2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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西田徹氏(以下、西田):次のテーマも私が続けます。対立に関するミンデルの最新理論であるフェーズ理論をもう少しお話ししたいと思います。これは2017年のミンデルの書籍『CONFLICT』で、対立を真正面から扱った本です。まだ翻訳はされていませんが、この本の一番核となるコンセプトをお伝えしたいと思います。
関係性、あるいは対立の4つのフェーズです。最初は、平和で楽しいというフェーズ1ですね。結婚したばかりの時は楽しいですし、仲間と一緒に事業を始める時もワクワクして楽しい。ミンデルはこのフェーズ1の段階で、すでに次のフェーズの種をはらんでいると言います。次のフェーズに行きます。
フェーズ2は緊張とか対立ですね。松村は、「日本の企業はフェーズ1.5までしかできない企業が多い」とよく言っています。最初は互いに仲良しでいいんですが、例えば営業と製造などで対立があり得ます。でも、「まあまあ」ということで互いに遠慮をして、本当の対立にまで至らないと。
あるいは外から仲裁者が現れて、「営業の人は製造の気持ちをわかってあげなよ。製造もそうだよ」みたいな感じで、1.5で止まっちゃうと。この偽りの調停は何も生まないというのが、ミンデルの考え方ですね。対立はフェーズ2のところでしっかりやるべきだと。
先ほどのフィッシャーの例でいうと、コダックのみなさんが「すごい努力をして、銀塩フィルムで輝かしい成績を出した私の実績を否定するんですか!」とフィッシャーに対して半ば怒鳴るような意見をぶつけ、フィッシャーもそれを引き出すことができたらフェーズ2です。
そこからフェーズ3にいくには、ロールのスイッチが必要だと言われています。フィッシャーが銀塩フィルムの技術者の立場に立てたら、自分が進めようとしているデジタル改革に対する彼らの気持ちを理解し、「本当に申し訳ない」という気持ちになるかもしれない。
逆に銀塩フィルムの技術者がフィッシャーの椅子に座ると「うわ、このままだと本当にコダックは倒産してしまう」という気持ちになるかもしれない。このロールスイッチは、このあとミンデル自身の動画でもう少し見ていただきます。
ここでいったん対立は解決するんですが、次のフェーズでは無心・超越を意味する「Detachment」の1個手前の「エッセンス」に近いレベルまでいきます。しかし、そこですべてが完成して「めでたしめでたし、悟り開きました」ではなく、またフェーズ1の楽しいところに戻って続いていく。ミンデルは「一時的な解決が得られる」という表現をしています。
西田:では、先ほど申し上げた、ミンデルの動画をご覧ください。
【動画再生】
ミンデル:アメリカ合衆国の大統領選挙に立候補したヒラリー・クリントンの例です。彼女はすばらしい女性です。そしてBLM運動(Black Lives Matter=アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動)のリーダーが、彼もすばらしい男性ですが、オンラインでヒラリーと会話をしました。
ヒラリーは言います。「今日はどんなことを考えていますか?」。リーダーは言います。「私の考えは、黒人の命は大切だということです。白人は、わかってない! 白人の黒人に対する扱いを見ていると、奴隷制度は今も存在しています。我々は変化をもたらせねばならない。ほかのさまざまなことと共に、心の変化を起こさねばならない」。すばらしい話ですね。
ヒラリーがこう言います。「心は大切だけど、我々には法律が必要です! 法律を作る。それを今すぐやらねばなりません」。法律は変化をもたらし人々を助けます。すばらしい考え方です。リーダーは言います。「あぁ! 白人はいつも黒人に対して、あれをしろ、これをしろと指図する。なんてこった!」。ヒラリーは言います。「我々には法律が必要です。心は重要ではありません」。
ミンデル:もしワールドワークの知識があったとしたら、ヒラリーはこう言ったでしょう。「あなたが歴史に関する何かをコメントしたのを聞きました。アメリカ合衆国の奴隷制度に関する何かです」。これがロールです。どこかにあるゴーストロール(語られているが、それを象徴するロールが会話や場に明示的に現れていないこと)です。
ヒラリーが言います。「少しの間、あなたの立場に立ってみてもいいでしょうか? 女性としてはたくさん苦しんできたけど、私は白人だからうまくできないと思うけど、あなたの立場に立ったらどんな気持ちになるか、試させてください」。
