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【HYOUGE NIGHT】あの人はなぜ安定の会社員を辞め、副住職をしながら煩悩クリエイター兼編集者になったのか?(全4記事)

家賃7万のアパートを引き払い、月収5万で起業をスタート 新卒入社した会社を1年で辞め、辿り着いた“天職”

スタートアップカフェ大阪が開催する「HYOUGE NIGHT(ひょうげないと)」は、周囲から見ると損していそうな選択をしながらも、自分の感性や価値観を大事に起業し、多様なジャンルで愉快な働き方をしている人(=ひょうげている人)をゲストに迎え、参加者と対話形式で話す集いです。今回のゲストは、月仲山 称名寺 副住職であり、煩悩クリエイターの稲田ズイキ氏。本記事では、これまでの人生で稲田氏が直面した「4つの絶望」について語っています。

「煩悩クリエイター」としての活動は、月収5万円からスタート

稲田ズイキ氏(以下、稲田)(新卒入社の会社を辞め、友人とWebメディアを立ち上げ後に)僕の人生がどうなったかというと、やっぱり稼げる算段がないので。これは参考にならないかもしれないですが、東京で月7万円で借りてたワンルームの家を解約して、近所に住んでる友だちの家に「ここで住まわせてくれないか?」という交渉を真っ先にしに行きました(笑)。

固定費7万円も稼げる自信がないから、まずは固定費を引く。ここは抑えられると俺は思って。というのも、その友だちは毎日僕の家にいて、ずっと一緒に遊んでたんですよ。ということは、お互いに遊びたいし一緒にいたいということだから「それぞれの家がある必要なくない?」って。

バカみたいなロジックを立てて友だちに交渉していくと、「ぜんぜんいいんやけど、唯一気になるのが……」と。汚い話でごめんなさいね、「君の陰毛が気になる。他人の陰毛が落ちるのがすごく気になるから、陰毛をきれいに剃って落ちる心配をなくしてくれたらいいよ」と言われて。

最初は「一泊400円でどう?」と提案されてたんだけど、陰毛を剃ったら200円にしてあげると言われて、「陰毛割」で一泊200円で過ごしてました。1年半ぐらいワンルームで男2人、友だちはベッドで僕はフローリングの上に寝袋で寝てましたね(笑)。

やっていた仕事としては、記事がバズっていたことから「このコラムを書いてくれませんか?」「連載どうですか?」と声がかかってたので、それをやりつつ食いつないだ感じですね。

具体的に言うとね……月の収入は10万円ぐらい(笑)。最初の月は5万円ぐらいでしたね。1年後ぐらいに12~13万円稼げるようになって、徐々にコラムから編集系の仕事を手伝うようになって。編集は執筆よりもけっこうお金がもらえるので、そういうので食いつないでましたね。

近しい人の仕事は魅力的に見えない、という「家業あるある」

稲田:この話が参考になるのかな? という感じですが(笑)、マインドを見てください。みなさん大丈夫かな、(Zoom参加者の)呆然としてる顔がちらほら見えるんですが。

司会者:大丈夫だと思います。1件チャットにご質問がきてるんですが、「なぜほとんどの方は寺を継ぎたくないのですか」。

稲田:いい質問ですね。でも、これはホンマに家業あるあるだと思いますよ。やっぱり、人は近くにあるものは魅力的に見えないんですよ。特に子どもの頃なんて、僧侶が何をやってるのかわかんないじゃないですか。しかも葬式という人生の悲しい場面で出てくる仕事なので、本当に漠然と「辛気臭そう」とかね。家がお寺なんですが、「線香臭いのがイヤだな」とか、本当にそういう雑な感覚でした。

だから、父やおじいちゃんがどういうことをやってるのかを知ろうとしないんですよね。もちろん、そういう教育をされてるお寺は多いですが、僕の家庭はけっこう「好き勝手やれ。将来継いでくれたらそれでええわい」という教育(方針)だったので。

実は、僕は映画の脚本家になりたかったんです。(家業を継ぎたくないと思うのは)近いがゆえに知ろうとしてないから、解像度が低いんですよ。これはたぶんお寺だけじゃなくて、家業あるあるだと思います。

司会者:ありがとうございます。

「お坊さん」として、自分の人生が消費されていくような虚無感

稲田:では、続けましょうか。次は第四の絶望。フリーランスで煩悩クリエイターとしてやっていて、コンテンツを作り続けて2年ぐらい経ったタイミングで、「俺の人生って何なんだろう?」という虚無感が募ってくるんですね。

