オフィス移転に伴う「断捨離プロジェクト」

名古屋清次氏:これからお話しさせていただく私どもの体験が、みなさまのご活動の参考になれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

簡単に自己紹介をいたします。改めまして、CTC(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)の名古屋と申します。これまでの経歴としては、働き方改革プロジェクトでアーキテクトを務めたりと、長く金融機関さまの担当をしておりました。最近は文書管理や映像技術サービスの開発や、CTCにおけるDXを社外に発信し、共感いただけるような企画作りを行っています。

本日、私からお話しさせていただくことは3つです。今回の移転にあたって立ち上げることになった「断捨離プロジェクト」の経緯。断捨離の一環で行った電子化の意義と活用の勘所。最後に今後の取り組みについてです。

それでは経緯からお話しします。まず、新型コロナがもたらした変化について振り返りたいと思います。みなさまとも重なる点が多いかと思いますが、CTCでも緊急事態宣言を境に、オフィスの出社率は2割未満に下がって、Web会議のアクセスが15倍に増えるといったかたちで、大きくテレワークに転換することとなりました。

そうした中でテレワークの先、さらに新しい働き方を展望していく中で、社内外の状況をまとめますと……まず外部環境ではVUCAと表現されるような社会や、クラウド・5Gなどの技術進化。デジタル起点でのビジネスモデルの変革、DXといった変化をいち早く取り入れられるような、しなやかな組織作りが求められました。

内部環境としては、先ほどお話ししたWeb会議のオンラインツールなどが浸透することで、ゴールやプロセスがわかりやすい業務に関しては生産性が向上し、テレワークが定着しました。

テレワークと出社を組み合わせた、ハイブリッドワークへ

一方で、コミュニケーションの質が問われるような創造性の高いプロジェクトを進めたり、もっと基本的なことでは、職場の中のちょっとした変化を察知したり、出会い頭での他部署の人との交流(が減ってきました)。

先ほど(別の講演で登壇されたコクヨ株式会社の)坂本さんも「課題発見コミュニケーション」という言い方をされていたと思いますが、そういった機会が少なくなる中で、中長期的なチームの生産性や、会社に対する信頼感に影を落としていることがだんだんわかってきました。

そうしたことから、画一的に出社とテレワークのどちらかということではなくて、テレワークと出社を組み合わせて、良い面は伸ばしていくし、足りない面は相互に補っていくかたちで、ハイブリッドワークを展望するに至りました。

そのハイブリットワークを考えていく中で浮かび上がってきた1つの方向性が、「組織の枠を超えた連携」と「それを支える“場”」を作り上げていくということです。

複雑化した技術を社員一人ひとりが受け止めて技に変えるために、自律性や創造性を育む場を作る。一体感や元気を得ることで、個々の力を会社やグループとして総合力に発展させていく。つながりを広げることでお客さまと共創したり、パートナーと協働する。

一つひとつの思いを束ね合わせて、働き方に落とし込んでいくことを「CTC流ABW」というキーワードに込めて、社内的に発信してきました。CTC流ABWは、主役である人やチームに対してより良い場の選択肢を広げていくことで、その1つが今回竣工した神谷町(の社屋)です。

約5,000万枚の書類の在り方を見直す

こういった考え方を、物理的あるいは時間的に制約する「紙」の存在が、改めて問われてきました。よくテレワークを妨げる「紙の存在」や「押印文化」が挙げられますが、我々はオフィスワークも含めて人やチームの可能性を妨げることなく、逆にどう引き上げられるのかといった視点で、紙のあり方と向き合ってきました。

CTCにおける紙問題についてお話ししますと、ペーパーレス化は多くの社内システムで進んでおり、一部残ったワークフローについて緊急事態宣言以降、対応を加速している状況でした。

オフィスに残る書類は、部門によって定期的な棚卸し・整理が進んでいるところと、そうでないところでまちまちで、全体で約5,000万枚というふうに試算をしておりました。

また別の視点では、ハイブリッドワークとしてのオフィスのコンパクト化も取り入れて、コミュニケーションエリアは増やす一方で、移転前後の総面積としては2割削減しています。

こうした「書類の分量」と「オフィスのコンパクト化」という2つの視点から立ち上がったのが、断捨離プロジェクトです。横断的に書類のあり方を見直していく中で、CTC流ABWを促進させること。そして、移転の中で物理的に書類が行き交っても、紛失しないようなかたちで対策を兼ねるという2点を目的にした活動でした。

オフィスの書類を75パーセント削減

アジェンダの2つ目は、電子化の意義と勘所です。断捨離プロジェクトの目標値は、オフィス内の書類を75パーセント削減するというものでした。出社すれば見られるような、手元保管されている書類の4分の3がなくなるというと、けっこうインパクトのある数字のように思えるんですが、どう整理を行ってきたのかをご紹介します。

