お笑いでSDGsを伝える、次長課長の河本準一氏が登壇

河本準一氏(以下、河本):次長課長の河本といいます。どうぞよろしくお願いいたします。「SDGsでなぜ次長課長の河本が?」となる方もいらっしゃるかもしれませんが、2017年にSDGsに関連したイベントのお誘いが吉本興業にありまして、僕がそちらに行かせていただきました。

その時に、なんとかお笑いとSDGsを紐づけられないかなと考えたんです。2030年までの持続可能な目標と言っているにも関わらず、SDGsの話をする時はどうしても硬くなる。この話は僕らの世代の方々だけでなく、やっぱり小・中・高の子どもたちにも伝えていかないとバトンがうまいこと渡らないと思うんです。

小・中・高の子どもたちにどうやってSDGsの話を聞かせるのか? 僕は校長先生の話の時によく寝てたんですけど、やっぱり難しい話をすると眠たくなっちゃうんですね。なので吉本興業としては、お笑いのネタの中にSDGsをうまく取り入れて、お客さんにSDGsをわかっていただこうという取り組みを始めました。世界でこれ(お笑いでSDGsを伝える)をやっているのは日本だけだそうです。

世界の話でいきますと、なんで日本と世界が違うのかというと、海外では子どもの頃からディベートをするそうなんです。日本だとなかなかみんなで集まって話をしましょう、みたいなことはありません。だったらお笑い芸人が一役買いまして、ネタをやったり、◯✕クイズなんかをして、少ないんですけども優勝した方にはグッズをお渡ししたりして。この間は子どもにライターを渡してましたけどね。

(会場笑)

それは「違うだろ」と言いましたけど、そんな活動をしています。実は僕は名古屋市緑区の桶狭間幼稚園の出身で、桶狭間の戦いの跡地に住んでいました。親父が浮気をして離婚したために岡山に移ったんですけど。それはさておき、僕は今岡山や大分の国東で農業をやっていまして、日本の農業、お米のすばらしさを世界に広める活動もしていきたいと考えています。

ということで、今日は社長とお話しさせていただけるということで、「次長社長」ですね。

大川哲郎氏(以下、大川):「次長社長」で、よろしくお願いします(笑)。

河本:ひとつよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございます。

SDGsを経営の柱に据え、国内外で高く評価される大川印刷の代表が登壇

司会者:それでは大川さんからも、みなさまにごあいさつをお願いいたします。

大川:こんばんは。青年会議所のみなさんに呼んでいただいて、本当にうれしく思っております。と申しますのも、私は2007年まで横浜青年会議所に所属しておりまして、最後は副理事長までさせていただきました。20代から30代にかけて青年会議所で学んだことがきっかけとなって、今の活動があると考えていますので、そんなお話をみなさんにお伝えできればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございます。それでは「次長社長」のお二人(笑)。

大川:それでいきましょう(笑)。

河本:お願いします(笑)。

司会者:大川さんと、そして河本さんのお二人に、これから対談いただきたいと思います。

大川:ありがとうございます。

河本:お願いします。企業の社長さんにお話を聞くことはなかなかないので、ぜひいろんなお話を聞かせてください。

大川:こちらこそです、よろしくお願いします。

司会者:大川印刷は2018年に第2回ジャパンSDGsアワードで「SDGsパートナーシップ賞」を受賞され、SDGsに関する事業について高い評価を受けていらっしゃいます。まず大川さんより、大川印刷とSDGsについてご説明をお願いいたします。

大川:ありがとうございます。紹介の動画がございますので、まずそちらをご覧いただければと思います。

【動画再生】

大川:本業を通じて社会課題解決を実践する、ソーシャル・プリンティング・カンパニー。

ナレーター:私たちは、横浜市の印刷会社・大川印刷です。明治14年創業、従業員およそ40人の老舗町工場。崎陽軒のシュウマイ弁当の掛け紙から医薬品の添付文書まで、幅広い印刷物を作っています。そんな私たちの経営の柱となっているのが、SDGs。持続可能な世界を目指すため国連が定めた17個の目標です。

