2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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池原真佐子氏(以下、池原):それぞれのお立場や視点の中で、(女性活躍の)現状・課題をお話しいただきました。聞いている方もお気づきだと思うんですけども、本当に共通点があるなということでした。じゃあ、その中でもう少し踏み込んで、こんな事例があるよというのをいろいろとおうかがいできたらなと思っています。
まず川村さん、いろんな企業を調査されたり見てこられた中で、こんな取り組みがあるよというのを、もし差し支えなければお話しいただいてもよろしいでしょうか。あるいは、経産省自体の今の取り組みの事例とかも含めてお願いいたします。
川村美穂氏(以下、川村):先ほど、源田本部長からあった「特効薬がない」というのが、本当にそのとおりなんですね。私ども、政府として2012年から「なでしこ銘柄」という事業を始めたんですけれども、みなさんもお聞きになったことがありますでしょうか?
「銘柄事業」と呼んでいますけれども、女性活躍に非常に優れた、熱心な企業を「銘柄」として選定して、中長期的な価値創造ができる非常に有望な企業として投資家の方にご紹介することで、そこにうまく投資として資金が流れる。それを他の方に見ていただくことで、どんどん裾野を拡大していく。いろんな方にそういった銘柄企業になることを目指していただくという事業です。
2012年から始めて、ちょうど今年度で10年目になりますけれども。企業のみなさまを見ていて、「特効薬がないな」という中で、それぞれが本当に手探りで模索しながら、とにかくできることはなんでもやるといった気概で進めてきた方が、今非常に効果をあげているなと感じます。
川村:例えばある企業では、2015年にCEOが「とにかく女性活躍を」ということで着手されました。最後(の到達目標)はダイバーシティなんですけれども、それにはまずマイノリティの中の一番大きな層である女性が活躍しないことには、外国人はじめ、他の属性は難しいよねということで。
始めた当時の女性管理職が80人台で、2019年までに200人以上まで伸ばしていこうという計画を立てて、徹底的に進められました。「女性活躍って何?」みたいな状況から始めましたので、まず、1年目はいろいろな部署を対象に「女性活躍がなぜ必要か」ということを説き回ったそうです。
そして2年目は、今度はあらゆる階層ですね。取締役、管理職、そして現場の方、女性・男性関わらず、あらゆる階層別にとにかく打ち込んでいったと。女性の意識を変える、あとはそれまでどうしても育児などで抜けていた穴を埋めるために必要な知識を与える。
または、そのように抜けていることによって、女性自身が持つ「私なんか無理だわ」という気持ちを変えるために、女性ロールモデルとの対話や上司からの直接のサポートですね。そういったものを合わせて、もうやれることはなんでもやったというお話をされていました。
そうしたら、5年ぐらいするとやはり結果が出てくるんですね。ちょうど2019年は、200人には及ばなかったけれども、管理職が90人弱だったのが190人になったとおっしゃっていました。
まずは、手探りでいいので、いろんなことをやっていく。そして、自分の会社の中では何が効いてきたかという効果を分析しながら進める。先ほど、源田本部長が言ったことに私も非常に共感したんですけれども。そういった中で、初めて活躍できるような土壌が育っていくのかなと思います。
川村:いろいろな企業さんに聞くと、やはり成果が出るには5年かかるというところが圧倒的に多いですね。始めて1、2年だと、どうしても「コストしかかからない」というような意見をおっしゃって。そこで見誤ると、みなさま止めてしまうんですね。
なかなか効果が出ないし、コストもかかる。女性の育児中の人を、トップは「よし、活躍させていこう」とするけれども、それを現場の管理職の方に相談すると、「うちじゃない部署に」と言われる。総論は賛成だけど、各論になってくるとみなさんにリジェクトされてぜんぜん無理だったと。
そうなると、もうそこで止めてしまう企業さんって実際いらっしゃるんですね。非常にもったいないと思います。やはり、表面的に数を追い求めるだけではなくて、その数が経営戦略の中にしっかりと位置づけられ、全社で同じ方向を向いていくような意識作りも大きく必要かなと思います。
その中に個別論が入っていく。研修をしたり、ある特定の層に打ち込んだり、意識を変えていったり、制度を作っていくというのもその1つだと思うんです。成功しているなという企業で、あらゆることをなんでもやったという事例を1つ目にあげました。
2つ目はやっぱりトップの発信力だなと思います。トップが不退転の覚悟を持って、「なにがなんでもやるんだ」と思っている企業が強いです。どんなに現場が抵抗しても、トップが発信し続けると現場に浸透していくんですね。時間はかかるかもしれないけど結果を出されている企業って、そういったところが多いかなと見ています。
