18年アメリカの教育を子どもに受けさせた経験
ピグマリオン恵美子氏(以下、ピグマリオン):それではさっそく始めていきたいと思います。グローバルキッズを育てるスペシャル対談、今回はCEOキッズアカデミーのイゲット千恵子先生に来ていただいてます。ありがとうございます。
イゲット千恵子氏(以下、イゲット):こんばんは。よろしくお願いします。
ピグマリオン:先生、ちょうど本を出版されたところなんですけれども、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
イゲット:はい。私はイゲット千恵子と申します。ハワイに18年住んでおりまして、今回2月14日に『親は9割お世話をやめていい』という2冊目の本を出版させていただきました。
今回はそのキャンペーンとして、2月の頭から隔離生活を経て、今は日本全国を行脚しております。そして今はちょうど伊勢におります(笑)。伊勢の旅館にいるんですけれども。
ピグマリオン:いいですね。
イゲット:今日は浴衣にしようかどうしようかと思ったんですが、ちゃんと洋服を着てまいりました(笑)。
子どもが3歳の時にアメリカに教育移住して、18年アメリカの教育を子どもに受けさせた経験から、1冊目は『経営者を育てるハワイの親、労働者を育てる日本の親』という本を、4年前に出版させていただきました。今回の2冊目の本は先週出たばっかりです。
おかげさまで売れ行きも好調です。もう今日も読んでくださっている方がいらっしゃると思うんですけれども、まだという方は、ぜひ興味を持っていただけたらと思っております。
英語だけできても、グローバルな人材にはなれない
ピグマリオン:ありがとうございました。私も自己紹介させていただきます。初めましての方もいらっしゃいますよね。私、ピグマリオン恵美子と申します。ちょっと名前も似てるんですけど、一般社団法人グローバルキッズマムの代表理事を務めております。
私には子どもが3人います。(2021年3月時点で)小学校2年生、4年生、6年生の子どもなんですけれども、6年生の子が生まれた時に、「やっぱりこれからは英語かな」と思ったわけなんですよ。
だけど自分もしゃべれないし、12年前の日本では「赤ちゃんに英語を教えるなんて何考えてんの?」という時代だったんですよね。すごく誹謗中傷されたりしたんです。
これではしょうがないので、自分で英語サークルを作り、先生を呼んで。これが英語教室の一番最初の立ち上げになったわけなんですけれども。そんな感じで始めたことが、今は「英語学校」と呼んでいるんですけれども、13年目になりまして。
ただ、やっていく中で「英語だけできてもだめだな」と。千恵子さんの著書にいっぱい書かれていますけど、英語だけできても、グローバルな人材にはなれないわけですよね。カリキュラムですとか、あるいはその専門家の方々からもいろんなエッセンスをいただきまして、グローバル教育を東京都杉並のスクールでやっています。
そこからグローバル教育を取り出して、今一般社団法人で、教材や母親講座のかたちで取り組ませていただいてます。なので、今日の参加者の中にはうちの講座に参加中のお母さまですとか、教材を使ってくださっている方もいると思います。
子育てしながらフルタイムで働き、キャリアを築くアメリカの母親たち
ピグマリオン:私はすでにイゲット先生の本は読んだんですけれども、けっこう衝撃的な内容ですよね。
イゲット:え、そうですか?(笑)。
ピグマリオン:びっくりするような……。今日ご参加のみなさんでも、もう読んでいただいている方は多いかなと思うんですけれども。みなさんどこが刺さりましたか?
