話し合いの専門家×気象予報士の夫婦が語る、家族のリスクマネジメント

斉田季実治氏(以下、斉田季実治):斉田季実治です。よろしくお願いします。

斉田英子氏(以下、斉田英子):斉田英子です。よろしくお願いいたします。本日は「夫婦の話し合いはリスクマネジメント――きちんと話すためのマナーとスキル」ですね。書籍(『家族と話し合いをしてますか?「伝わらない」「わかり合えない」がなくなる本』)を2021年12月10日に出版しまして、その内容から特に「リスクマネジメント」の「マナー」と「スキル」について夫婦でお伝えします。

事前にたくさん質問をいただいていますので、いくつかはお話の中で答えていきたいと思います。また途中でもチャットにご質問を遠慮なくお送りください。

この本を書くのと並行して、「彩り家族コミュニティ」の公式LINEを走らせたり、「ヒンメルカレッジ」を主宰したりしています。「家族」「話し合い」をテーマに、夫婦で活動しています。

学者として、大学でまちづくりの「話し合い、対話、合意形成」に関することを研究しています。私自身も人と話すことに失敗したりして「難しいな」と感じ、それが研究テーマとなったんですね。また、それを基にコーチングの資格を取り、キャリアコンサルタントの資格の勉強もしております。「自分自身の苦手なところだからこそ突き詰めたい」と活動を行っています。

斉田季実治:ふだんは気象予報士として気象キャスターをしています斉田季実治です。今回の本の中で「季実治の視点」として、男性側から書かせていただいています。株式会社ヒンメル・コンサルティングの代表と書いていますが、こちらは2人で行っている会社になります。

(スライドの)下に書いてあるように、防災士、危機管理士、星空案内人など、いろんな資格を持っています。気象情報がどう活かされるのかを大切にしながら、お伝えしようと思っています。

また、「宇宙天気」と書いていますが、一昨年の春から「ABLab宇宙天気プロジェクト」のプロジェクトマネージャーをしています。1月からは総務省の「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」にも参加させていただいています。

私は本の中でも「宇宙に行きたい」と書いておりますが、着実に前に進んでいるところです。先日、パラリンピックのメダリストの富田宇宙さんと対談する機会がありました。実は彼、高校の後輩なんですね。彼にも「一緒に宇宙に行こう」という話をして、盛り上がっていました。今会社としても、宇宙天気のことを進めています。

一人ひとりが自分でしっかり考え、絶対に命を守る行動ができるように

斉田季実治:会社には4つの柱があります。1つ目が「気象・防災」です。気象キャスターとして活動していますが、実は天気予報に出るだけではないんですね。「イベントを開催するかどうかなどを、どんな基準で決めたらいいか」というコンサルティングも行っているんです。

2つ目が「宇宙天気」。「未来の災害に備える」ということで、宇宙天気についても活動しています。

斉田英子:宇宙からいきなり個人。両極端と思いきや、実は宇宙天気も未来災害ということで、すごく日常生活に密接しているんですよね。

私たち夫婦の考えである「一人ひとりが自分でしっかり考え、絶対に命を守る行動ができる」ということをお伝えしたいと思います。また、そういった個人個人が増えると、地域、社会、国全体で、もっともっと安心できる暮らしを作っていける。なので、宇宙、防災、そして私個人といったところにも、会社としての柱を立てています。

そして近い未来に重要になる宇宙天気、いつ起こるかわからない災害について、少し先を見据えて考えていくことが大切です。「Think Future」、少し先を見据えてどう動くのか考えよう。それから「Make My Story」、いろんな仲間とつながって、自分だけのストーリーを作っていこう。こんなビジョンを掲げて4つの柱で活動しています。

最後の「ヒンメルカレッジ」というのは新しく立ち上げたコミュニティなんですね。同じ関心を持った仲間とのコミュニティとなっています。また後ほどご紹介しますね。

このように2人で活動する中で、本の構想自体は随分前からありました。今回チャンスをいただきましての出版となります。

まず『家族で話し合いをしてますか?』の概要紹介をして、今日のメインテーマである「夫婦の歩調を合わせましょう」、その後「話し合いはリスクマネジメント」という話で、スキルとマナーを織り交ぜながら進めていきます。