(ヒラリーが黒人男性ロールに入って、実際には誰もいない場所にいる架空のヒラリーに対して発言している)
「奴隷制度……ヒラリー、あなたは想像できますか? 誰が好んでやるでしょう。このゴーストロールに入りたいと思う人なんて誰もいません。貶められ、傷つけられ」……これ以上の詳細はやめておきますが。
そしてヒラリーは元の場所に戻り、相手側の気持ちから洞察を得て言います。「確かに私が言ったように法律は必要です。でも心の変化も必要なのがわかります。より多くの人たちが、あなたたち黒人が経験してきたことを感じられることが必要です。あなたたちが体験したことは、我々の歴史の中にあることです。その時に初めて、我々は全体として変化できるのです」。
私が今演じたこのシナリオでは、ヒラリーは黒人男性のロールを取り上げ、ゴーストロールに深く入りました。ゴーストロールとは、背景にある深い夢。決して取り扱われることなく、その結果、感情の変化が十分には起きないというものです。認識(心)の変化と法律、両方すばらしいです。でも、さらに何かが必要です。
【動画終了】
西田:まさにロールスイッチですね。ヒラリーさんが本当にロールスイッチをしたわけじゃなく、もしヒラリーさんにワールドワークのナレッジがあったら、あるいはフェーズ理論のナレッジがあったとしたらというお話です。
ヒラリーさんがBLMのリーダーにロールをスイッチしてみて、大きな気づきを得て、そしてもう1回ヒラリーさんに戻って、気づきを得た上での発言をするという、フェーズ3に至るところを演じてくれていました。
西田:次はその対立を歓迎するリーダーをどう育てていくのかということです。大前提として……逆に言うとこれさえ体験すれば、対立を歓迎するリーダーは自発的に育っていくとも言えます。
まず、フェーズ2で対立が顕在化して、フェーズ3で目からウロコの体験をする。ここにたどり着くことが大前提かと思います。私の例でいうと、エンプティチェアで田中さんに対する苛立ちを爆発させて、田中さんの椅子に座った時に「西田ってほんまにひどいやつだ」と田中さんの心情を知るという目からウロコの体験をする。そのことにより、なぜか田中さんと次に会った時に和解できていて、すごい協力関係もできるという(笑)。
フェーズ1で仲良しだったものを、対立があるならそれを引き出すファシリテートができる必要があります。対立を引き出した後は、ロールスイッチなどで互いの立場がわかるファシリテーションをする訓練が必要ですね。今日松村からもいくつか対立パターンをご紹介しましたが、対立パターンは多数あってハーバードやケロッグのケーススタディにもあります。
ケロッグは「組織変革の危険性と落とし穴」というところで、ある小売店の若手リーダーが意気揚々と変革に臨んだところ、現場の経験豊富な女性たちから総スカンをくらい「あの人を辞めさせてくれ」とCEOに直訴されるような対立が起きた例ですが、そういったケーススタディをいくつもやることで、パターンの引き出しが広がると思います。
プロセスワーク流の瞑想も非常に大事になります。シンクロニシティ(「意味のある偶然の一致」を指す、ユングの提唱した概念)ですね。ミンデルが首が真っ赤になった人を見た時に、「その真っ赤は何だ!?」と言ったような感受性。ユング派の夢分析などもやっていくことで、感受性が豊かになっていくと思います。
あとはリーダーですから、リーダーシップですね(笑)。組織開発プロジェクトでの体験とか、エグゼクティブコーチングを受けていただくなど、さまざまな育成手段がありますが、やはり大前提(フェーズ2やフェーズ3の体験)が大きいのではないかと思っています。
大前提以降のさまざまな育成手段のところでは、ちょっとだけ宣伝をさせていただくと(笑)。我々バランスト・グロース(・コンサルティング)が主にプロデュースする、組織開発コーチ協会という一般社団法人で、対立を歓迎するリーダーを実際に育てる場を提供すると同時に、それを充実させようとしています。
ここからは、マツケンさんに戻したいと思います。
松村憲氏(以下、松村):ここからは書籍に掲載されているワークをご紹介します。書籍をお持ちの方は197ページに「葛藤解決のエクササイズ」というものがあります。対立構造を明確にするところからのワークになります。ステップの1番が「エクササイズを手伝ってくれる友人を選びましょう」。