今ご覧いただいているフローは、プロジェクト(チーム)から全社に発信した断捨離ガイドラインの一部です。いろいろ書かれていますが、ここにある条件はごく基本的なものです。不要な文書は捨てる。過去の業務に関するもの、古いもの・見ないもの・待てるものは倉庫に移すというものです。

過去の統計でも、オフィスに保管されている文書の5割は廃棄できます。3割は倉庫に保管できるアーカイブで、2割は手元保管が必要なアクティブな文書と言われているので、「廃棄・倉庫75パーセント、オフィスが25パーセント」という区別に関しては、無理も無駄もない指針にできたのではないかなと捉えています。

電子化する書類を選別する際のポイント

続いて、オフィスに残る文書の中から、さらに電子化する対象をどう選別してきたのか。これは一般的な考え方になるんですが、紙から電子化することの意義は、大きく「業務視点」と「管理視点」に分けられます。

業務性に関しては、働き方改革であれば「場所を問わずに閲覧できる」とか、生産性向上であれば「情報共有の促進につながる」ということに関しては、イメージがしやすいかなと思っています。

今回の移転対応に関しては、どちらかというと業務寄りの視点で、緊急性や重要性の高い稟議・契約書類の約30万枚を電子化しました。稟議書であれば意思決定につながるようなノウハウが凝縮された書類にもなりますので、コロナ禍で若い世代の経験を補って生産性を高めるといった使い方になります。

参考までに、今回の移転とは直接関係はないんですけれども、管理視点についてご説明します。ここに書いてあることは、例えば不正閲覧や改ざん防止、BCPといったものを意図しています。

一方で、賃料の高いオフィスに保管してあるような書類を管理強化するもの。ここで言う業務視点と管理視点を組み合わせるようなケースでは、比較的長期間、電子化のメリットが享受できて、コスト削減にもつながってくると捉えています。

短期間で大量の書類を電子化し、検索しやすい仕組みを作る

先ほどお話しした30万枚の電子化にあたって、課題が生じました。1つ目が、短期間での移転ということです。

今回の移転自体は、社内での公表から実際に神谷町に引っ越しが完了するまで約9ヶ月間で行いました。電子化の流れとしては、移転の期日までに書類を搬出し、移転後は速やかにデータとして還元することが求められるので、限られた猶予期間の中で電子化する必要がありました。

2つ目は、大量の文書を探しやすくする仕組みです。一説ではインフォメーションワーカーの業務時間の中で、約20パーセント前後が調べ物に充てられていると言われています。また、今回は緊急性・重要性の高い文書を対象にしていたので、電子化ならではの到達しやすいような仕組み作りもポイントになると考えておりました。

電子化のやり方はいくつかあると思います。例えばCTCが自社でスキャンを行う方法もありますし、従来からあるような電子化のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング:業務プロセスを外部に委託するアウトソーシング)を利用する方法もあります。我々が採用したのは、富士フイルムRIPCORD社のサービスでした。

ちょっと時間をさかのぼりますが、富士フイルムRIPCORD社との出会いは2017年です。アメリカにあるCTCグループの拠点と、アメリカにあるRIPCORD社でコンタクトがありまして、当時から技術力や先見性に注目しておりました。

一昨年、富士フイルムビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)さんと、こちらと米国のRIPCORDで合同会社を設立して、今回の移転における電子化ソリューションとして採用したという流れになっています。

半月弱で30万枚の書類の電子化が可能

我々が着目していた技術力や先見性が何だったのかをご説明しますと、電子化の工程は一般的に、搬出された書類をベンダー側で受け取るところから始まりまして、準備・スキャン・確認・ファイリングといった流れで構成されます。

従来の電子化サービスは、人手による労働集約的な仕組みで、こちらでも手作業や目視が必要でした。富士フイルムRIPCORDの場合は、ロボティクスやAI、クラウドを活用することで、プラットフォームに電子化のプロセス全体を統合するといった考え方になります。従来の人手によるものなのか、テクノロジーを活用したものなのかということで、思想がまったく異なります。

今回、こちらのデジタルツインがどういうものなのか、一例としてご紹介します。まず一口に書類といっても、ふたを開けてみると、中身はまちまちであることが多いかなと思っています。

例えば書類のサイズや紙の質、ホチキス留めなのか袋とじなのか、バインダーの中で書類が区切られていて情報としては別れているのか。文書の性質によっていろいろと枝分かれする工程を管理する必要があります。

そういった書類の構造を電子的にと言いますか、デジタルツインとして再現して、その中で最適なオペレーションを機械的に組み立てるというイメージになります。

先ほどお話しした課題の1点目は、電子化の猶予期間が限られていることでした。電子化の方式によって、移転前後でこの時間軸のイメージがどう変わるのかをご紹介します。

まず自社のスキャンに関しては、単純に物量として、それだけの機材や体制をスポットで作って、移転の期日までに間に合わせることが難しかった。

従来型の電子化BPOサービスは人手による作業なので、必要なタイミングでベンダー側のラインが空いていて、そのスキャン自体の生産性が(スケジュールに)合うのか。また、今回はデータ自体が機密性の高い情報なので、媒体で納品を受けて、今度は各部署のエリアに格納する手間がかかることが懸念点になりました。