池原:ありがとうございます。1、2年でコストがかかって効果が出ず止めそうになるところを、やはり最低5年。そして、ある企業のトップの方が、「止めた途端に戻る」みたいなお話もどこかでされていて。やっぱり風土になるために継続していく、しかも5年以上は踏ん張って結果を出すところはすごく大事だなと思いました。
池原:源田さん、いかがでしょうか? (ソフトバンクは)まさにトップがコミットメントを出されておりますが。
源田泰之氏(以下、源田):なんか川村室長に「方向は間違っていないよ」と言われて、ちょっとニヤニヤしながらお話をおうかがいしていたんですけど(笑)。
トップのコミットメントというところですと、数値目標の他にもいろんなことを伝えていっています。実は去年の年末に実施した女性活躍推進委員会の中で、社長の宮川からは「この女性活躍推進というのがもう働き方改革そのものだし、経営改革そのものだ」という話もありました。
経営者の大事な仕事として、事業ドメインを決める。もちろんヒト・モノ・カネをどこにどう分配していって利益を最大化するかみたいな話があると思うんですけど、「(女性活躍推進は)それと同じぐらい大事なことなんだ」という言葉までありました。それがまず1点目。
せっかくなので具体的な事例でお話をしようと思います。Mentor Forさんだからこういう話をするわけではないんですけど、本当にメンタリングとかコーチングが非常に重要だなと思っています。
女性活躍推進を進めるにあたって、実際に働く女性がどう考えているか、ラウンドテーブルを実施しました。役員も、担当する組織の中で、女性の管理職や若手社員など複数のグループに区切って、ラウンドテーブルをたくさん実施しました。
源田:私は、その中ですごいギャップがあるなと思ったことが1つありました。
何かというと、リーダーとか管理職じゃない女性には「管理職は大変そうだ」とみえている。仕事の時間も長いし、コミットしないといけないし、マネジメントなんてとても大変じゃないかと。特に年上の男性の部下がいると大変なのではないか?と。先ほどの話からすると、内藤市長はそうだと思いますが(笑)。(リーダーや管理職ではない女性からみると)つまり、管理職は「大変だ」という意見がすごく多かったんですよね。
一方で、女性の管理職のラウンドテーブルをすると、管理職なので、時間はむしろ自分で調整ができて育児と両立できるとか。何よりも管理職になることで、例えばメンバーの様子を見ていくとか、組織の価値を最大化させるためにどういうことをやったほうがいいかとか、そういったことを考えるようになる。
これって実は、管理職という会社の中の立場だけじゃなくて、自分自身の成長というか、それが実際に社会活動や子どもを育てることにもすごく役に立つんだと。
時間的な制約は意外とコントロールできちゃうし、管理職としての経験が自分自身の成長にもすごくつながっていると、みなさんポジティブなんですよね。一方でそれが管理職でない女性に伝わっていない。このギャップは何だろうと思ったわけです。
女性の管理職がわざわざ自分の女性の部下を捕まえて、「いやいや、実は管理職って自分の成長にもつながるし、すごくいいんだよ」と上から目線で話すことってあまりないじゃないですか(笑)。だから、意識の差が生まれているんだなと思ったんですよ。
これを埋めるのがメンター制度であり、コーチングであると思っています。今、当社としてはメンタリングやコーチングをどんどん拡大していこうと思っています。
源田:パイプラインのお話で言うと、女性の管理職がまだまだ少ない状態だとスケールするのが難しい。Mentor Forさんですとか、外部の力をお借りしながら、推進していくというのが、経営トップや役員の重要なコミットメントでもあります。
最後にもう1点だけお話させてください。今日も人事のみなさまに一定数ご参加いただいていると思うんですが、人事の立場にしてもやはり女性活躍は大事だと思うんですよね。
これも世の中で一般的に言われていることですけれども、これまで人を「ヒューマンリソース」、「人的資源」の管理だと考えていたのが、今は「人的資本」だと。人を資本として扱って、これをどう最大化させるか。
個人の成長が会社の成長に直結するのであるというのが、今の人事の中で重要だと言われていることです。その中でリスキリングをどうするんだとか、いろんな個人の成長、社員の成長にどうつなげるかを考えていくことが、すごく重要だと言われている。実際にそうだと、本当に思うわけですね。
社員の人的資本をどう最大化するかと。その中で一番日本企業の課題としてもったいないのが、女性の労働力です。この資本の最大化に取り組むことが、ますます重要になってきているんじゃないかと思っています。
なので人事としても、ここはしっかり取り組んでいくことが、結果的に社員の成長につながって、それが会社の成長につながるんじゃないかと思いながら、日々頑張っているという状況です。
池原:ありがとうございます。私たちもメンターのお仕事をさせていただいて、管理職のやりがい、リーダーとしてのやりがいが、なかなか伝わっていないなと。伝わったとしてもすごく画一的なイメージで、「スーパーウーマンだからできるんじゃないか」というのがすごくあります。