事前にいただいた質問に回答しながらお話ししていきます。また最後にもまとめて質問に回答する時間がありますので、遠慮なく質問をお寄せください。

夫婦は分かり合い・伝え合いの最小単位の練習場所

斉田英子:こちらの本は「テーマが盛りだくさんだよね」とみなさんが言ってくださいます。やっぱり生活をしていると、いろんなテーマが複雑に絡み合っていることを感じると思うんです。どれか1つを解決するということではなく、日々変わっていく社会情勢や親子の状況に合わせて話し合いが不可欠ですよね。

テーマは、キャリア、仕事、子ども、健康、命についてといったことは特に大切にしました。このように、いろいろなテーマはありますが、伝えたいことはやっぱり1つです。

夫婦といっても別の個人なので、感じかたが違います。その違いを「楽しめるか」「分かり合えるか」「上手に伝えられるか」といったことの最小単位の練習場所が、夫婦だと思っています。とにかく「そのために練習をしましょう」ということが、この本で一番お伝えしたいことです。

夫婦で練習をしていれば、子どもは必然的に巻き込まれていきます。子どもも「自分の意見が通らない」ことがあれば葛藤もするし、「どうやって自分の考えを通せばいいのか」といったことを練習していきます。

そして学校や社会の荒波にもまれてもポキっと折れずに、強くたくましく生きていってほしい。こういうことが一番のテーマになっています。

著者の私が女性なので、女性が手に取りやすい本になっているかもしれません。またシミキョウさんのイラストに助けられていて、見ているだけで話かけたくなるような、話をしているような本になっています。でも女性だけでなく男性も、また性別を超えて話すべきことなので、各章の章末には「季実治の視点」というものがあります。

斉田季実治:そうですね。「熱く語っているので割り込みにくいな」と思いながら聞いていましたが、私が「季実治の視点」というものを各章の最後に書いています。やはり女性だけでなく、男性側の視点もあったほうが、本として手に取りやすいと思いまして。

夫婦は別の個人で他人だからこそ、コロナ禍でストレスが増加

斉田季実治:はじめは、今(スライドに)出している「幸せの色はオレンジ色」というものだけを載せていたのですが、話を進める中で「各章にあったほうがいいだろう」ということで、各章に関連することを、章末に書かせていただくことになりました。

斉田英子:1つの章を読み終えた時にふっと「季実治の視点」が目に飛び込んできて、はっと気づくことがあるんです。こんなフィードバックがたくさんできたりします。

斉田季実治:そうですね。読みながら、急に私のコメントがあって驚かれるかもしれませんけど(笑)。

斉田英子:シミキョウさんのイラストから、季実治さんに似たものをチョイスしました。「幸せの色は何色?」といった漠然としたことも、どんなイメージなのか、何かにたとえて考えてみる。子どもに「何色かな?」と聞いてもいいと思いますね。出てきた色に対して、「それはどうしてそう思うの?」というやりとりから、その思いにたどり着いていく。親子でイメージを共有していく。

斉田季実治:きっかけ作りとしてもね。

斉田英子:うん、ぜひ聞いてほしいですよね。私たちは時々「とても仲がいいですよね」とか「夫婦で会社を経営するなんて、さぞかしいいスクラムを組んでいるんでしょうね」と言われるんです。

でも先ほど申した通り、夫婦は別の個人で他人なんです。私には私のコンフォートゾーンがあるし、時間的・空間的なプライベートゾーンが必要です。季実治さんだって同じです。

斉田季実治:最近英子さんの誕生日があって、「何が欲しい?」と聞いたら「一人旅がしたい」と(笑)。それぐらい個人の時間は大事にしていますね。

斉田英子:コロナ禍になって、1つの屋根の下で密に、いつもはいないパートナーがいる、いつもはいない子どもたちがいる。それで本当にストレスがたまってきているんですよね。

斉田季実治:だから一人旅なんだ(笑)。

斉田英子:心地よい時間・空間が、コロナ禍によって密になり過ぎるとストレスになるのかな? とか、あるいは、どんな時間があれば自分はそのストレスを緩和できるのかな? と見つめるいいきっかけですね。