イゲット:まず、タイトルで『親は9割お世話をやめていい』って言うから、「え、しなくていいの?」って思ってた方もいらっしゃると思うんです。本当に、今のお母さんたちはあっちもこっちも、これもやらなきゃあれもやらなきゃって、忙しくされている方が多いと思うんです。
それを短い時間に、1割の時間にぎゅっと凝縮させて、効率よく子育てを教えなければならないことだったりとか、短い時間で子どもに愛情を与える方法だったりを、この本で書かせていただいたんですね。
私もアメリカで18年子どもを育てている中で、アメリカのお母さんたちには「働くお母さん」がとても多い。そのアメリカのお母さんたちは、すごく上手に、子育てしながらフルタイムのお仕事をして、キャリアがあるんです。さらに学校行事の役員をやったり、部活のスポーツマム(Sports mom)とかをやったり、いろんな活動をしながらも、子どもを上手に育てている方がすごくたくさんいらっしゃいました。
これはすごく参考になるぞと私も思ったので、いいところは真似させてもらったり。また逆に、日本のお母さんたちにも「こういう方法があるよ」とお伝えできたら、もっともっとみなさん子育てが楽しくなるし。
今までの「これをやんなくちゃ」と思っていた肩の荷が下りたらいいなぁと思って、この本を書かせていただきました。
昭和の専業主婦時代から続く“小さい介護”
ピグマリオン:そうなんですね。確かにいろいろ海外のお話を聞くと、日本のお母さんの家事労働時間、育児労働時間はだんとつに長いと……。
イゲット:長い。私はこれを「小さい介護」と呼んでいます。お世話型の昭和の専業主婦時代から、子どもも身の回りの「お世話」から始まって、すべてお母さんたちが「やってあげる」というのが長きにわたって習慣づいてきた。私自身も母が専業主婦だったからそうやって育てられたし、「お母さんがしてくれるのが当たり前でしょ」という感じで来たところがあるんです。
でも時代が変わって、求められる人材も変わってきている中で、やっぱり私たちが同じような子育てをして同じような人間をたくさん育てても、「あれ、ちょっと日本の経済やばいぞ」とか、「このままの教育だったらまずいんじゃないか」って、薄々は気がついてるんです。でもどうしていいのかわかんない。
変わった方法をやっている人もいないなぁって、きっとみなさんも疑問に思っていることとかあったと思うんですね。今息子が21歳になるんですけれども、私が20年前子どもを妊娠した時に、「20年後の経済のいい国を選べたらいいな」と思ったので、アメリカで出産をして、子どもに日本とアメリカの二重国籍を取らせることをしたんですね。
「海外に住んでいるからバイリンガルになれる」とは限らない
イゲット:その時、もちろん英語は絶対にマストだと思っていたので、英語教育以外の選択肢が逆にまったく私の頭の中にはなかったんですね。子どもが生まれた時から3歳まで日本にいたんですけれども、日本にいる間もずっと英語のテレビとかビデオとかを見せ続けていました。逆に私との会話は必ず日本語で、それをずーっと続けて、今21歳になるんですけれども。
海外に住んでるからバイリンガルにすぐなれるかというと、実はすごく難しい。バイリンガルになれていない人たちも、たくさんいらっしゃるんですね。みなさんも「海外に行ってるからバイリンガルになれるんでしょ」と思われると思うんですけど、ぜんぜんそんなことないんです。
日本国内のバイリンガルの方もたくさんいらっしゃるので、これって親の努力の賜物じゃないか。そうじゃない限りは、バイリンガルに育てるのは実はすごく難しいんだと私自身も実感していました。
なので、息子が(私に)英語でしゃべりかけても、無視。私は日本語でしかお答えできませんという感じで、メールのやり取りからLINEとかそういったもののやり取りも、全部私との間は日本語で徹する。学校に行ったら英語というかたちで、バイリンガルに育てることを目標にしてきたんです。
時給3,700円のマクドナルドに誰も働きに来ない背景
イゲット:なぜ私が英語にすごくこだわったかというと、やはり世界には「グローバル賃金」があるからです。今現在、ニューヨークのマクドナルドは時給35ドルなんですね。びっくりするでしょ。35ドル、つまり3,700円なんですよ。
ピグマリオン:へぇ〜。
イゲット:日本はたぶん1,000円とか、東京だったら1,100円とか、そのくらいだと思う。約3倍違うんですね。でも時給3,700円出しても、誰も働きに来ないんですよ。それはなぜだと思いますか? このコロナ禍で「不特定多数の人に会う仕事はリスクの高い仕事」といって、3K(きつい、汚い、危険)のような仕事(の扱い)になってしまっているんですね。
この2年間のコロナの間に、リモートワークをしたい人やITに転職した人たちがたくさん出てきて、その反面、不特定多数の人に会う仕事はお金をいくら積んでもやってくれる人がいないというのが現状なんですね。そうすると、同じ日本で育っても、もしかしたら日本にいて他の国の仕事を受けたほうが圧倒的にお給料が高い仕事がたくさんあるんですよね。
そのチケットをつかむには、やっぱり英語力が絶対必要です。日本語って日本でしか使えない言語なわけですよね。他の国で第3言語として取り入れられているアジアの言語は中国語です。昔、日本の経済がいい時には、日本語という第3言語、第2言語をとる需要があったんですけど、今はもうなくなっています。
なので、ちょっと衰退してしまう言語というかたち。例えばハワイアンのハワイ語とかと同じような感じに扱われているなと感じます。
ピグマリオン:絶滅言語(消滅危機言語)ってことですか?
