リーダーと現場の不協和音はなぜ生まれるのか?

——続いてのご質問は、「こんな時どうする? 意思決定で迷った時の判断基準」について。リーダーが意思決定しても、現場が納得していなくてうまく回らないという話はよくあると思います。その原因と、どんな解決策があるのかを教えていただけるでしょうか?

横田伊佐男氏(以下、横田):確かによくありますよね。メンバーの腑に落ちていなくて、なかなかうまく動いてくれないことは、リーダー特有のお悩みだと思います。いろいろなケースを見ていて、私が非常に思うのは、リーダーとメンバーが同じ景色を見ていないことがけっこう多いんです。

ゴールを定めたとして、そこへの道筋はリーダーは伝えたはずだ。ところが、メンバーはその景色を見ていないということが非常によくあります。現場が動かないのはそれに尽きるので、(解決策としては)同じ景色を見られるようにすることだと思います。

「ゴールの定義」「手段の定義」「どこで軌道修正の道標を記していくか」。ここの意思決定を作り上げるプロセスのあたりからメンバーにも入ってもらって、同じ景色を見ていくことが重要です。

「同じ景色」というとちょっと抽象的な言葉ですけれども、例えばリーダーが作戦や戦略の資料・パワーポイントを一方的に作って見せるよりは、みんなが見ている会議室の中で、同じホワイトボードで一緒に意思決定を作っていく。こういうプロセスを入れるだけで、ぜんぜん納得感は違ってくるかと思います。

お互いに役割が異なるからこそ、目線合わせが重要

横田:最近はオンライン会議等が非常に多くなり、メンバーも画面オフで参加したりと、みんながどこを見ているかがわからない。画面オフの場合だと、手元でメールを書いたり内職しながら仕事をしている人もいるでしょう。そうすると、非常にミスコミュニケーションが起こりやすくなります。

今は会議もZoomなどでやっていますけれども、画面にホワイトボードを出したり、私もよくGoogle Jamboardを使って、「ここがゴールで、そのための手段はこうで、こういう役割で進めていきたい、こんなところで軌道修正を検証しよう」と共有しています。1枚の同じ景色を見るための工夫をすることで、先ほどのような問題はだいぶ解決できると思います。

——著書の中でもリーダーと現場の連携の部分がとても印象的でした。一緒にやっていくことが大事だなと思う一方で、現場が戦略まで決めなければならなかったり、逆にリーダーが戦術に細かい口出しをするとうまくいかない。そこの線引きはしつつ、お互い協力していければいいんだなと思いました。

横田:そうですよね。先ほど申し上げたとおり、リーダーは捨てることを決める。それによって方向性が定まりますが、その過程も見てもらって、方向性が確定したらリーダーは引き算を終える。

今度は足し算の手法で「スタッフのみなさん、ぜひ(アイデアや意見を)出してください」というふうに、ある程度の役割分担をして、それを突き合わせていくことが、現場の中では非常に必要になってくると思います。

リーダーとメンバーの役割は違うので、お互い委ねていくところはあっても、目指すところを実現する中で、必ずまた同じ地図を見ながら話し合う機会を持つ。そうすると、相互の意思のズレがないコミュニケーションが図れて、同じ方向を見ていくことがだいぶ可能になります。

「どういう理由で判断したのか」を理論と思いで伝える

——今の時代は、自分だけが正しいと思うリーダーばかりではないと思うんですけれども、意思決定のプロセスの中で、例えば現場から反対意見が出ることも多々あるかと思います。もちろん、意思決定自体に問題があるケースもあると思いますが、例えば「反対意見ばかりでまとまらない」というふうになってしまったら、リーダーと現場はどう協調しながらやっていけるのでしょうか?

横田:そうですよね。今まで申し上げてきた、道標で数値で検証することと、1枚の地図の見える化をしていく、リーダーは捨てる決断をする、メンバーは足し算でいろんなアイディアを出す。

これらの複合技になりますが、基本的に始めに反対意見が出る場合は「こういう理由で、こちらの選択肢は捨てた」ということを、ある程度論理的に、かつ思いも乗せて話さなければいけないんです。

選択肢が決まったら、今度は軌道修正になると思うんですけれども。これも中間地点の道標で数値化したものを判断しながら、リーダーは必ず行く先のゴールをぶらさず、今重要としているゴールへの近道を選ぶのか、安全性などを憂慮して曲線的に行くBプランを選ぶのか(を決めます)。

次に、大事にする指標を掲げ、それを「こういう理由で判断したい」ということを、みんなの見える前で決断していく。そうするとメンバーも「こういう理由で、リーダーはここを選んでいくんだ」ということが腑に落ちやすくなり、反対意見を持っている人にも納得感を持ってもらうことができると思います。

——納得してもらえるプロセスを、理論と思いの両面で伝えることが重要なんですね。

横田:そうですね。その過程もちゃんと見せていくことが重要だと思います。

良いリーダーは「未来の理想」と「覚悟」を持ち合わせている

——では、4つめの「後悔しない意思決定」について。やはり先のことはわからないので、決めたことへの納得感があるかどうかが、「後悔しない意思決定」に必要ではないかと思います。成功するかどうか見通せなくても、できる限りのことはした上で、進まなければならないという状況で、決めたことを後悔しないためには何が必要でしょうか?

