「場」を作る力は、時に実務的な能力以上に過大評価されがち

秋山進氏(以下、秋山)(役員に必要な)「空間の作り方」という部分で、どういう安心空間を作るのか。どうやってもっと空間を活性化させていくか。あるいはネガティブなモードになった時に、どうポジティブに転換するかなど、このへんをちゃんと技術化していく。ここはあんまり今はビジネス界で言われていないところなのですが、今日、実は元NHKの松本(和也)さんと、この件でお話をしました(笑)。

空間創造でいかに空間のモードチェンジをするか。松本さんのアイデアを借りて、そういったところをちゃんと技術化してあげたら、思考・行動特性も良くて技量も高く、実際にすごい「実績」を出しているのに、「空間の作り方」が下手だから虐げられている人を救えるんじゃないかと。

井上和幸氏(以下、井上):なるほど。

秋山:空間の作り方がうまくて過大評価されているズルい人は、いっぱいいるんですよ(笑)。リクルートなんか(笑)。

井上:僕も実はこれに近い人の下にいたことがあって、その話をよくするんですけど……。

秋山:あ、誰かわかった。まぁいいや(笑)。

井上:ははは(笑)。オフィシャルというかパブリック系の経営者の方で、「空間を作る力」がすごい方を誰か挙げていただくことはできますか?

秋山:有名な人でいますが、うちのクライアントだったりするんですよ(笑)。

井上:さすがに言えないですか(笑)。

秋山:言えないというのがありますけど(笑)。

技量も実績もあって、場づくりにも長けている人

秋山:やっぱり優秀な人はいらっしゃいますね。プレゼンがうまいとか、パネルディスカッションがうまいという人ではないんです。むしろ社内でボケをかましたりが上手な人です。ここの技術がうまい人は、まずウケが強い人ではあります。

攻めが強い人は頭が良いのでバッとすぐ論理的な段階だけで言ってしまうのですが、そうではなくて論理的なところと感情的なところの両方を合わせたところで、今はどういう空間作りをすればいいのかが先天的にわかっているんです。言ってもいいのであれば、リンクアンドモチベーションの小笹(芳央)さんはうまかったですね。

井上:そうですね。確かに。

秋山:彼は天才的にうまかったですよね。僕らが彼らと一緒に仕事をしたのは若い時だったので、まだ多少の作為性が見えたけど(笑)。

井上:変な意味ではなくて、あの頃の感覚の小笹さんはやっぱり意図的にやっていましたよね。

秋山:やっていた。だから大変上手な人なんです。彼はスライドの上に書いた「技量」もすごい人で「実績」もいつもすごかった。そういう意味でいえば「空間の作り方だけ上手でうまいことやっている人」ではないです(笑)。それはちゃんと言っておかないといけない(笑)。

井上:そう思います。

秋山:彼はすごくうまかったですよね。あんなふうにやろうと思ってもできないですよね。

井上:場の出し入れみたいなものは本当にうまかったですね。樫野(孝人)さん(リクルート→IMJ社長、兵庫県議会議員などを経て、現在、かもめ地域創生研究所理事、県立広島大学客員教授)も攻めていて……。

秋山:樫野さんもうまいですよね。

井上:ごめんなさいね、みなさん。僕らのプライベートな先輩方なので恐縮ですが(笑)。なるほど。

経営陣に必要な5つの視座

秋山:先ほどお話しした技量の思考・行動特性のところで、実際は役員にするかしないかで現場の人と我々のような外部の者とで戦いが起こってしまうんです。

(スライドの一番左の列に)空間的視座、歴史的視座、環境変化・対応姿勢、チーム構成基準、意思決定基準と書いていますが、これは冒頭でお話ししたこれから偉くなっていく人が若い時に持っていたものというよりも、今はこれを持っていてくださいという現状の視座の話なんです。

話としては全社最適視点(業界最適視点)が良いんです。空間的にも縮尺が自由自在で、歴史的に見ても過去・現在を踏まえた上で、かつ未来から引き戻して考えることもできます。環境変化に対する対応も、基本的に外部がこういうふうに変わっていくから、それに対してどういうふうに適応していくかを中心に考えます。チーム構成基準も、この目的に照らした時にどういう人を集めてくればいいのかを考えるんです。