大川:バブルが崩壊して、非常に業績が悪くなりました。その時にこのSDGsという世界共通のゴール、課題に対して人も企業も取り組むのが非常にわかりやすいですし、中小企業としても経営難を乗り越えていくために、ビジネスとして課題解決に取り組もうと。

ナレーター:私たちのSDGsは政府からも評価され、2018年にはジャパンSDGsアワードで特別賞を受賞しました。

さらに国外からも、ノーベル平和賞を受賞している環境活動家、アル・ゴア元アメリカ副大統領が開催した環境イベントで、私たちのSDGsへの取り組みが評価され、テキストや会場案内などの印刷物の受注につながりました。

SDGsへの取り組みで、2000年以降の最高益を記録

ナレーター:中小企業の私たちが取り組むSDGsが、評価をいただけている理由は……。

大川:「環境印刷」と、私どもでは呼んでおります。

ナレーター:私たちが掲げる理念、環境印刷。それが一目でわかるのが、印刷機に貼られたSDGsのロゴ。例えば15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」。印刷に使う紙に、違法伐採でないと認められた紙をおよそ6割使用しています。

印刷機に貼られたロゴは、その目標に貢献していることの証明です。12番の「つくる責任、つかう責任」。この目標が示すのは、インク。石油系溶剤を一切使わない、環境にやさしいインクを9割以上の印刷物に使用しています。

さらにこの取り組みが支えるのは地球環境だけではありません。

従業員女性:石油系溶剤0パーセントのインクの使用を進めることによって、自分たちがとてもクリーンな環境で仕事ができるようになってきています。外部から評価を受けたいというより、自分たちの環境も良くして活動していこうという気持ちでやっています。

ナレーター:実は大川印刷のSDGs計画を作るのは、従業員たち。取り組むべきSDGsについて話し合い、プロジェクトを立案します。

今、力を入れているのは「CO2ゼロ印刷」。その活動の1つとして、社屋に太陽光パネルを設置。再生可能エネルギー100パーセントで工場を稼働させています。

大川:印刷業界は、ペーパーレスとかデジタル化によって斜陽産業と言われていますが、すべての業種・業界とのネットワークがあるんですね。地域社会の課題解決を、さまざまな企業とのパートナーシップでゴールを達成していくことに、とても適した業界ではないかと思い、私どもは活動しております。

ナレーター:こうしたSDGsへの取り組みから、2019年度は2000年以降の最高益を記録しました。

環境印刷で、地球環境も経営も持続可能なものにする。大川印刷はこれからもSDGs達成に向けて突き進みます。

【動画再生終了】

大川:ありがとうございました。

河本:すばらしいですね。

他企業のSDGs成功事例を、そのまま真似しても上手くいかない

司会者:いろいろなキーワードがあったようにも思いますが、河本さんはご覧になっていかがですか?

河本:社長が自ら旗振りになってSDGsを「やろう」と言っても、社員一人ひとりの意見もありますので、どうしても……「やらされてる」という部分があるのではないかと思うんですよ。

特にSDGsは「むちゃくちゃ良いことしてるでしょう?」(という見え方)になっちゃう時もあって、当たり前のことが普通にできないといいますか、僕がやっていてもなかなか理解してもらえない状況があったりします。そんな中、どのようにしてあんなに笑顔で楽しそうに、みんなで話し合える場を社内で作れたのかとか。そういうところにすごく興味があります。

大川:なるほど、ありがとうございます。たぶん青年会議所のメンバーの方々は、今までの活動の中でもそういった経験をしていると思うんですよ。(SDGsの前には)CSR、企業の社会的責任というものがありました。2004年頃から青年会議所の活動で、持続可能な社会はどうやって形成したらいいかを考える機会がありまして、青年会議所内ではCSRとは「本業を通じた社会課題解決をすることだ」という話になったんですね。

それを会社に持ち帰った時に、従業員さんたちはわからない部分がありますので、みんなでCSRの勉強をしました。SDGsの時も社長(の私)も従業員さんも一緒に勉強をしましたし、講師の方を呼んだ勉強会もやりました。うちは工業団地に拠点がありまして、お金もあんまりなかったので勉強会は団地全体の取り組みとして提案しました。来たのはうちの社員さんと、あと数人でしたが(笑)。

河本:社長もみんなと一緒になって勉強する姿を見せていったと。

大川:はい。でも、勉強会で聞いたことを「来週の月曜日の朝礼からやってみよう」「こんなふうにうまくやってみよう」とやっても、大概失敗しちゃうんですよ。私たちもそうでした。今日もこの後でいろんな事例が出てくると思いますが、その事例と同じことをやってもうまくいきません。私も30代の時に何回も失敗したんですよ。なんでできないのかなと思ったら……。

河本:何ですか?

