「遂行する力を持つ人」の、思考・行動様式

秋山進氏(以下、秋山):続いて、3つ目の将来「遂行する力を持つ人」とはどういう人か。1つ「人を教え導くのではなく、機能させ活用する人である」、2つ「上手に使う人ではなく、使い・使われる人である」、3つ「与えられた戦力だけではなく、戦力確保に貪欲な人である」、4つ「役割を遂行するのではなく、現在位置と将来像を示す人である」。

5つ「キチンと仕事をするのではなく、ピンチに成果が出せる人である」。まあ、きちんと仕事をしていただくことは大事なんですけど(笑)。6つ「何でもやるのではなく、制御でき重要なことに集中する人である」、最後の7つ目が「実力がある人ではなく、実力があり・運がいい人である」ですね。

まとめると、リソースの確保 × チームビルディング × チームマネジメントで「機能型チームを構築する」です。おそらく、1つ目、2つ目あたりが、世の中で言われる話とは違っていて、かなりリクルート的ですね(笑)。

井上和幸氏(以下、井上):リクルート的なんですかね?

秋山:リクルート的だと思います。要するに、人に教えるよりも、その人の特質と仕事の特質を見て、まずは使ってあげる。その場で使ってあげたら勝手に能力が上がっていく、というね。ただ、そこでどういうサポートをしてあげるとよく機能するか、というのを考えましょう。

2つ目の「上手に使う人ではなく、使い・使われる人」。「使われるのが上手」というのも、とても大事なことです。リクルート的と言ったのは、リクルートの創業者の江副浩正さんがそうだったんです。

例えば営業で、「こういう段階・状況で、取引先もみんなOKなんだけど、それよりも最終的にトップの人が出てきて『私がやらせます!』というコミットメントの表現さえしていただければ、その案件は決まるんです」と。

「ただこれが専務だとダメで、やっぱり社長なんです。社長に来ていただくだけの価値があるし、あんまりしゃべらなくてけっこうなので来ていただきたいんです」と伝えたんです。といっても、江副さんはいろいろしゃべってしまうんだけど(笑)。

井上:ははは(笑)。

秋山:しゃべってしまうんだけど、「『私が責任を持ってやらせます!』と一言だけ言っていただければけっこうです」というシナリオを書いて渡したら、ちゃんと使ってくれるんです。

井上:確かに。

トップの「役割」を意識していた、リクルート創業者の江副浩正氏

秋山:要するに、こういう人は偉い・偉くないとは考えていないんです。「組織を機能させるためにどういう人がどういう役割分担をして、これからどういう演劇をするのか」や、「演劇の中で自分はどこの役割をやるんだ」ということがパッとわかって、パパッとやれたんです。

これは昔の日本企業だとあまり好かれないかもしれません。ですが、このやり方でやったほうが、圧倒的に成果が上がります(笑)。なので、これからはこういうやり方のほうがいいと思います。実際に、こういうふうにやっているリーダーを持っているチームは生産性も上がるので、自分の評価も高くなるのかなと思います。

井上:なるほど。(江副氏の)同行の話は僕もあらためてわかります。ですが、これがちゃんとみなさんに伝わるかどうかはあるかもしれないですね。

秋山:そうなんですよね。確か、これも本にするときにはカットしたと思います(笑)。

井上:「お願いします」と言われて「なんだよ、わかったよ」と言って出ている、一般的なトップとは違うんですよね?