「意思決定基準は、組織として今は何をすべきか?」という使命や経営理念、パーパスから紐付けたかたちで意思決定をします。「こうするのが良いし、こういうことができそうな人は、外部の人間的にはこの人が良いですよ!」と言うのですが、なかなかそうはいかないんです(笑)。

現場から出てくるのは「多数派の価値」です。営業部門では営業部門の部門最適について強く意見を述べる方が喜ばれます。将来のことなんかわからないので、現在を中心に変えます。ただ、当人が現在と思っているものは、実は少し前に優勢だった考え方なんです。ですからその段階で少しズレているので、外部適応よりも内部統合なんです。

もともとみんなの視座が古いですし、かつみなさんが部門で生きているから世の中のことなんて知ったこっちゃないので、「実際に中がどういうかたちで統合できるのか」「みんなが一体化できるのか」の観点から対応される方を良しとするんです。

チーム構成基準に関しては、自分のことをよく聞いてやってくれたほうがいいに決まっています。意思決定基準は、口では「我が社は」と言うものの、本当は自分のことしか考えていない。ただ、こういう観点で部門代表的な人が上がってくるのは、もう仕方ないんです。

多数派の価値観に埋もれず、上手にコミュニケーションを取る

秋山:きっと今日聞いてくださっている社長さんや幹部の人は、経営者JPさんに関係する人たちなので、おそらく(スライドの)左側に近い人が多いと思います。なので、「右側だからしょうがないよね。うちはしょうがないんだ」と思っていらっしゃると思います。

これについてはこう言います。しょうがないんです。こんなもんなんです(笑)。ただ一方で、こういう価値観の中で埋もれてしまってこちら(右側)になってしまうと、みなさんが本当の意味で役員などになって大活躍していただくことにはならないと思うんです。

なので、一方ではちゃんと左の意識を持ちつつ、同時に多数派はどうせ右になるんだと認識しつつ、その中で「いや、この場面では左側で攻めてみよう」とか、あるいは右側の世界観の中で「これだけだとまずいし、世の中がこういうふうに変わっているからこんなふうにやってみない?」という感じで、上手にプロフェッショナルコミュニケーターとしてやっていただくしかないんです。

井上:ははは(笑)。現実的に考えると、ということですかね。

秋山:でもね、そこは乗り越えてもらいたいんです。「俺は左で、すごいんだ!」と言っていてもやっぱり良くないので、基本は右なんです。

井上:そうですね。

現場は「多数派の価値」で動いている

井上:あとは冒頭で申し上げたとおり、僕は現在、エグゼクティブサーチ事業で経営者や幹部の採用のお手伝いをさせていただいていますが、その時に、端境の局面で採用する側でご相談が入ったり、迷ったり、最後の局面で残念ながらご縁がなかったとなることがけっこうあります。

いわゆるキャンディデイト(候補者)側の方で、ミドルからちょうどエグゼクティブレイヤーに上がってくる方や、逆に現時点では役員になっていらっしゃる方も含めて、悪意なく左側の認識の方も存在するなと、お話を聞いてあらためて思いました。

秋山:おっしゃるとおりです。

井上:そうすると左側の認識がないのはトップからして、きれいごとを言っているということではなくて、困るなあという……その部分での候補者への両利きの視座への期待と、それを持ち合わせていらっしゃならい候補者への失望は最終局面の中の1つの事象としてはよくあると思います。

秋山:この「信奉された価値」と「多数派の価値」の2つの軸の間に、多くの方がいらっしゃるんです。特にみなさんの中でエグゼクティブサーチで入られた方、きっとトップの方は左側の「信奉された価値」のほうで、「これでがんばってくれ!」とおっしゃられるはずなんです。

ただ、現場は「多数派の価値」で動いているので、そう簡単に左ばっかりでは進められないんです。なので、やっぱり右側は「こういうふうに動いている」の「こういうふう」をちゃんと自分で理解できるようになって、どのあたりから攻めるかを考えるんです。

