澤円氏×Unipos田中弦氏が対談
澤円氏(以下、澤):澤と申します。
田中弦氏(以下、田中):よろしくお願いします。
澤:ニアミスはちょこちょこしてたっすよね?
田中:そうですよね。たぶん、10回はしてるかなと思いますね。
澤:このナリですが、去年の8月末までサラリーマンを一応やっておりました。マイクロソフトで業務執行役員をやっておりまして、マイクロソフト テクノロジーセンターというエンジニアバックグラウンドだったので、テクノロジーを広くあまねく扱ってました。あとはサイバークライムセンターという、サイバー犯罪に関する情報発信なんかをしておりました。よろしくお願いします。
田中:よろしくお願いします。私はUniposの田中弦と申します。たぶん澤さんとは、ICCカンファレンスとかで10回ぐらいたぶん会ってると思ってるんですが。
澤:そうですね(笑)。
田中:あと、NewsPicksとかでもいろいろ動画を拝見していて。インターネット黎明期から、16年間ぐらい僕はずーっとインターネットビジネスばっかりやってきて。半年ぐらい前に、UniposというHRテックのソリューションに集中するんだということで、(去年)11月に社名変更もして、「もうやるぞ」って感じになってるのが現状です。
澤:タクシー乗る度にこう(広告を)目にしますけどね。
田中:ありがとうございます。
田中:コストダウンするためにDXやるのか、それとも会社を変えるためにDXをやるのか。はたまた何のためにDXをやるのか、けっこう迷ってる方がいっぱいいらっしゃると思うので、そういう方に(動画を)見ていただきたいなと思います。
COVID-19は、全世界を同時に変えた“リセットボタン”
澤:DXという言葉がバズワードになりすぎてしまって、商材としてしか扱われない状態になるのが嫌なんですよね。それ(DX)を売り物にしていた会社にずっといた人間なので、「お前が言うか?」っていうのもあるかもしれないですが(笑)。
例えば、古くは「ダウンサイジング」「オープン化」「グループウェア」とか、いろいろありました。どっちかというと、これは本質的な話というよりは、商材としてのキーワードという側面がすごく強かった印象があるんですよね。なのでDXも、「DXのためにはこのツールを」「DXのためにはこのデバイスを」というところに直結しすぎちゃうと、ちょっとつまんないなって思うんですよね。
田中:そうですね。「(作業時間が)何時間削れます」「コストがこれぐらい浮きました」「業務効率、生産性がこれぐらい上がりました」とか。まあそれでもいいんですが、そうするとどうしてもツールベースの考え方になっちゃいますよね。
澤:場合によっては、もうちょっと抽象的でもいいと思うんです。「こんなにおもしろくなりました」「働くのが楽しくなりました」とか、そういうのでいいかなと思うんですよね。
田中:そうですよね。だから、だいたい「会社全体をどうやって変えようかな?」というところから入るんですが、なぜか部署に落ちると「私の部署ではこのぐらい無駄があって、それを削るためにAというツールを入れます」と(いう話になってしまう)。
稟議が入っていって、「この部署は改善するけど、他の部署はどうなんだ?」と、また0から(話がスタートに)戻るとか。“壮大なリセットボタンを押されまくり問題”みたいなものを、けっこういろんな方から聞きますよね。
澤:COVID-19は完全にリセットボタンでした。全世界に同時にガッとリセットがかかって、大きく変わりました。僕がよく言ってるのは、1995年に1回リセットボタン押されてるんですよね。まさにさっきのインターネット(黎明期)というのがあって、その前後では別世界になりましたっていうのは、人類はもう体験済みなんですね。わりとそれは新しい記憶として残っています。
オフィスのデスクに1人1個灰皿があった時代
澤:僕は1993年に社会人になってるので、その前後でビジネスモデルが変わったのを体験してるんですね。COVID-19でリセットボタンが押されて、前後が変わり、DXというキーワードもほぼ同時並行で出てきた。「これに乗っからないわけにはいかないよね。今これで変わらなかったら、相当やばいぞ」って思ってるんですね。
田中:そうですね。僕も思ってるのは、リセットボタン(である)と同時に、二度と戻れないリセットボタンなんだろうなと思っていて。今さらガラケーに戻る人っていないじゃないですか。あと今でも覚えてますが、僕が社会人1年目の時はソフトバンクに進んだんですが、社員1人当たり、席に1つ灰皿がありましたから。
澤:ええ、本当!? それびっくり!
