。やっぱり、コーディングをしなくてよくなるわけですよね。例えば、3ヶ月と言われていたものが3日ぐらいでできたとなると、売上の元になるSIerさんの人月が減る。

随分抵抗もあったんですが、今はかなり理解をしていただいてます。販売パートナーのうち、SIerさんだけでトータル50社以上も販売いただいて、エンドユーザーにどういった価値があるかをご理解いただいています。

SIerさんがやれるところは、やっぱり個々の企業のことをご存知ですから。そこでやれることをしっかりやっていただいているという構図になってきてますよね。

現場だけではなく、エンジニアの非効率な作業も減るメリット

安藤:そうですね。ユーザーではないエンジニアの観点からしても、エンジニアは効率的に仕事をしていそうで、めちゃくちゃ無駄な作業がたくさんあるんですよね。テストをして、その結果をExcelに貼るようなことをずっとやっていたり。

そういうスクラッチで作るんじゃないと。僕らも、例えば「Platio」を導入する時は、自分でコードを書かないからバグが少ないし、すぐ導入できる。余剰の時間はAIの勉強などに使ってほしい。その分、エンジニアじゃない人たちに「もっとノーコードを使うと良いですよ」と言ってほしいなとすごく思いますね。

平野:そうですよね。企業の情報システム部門だって、いつも人手不足でバックログの積み上げみたいになってるじゃないですか。その解消にもつながるわけですよね。現場の課題を現場で解決できて、しかもレスポンスも早い。

現場で作るので、よくあるように、3ヶ月後ぐらいにできあがってから「思ったのと違う」ということがないわけですよね。

安藤:そうですよね。情報システム部門もよく分からない問い合わせをすごくたくさん受けるし、みんなが「いろんなシステムを作りたい」と言って、パンクしている。そうしたブラックな働き方も、ノーコードでかなり改善されそうな気がします。

平野:改善されると思います。一瞬、勝手にやられると自分たちの仕事が増えるような感覚に陥る方もいらっしゃるかと思うんですが、ノーコードがここまで来ると、もう現場で解決できますからね。

安藤:うまく現場で解決できるものは現場に権限を移譲していって、情シスでなければならないコアに注力していただければ、もっとみんなが働きやすくなるよねと。実際エンドユーザーさんも、さらにそのエンドのユーザーさんもすごくハッピーだと感じるかなと思います。

変化の早いITトレンドを取り入れるかどうかが、未来への分岐点

平野:でも、元大手SIerさんにいらっしゃったところからすると、コンピュータの発展は早いですから、今までやっていたことをやらなくてよくなるようなことは、安藤さんがいらっしゃった間にはなかったですか?

安藤:ありました。2006年入社なんですが、10年前と言ったらいいか、16年ぐらい前と言ったらいいのかな。その間にクラウドが出てきました。

平野:そのぐらいからグッと来ましたね。

安藤:クラウドのインパクトがけっこう大きかったです。僕らは当時、システムと一緒にサーバも売っていたんですよね。

自社でサーバをいくら売れるかということが、利益の源泉だったりするわけです。それがクラウドになると、必要なくなるじゃないですか。全部クラウドにいってしまうので、社内から「何やってくれてんだ」という、後ろから撃たれる感じがものすごくありました。

平野:外からじゃなくて社内なんですね(笑)。

安藤:でも、お客さんはクラウドにしたいわけです。それはたぶん、ノーコードも一緒で。自分たちはノーコードにしたいけど、情シスの人は後ろ側から撃たれるような感じで、めちゃくちゃ抵抗があるんじゃないかという。

それはITがどんどん発展していく中での軋轢というか、どうしても出てくるんだろうなというところでもあります。ただ一方で、そこで戦う人たちがいないと仕事の能率が上がらないし、仕事の環境も良くならないところがあるかなと思います。

平野:そうですね。でも、そういうITのトレンドや流れは、ある意味止められないじゃないですか。しかもスピードが早い。そこを取り入れて新しいビジネスにするのか、それとも固執して抵抗するのか。ここで未来が分かれそうな気がしますよね。

安藤:分かれます。たぶん、この「ITトレンドEXPO」に来られる方は前者というか、実際にどんどん使っていこうと情報を獲得されてる方が多いと思います。まずは、そのアーリーアダプターの人たちがどんどん使っていくことが、特にノーコードでは大事だと思いますし、それができるのが良さだという感じがします。

