「育休明け」というラベリングが、相手の活躍機会を奪うことも

沢渡あまね氏(以下、沢渡):問いかけ続けることって大事だと思っています。例えば育休明け間もなくは、周りの人たちが「(育児が大変で)申し訳ないから、大きな仕事は任せない」と思って、単純作業しか任せない。

その後、1年も2年も3年も同じラベルで相手を見てしまって、悪気なくその人の活躍機会を奪ってしまうことってあると思うんですね。ですから同じラベルで見るのではなく、1年後・2年後・3年後でライフステージも変わっていくので、本人ができることも気持ちも変わってきているわけです。

やはり、1on1などを通じたお互いの期待役割やキャリア感についての対話。どんな可能性があるかも含めて、こういう対話はものすごく大事なのかなって思います。

小田木朝子氏(以下、小田木):そうですね。変化が早いだとか、変えていく必要があるとか、多様な人と仕事をしていくとか、もしくは家庭を作っていくというと、対話なくしては成り立たないですよね。

沢渡:2つの対話だと思うんですね。「本人との対話」と「世の中との対話」。本人のライフステージや心持ちも変わっていきますし、世の中の流れや性別、職能に関わらず、できることは増えていったりするわけです。だからこそ、この2つの対話が大事なのかなと思います。

小田木:みなさんもチャットにリアクションをありがとうございます。コメント一つひとつ、目を通させていただいています。今日、このメンバーと地図を広げて問題意識の共有もできましたし、同じことが組織やチームの中でもできるんじゃないかなと思うので、ぜひこういった対話を生み出していきたいと思っています。

問題地図をNo.1から25まで広げてみたんですが、実はこれは(スライドの)左に寄れば寄るほど個人に関する話、そして右に寄れば寄るほど組織全体、仕事のやり方、もしくは風土や環境に関わる話なんですね。これも踏まえると、1.0的アプローチと2.0的アプローチが精査できるんじゃないかなと思っています。

沢渡:なるほど。

「駆け込み乗車はおやめください的アプローチ」とは?

小田木:左に限定的なのが1.0的アプローチだという定義をしています。

沢渡:1.0は、わりと本人の気合いと根性と意識任せですね。

小田木:平たく言うと、「女性はもうちょっとキャリアのことを考えたほうがいいよね」「本人がもっとやりたいこと言うべきだよね」とか、かなり個人に寄ったアプローチじゃないですか。ここに寄せすぎちゃうのが、たぶん1.0的アプローチなのかなって。

2.0的アプローチというのは、そもそも組織の中にある仕事のやり方とか、対話も含めたコミュニケーション、固定的な概念、仕事の役割の定義、こういったものを全般的に見直すこと。もっと言うとアップデートしていくことによって、左側も解決するんじゃないのというのが2.0的アプローチ。

沢渡:私はこの1.0的アプローチを、よく「駆け込み乗車はおやめください的アプローチ」と呼んでいるんですけれども。

小田木:(笑)。

沢渡:これは女性活躍だけの問題ではないと思うんですね。社会で起こっています。

小田木:そうですね。

沢渡:「駆け込み乗車はおやめください」というのはわかるんですが、それって利用者個人の気合いと根性任せです。でも、よくよく観察していると、同じ鉄道会社が運営しているのに、電車が着いた1分後に同じ系列のバスが発車したりする。走るしかないから無理ゲーじゃないですか。その後、バスが30分ないというような、「誰トク」な意味不明なダイヤが組まれていたりする訳です。

だから、気合いと根性・本人の意識も大事なんですが、仕組みも変えていかないと世の中の問題は発展的に解消しないよね、という話だと思っていて。

小田木:そうですね。組織として何を評価していくのか、どういった行動を認めていくのかと、まさに同じ話だと思うんですよね。長時間労働ではなくって、仮に効率化と連携によって個人で成果を上げることができるようになったとしても、そもそも評価されるのは「いやぁ。昨日遅くまでがんばっていたね」みたいな感じで、時間の長さでの評価だとそこが噛み合わない。

なので、そういった全体観、仕組み・仕掛け、風土文化評価軸を含めて見直していこう、アップデートしていこうというのが、まさに2.0的アプローチなのかなと思っております。

「女性人材は管理職になりたがらない」という、根深い課題

小田木:ということで、くどいようですが(女性活躍)1.0的と2.0的をみんなで掴んでいこうよという意味で、例えば「男性人材と比較して、女性人材は管理職になりたがらない人が多いんだよね」という問題意識があった場合に、1.0的アプローチと2.0的アプローチどう違うのか。

1.0的アプローチだと、「その女性のキャリア意識を変えていかなきゃいけないよね。だからキャリア研修しちゃう?」「管理職になる女性部下の面談とか研修しちゃう?」みたいなアプローチ。