働き方が変化し実感した「移動時間」がなくなるしんどさ

斉田英子:働き方も変わってきていますよね。これまでの働き方では、子どもを持ちながら大学の教員をするということは、学会に行くために前日に現地入りするなどして、相当の手配をしなければなりませんでした。

今は開始時間ぎりぎりまで、それこそパジャマでいても大丈夫です。画面オフであれば、ふだん着のまま学会に参加でき、発表もでき、会議にも参加できるのは本当にありがたい。わざわざ東京や北海道に行かなくても、地方から参加することができます。でも、その分次々に会合や予定が入ってくる。

斉田季実治:ちょっと予定が入り過ぎちゃうのはありますよね。「実は移動時間って無駄でもなかったのかな」と最近思いますね。

斉田英子:そうですね。

斉田季実治:次々に会議など予定が入ってしまうと、かえって忙しくなってしまう。これまでは移動時間に考えごとをしたり、本を読んだりできていたから。

斉田英子:音楽を聴いたりね。

斉田季実治:そういう時間がなくなっちゃって、逆にちょっと「しんどいな」というのは正直あります。

話し合うことで、お互いの「心地よさ」をつくる

斉田季実治:逆にメリットもあります。今進めている宇宙天気に関して、私はABLabでプロジェクトマネージャーを務めていますが、もう1人のプロジェクトリーダーの方がそもそも宇宙天気に詳しいんですね。(プロジェクトが発足して)もう2年になるのですが、実はまだ会ったことがないんですよ。

コロナ禍になってすぐにプロジェクトを一緒に立ち上げたんですね。そして(一度も会っていなくても)プロジェクトは進んでいて、気づいたら国の検討会にも出ているという。

そういう意味ではすごくメリットもある。いい面と悪い面があるので、うまく活用できればと思います。コロナ禍もそろそろ長くなってきたので、今の状況も精査して、働き方を考えていかないといけないと思いますね。

斉田英子:そうですね。夫婦のリスクマネジメントとしても、ストレスがあったり、働き方が大きく変わったりした時に、気持ちを出し合いながら心地よさをお互いが作っていくことですよね。「私はこうなんだ」「たまには一人旅をしたい」「一人のお茶の時間が欲しい」とかね。

私は住宅政策も専門で、研究しています。日本の住宅は、特に戸建てに関しては決して狭いわけではないんですよ。狭いのは賃貸なんですね。

子どもが3人いて賃貸のマンションとなると、選択肢が非常に少ないんですね。なので、密に集まった住宅の中で、心地よさを作っていくといった新しい住宅のあり方を模索する時がきているのかなと思います。

「家族」は、個性の違う人が集まった「チーム」

斉田英子:(スライドの図の)真ん中にある大きな黄色い「他者との出会い・学びのゾーン」に出ていく必要があります。「コンフォートゾーン」、つまり心地よさだけでは、やっぱり成長しない。他者であるパートナーと出会うのが家でもあると思うんですね。

我が家には3人の息子がいて、それぞれまるで違う個性を持っています。それこそが他者がいる家族、チームということだと思います。家族がより平穏に暮らしていくために、日々工夫していきたいですよね。

斉田季実治:そうですね。

斉田英子:ご質問をいただいています。「夫婦間でも適度な距離が必要なこともあると思いますが、そのあたりはどうお考えですか?」。まさに距離が必要なこともあるので、ご夫婦で「どんな距離感が心地よいか」について、ぜひ話し合ってみてください。

また「単身赴任で普通の会話ができないんです。コロナもあり心配すると『うるさい』と言われてしまって。どう話しかけていいのかわかりません。良い方法があれば教えてください。仲良くなりたいのは私だけでしょうか?」というご質問もありました。

斉田季実治:我が家も単身赴任でしたからね。長男が小学校に上がるまでの6年間は、私は基本的に東京にいて、英子さんが熊本で子育てをしていて、産休・育休中だけ東京に来ていました。