秋山:違うんですよ。機能なんです。要するにこれは社長機関説です。あるいは役員機関説です。「どういう機関としてどういうファンクションをやればいいのか?」を、機能型チームの中で自分が役割を演じているという「意識」なんです。

井上:1点目の「機能させ活用する」という観点なんかは、僕もよく「リクルートはすごい教育研修プログラムがあるんでしょ?」と言われてきました。今はいろいろあると思うのですが、少なくとも昔は何もなかったという話をよくしています。

やっていることはまさしくこの話なんです。場を与えることが、少なくとも人材開発の一番のポイントになっていたじゃないですか。

秋山:そうなんですよね。ちょうど今からサッカーの中国戦が始まるはずなんです。みなさんの中でもサッカーが好きな人はそっちを見たい人がたくさんいると思います(笑)。練習だけさせていても仕方がなくて、代表戦で使わないといけないんですよ。板倉(滉)くんは出ているかな(笑)。

将来役員になる人の基本的姿勢は「or」ではなく「and」

秋山:あとは運ですね。やっぱり運が大事なんです。運は難しいんですけど、やっぱり運の良い人と付き合っていくことで運が悪い人は改善できますし、そういうやり方しかないと思います。

井上:運についても心理学系の方がいろいろ研究をしていて、すべてがそこに結びつくということではないものの、けっこう行動特性によるところはありますよね。

秋山:ありますよね。『オプティミストはなぜ成功するか』は良い本なので、運があんまり良くないなと思われている方は読んでみていただければと思います。

井上:循環論という感じもします。運が良い方は、先ほどの構想力のところでもお話があったように情報収集の仕方とか、決断のところでおっしゃってくださった「ネタになる前のものを拾う」といったところが、結局は良い結果につながってくる。それが実証されていることかなと僕は思います。

秋山:そうですね。そう思います。

あとは、将来役員になる人の基本的姿勢として「or」ではなく「and」ですよと書いていますが、『ビジョナリー・カンパニー』の考えをこの頃は使ったんだと思います。

柔軟かつ頑固。具体的かつ抽象的。情を理解し、理を大事にする。自己の壁を認識して超越する。違いを前提とし、同じ方向に目を向ける。弱みを把握し、強みに注目する。自立し、かつ協力する。

これは企画書に書いてあったのですが、まとめは「不遇な時代もあるが、あなたは必ず発見される」です(笑)。僕はこれを言いたかったのかな(笑)。

井上:かっこいいですね。

秋山:でも、実際はなかなか発見されないんです(笑)。

井上:そんなこと言わないでください(笑)。

秋山:やっぱりラインに置いておくと発見されないんです。なので、私みたいな役割の人がどこの会社にもいて、こういう人を発見して、森保さんじゃないですがちゃんと使ってやらせてみてというのをするんです。うまくいかない人もいますが、うまくいく人は実際に私がけっこう発見したんです。当人は知らないのですが、すごく偉くなった人がけっこういるんです(笑)。

明日を担う若手逸材を見つける際の注意点

井上:発見でいえば、今日ご参加いただいている経営者の方や上位経営陣の方は、みなさん、間違いなく自社の明日を担うであろう逸材を発見したいと強く思っていると思うんです。あえてこうしたら発見できるというのはありますか?

秋山:やっぱり発言の機会と、その発言の吟味ですよね。一見おかしなことを言う人がいても、「これは本当におかしいのか?」と、ちゃんとチェックするんです。そういう視点を持って見ていないと、会議は目的的にやるものなので「目的に照らして一番良いことを言った人」が良いことを言ったと思ってしまうんです。

今日のイベントに来ていらっしゃるような立派な人たちは、広い視界を持ったり、普通の人では考えないような視点を持っていたとしても、目的に合わせてちゃんと縮尺を合わせて話す技術があります。

ただ、若い時はそういう技術がないんです(笑)。なので、技術がないと「変なやつ」「おかしいやつ」「何を言っているのかわからない」「あいつおかしいんじゃないの?」と言われることになってしまうんです。

なので、さっき言ったように「目的と関係ないからあいつはダメだ」と落とすのではなく、大事なのは「こいつもしかしたらすごいかもよ?」と思ってプールを作り、試す機会をちゃんと持つかどうかなんです。