田中:当時としては進んだ会社だと思ったんですが、あったんですよね。サーバーとかがブワーッと回ってる横でタバコが吸えたっていう、なんともおそろしい環境だったわけですが、そういうのには戻らないじゃないですか。
おそらくDXとCOVID-19も、もう二度と(COVID-19が起きる以前の)あの世界には戻らないレベルのことが起こってる。2年半ぐらい、ゆっくりといろいろ危機的なことが起こってるので、「元に戻らないんじゃないの?」という人も一定数いるんじゃないかなと思うんですが。
澤:「トランスフォーム」というキーワードが入ってるものを同時進行でやってるのに、なぜか元に戻そうっていう圧力があるのも、間違いなく事実なんですよね。
田中:そうそう。
澤:ワークスタイルも、僕が「働き方改革」というキーワードで随分話をさせてもらってたんですよね。年間100回以上、それをテーマにプレゼンテーションしてたんです。それをやってたにも関わらず、「COVID-19の前の状態にどうやって戻すか」という議論も同時に行われてるっていう、すさまじい矛盾なんですよね。
日本人特有の“過度な公平性を担保しなければならない病”
田中:最近ちょっとCOVID-19が落ち着いてるじゃないですか。そうすると、「リモートワークが終わってもいいんじゃないか」「(出社)何割にしようか」という議論をしてるんですが、あれってどう思います?
澤:リモートワークか出勤かというのは、両方混ぜればいいじゃんと思うんだけど、“過度な公平性を担保しなければならない病”みたいなものが今の日本人にはあって。「不公平ではいけない」みたいなね。
いろんな会社の顧問をやらせていただいてるんですが、その中でも出てくるキーワードが「現場は8時半から始まっているから、ホワイトカラーも全員8時半から仕事を始めなければならない」。それもオフィスで。「なんで? 必然性ないですよね?」って言っても、「現場の人たちはみんな現場に行ってるんで、オフィスという現場に我々は行くのです」と。
「オフィスという現場に行くことによって、何が効率的になるんですか?」と聞くと、「うーん」ってなる。そこに答えはないですね。ただ単に公平であるべしっていうところに全部寄せちゃってるんですよね。「それによって何が得られるか」という議論は、スコッと抜けてる。
そうなるとDXっていうキーワードに関しても、「DXをやるのである」と言ってるのはいいんだけど、「何をもってDXが成功したんですか?」というと、既存のはかり方でしかはかれないとかね。あるいはみんなが等しく豊かになればいいんだけど、等しくなにかを使っているっていう状態にフォーカスをしたり、あんまり本質的じゃないかなと。
田中:そうですよね。元に戻る前提で考えちゃうと、もう採用もできなくなってくるだろうし。
澤:そう、それ!
田中:あと、例えば引っ越しをあんまりしたくない人とか、地方にいたい人とかを採用できなくなっちゃう。これはけっこう会社にとっては大打撃な話だと思ってるんだけど、戻る前提で話しちゃうと食い違っちゃうんですよね。
DXで多様な働き方を取り入れないと、優秀な人から去っていく
澤:そう。まさにそのDXの文脈で話をする時に、どっちかというとノンコア業務や周辺業務が便利になって、コストが削減されて、いろいろと良いことが起きる、みたいなマインドでいる経営者の方がまあまあいるんです。
一番やばいのは、「DXっていう文脈で多様な働き方をちゃんと取り入れないと、良い人を採用できなくなりますよ。優秀な人から去っていくんですよ」って言われてようやく気付くんです。(言われて初めて)「そこに影響すんの?」っていうところに行き着く。
「知らんかった」「そんなこと気にも留めなかった」とか、そっちのほうがやばいんです。あと、DXっていうキーワードが特定の人のタスクだと思ってる組織はやばいですよね。
田中:そうですね。
澤:DX担当者っていう人がいて、その人がやらなきゃいけないもの、その人がやっていればいいもの、みたいな感じになると(やばい)。いやいや、これは全員ごとですから。
田中:この間アンケートをとってみたんです。これはすごいなと思ったんですが、今の話にすごく近いんですけど、例えばみんな「この業務が軽くなるから」「生産性が上がるから」って普通は答えそうじゃないですか。もしそれが目的なら。
なんだけど、DXが成功した要因は「変化に対して前向きな風土があった」。これはカルチャーが変わってるっていう話で、「業務のここの部分が効率化された」みたいな話は出てこないんですよね。