大川:従業員さんが違うからです。事例の会社の従業員さんと自分の会社の従業員さんは違うし、意識も違う。だから、同じようにやろうとしても、うまくいかないんですよ。

禅寺の僧侶が語った、人間にとっての「究極の幸せ」

大川:そこでどうするかというところで、ちょっとスライドを飛ばしながらいきますけど……。「CSR」と言っても社員さんはわからなかったんですよ。翻訳すると「地域や社会に必要とされる人と企業を目指す取り組み」という訳になるんですけど。

河本:それが、CSRなんですか。最初俺、バイクでも買うたんかなと……。

大川:(笑)。(YAMAHAに)SRってありますよね。

河本:CSRとはそういうことであると。なるほど。

大川:今のSDGsみたいに、このCSRを「中小企業でもやらなくちゃ」となったんですよ。でも、どうすれば「地域や社会に必要とされる人と企業を目指す取り組み」になるのか。それを私どもの会社では「社会課題解決」と捉えたんですね。地域や社会の困ってる人を助けることではないかなと。そこで「ソーシャル・プリンティング・カンパニー」=「社会的印刷会社」というものを企業の存在意義に掲げたんですね。

河本:それが2004年ですね。

大川:2004年です。初めて(青年会議所の)委員長になった年です(笑)。

河本:へぇー!

大川:じゃあ、なんでCSRからSDGsなのか? なんでSDGsを経営に実装するのか? これは掛け算すると、従業員さんの幸せが社会の幸せにつながり、結果、会社の幸せにもつながるだろうという考えなんですね。

忘れられない話がありまして。2007年に、日本理化学工業さんという従業員さんの3分の2以上が知的障がい者の方という神奈川県の会社の会長さんに聞いたお話です。会長さんが、障害を持った方々がなんでこんなに一生懸命働いてくれるんだろうという話を禅寺のお坊さんとしたそうなんですね。

そうしたらお坊さんに「(日本理化学工業会長の)大山さんは経営者だから、ある程度自由にお金も使えるでしょう。でも人間にとっての究極の幸せはお金ではなく、働くことにあるんですよ」と言われたと。その時に聞いた「4つの究極の幸せ」がここに書かれていますが、「人に愛されること」以外の3つ、「人の役に立つこと」「人に褒められること」「人に必要とされること」はすべて働くことで得られる幸せなんですね。

事業でSDGsに取り組めば、「究極の幸せ」のうち3つを実現できる

大川:そこで本業を通じた社会課題解決をやろうとした時に、SDGsが出てきました。(SDGsが掲げる)17個の目標を、本業で取り組めば人の役に立てる。そうすると従業員さんが褒められ、褒められたらうれしいから「もう1回やってみよう」と思ってもらえる。従業員さんは必要とされてうれしいし、従業員さんの集合体である会社も必要とされるだろうと。だから経営に実装する。そういう考え方です。

河本:これは、お笑い芸人にもまったくもって当てはまるんですけど。「お笑い芸人」が職業かどうかはあいまいで、明確になっていないんじゃないかと。

でも、お客さまはお笑いを求めて、お金を支払って舞台を観に来てくれる。一人ひとりのお客さまが、どういう感じで来ているのかはわかりませんが、ずっと悲しかったから、今日は笑いたいんだという人もいるわけで、それは必要とされているってことだと思うんです。それがあるから、僕らも「働きたい」という意欲が湧いてきます。これは、すごく良い言葉ですね。

大川:そうですね。これはすごく大事にしています。この中に「金を儲けること」とか書いてないんですよね(笑)。

河本:ないなぁ。書いてないなぁー……。