ただ、ラインの課長さんや部長さんといった普通の人にそれをやれと言ったって、すぐに成果を出さないといけないのでみんな大変です。なので、普段とは違う特別なプロジェクトの状況で見るというやり方をしないと、なかなか見つけられないと思います。

井上:発見対象者と思われる方を別の場に持ってきて、コミュニケーションをするといった感じでしょうか。

若手の逸材を見出すきっかけは会議にあり

井上:今ふと浮かんだのですが、昔々の僕の記憶で、よく本部会とか部会・課会をやっていて、誰ということではないのですが、そういう場面が僕もあったなと思いました。

いわゆるその場の長の方が、正直に言えばいろんな意味で物事の見方が違うんじゃないかな? とか、例えば意見を少し押さえつけていたりすると、比較的目端が利いている人は、そのミーティングの場においてはどちらかというと……。

おそらく社長の方とかがそこを俯瞰して見ると、例えば部長さんがその場を回していて、いろんな会話がされている時に、「違うんちゃうか?」と本質的な何かに気付いている人は、その場で引いていたり、斜に構えていたりするじゃないですか。

秋山:そうそうそう。するんです。

井上:特に大手さんなどではこれを見逃しているケースが、よくありそうだなと今も思います。

秋山:思考のレベルで課長を超えているメンバーの人は、明らかに疎まれます。年を取ってくると言い方が上手になって、「すばらしいですね。別の観点から見るとこういうこともあるんじゃないですか?」と言えるようになるんです(笑)。

井上:もちろんいろんな意味で大人度が増してきて、そういう場でも場を作りながらちゃんとコミュニケーションができたりしますよね。一番できる方は、年代を問わずそういう感じなんですが。

秋山:30代の前半でやれと言っても、それはかわいそう(笑)。だから、そういう人はむしろ早めに見つけてあげて、そんなに遠慮しなくても大丈夫な上司の下に付けてあげないと厳しいですよね。

井上:そうですね。みなさんもそんな目で見渡していただくと、もしかしたら意外と近いところに抜擢すべき人がいるかもしれません。

役員を選出する際の3つのポイント

秋山:もう1つだけお話をしますが、このスライドに書いてあるのは、実際に役員にするかどうかを決める時にけっこう重要なポイントです(笑)。

今のイメージでは、役員というのは執行系の役員です。取締役は今はもう違う仕事になってしまっています。

「実績」は、役員を執行役員などに上げるかどうかを決める時に、個人としてのマネジメント実績であるグループを束ねて成果を出すものと、個人として「ほんまこいつどうやねん?」といったものを見ます。会社によっては個人の部分を気にするところもあるし、しないところもあります。

「技量」は、ビジネススキルでは先ほどのAIがどうとか、あるいは新しいお金の調達方法がどうかというビジネス的なもの。それから能力的特性。先ほどの「5つの力」がここに入ります。そして、それを実行していける思考・行動特性を持っているかどうかです。

思考・行動特性が良ければ100パーセント能力が高く、仕事ができるというわけではないのですが、思考・行動特性みたいなところをチェックします。それから、これがけっこう重要で……。

井上:3つ目の「雰囲気」は良いですね。

秋山:これは少し難しいんですよ。最初の「見栄えや話し方」はかなり改善できるのですが、次の「空間の作り方」は、「安心空間をどう作るか」「ディスカッションで戦わせるモードをどう作るか」「モードを作ってそのあと引き取る」などです。

この空間の創造が先天的にできる人がけっこういるんです。でも、僕から言わせてもらうと、これができる人は過大評価されているんです。当人は何も大したことをしていないのに、全部が「この人がこうしてうまいこといっちゃった」となるんです。

井上:ははは(笑)。

秋山:空間の作り方はすごく重要なのですが、これだけでうまくやっている人が多く、空間の作り方だけが上手な人はお引き取り願いたいと思っているんです。大事なことは(スライドの)上のほうの「実績」のある人や「技量」のある人なんです。見栄えや話し方はすぐにどうにかなります。