澤:全員が関わっている状態がすごく重要なんですよね。全員が関わっていると感じていれば、全体を前に進めることはそんなに難しい話じゃなくなると思うんです。
風土がきちんと醸成されていないと「隠蔽」につながる
澤:(DXが)特定の担当者の仕事だとなると、その人が死ぬほどがんばって、いろんな人を巻き込まなきゃいけないんだけど、みんなが「自分は担当者じゃない」と思うと、好き勝手なこと言い始めるので、ぜんぶの「アンド」は取れないんですよね。
田中:ジョブディスクリプション(職務記述書)もちゃんとしてないのに、かつ縄張り意識がけっこうあって。風土改革のほうが大事なんだけど、部署ごとの生産性の話になってきちゃっています。
ここをもう1回巻き戻して、二度と個人の机には灰皿が生まれないという状況と一緒だって思うと、「それは戻んないよね」っていう話だと思っていて。「こんぐらいのもんだ」と考えないと、DXはうまくいかないんじゃないかなって感じがします。
澤:確かに。灰皿問題というか、「灰皿」っていうキーワードはおもしろいですね。それこそ昔の、昭和のオフィスの様子がYouTubeとかで見られるじゃないですか。やっぱり、もう絶対にこの世界は戻ってこないなってわかりますもんね。
田中:だって、電話にコードがついてますからね(笑)。
澤:そうそう、コードついてる。
田中:心理的安全性を上げるためのサービスをやってるんですが、いろんな人に「何のために入れるんですか?」と聞いた中で、一番秀逸だなと思ったのは「リスクマネジメント(のため)です」っていう。
結局、風土がちゃんとしてないと、みんな隠蔽しちゃいます。たぶん、セキュリティホールとかも、「やっべ……」っていうやつをパッと言えるか、ちょっと隠しとこうかなって思うかはぜんぜん違うので。そのために(Uniposを)入れてますっていう人がいて、おもしろいなと感じましたね。
人を怒る・殴ることを「体育会系」という言葉で片付ける日本
澤:特に日本の場合は、怒られるのを極端に恐れる。あともう1つが、怒るということが変なかたちで許容されている。
田中:それ、どういうことですか?
澤:僕は外資系にいたじゃないですか。外資系で世界中の同僚と会話をする機会が何度かあったんですが、同じ立場の人間が40何人世界中にいたので、その連中みんなで集まってディスカッションしたりとか。
その中で「ええ!?」って言われたのが、「学校で竹刀持ってる教師がいる」という話。「いや、どんなアナーキーだよ、それ!」「そんなん許されんの?」みたいな感じで、すごく驚かれたんですね。
「普通に殴られたりとかするんだよ」と言うと、「それって警察沙汰になるだろう」みたいな感じで、すごくギャップがあるんですよね。だけど日本って、なんとなくそれを笑い話にできるカルチャーがどこかしらにあるじゃないですか。
立場が上の人間は怒鳴り散らしたりとか、下手すりゃ殴ったりが許容されてるカルチャー。これ、異常な世界なんですよね。異常な世界なんだけど、それを非常に便利な「体育会系」という言葉でまとめちゃう人たちが一定数いて、それがなんとなく許容されている。
だけど、正直怒られるのなんて嫌じゃないですか。さっきおっしゃったとおりで、怒られることにつながるようなことは隠すっていうのが、ベストソリューションになる場合があるわけですよね。
田中:問題の芽が見えてなければ、別にスルーできますもんね。
澤:バレてない状態をキープをどうやってすればいいか、みたいな感じです。一人ひとりがそういうマインドセットを持ってしまうと、当然バレた時には会社全体が傾いてました、みたいなことになりかねないわけですよね。
それよりは、「やっちゃいました。てへぺろ」「しょうがないなあ」っていうほうが、結果としてリスクはどんどん減らせるんじゃないかと思うんですよね。
田中:そうですよね。それは、恥を恐れる文化も「てへぺろ」が普及しない原因なのかなっていう。
澤:そうそう。「てへぺろ」もだいぶ使い古された言葉ですからね(笑)。それが浸透していないのが、結果的に「隠そうかな」とか、あるいは「チャレンジしないで失敗しないようにしようかな」につながってくる。そうすると、トランスフォームするところまではなかなか行き着かないわけですよね。
DXは若手に任せればいい、という考えは不適切
田中:誰がDXの主役になっていけばいいんでしょうね?