煩悩クリエイターと言いつつも、やっぱり世の中には「僧侶」として出るんですね。仏教の話をしたり、よくメディアからは「なにかありがたい話をしてください」という仕事をいただく。そういう時には得意の企画で返したりするんですが、「あれ? 俺ってこんなんでいいんだっけ」と。

これね、わかる方はわかるし、会社員をやったり自分でなにかをやってる方も経験する感情だと思います。自分がなったものに対して、「本当に俺ってこれでいいのかな?」という、自分の意味を疑うような瞬間ですね。

もともと僕は、そんなにお坊さんに憧れていたわけじゃなくて、どちらかというと運命とか責任感からお坊さんになりました。それで、仕事や会社がイヤだから独立してしまったのが実のところなので。

自分にあるのは「お坊さん」と「企画」だと思って仕事をしてたので、お坊さんとして自分の人生が消費されてるような感覚になったんですよね。同時に、お坊さんを消費しているような感覚にもなりました。「こんなことをする人生じゃなかったんじゃないのか?」っていう、ありもしない未来が見えたりとか、自分自身が今やっていることに虚無を感じるようになってきました。

「ズイキ」として生きる中で、忘れゆく「みずき」の存在

稲田:ちょっとこれも参考にならないけど(笑)。そのあとに自分の僧侶のあり方を見直そうと思って。仏教の世界ではお坊さんになることを「出家」と言うんですが、僕は出家したあとに「家出」と言って、一回家を捨てました。居候先の友だちの家も出て、SNSで声をかけてもらった人の家に全部泊まりに行くというオリジナル修行をしてました。

「遊行」といって、昔のお坊さんは全国を渡り歩きながら修行していました。そういうのを見たり、奥田民生が『さすらい』で、「さすらいもしないでこのまま死なねえぞ」と歌ってるのを聞いて、さすらったほうがいいタイミングだなと思って(笑)。センチメンタルに襲われて、これをやりましたね。

「自分とは何なのだ」という問いですよ。この自意識自体がすごくこじらせてるんですが、そういうものを、「みずきとズイキの仏隠し」と呼んでいる出来事でうまく乗り越えたんです。どっちも漢字は同じ「瑞規」なんですが、僧侶になる時は本名の「みずき」を音読みの「ズイキ」にして、読み方を変えるんです。それをペンネームに使っています。

ある日の家出中、「僧侶として俺はどうあるべきなのか」ということを考えながら歩いてると、急に中学の卓球部の顧問から何十年ぶりに「おい、みずき! お前来週の町内の卓球大会出れんのかー? 手伝え!」という電話がかかってきて。

「え、みずき?」って。ずっとズイキとして悩んでいて、そしたらズイキとしての自分をぜんぜん知らない人から「みずき」と呼ばれるのが、僕にとってはすごく衝撃的なできごとだったんですね。そうか、俺はみずきやったなって。

稲田氏の人生に訪れた「4つの絶望」

稲田:これは本当に『千と千尋の神隠し』と同じ現象だと思っていて。千尋が自分の名前を取り戻したり、ハクも川の名前を思い出すことによって自分を取り戻して、湯婆婆の異世界から出てくるという話なんですが、僕もその瞬間に「みずき」を取り戻した経験になっています。

『千と千尋の神隠し』ならぬ、「みずきとズイキの仏隠し」だと最近ずっと言ってるんですが、これをきっかけに自我が少し落ち着いたんですよね。

「当たり前のように僕には僧侶になるまでの人生があって、かつ僧侶としての人生があるから、ずっと2つの名前があり続けるんだ。この2つをバランスしながら生きていけばいいんだ」と、今は考えながら生きてます。すごく抽象的な話なんですが。

それで今に至るという話でした。これが、僕の4つの絶望ですね。自我が芽生え、僧侶にならないといけない運命がじわじわと迫り、がんばろうかなと思った会社で不条理に襲われ、広告を調整しないといけなくなり。逃げ込んだ先の僧侶で虚無に襲われるという人生です。というのが、僕の経緯でございます。一旦停止しましょうかね。

司会者:ズイキさん、ありがとうございます。ではここからは、参加されているみなさんへ。ご質問があれば直接聞いてもらったらいいかなと思うんですが、いかがでしょうか。

稲田:難しいですよね。参考にならない抽象的な話だったのかもしれないです。ですが、もちろん実存があるというか、フリーランスになってこの5年ぐらい普通に生きてるので、「収入はどうだったんですか?」という話でももちろん答えられますし、仏教の話でもいいし、本当になんでも。

一瞬によって人生が変わる経験こそが「幸せ」である

質問者1:すみません、いいですか? お話を聞かせていただいてて、けっこう似たような考え方があるなと思っていて。「自分の人生は何なんだ」というのも考えたことがありますし、会社で働いていて自分の時間が消費されてるのも確かに感じたことがあって。それで今はプランもなくて、会社を辞めて虚無に陥ってる状態なんですよ(笑)。

(中学の卓球部の顧問から)「みずき」さんに電話がかかってきた時にハッと気づいたという話なんですが、お坊さんじゃなかった人生をバランスして生きていこうと考えるのって、瞬間的に変わるものなのか、それとも長い時間をかけて考えられたんですかね?