沢渡:そうですね。

小田木:これも必要なんですが。

沢渡:あるいは、長時間労働に耐えられるメンタリティを鍛えるみたいな、よくわからない方向にいきますからね。

小田木:もしかしたら管理職の魅力がないのかもしれないので、組織の中にあるマネジメントスタイルを変えていく必要がある。そこに向けてアプローチしていく、Doingを設計していこうよというのが、2.0的アプローチになるのかな。

沢渡:そうですね。プラス1.0的アプローチは、そもそも管理職が雑務や間接業務に追われまくっていて、雑務を一手に引き受けてしんどそう、みたいなのもありますから。そういうものは正しくなくしていったり、ITを使って一瞬でこなせるようになる働き方のアップデートも、間違いなく必要なわけですね。

小田木:それって(管理職に)なりたい女性や若手が増えるかどうか以上に、今がんばっている管理職をサポートしていくことにもなるんじゃないかなと思うので、いずれにしてもすごく大事な観点ですよね。

沢渡:そうですね。

古い仕事のやり方では、社員のエンゲージメントは上がらない

沢渡:小田木さん、またいい観点の投げ込みをいただきましたよ。「キャリアについて考える時間がないのも一因ですかね」。そのとおりだと思います。そういう時間をどう創出していくか、あるいはキャリアについてマネージャーと対話する、傾聴するスキルを身につけていく。

マネージャーとの対話が無理であれば、人事組織からキャリアコーチ制度を提供するなど、さまざまな打ち手が考えられると思いますね。

小田木:ありがとうございます。1.0と2.0がどういう定義か、もしくは1.0的アプローチと2.0的アプローチがどんなものか、手を替え品を替えいろんな観点からみなさんと共有してきましたが、なんとなくお掴みいただけたでしょうか? 

女性活躍2.0により、最後に実現すること。どんなビジョンを目指したくて、そのためにどういった打ち手のアプローチが必要で、そもそも前提としてどんなギャップ問題を解決していきたいのか。全体図を資料の中に入れておりますので、これもご参照いただければと思います。

沢渡:たぶんここまでの話だけで、いわゆるデジタルトランスフォーメーション、そしてダイバーシティ&インクルージョン、ビジネスモデルをよくしていくビジネスモデル変革、あるいはエンゲージメントの向上ですね。古い仕事のやり方で、みんなが時間で苦労しなければいけない職種・職場に、社員がエンゲージメントを感じますか? という話です。

「成長意欲の高い人」に照準を合わせないと、甘やかしの組織になる

沢渡:こういったさまざまなキーワードが、今までは単独の星々で単独で輝いていたのが、今、“宇宙”としてつながってきはじめたと思うんですね。

小田木:なので、女性活躍をどうするかという話よりも、組織全体に必要な仕事のやり方や考え方・スキルのアップデートを、「女性活躍」というキーワードをフックにしてうまく活用しながら前に進めていくという考え方ができると、この図が実現していくのかなと思います。

沢渡:そうですね。女性活躍をフックに組織力を向上すると。

小田木:沢渡さん、前半のまとめを一言お願いします。

沢渡:女性活躍のみならず、ダイバーシティ&インクルージョンの本質を私たちはこう説明しています。これまでの社会環境や仕事のやり方、マネジメントの仕方、組織カルチャーによって制約条件があった。しかしながら、成長意欲が高い人に合わせて垣根をとっぱらっていく。組織をアップデートしていくことが、ダイバーシティ&インクルージョンの本質かなと思います。

ポイントが「成長意欲の高い人」という下の句なんですね。単に「私、かわいそうな人です」「私、困ります」と、文句ばっかり言っている人に合わせると甘やかしの構造になりますね。

成長意欲があったり、ポテンシャルが高かったり、貢献意欲が高い人。こういう人たちに合わせながら制約条件をとっぱらって垣根を下げていくと、女性のみならず全員が正しく活躍でき、組織も正しくアップデートする。こんな姿を描いていきたいと思います。

“賞味期限切れ”になりつつある、マネジメントの定義

小田木:ありがとうございます。ということで、前半は「女性活躍2.0ってそもそもどんな定義?」にフォーカスをしながら、Beingの状態の景色合わせをしてきました。ここからさらに本題に迫っていきます。Doing、打ち手の観点ですね。

「どういう状態が望ましいか」が描けた場合に、具体的に何がクリティカルな打ち手になってくるのか。そして今、1.0から2.0にシフトしていこうとした場合、どうやって移行していくのか。ここを考えたいと思います。

ベースの考え方として、女性活躍2.0は「女性活躍をどうするか」という話ではなくて、自社にとって望ましい方向性や実現したい人物像を実現していくために、(スライドの)左側と女性活躍推進の取り組みにギャップがあっちゃだめだよね、ということを大前提に置いております。