イゲット:そう。だからそういう意味で、日本もどんどん少子化になって人口がどんどん減ってきてしまった場合、そういったかたちになっていく可能性が出てくる。
「世界で稼げる人」を育てるには、英語力は必須
イゲット:韓国を想像してもらうといいんじゃないかなと思うんです。韓国はいろんなエンターテインメントも含めて、世界に向けて英語の力を(つけさせようと、)学生の時に留学させたり、親がすごく教育熱心にやるんです。そういう子に関しては、世界で稼げるようになっていると思うんですね。日本はそこを追いかけるかたちになるんじゃないかなと思っています。
あと海外から見ると、日本は物価が非常に安い国、または賃金が非常に安い国です。賃金が安くても30年間文句も言わずにみんなきちっと働いてくれるという意味では、非常に雇いやすいです。あとは会社も購入しやすいし、買いたい会社がたくさんあるんですよね。そうすると日本の企業も、明日から海外の会社に買われてしまって、ボスがアメリカ人もしくはインド人、もしくは中国人に変わることがあり得るわけですよね。
そんな時に、みなさんのお子さんが日本語しかできなかったら。明日から共通語は英語ですとなった場合、ちょっと困っちゃいますよね。
エリート校でずっと育ててきて、すごく有名な大学を出したけど、英語ができないばっかりに、日本語以外の言語ができないばっかりに出世の道が閉ざされてしまう。いきなりオーナーが変わったことによって人生が変わることがあり得るわけですよね。
例えば今みたいに戦争が起きた場合も、アナウンスが英語だと聞き取れなかったりするわけですよね。そうすると危険を回避することもできなくなっていくんじゃないか。やっぱり今後のことを考えると、どうしても英語力はあったほうがいいんです。
「英語ができたらチャンスもある」と子どもにもきちんと伝える
イゲット:子どものやりたい・やりたくないとか、そんなことを聞いてる場合じゃなくて。もう絶対にやらなかったら、お給料が安くなっちゃいます。お子さんたちにも、どんどん積極的に「英語を学ぶとこういうメリットがある」と、メリットをたくさん話してあげる。それによって「やっぱりやんないと嫌だよね」「同じマクドナルドで働くんだったら、ニューヨークのほうがいいよね」と。
英語ができたらチャンスもあるんだと親が情報として得て、それをきちっと子どもたちに伝えてあげることによって、子どもたちの視野がすごく広がると思うんです。
なるべく私たち親も、いろんな情報がある中でどの情報が自分にとっていい情報かとか、どういった情報をうちの子どもたちには伝えようかとか、取捨選択するための1つとして「お母さんの情報収集力」がすごく重要になっています。そういった内容も含めて本にはたくさん書かせていただきました。
ピグマリオン:具体的に書いていただいてますもんね。この本を読んだりお話を聞いていて感じることで、英語に関してもですけど、子どものお世話を9割やめるには親の覚悟がいりますよね。
イゲット:そうですね。腹のくくり方が違うと思います。
ピグマリオン:まだ本を読んでない方は、読まれると腹落ちすると思います。子どもに「英語やだ」とか「ママやって」って言われて、自分もずるずるやっちゃってて、このままで本当にいいのかというところで、千恵子さんの顔を思い出しますもんね。
イゲット:(笑)。確かに。
自分のことが自分でできると、他の人を助け、人から愛される子になれる
イゲット:私の場合も、もともと離婚から始まった子育てだったので、「私が死んじゃったらどうしよう」「残されたこの子はどうしたらいいか」って。
ピグマリオン:ご本の中でも書いていただいてましたよね。お子さんが2歳の時に離婚されて。
イゲット:そうなんですね。膠原(こうげん)病になってしまったこともあって、いつ死んでしまうかわからない状況でした。みなさんもそうだと思うんですけれど、もし明日、何かの不慮の事故で亡くなった場合、お子さんはどうします?