そして少しずつ左に寄せていき、みなさんから見て「この人の言うとおりにやっていれば、けっこういいよね」と思ってもらえるようになると、みんながあんまり考えなくなり、聞いてもらえるようになるので、だんだん左側に近づけていけるんです。あるいは、そういう仲間をまずは見つけることをやっていただければと思います。

現場と向き合う幹部に対する経営者の支援姿勢

秋山:今日聞いていただいている経営者の方があんまり左を言い過ぎると、言われた方は大変です。なので、左を言いつつ「右もちゃんと理解してね」と言って、「右と左でわからないことがあったら僕に聞いてね」という感じでご支援していただくのが、けっこう大事かなと思います。

井上:なるほど。そうか。そこは僕も反省しよう。わりと僕も「左ですよね」と言って……(笑)。

秋山:あなたは左だよね(笑)。

井上:いや、僕自身がどうかというよりは、経営人の採用のご支援をしている時にクライアントサイドの方からのすり合わせやご依頼やご相談があった際、ベースが左軸を完全にフィックスして僕自体も見てご支援しているなという気がしました。

秋山:左の人なので左をベースに見ていただいて、右との接続をどう図るかを考えるようにご指導していただくのがいいのではないかなと思います。

井上:そうですね。でも秋山さんがおっしゃるとおりで、右の世界はどの会社の中にも、一つひとつのユニットには存在していますからね。

秋山:ありますね。

井上:なるほど、ありがとうございました。

ある意味でここが経営人材(経営者・役員クラス)と幹部人材(部長・課長クラス)の端境のところだと思います。個人のスタンスでいえば、どういうところをどういうふうに見ていくべきか。また、見られる側の立場であれば、先ほどの抜擢の話も含めてどのへんをポイントにしていただくかという頭出しができたかなと思います。

これから求められる経営幹部は、仏教の「四天王」型

井上:まとめとQ&Aに入っていきたいと思います。秋山さん、事前に少し拝見していた、これから求められる経営幹部タイプをみなさんにお話しいただくことは可能ですか?

秋山:アホな話なのでこれはどうかなと思うんですけど(笑)。すみません、これからちょっとアホな話をします(笑)。

井上:そんなことないと思います。「急に何が出てきたんだろう」と思っていらっしゃる方はいるかもしれませんが(笑)。

秋山:僕は仏像が好きなんです(笑)。それは置いておきまして、経営幹部の話をした時に、「四天王」というのが経営幹部のある種のタイプの分類にすごく使えるんです。四天王とは、釈迦如来みたいな人がだいたい真ん中にいて、それを守る役割として持国天、広目天、増長天、多聞天という人がいます。

これはもともと、ヒンドゥー教の世界の重要人物たちです。それを、仏教はいきなり自分たちのガードマンにしちゃうという「仏教はすごいな」という話ですが、それは置いておきまして(笑)。もともとのヒンドゥーの言葉は必ずしもこの意味ではないのですが、よく見てください。

持国天は「自分の国を維持する」。それから広目天は「広く目を開く」。増長天は「増進する・強くする」「どんどん成果を収めていく」という意味です。多聞天は、「話をよく聞く」という人。

これは、「これからの経営陣に求められる人は、だいたいこれぐらいのことは持っておいてくださいね」という視点的なものを表す意味では、かなりよくできているんです。

持国天は外部変化に合わせて組織を維持するという、リスクマネジメント的・ディフェンス的視点です。オフェンスだけしかできない人は、今は厳しい。いろんなところから見られているので、リスクマネジメント的な発想を持ってディフェンスも考えていかなければいけないんです。

広目天は、下界の新しく重要な情報を獲得し解釈する。広目天はあんな仏像なのに、ちゃんとペン(筆)を持っているという仏像なんです。「世の中の新しいことはどうなっているんだ?」という、今日お話ししたインテリジェンス的・未来的視点です。

増長天は、成長・成果を生む行動に挑戦して結果を出す。これは挑戦心があって、どんどんオフェンスしていけるか? というポイントです。それから多聞天は今の岸田総理です。「人の話をよく聞く」と言っていましたが、人の話をよく聞いて理解して、何が同じで何が違うのかをちゃんと整理して、さらに心理的なところもケアするという人なんです。