「アウェアネス」「気づき」がすごく大事だというお話をしていますが、1人での気づきって限界があるんですね。相当天才じゃないと、自分を客観的に見るのは難しい。相手がいるとアウェアネスを共有できるので、どなたかに協力してもらうとやりやすくなると思います。今日は2人でやっていきます。
2番が「あなたが今、人生で直面している実在する相手との実際の対立について説明してください」。個人でも、部門間のような集団同士の対立でもできるワークです。3番は「相手にその役を演じてもらってください」と。脳腫瘍の少年とのワークで、ミンデルが行ったり来たりしてましたが、友人に相手役をやってもらいましょう。
そして、4番の「自分の立場を強く主張しましょう」が非常に重要です。私もアメリカで何年もプロセスワークのトレーニングを積みましたが、非常に難しかったですね。「こう思うんだけど、でもあなたの言うこともわかるし」と言うほうが自分にはなじみがあって(笑)。それこそフェーズ2ではなくて、フェーズ1.5です。
自分の立場を取り切るとか、「私が言いたいことはこうです」と言い切るのはなかなか難しかったりします。でも意識してやってみてください。ただ、やっていくうちに自分の立場に違和感を感じたら、中立的な立場か、相手の味方をしてみましょう。このへんはすごくプロセスワークっぽいですけど、流れに任せて自分に起きることを観察してやってみてください。
例えばどうしても相手に自分を強く主張できなくて、「あなたの言うこともわかるし」という言葉が自分の口から何度も出てくるのであれば、恐らく相手の立場に立っているわけですね。なので逆に相手側にいって、相手の味方をしてみてください。あるいはどっちつかずな時は、いったん離れてみる。第3のポジションを取るのも非常に有効です。そして、行ったり来たりしましょう。
このワークがうまくいったかどうかの確認が、6番目になります。最終的にもとの自分の役割に戻った時に、自分の意識なども含めて、状況が変わったかを確認してみてください。相手に対して持っていた対立感情がなくなるかもしれません。あるいは「あなたもこうしたいけど、私もこうしたかったんだ」と、Win-Winの状態を感じるまで、行ったり来たりしながら続けられるといいですね、ということです。
頭の中だけでやると立場を変えづらいので、実際に人とやるか、自分の体をあっちこっちと動かしながらやってみると、ワークが進むと思います。
松村:最後に「企業においてプロセスワークを活用した事例はありますか?」という質問をいただいていますので、お答えします。
私たちが組織開発案件に企業で関わる場合は、ほとんどの場合、何らかの形でプロセスワークを活用しています。また、我々バランストグロースが関わってるところで、ゴールデンウィークにスティーブン・スクートボーダー(Stephen Schuitevoerder)という先生が来てセミナーをやるんですけど。その人はミンデルの愛弟子の1人で、アメリカのプロセスワーク研究所の所長をずっとやっていた人です。
スクートボーダー博士は、日本企業の組織開発コンサル顧問みたいな感じで関わっていたり、その企業のトップに近い方がミンデルのコーチングを受ける機会を作ることもありました。企業名は出せませんが、ミンデルはほかにもみなさんが「えっ」と言うような大企業のプロセスに関わることもあります。
西田:ワールドワークって基本的に二度と会わない方たちのワークなんですね。北アイルランドと南アイルランドの人たちや、白人と黒人だったり。なので互いに罵声を浴びせあったとしても、最後は仲良くなれる場合もあるし、浴びせあった罵声がしこりになったとしても、もう会うことがないので大丈夫なんですけど。
でも、企業の中でやる場合は、ワークの後に二度と会わないということはない。隣の席や向かいにいたり、人事異動で上司・部下になったりするかもしれません。対立が起きなかったらやる意味がまったくないんですけども、しこりが残るようなことを避けるという、非常にデリケートなコントロールをすることを意識しています。
例えば若手の人が思うことがあったら、直接上の人たちに「こんなんじゃ、この会社は潰れますよ!」と言わせず、私たちでそういった意見をいったん吸い上げて、若手がいないところで私たちから上司の方たちに「このような意見が出てます」と、受け止めやすいかたちで伝えています。
そして、両方に話し合う準備ができたところで、初めて直接対話を行っています。ご質問に直接答えていませんが、企業におけるプロセスワークの実践例をお話しいたしました。
本日はどうもありがとうございました。
松村:ありがとうございました。
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