澤:本当は全員でないといけないんですけどね。
田中:「だって若手だからDXとかデジタル慣れてるでしょ」「若手ががんばって」「若手に権限移譲して」……と言ってるんだけど、おっしゃるとおり、なんで(社内でDXを担うのが)若手になっちゃうんだろうなと。
澤:そうそう。本当は全員でなきゃいけない。若手に任せるんだったら、「若手から教わる自分」を許容しないといけないよね。「わかんないから教えて」と言って、「ああ、わかった。ありがとね」って言えるようになったら、若手も安心できると思うんですね。やるだけやるけど、結局、「いや、俺は関係ないから」とか言われたら、もう何のためにやってるのかわかんないよね。
田中:でも、難しいですよね。一応はピラミッド型の組織じゃないですか。けっこう序列がしっかりしている中で、下の人から学ぶ時はどういうふうに心がけるといいですかね?
澤:マネージャーのマインドセットをとにかく変える。で、変わらないんだったら排除しなきゃいけない。クビにまではしないでもいいけれども、チームを持たせちゃいけないよなっていう感じがするんですね。
若手の人たちから学ぶことができる、許容や度胸というか、懐の深さを持ってる人以外はマネジメントしちゃいけないよっていうのも、経営課題として考えないといけないですよね。すごくイケてる経営者とか、カリスマ経営者と言われてる人たちって、だいたいそういうところに抵抗感のない人たちが多いと思うんですね。
田中:実は、けっこう簡単なことが潜んでると思っていて。この間(従業員数)1万人ぐらいの古い会社さんで「DXがうまくいった原因って何だと思いますか?」って聞いたら、一番最初に「社長を『さん』付けで呼んだことです」ってお話しになっていて。
澤:それ、大事なんですよね。
田中:意外とそういうところが大事になってくるんだろうな。
カルビーでも実践されている、社長を「さん」付けで呼ぶ文化
澤:よく僕は「定着させることが大事ですよ」と言ってるんですね。「合意と定着」という言い方をするんですが、まず「全員『さん』付けでいこうぜ」「みんなフラットにいこうぜ」っていうことを合意しましょう。あとはそれを定着させるために、毎日のように繰り返されるものの中にそれを入れ込みましょう。
人(の名前)を呼ぶっていうのは、毎日の瞬間瞬間でやることなので、「さん」を付ける。ちなみにこれは下の人も呼び捨てにせずに、「くん」とか「ちゃん」じゃなくて「さん」で呼ぶと、マインドとしては一気に定着してくるんじゃないかと思うんですよね。コストゼロでできることなのに、「それが難しい」とか言われちゃうもんだから、じゃああなたは何をしたいの? って。
田中:なるほど(笑)。でもやっぱり、社長が言わないと変わらないらしいですね。
澤:ですね。
田中:部長から「社長を『さん』付けで呼びたいんですけど……」なんていう世界線はない。
澤:元カルビーの社長だった松本(晃)さんも、まずそれを言ったらしいですからね。「社長って呼ぶな。『さん』でも『ちゃん』でも、呼び捨てでもなんでもいい。自分をフラットに呼べ」と言い出したら、一気に浸透したというのはありますけどね。
田中:そうですよね。あと、誰が何やってるかを実は知らない。これ、なんなんですかね?
澤:やっぱり、他者に対して興味を持つって相当パワーがいることではあるんだけど、それをやることによって、お互いの心理的安全性がどんどん担保されるようになる。
「何してるの?」って気軽に聞かれたら、「自分に興味持ってくれてるんだな」って嫌な気持ちはしないじゃないですか。組織としては、どんどんものが言いやすい風土ができあがってくるんだろうなと思いますけどね。
これからの時代、もっと「わがまま」になってもいい
田中:COVID-19がもう2年半経ちました。そろそろ東京も相当(感染者数が)少なくなってきて、飲み屋さんに行くとけっこうみんな飲んでるし、元に戻ってる感じがプンプンするんですが。じゃあ、働き方や会社をどこまで戻すんでしょうねっていうのが、たぶんみなさんの関心事かなと思うんですが、どういうふうに思ってますか?