斉田英子:うん。

斉田季実治:なので、やっぱり会っている時間には、意識してコミュニケーションを取ったり、会話したりしましたね。

斉田英子:そうですね。当時は、努力次第で会うことができたので、極力会うようにしていました。当時は携帯で顔が見える設定にして話したりして。コロナ禍で、なかなか行き来ができない単身赴任のパートナーがいる場合いろんな機器を使って、極力「表情を見る」時間を作ることは本当に大事ですよね。

斉田季実治:子どもたちは、私が行けば喜んでくれましたから。だからこそ会いに行っていましたね。

斉田英子:うん。

単身赴任で離れていても、子どもに愛情を伝える工夫

斉田季実治:夫婦によっては、ふだん会っていない親の悪口を、子どもに言ってしまうこともあると思うんですよ。それだと、会いに行った時になかなか大変だと思うんです。そのあたりはどうでしたか?

斉田英子:それはもう、私はものすごく意識をしていました。「お父さんがすてきだということ」「カッコイイということ」「今離れている理由」を毎日毎日話していましたね。

離れている親がいたとしても、子どもたちは「自分たちは愛されている存在なんだ」と気づく必要があります。間違っても夫婦げんかなんて子どもの前ではしてはいけないと思っています。大人として、そこは演技でもいいと思うんですよ。

もしもイラッとすることがあったとしても、子どもが恐れてしまうようなけんかは絶対にしてはいけない。夫婦が離れている分意識して、いない人の存在を常に話す。ふだんのおしゃべりを通して「(子どもは)大丈夫?」ってね。

ご質問された方の「コロナがあって心配だ」ということもおしゃべりを通して(伝えられるといいですね)。もしお子さんがいらっしゃったらお子さんの言葉から「お父さん、大丈夫?」と伝わるといいですよね。

役割にとらわれすぎずに「苦手なこと・得意なこと」を話し合う

斉田英子:私は単身赴任の方がいる忙しい家庭についても、よく相談を受けるんですね。働く女性が増え、母親の単身赴任の方にもたくさん出会ってきました。お父さんと子どもが(家にいて)、お母さんだけがあちこちに行くご家庭もありますね。

男性だから、夫だから、女性だから、妻だから、子どもだから、と役割にとらわれ過ぎずに、できることをしていく。「料理をする」「子どものことを考える」など、いろんなことをある程度こなしていくために「苦手なこと・得意なこと」を話し合っていく。「こんなことが必要だよね」とまさにこの(スライドの)イラストの歯車の感じです。

斉田季実治:そうですよね。

斉田英子:また人生が長くなって、その分仕事の時間も長くなってきました。だから稼ぐ、そして休む。「休む」イコール「学ぶ」かもしれないですね。体調を壊すリスクも想定して、船が沈没してしまわないように2人でしっかりとマネジメントしていく時代です。

斉田季実治:保険に入ることも大切。私たちも今自分たちで会社を経営しているので、体調を崩して働けない状況になった場合、片方がそれを補えるような状況にしておくのもリスクマネジメントの1つですよね。

斉田英子:どうしてもお金のことが一番心配になります。だから、自分たちや、実家も含めたお金のことを、大きな流れとして把握しておくこと。

空いてしまった靴下の穴は、小さいうちに繕っておく

斉田英子:あと、休むこともすごく重要だと思っています。今メンタル疾患、いろんな体調不良、病気も含めて40代になってくると友人で亡くなる方がいますね。

斉田季実治:うん。私も友だちが2人亡くなっています。

斉田英子:「この前元気に会ったあの人が?」という経験があります。そういう時にこそ本当に自分事として、夫婦であらためて健康のことを話しています。

もう1つリスクマネジメントとして、家族はチームなのに、仕事しかしなかったり、自分のことばかりやっていて、「パートナーや子どもは自分についてきているだろう」と思っていたのに、ふと振り向くと誰もついてきておらず、突然離婚を突きつけられた友人が複数います。

斉田季実治:たぶん自分にとっては突然だけど、相手にとっては突然じゃないんですよね。

斉田英子:そうですよね。空いてしまった靴下の穴は、小さいうちに繕っておかないと履けなくなる。穴が大きくならないように、しっかりケアしていくことが必要です。やっぱり日々おしゃべりしながら、しっかり見ていく。事情を把握していくことが大切ですね。