平野:ノーコードならではのスピード感ですよね。早く結果が見えるので、そこから先に進めたり、横に広げるといったことがやりやすいですよね。

国産のノーコードツールが成長する理由と海外製品との違い

安藤:あとはノーコードの文脈でけっこう言われるのが、海外のツールを使ってみる方が多くて、国内のツールがないがしろにされがちなところがけっこうあるんですよ。

海外のツールのほうがたくさん機能があるし、英語の情報があって、使えるような気はするんですけど。やっぱり、国内のノーコードツールはサポートがすごく充実してるし、事例がたくさんあって、親身になって寄り添ってサポートしてくれるんですよ。

それはやっぱり国産の強みだし、特にアステリアさんたちがちゃんとサポートをしているというメリットがすごく大きいかなと思います。

平野:私は、実は起業する前は外資系のソフトウェアベンダーに10年勤めていました。やっぱり日系の企業との違いはありますよ。

1つは、ソフトウェアそのものの品質に関して、エンジニアが自分のところだけでやるのか、全体のクオリティを気にするのか。あと1つはやっぱりサポートですね。サポートも、「使えないのはあんたが悪いのよ」的なことは、日本ではまずない(笑)。

安藤:あります、そうです(笑)。

平野:「マニュアルに書いてるでしょ。以上、終わり」ということはまずないので。こういったところは、たぶん使っていただくと感じていただけるんじゃないですかね。

安藤:そうですね。海外のツールは本当に「僕らお客さんと一緒にやってるから、このシステムの仕様は絶対できないといけないんです」とめちゃくちゃ切実な理由を書いても、その返信が「No」と返ってくることがあるんですよ。

平野:(笑)。

安藤:「No」と返ってくるだけということがあって。いやいや、みたいな(笑)。それは国産ではありえないじゃないですか。ちゃんと連絡取ってくれるし。

平野:ないですね。

安藤:ましてやQ&Aのチケットを無視することはない。そこはまず国産を使ってもらうことの良さですね。ノーコードを海外のツールで作ると、そのへんが曖昧なので、「なんかノーコードって使えないよね」みたいなのが出ちゃう。

平野:そっちにいっちゃうとちょっと嫌ですね。今はやっぱり国産も随分増えてきています。もちろんうちだけじゃなくて、例えばサイボウズ社の「kintone」なども増えているので、まず使っていただきたいというのはありますね。

安藤:特に業務系のシステムは日本語が良いなと思います。新規のサービスを作るのであれば、海外のものでもぜんぜん良い気がするんですけど。業務システムはやっぱり安定稼働も大事ですし、セキュリティがちゃんとしていて、何か起きた時にサポートが必要なところもあると思うので、日本で作られているのは良いかなとすごく感じますね。

平野:まさに安藤さんが起業されたNPOや社会貢献活動のようなところも、やっぱりサポートが大事ですよね。

安藤:そうなんです。スタートアップもそうですけど、ITの人材がまずいないので。現場の人たちが直接サポートに問いかけて、すごくテクニカルな言葉で返ってくるとわからないじゃないですか。だから、サポートはすごく大事です。それは中小企業にも、スタートアップにも言えることかなと思いますね。

ノーコードツールは、DXのはじめの一歩に最適

平野:中小企業という話が出ましたが、実はこの「Platio」のような新しいノーコードツールは、やっぱり中小企業ほど向いてるんですよ。

スピードやコストだけではなくて、大企業さんはけっこうシステムができあがっていて「こういうことやりたい」「いや、ここでこうできる。めちゃくちゃ不便だけど」ということがあるので。実は中小企業や今までITを入れてないところにとっても、このノーコードは大きなチャンスじゃないかと考えています。

安藤:選択肢として増やしてほしいですよね。現場の人たちも、経営者の方も、ITの予算を握っている方もそうですけど、ノーコードを新しい選択肢と考えていただけたら、すごくいいかなと思いますね。

平野:そうですね。世の中では「DX」と言われてます。デジタルでトランスフォームして変えていくということなんですが、本当に幅広く現場まで含めて、もしくはNPOや社会活動まで含めて、デジタルの良さで変えていく。そこにノーコードが本当に貢献できるんではないかと私は信じているんですけど、どうですか?

安藤:私もそれはすごく思います。まずは「ビジネスのデジタル化が本当のDXですよ」という話があると思うんです。確かに大上段としてはそういう話なんだけど、今おっしゃったみたいに紙をアプリにしてデジタル化することがないと、そもそもビジネスはデジタル化できないよね、というところがあるので。

そこはいわゆる経産省や海外で言われているDXとは切り離して、「自社のDXをどういう順番にするんだっけ?」となった時に、まずは現場の紙をデータ化しましょう、というところが大事なんじゃないかなと、すごく感じますね。

平野:そのとおりですね。これからもぜひご一緒に、このノーコードを日本の中で広めていきましょう。

安藤:盛り上げていきたいと思います。

平野:日本を変えていきましょう。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

安藤:ありがとうございました。