澤:DXという、トランスフォームしていこうっていうキーワードが出てるのに、元に戻すのはちょっと矛盾してますよね。良いきっかけなんだから、僕はよく「すげーみんなわがままになればいいじゃん」と思っていて。
田中:わがまま?
澤:そう。嫌なものは嫌。例えば、忘年会をやらない企業もけっこうあるらしいんですよね。理由は、やりたくないと思ってた人たちがものを言えるようになった。これ、ものすごく前進だなと思っていて。「そんなところに時間使いたかねえよ」ということを、正直に言えるようになったのかなと思っています。
これ、ものすごくすばらしいことだなと思ってます。たぶんこれは、元に戻すっていうことに対する、ある意味の「抗い」みたいなところがあって。それが受け入れられた結果かなと思うので、こういうのをどんどん増やしていけばいいと思うんですよね。
田中:会社の文化も違うし、ビジネスモデルも違うし、もちろん使ってるものも違うし、すべてが違ってくるんでしょうね。
澤:せっかくの機会なんだから活かしていって、みんなのわがままな気持ちをお互い許容し合いながらやる。もう1つキーワードを出すんだったら、ダイバーシティ&インクルージョンも、やらなきゃいけないなと思ってる会社がいっぱいあるわけですよね。でも、これって本当は当然のことなので、「やらなきゃいけない」と思ってる時点であれなんですが。
根っこの部分を「女性活用」と訳されちゃうことが多いんだけど、それはちゃうぞと。それぞれがお互いのことを尊重し合う、自分がわがままであるということをまずは自分で認めて、それをお互いが許容し合ったら、もうあっという間にできあがりなんですよね。
DXの恩恵を受けにくい、現場で働くブルーカラー
田中:最近、一番取り残されている人はブルーカラーの人たちかなと思っていて。ホワイトカラーの人たちって、「PC持ってます」「仕事でスマホもいじってます」みたいな感じなので、デジタルツールの恩恵がけっこう受けられる。
一方でブルーカラーの人たちは、すごく労働人口が多いんだけど、そういう人たちを風土も含めてどう変革していくのかが、これはこれですごく大きなテーマがあるんだろうなという感じはしてます。
澤:確かに。日本の中の労働人口の中でも、かなりブルーカラーの方々も含まれてますからね。そういう人たちが、ものすごくいろんなところで経済面を支えてる状態なので、その人たちが働きやすい状態になるのは非常に喫緊の課題にはなりますよね。
田中:そうですよね。でもチャットもしてないので、これをどうやってデジタルに持っていくのかっていうところです。最近うちがやってる事例なんですが、600人ぐらいの会社なんですが、135年(創業)なので明治ですよね。
澤:すごいな。
田中:この会社は、ホースやシャッターとかを作ってるメーカーさんです。もちろん、日本全国に支店がありますが、工場が24時間稼働なんですね。
澤:24時間?
田中:そう。僕がお話ししてる人は全員つなぎを着てるんですよね。もちろん本社があって、本社はみんなホワイトカラーなんだけど、そういう人も含めてどうやって風土改革していくか。
DXというと、ホワイトカラーの人たちがもれなく恩恵を受けるんですが、この(ブルーカラーの)人たちは恩恵を受けないんですよね。(DXを)やっても、じゃあ組織風土改革を何にしようって言った際に、結局誰が何をやってるかわかるようにやったほうがいいよねと。
組織風土を変えるポイントは、仕事の「可視化」
田中:これは超巨大な機械なんですが、結局、ベテランの人がすごいノウハウを知ってるんですよ。そうすると、ベテランの人が教えるじゃないですか、うれしいと思うので「ありがとう」ってデジタルツール上で言うんです。
これの効果がすごいところは、なんと8時間シフトなので、次の人も「前の人が教えたんだから、俺も教えよう」と、デジタル足跡が残ってると伝播していくようになってるんです。今まではアナログで、足跡も何もないんで、「8時間前の奴はなんかやってるかもしんねえけど、俺には関係ねえぜ」みたいな感じになっていた。
組織風土をうまくいじっていくためには、誰が・何をやってるかが全員わかるようになること。ブルーカラーの人たちも含めて、ぜんぶやっていくのがいいんじゃないかなというのは、最近考えてることですね。
澤:いいですね。
田中:カクイチさんで工場も含めて風土改革をやった事例に使ったのが、我々がやっているUniposというサービスです。自分で思うんですが、正直変わったサービスだなと。
澤:自分で作っといて(笑)。
田中:はい、思っています。もともとGoogleさんとか、ヨーロッパやアメリカの会社ではピアボーナスという仕組みがあって。いろんな人に聞いたんですが、実は僕がやってるピアボーナスとはけっこう違う。
多くの会社では、部下に対してこっそりスタバのカードを送れますとか、Googleさんだと3ヶ月に1回、1万円ぐらいを送れます。でも、これはこっそりなんですよ。それから、上司・部下関係なく送れますよっていうのは一緒です。
徹夜していたある日、孫正義氏から缶コーヒーの差し入れ
田中:僕がサラリーマン時代、孫正義さんがやっていたソフトバンクにいたので、ある日徹夜してたら孫さんが後ろに立ってたんですよね。
澤:ほお!