そして今日は残り30分足らずの中で、具体的なDoingとしてどう着目していくのか。時間の限りもありますので、Beingを描くためのDoingの着眼点、その前提にある課題を3つに絞りました。1つめがマネジメントの定義、古くないでしょうか。

沢渡:古い。賞味期限切れ(笑)。

小田木:賞味期限切れ。2つめ、実はメンバーからリーダーへの移行がうまくいっていないことに、多様なリーダーが増えないという課題の一端がないでしょうか。

沢渡:ありますね。ある日突然「マネージャーをやれ」と言われて、「えー」みたいなね。

小田木:そう。これはもう女性だけの課題じゃないんですよ。

「長時間労働、気合い、根性」では、人材活躍は望めない

小田木:最後に3つめ。組織チームの中でパフォーマンスを発揮していくための、スキルが定義できていないんじゃないですか。何ができるのが、これからのチーム組織にとって仕事ができる人なのか。ここの定義もアップデートしたほうがいいんじゃないでしょうか。

沢渡:武器を持たされていない状態で、「旅に出ろ」って言われるような感じですね。

小田木:そうなんですよ。

沢渡:「棍棒だけで魔王を倒してまいれ」みたいな。

小田木:そうそう。武器はないのに「がんばれ」と言われて、「え、どうやってがんばろう? じゃあ長時間労働と気合いと根性か?」みたいな。これではやっぱり、多様な人材の活躍は無理ですよと。

沢渡:そうですね。

小田木:そこに紐付いているんじゃないかという仮説を置きながら、後半のテーマは3つあります。あらためて、これからのマネジメントの定義を更新していくこと。これがDoingに必要な1つになりませんか。

そして2つめ。自分の仕事がちゃんとできるメンバーから、チームのマネジメントを実行していけるリーダー。この移行を適切に支援することが、具体的な打ち手の一端にならないでしょうか。

最後に3つめは、これから求められるチームの中で成果を出せる人材のスキル定義自体をアップデートして、その育成をサポートすることが結果として女性活躍推進にならないでしょうかと。この3つですね。

沢渡:3本柱。

小田木:3本柱を残りの時間で。じゃあさっそく、1本ずつ見ていきましょう。

沢渡:(視聴者コメントで)「2番、自分の時にしてほしかった」。いいですね、過去の悔しさを過去の涙を、未来の笑顔に変えてください。

小田木:ありがとうございます。次に続く人のために一緒にやっていきましょう。素敵なコメントですね。

リーダーの疲弊した姿を見ているから、管理職に魅力を感じない

小田木:まず1つめは、これからのマネジメントの定義を更新しようということですが、なぜ更新が必要なのか、なぜ今のままではだめなのか。ここから考えていきたいと思います。

じゃん。これは我々からの問題提起ですね。マネジメントを実践する役割の人を、ここではリーダーという書き方をしていますが、管理職か・管理職じゃないかということではないんですよ。

チームリーダー・グループリーダーだったり、後輩の面倒を見ている中堅人材も、役割としてはマネジメントを実践するリーダーの一端と言えるんじゃないかなと思います。なので、マネジメントを実践する役割を担う人、言い換えるとリーダー。この魅力が組織の中ですごく落ちちゃってるんじゃないかなという、問題の提起です。

沢渡:わかります。

小田木:リーダーがすごく疲れちゃってませんか? 疲れちゃっていたり、1人で一手に長時間労働と責任を担って、仕事を邁進しなければいけない。そんなリーダーが魅力に欠けちゃって見えてませんか? これはリーダーを責めてはいないです。

沢渡:そうですね。

小田木:でも、ここが問題の一端です。そもそも、リーダーが成果を出すための武器を更新してあげる必要があるんじゃないか。それによって、脱・長時間労働で成果を上げる新しいリーダーが組織に増えていくと、結果として男女に関わらず、資質のある人がきちんとリーダーになっていく。平たく言うと、女性管理職比率というKPIも成果を伴いながら、実現していくんじゃないかなと思っております。

沢渡:後に続く人に明るい背中を見せられますよね。疲弊してるリーダーだったらなりたくないけれども、会社も仕組み・仕掛けでサポートしてくれて、自分の勝ちパターンを実践しながらチームを成長させていく。そういうリーダーだったら「私もなりたいな」と思える。

小田木:そうですよね。

沢渡:この、組織の中のロールモデルをいかに作っていくかが大事かなと。

小田木:「誰よりも時間をかけて仕事をしなければいけないのが管理職である」という定義がある時点で、ライフイベントを迎えた男女が候補からボロボロと落ちていくと思うんですよね。すみません、それは無理です。