横田:リーダーが(その上の経営者などに)バトンを渡されて「進め」と言われたならば、私はもう持つものは1つしかないと思っています。選択肢を描いていく覚悟です。いろいろな選択肢の中から不要なものを捨てて、1つを選んでいく覚悟が必要かと思います。

そうした覚悟を持った人の中でも、良いリーダーとそうでないリーダーがいると思いますし、何がいいかは人それぞれの判断になるかもしれませんけれども、自分なりの理想の状況を持っていることが、良いリーダーの条件だと思います。

というのは、何かしらの問題に対して意思決定をするわけですが、この「ある問題」を形作る公式があります。日々、何かの問題を解決するために、いろいろな意思決定を掲げて、選択肢を捨てていくわけですけれども、実はこの問題は、「理想」−「現状」という公式で表せます。

つまり、理想の状況から現状を引いた差分に当たるものが問題です。例えば営業をされていたのであれば、年間1億円を稼がなければいけないという目標がある。でも、現状は7,000万円までしか来ていない。そうすると問題は、残り3,000万円をどうやって積み上げていくかということになります。

すぐ目の前に見えている現状に着目しがちなんですけれども、現状に問題があるわけではなく、「こうなっていきたい」という未来の目標や理想の姿をはっきりさせる必要があります。この問題をくっきりさせるためには、現状の先にある、未来の理想の状況を浮かび上がらせなければならないんです。

そういう意味では、ちゃんと理想や目標、ビジョンを言語化・数値化できる能力がリーダーに一番求められているものです。良いリーダーの条件としては、理想を描き、バトンを渡されたのであれば迷うことなく、覚悟を持ってメンバーたちを率いて進んでいく。これが、後悔しないリーダーのあるべき姿だと思います。

リーダーとしてのプレッシャーや責任への向き合い方

——自分が迷わないためにも、理想の状態を示す地図が必要ですね。リーダーの持つ覚悟というのは、お話としてはよくわかるんですけど、最初から持っている人ばかりではない気もします。どうしたら覚悟を持ったリーダーになっていけるのでしょうか。

横田:確かに抽象的な言葉ではあるんですけれども、いい意味でプレッシャーがないリーダーはいませんよね。自らが率いるメンバーの今後に責任を及ぼすと感じ取る気持ちが、覚悟じゃないかと思います。

メンバーは、リーダーの意思決定にいい意味でも悪い意味でも影響されていくと思うんです。それが今後の人生の中で非常にいいヒントになり、今の仕事が楽しめるかどうか。

責任やプレッシャーを感じることもあると思いますが、そこで「嫌だな」と思うよりは、そういう立場になったので、メンバーにいい経験・いい方向性を示してあげようと考えることで、ある意味では楽しい覚悟になるんじゃないかと思います。そんな気概を持っていくのが、リーダーとしてのいい出発点になるかと思います。

——最後に、悩みながらもよりよい意思決定をしたいと考えている方々へのメッセージをいただければと思います。

横田:わかりました。今回は、リーダー経験の長い方もそうでない方もいらっしゃるかとも思います。いい意味でも悪い意味でも、みなさんが率いているメンバーは、いつも「どんな言葉を発せられるのか」を期待して見ておられます。

そのためにはいろいろと悩みながらも、自らも知識を付けていく必要があります。いつもいくつかの選択肢を持ちながら、その中で「これはこういう理由で捨てる。だからこれを選ぶ」ということの繰り返しになります。みなさんがメンバーの方々を連れて行きたいゴールに向かうために、より良い意思決定ができるよう、今日のお話のいくつかが参考になれば幸いです。

——今日お話しいただいた以外の具体的な手法について、『迷えるリーダーがいますぐ持つべき1枚の未来地図』で詳しく解説されていますので、ご興味のある方は、ぜひご覧いただければ幸いです。横田さま、ご視聴くださったみなさま、本日はどうもありがとうございました。

横田:ありがとうございました。あっという間の時間でしたけれども、大変楽しかったです。

——こちらこそ貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。