田中:当時の小っちゃい会社ですよ。そうすると、よく缶コーヒーを置いていくんですよ。「お前らインターネット革命がんばれよ」ぐらいの感じで、無言で置いてくので(本心は)よくわかんないけど。
そうすると「たぶん、この120円で俺にがんばれって言ってんな」というか、その一言とかこのコーヒーとか、小っちゃいきっかけががんばる僕の動機づけになってたなと思っていて。なので、今は2,000人とか1,000人の会社に入ってるんですが、全員で入り乱れてリアルタイムに、公開でボーナスを送り合う。そういうことをやってます。
澤:おもしろい。それってたぶん、「送る」っていうことに対しても、みんなポジティブな気持ちになる。もらうのがうれしいのは当たり前なんですが、送れる手段があることによって、送るほうもハッピーな気分を得ることもできますよね。
田中:まさにおっしゃるとおりです。僕の作ったピアボーナスのおもしろいところは、「50ポイント送ります」っていう機能もあるんですが、「いいね」みたいな拍手ボタンがついてるんですね。これを押すのも1ポイントが発生します。
例えば、自分のお財布から誰かに50円分お礼を言ったとします。みんなから100回拍手が集まったとすると100円なので、自分に返ってくるんですよ。人を褒めてなぜか儲かる仕組みにしてるんですね。
褒め疲れってあると思ってるんだけど、全国の同期や上司も含めて、褒めるとみんなからちゃんと拍手がもらえるのは、Uniposのすごくユニークなところかなと思ってます。
見える場所で「ほめる」ことで、他部署にもがんばりが伝わる
澤:そう。送らないっていうことに対して非難されるんじゃないか、同調圧力はないんですか? というのを聞こうと思ったんです。そこって、今みたいに付加した機能によってカバーされてるのかもしれないですね。
田中:そうですね。これも「変わってんね」と言われるんですが、人気投票みたいな感じでえこひいきにならないんですか? ってよく言われるんです。「だって、だいたいMVP投票を決める時って人気投票ですよね」「それは受注した・目立ってるわかりやすい人が得票を受けますよね。それと一緒じゃないんですか?」って聞かれるんです。
ぜんぜん違っていて。だいたい月に、90パーセントぐらいの人がなんらかをもらえるんですよ。なぜかというと、毎日活躍してる人なんていないですよね。そうすると毎日、しかも自分が触れ合ってる範囲内でしか見えないってこともあって。でも、それをシェアしてあげるとみんながわかるようになるので。
超分散型インセンティブシステムなんだとは思うんですが、そういう仕組みになってるので、もらえても月1,000円ぐらいじゃないですかね。
澤:会社の予算にものすごいダイレクトにインパクトを与える、とかだとやばいかもしれないですが、そういうもんでもないなら褒めたほうが気分いいので、どんどん定着しやすくなってきますよね。
田中:そうですね。今日はこの動画を見ていただきまして、本当にありがとうございました。いろいろワーワー言っちゃいましたけれども(笑)。ワーワー言ったのも、結局、すごく変わるきっかけになってるタイミングだと思うんですよね。
だからこれに乗っかって、会社も自らも変えていくほうがおもしろいんじゃないかなって思っていて。おもしろい選択をすると、もしかしたら世の中にも良いインパクトがあったりとか、それをきっかけに勇気をもらえて、その後に続く人が生まれたりとかすると思います。これは一大チャンスなので、ぜひ取り組んでみていただきたいなと思ってます。