稲田:それがですね……決定的な要因は「環境を変える」、要するに旅に出るという行為だったと思っていて。どれぐらい時間がかかるかわかんないけど、とりあえず家出しようと決めて家を出た瞬間に、「もうやる必要ねえわ」と思っていて(笑)。

その瞬間に、今まで自分が考えてたことが全部ムダだったというか、なんとなく吹っ切れたような感覚があって。なので環境を変える瞬間によって、自分の今まで悩んでたこととか、どうあるべきなのかみたいなことが、形だけはできていたと思っています。

じわじわと自分に慣れる期間が、家出中の半年間ぐらいはあった感覚です。なのでたぶん、人の魂は瞬間的に変わるんだろうなと思います。実はその話を後半にしようと思っていて、一瞬によって自分の人生が変わる経験を「幸せ」って言うんだろうなと捉えてます。そういう経験にどれだけ出会えるかですね。

質問者1:ありがとうございます。

キャリアチェンジへの不安はなかったのか?

稲田:ほかにありますか?

質問者2:ありがとうございました。キャリアチェンジを何回もご経験されてきた稲田さんだと思いますが、キャリアチェンジする時の不安はまったくなかったんですか?

稲田:僕は会社の中ですごくポンコツだったんですね。1年目だからみんなポンコツだと思うんだけど、その中でもすごくポンコツで。やってることも楽しくないし、得意じゃないと思ってたし、同期からも結果をすごく離されていくしね。だから、そっちのほうがつらくて。

幸運なことに「一緒にやろうよ」と言ってくれた友だちが活躍の機会を与えてくれて、そっちのほうですごく承認を得ていたというか。

質問者2:なるほど。

稲田:キャリアチェンジの不安で、もちろん「お金が稼げるか」みたいなのはあったんですが、それよりも得意なことや好きなこと、みんなが褒めてくれることをやったほうが、のちのち自分のためにもなるし、食っていけるようにもなるんだろうなと、漠然とした人生への信頼感がありました。

質問者2:なるほど。ありがとうございます。

質問者3:自分からも質問いいですか? 稲田さんが会社を辞める時に、「もっと会社を続けたほうがいいんじゃない」と他の人から思われたり、一般的には「石の上にも三年」というか、もうちょっと(今の会社を)続けろという考え方だと思うんです。他の人の意見を一部取り込んだほうがいいのか、それともあんまり聞かんで自分の思った道を進んでいくほうがいいのか。そのへんを聞きたいです。

自分のキャリアに対する「他人の意見」の取り入れ方

稲田:僕は自意識こじらせ系なので、自分で自分のことがあんまりよくわかってない(笑)。だから、もちろん他人の意見をすごく信頼するし、実際に(僕が会社を)辞めたのも、当時友達に「稲田だったら大丈夫」と言われたのが辞めた一番のきっかけなんです。

他の周りの友だちや地元の友だちに言っても、「稲田、絶対にもう少し会社にいたほうがいいよ」と言ってくる奴はもちろんいっぱいいて。そういう時の考え方は、その人が自分のどこを見た上で言ってるのかをけっこう意識します。

自分がその才能を信頼してる人間で、自分の作ってる作品や自分の書いてる記事を見てくれた上で友達がそう言ってくれたので、信用しました。地元の友だちは小学校の頃の記憶に引きずられてたりとか、あんまり自分がやってることを理解してくれなかったりすると思うので、ちゃんと素になっている正直な自分を見てくれてる人の意見を信用しました。

他人の意見を取り入れたほうがいいのかどうかは、さっきの話と一緒かもしれないですね。そもそも、すごく自分で考えて「自分はこうあるんだ」って自分を研磨していくタイプの人もいれば、僕みたいに他人に言われて「あっ、そうかもな」「俺はこういうことが得意かもな」みたいに進んでいく、2種類の人がいると思います。

僕は後者を取った中でも、実は自分の中でアドバイスを取り入れる人の選択をしてます。「こいつはたぶん俺のことをわかってないしな」と、裏で勝手に思ったりとか(笑)。都合の悪いアドバイスは聞き入れないという感じでバランスをとっています。

質問者3:ありがとうございます。

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