やはり多様なロールモデル、いろんなパターンのリーダーの方にアクセスできることが本当に大事だなと、お話を聞きながら思いました。ありがとうございます。
池原:内藤さん、いかがでしょうか。
内藤佐和子氏(以下、内藤):ありがとうございます。私もみなさんのお話を聞いていて、まさにそうだなと頷いて聞いてたんですけども。
徳島市、自治体としてはトップのコミットメントを発信するために、今、自治体で初めて「ダイバーシティインデックス」という、ダイバーシティの指標をきちんと職員がどれだけ理解しているかとか、それをテストするようなことを、この2月にやりました。
みなさん、やはり私が口酸っぱく言い続けているので「わかったわかった」と。D&Iが大事なのもわかった。ダイバーシティが大事なのもわかったし、ジェンダーギャップの解消もすればいいのはわかったけど、あまり自分たちは知識がないし、何を政策としていけばいいのかわからないと。
まずは徳島市役所としてどれくらい理解度があるのか、今どういうことが日本や世界で起きているのかを勉強しなきゃいけないというので、今回やらせていただきました。
それをやったことによって、もちろん「もうちょっと勉強しなきゃいけないな」と感じてくれた部分もありますし、「やっぱり市長は本気なんだな。本気でやらなきゃいけなんだな」と、2年経った今、徐々に浸透してきたかなと思っています。
その中で、市役所も女性管理職がすごく少ないです。それは何でなのかといろいろヒアリングしていくと、みなさん不安なんですね。みなさんおっしゃっていましたけど、「管理職のイメージが嫌」「議員さんにめっちゃいろいろ言われるんじゃないか」とか、「子どもがいるのにいきなり夜に呼び出されるんじゃないか」とか、やっぱりそういうイメージがある。
今は(女性の管理職は)部長1人しかいないですけれども、「いやいや、女性でもやれている人いますよ」ということも含めて、どういうキャリアを描いていったのかとか、どういう子育てしながら、どう工夫して仕事したのかというのを、ざっくばらんに話せるようなお茶会のような研修を来年度からはきちんと取り入れて、計画的に女性の管理職を登用していくような制度を作っていこうかなと思っています。
内藤:やっぱり徳島市が市役所としてそれを推進して、発信することによって、(ロールモデルを作っていく)。さきほど源田さんからHRというお話がありましたけど、自治体も本当に同じだと思っていて。
やはり地方創生にはジャンダ―ギャップの解消がどう考えても必要だし、多様な人材が、まちづくりであったり会社経営もそうですけど、街でいろいろやってくれないと、「いやいや、そんな地方になんていたくないよ。やっぱ東京に行こう。大阪に行こう」、四国だったら「高松行こう」「松山行こう」となっていってしまうので。
やはり地方創生の観点からも、人材リソース、特に女性とかマイノリティの方々にどう活躍してもらうのかを考えていかないといけないのかなと思っています。
徳島市の場合は、ほとんどが中小企業なので、中小企業の経営者さんを巻き込んで、どういうまちづくりをするのか。どういう会社経営をするのか。徳島市として子育て環境をよくしたいけど、それは中小企業のみなさんががんばってくれないと無理なんですよね、というかたちにしていく。市役所だけでは収まらずに、どういう多様性のある街を作っていくのかということを(街全体で)一緒に考えていかなきゃいけないなと思っています。
内藤:まちづくりにいろいろ巻き込んでいくと、若いお母さんたちにもまちづくりに興味を持っていただけるし、市長も女性だし、お母さんだし、10歳の子どももいるんですけど、そういう人もリーダーや政治家になれるんだということで、実は「市議会議員に出馬を考えているんですけど」という若いお母さんからの問い合わせが増えてきています。
「自分の街をこうしたい」と自分ごとのように考えて、女性市議として活躍していきたいという人が増えていくと、市議会も多様な人たちで構成されるようになると思いますし、そういう意味でロールモデルをきちんと作っていって発信していくこと(が大切だと考えています)。
特に地方だと、市議会議員さんとか県議会議員さんはまだまだ(女性が)少ないので、そこのつながりをどう作っていって、どうメンタリングをしていくかというのは、Mentor Forさんからも学ぶことが多いのではないかなと考えています。
池原:ありがとうございます。内藤さんがリーダーとなることで、それを見た若いお母さんたちが「私もやってみたい。できるかも」と思うって、すごく大事ですよね。ロールモデルは一方的に発信するだけではなくて、その間に何らかの双方向性があるということが重要なんじゃないかなと思っています。
もちろんメンタリングの対話だけではなくて、そういう声を吸い取って、またそれをフィードバックして戻すとか、そういう循環があることが大切です。自分の経験を次世代に伝えて知見を回していくというのは、一度流れができ始めると、そのお母さんの経験が、また次の層にまたインパクトをもたらすんじゃないかなと、熱い思いとじんわりとした感動と共に聞いていました。ありがとうございます。
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