「ママ、あれはどこにあるの?」とか、全部お母さんに聞かなかったらわからないお父さんと子どもを残していくって、もう本当に不幸なスタートだと思うんですよね。
それで私は本当にちっちゃいうちから、この子が例え1人になっちゃっても、人から愛されて誰かにかわいがってもらって、他人の人とも仲良くできて、幸せなライフスタイルが自分の手でつかめるようにしておきたいなと思ったんです。
まず、どんな武器を持たせてあげたらいいんだろうかと考えたんですよ。そうすると、やっぱり自分のことは自分でできたほうが絶対にいい。それ以上に他の人のことを助けてあげることもできたら、「この人は親切な人だな」「いい人だよね」「人間力あるよね」「この子と一緒にいたら楽しいよね」という思いが増えていけば増えていくだけ、逆に誰かに助けてもらえたり、誰かにご飯を食べさせてもらえたりするんじゃないかなと思ったんです。
とにかく世界中どこに放しても生きていけるだけのスキルと知恵は、もう私たちが教えていかなければいけない。学校はそういったことを教えてくれる場所ではないですから。家庭の教育の中できっちりとやることをゴールとして決めておく。
子育ての時間は短いからこそ、「親子の関係」作りは重要
イゲット:あと、意外に子育ての時間ってすごく短い。アメリカの場合、特に18歳になって大学に入る時、最初の大学1年生は寮に入らなきゃいけない決まりがあるんです。みんな近くの大学に行っても、寮に入ったりして親元から離れるんですね。
その時に、例えば洗濯ができないとか料理ができないとか、いろんなところで「何のしつけもされてなかったのね」って、ちょっと恥ずかしい感じになってしまう。そうしないためにも18歳までにしつけておかなければならないこと、教えておかなければならないことがたくさんあるんです。
あと犯罪に巻き込まれないようにするにはどうしたらいいかとか、セクシャルハラスメントや差別をしないようにするとか、伝えておかなければならないことがすごくたくさんあるんです。
その期間が、例えば反抗期だったりしてもう何年もしゃべってないとか、ずっとLINEでしか言葉を交わしていないとか、そういった関係だと生涯「親子の関係」を修正することが難しくなってしまうと思うんですよね。
なので手元に子どもがいる間はコミュニケーションをたくさんとること。「なんでこの子は学校にいかないのかな」とか「なんでこの子が反抗するのかな」というのは、親とのコミュニケーションの中で解決できることがすごくたくさんある。そういったものも含めて、本の中にも書かせてもらいました。
うちは息子と今の旦那さんが「義理の親子」の関係だったので、その関係をどうやってうまく構築するかというのがすごく勉強になりました。自分自身も初めて離婚して、子どもは初めてお父さんがいない状況で、そこで再婚して。ステップファミリーはどうやって仲良く過ごしていくのか、息子を通して学ぶことがすごく多かったんです。
子どもは意外と、大人が思っている以上に大人だったりするんですよね。だから私も息子に何でも相談します。「ママ、こんな嫌なことあったんだよねぇ」とか「こういうこと言われたんだけどさぁ、どう思う?」と言ったら、「いや、それはママが悪いと思うよ」って言われる時もあるんです。
そういった意味では、一番そばで見てくれている相談相手のような感じです。私も腹を割って弱みを見せるし、向こうにも何か相談したい時には私にしてもらえるよう、すごく注意深く関係性作りをして、関係性を良くするための子育てをしてきました。