事前の試算では30万枚の電子化が、半月弱ぐらいで富士フイルムRIPCORDで対応可能と見込んで選定しました。また、CTC社内で標準ストレージとして利用しているBoxに対して、APIを通じてPDFをアップロードする仕組みがありました。各部署ごとのフォルダに対してタイムリーに還元できることもあり、短期間の移転の中で行うという点をクリアできました。

大量の文書の中でも探しやすくする工夫

課題の2点目ですね。大量の文書の中でも探しやすくする点に関しては、文書の用途に応じて2つの手法を選択しました。1つはドッチファイルを一対一でPDFに再現することです。

よく背表紙にタイトルが書かれていると思いますが、そのタイトルをファイル名に付与するかたちです。シンプルな手法ということもあって安価に実現でき、オンラインでアクセスできればいい文書に適応していました。

余談ですが、スキャンの品質に関してもさまざまな角度でチェックが行われています。例えばAIによって回転の補正がかかったり、白紙のチェックが行われるといった多層でのチェックを通過して、高い解像度のデータがPDF化されます。それによって、細部まで見やすいといった利用者の声も聞かれていました。

もう1つの手法です。1つのドッチファイルの中でも、例えば稟議書であればさまざまな件名のものが綴じられているケースが多いと思います。そういった書類の区切りごとにPDFを分けて、わかりやすいフォルダ階層でファイル名などを付与して置き直すといったものです。

こちらの例は稟議書ですが、書面の中から日付、文書の種別、立案件名などをAIOCRで読み取り、インデックス化を半自動的に実現しています。生成されたPDFにも、AIOCRで読み取った情報を透明なテキストとして埋め込むことができます。

BoxにはCTCの中のいろいろなデータがありますが、既存データも含めて統合的に検索できるかたちにしています。特に閲覧頻度や情報価値の高い文書に対して、インデックス化や検索性の向上といった工夫を加えていました。

ここまでCTCにおける断捨離の流れや電子化の対象、勘所についてご説明しました。昨今は、移転やテレワークをきっかけに文書のあり方を見直したいんだけれども、何から始めればいいかがわからないといった声もお聞きします。

基本的なことですが、文書のライフサイクルに立ち返ると、文章を作ったり、もしくは受け取った文書がオフィスなどに保管されます。そして捺印や開封といった処理を経て、倉庫に保存され、最終的には廃棄される。そういう流れの中で、保管状況に注目して、キャビネットや個々人のデスクその他について、部署別・用途別の書類の量がどれだけあるのかの可視化から始めることをお勧めしています。

定量的な情報を踏まえて、削減できる書類の量や、残る文章の保管方法をどうしていくかといった指針作りにつなげていくことが、企業内での調和のとれた文書管理を実現すると、今回の経験を通じて考えております。

コロナ禍でもペーパーレス化が進まない実状

最後に、今後の取り組みをご紹介します。ちょっとテーマが変わりますが、ペーパーレス化の制度動向としては、来年インボイス制度が施行されます。2025年までに行政手続きの大多数がオンライン化し、紙そのものを生まないデジタル化が基本路線だと思いますが、そう簡単には進まないんだなという象徴的なできごとが、昨年末にあったかと思います。

電子帳簿保存法ではスキャナ保存要件が緩和される一方で、電子取引情報の書面保存制限は2年間の宥恕として、やむを得ない場合の猶予期間が設けられ、少し先送りされています。そういったことから、なぜデジタル化やペーパーレス化が進みづらいのかについて、ちょっと考えてみました。

こちらは日本能率協会が発表した、ペーパーレス化に関する職場の実施状況です。コロナ禍でありながら、直近1年間に関しては、どちらかというとペーパーレス化が進んでいるよりも、いないほうが割合は多いです。電子化できていない書類は契約書や捺印書類が多い。

なぜかというと、法制度や取引先との関係といった、自社でコントロールの及ばない社外の問題もあるということです。そういったことを、このアンケートの中では課題背景として挙げていました。

実際CTCでも、経理・会計証票のペーパーレス化に関しては、IT統制の視点や既存業務システムとの兼ね合いから、一部では3年かけて対応を進めているケースもあります。そこで、デジタル化の中で大きく「まあ実現が容易なもの」と「そうでないもの」と分けた時に、難しいもので立ち止まるのではなく、紙とうまく付き合っていく選択肢を、インテグレータであるCTCとして発信していきたいと考えています。

紙から始めるDXで「ペーパーレス・テレワーク」を推進

今回CTCでは、富士フイルムRIPCORDのリセラーとなり、文書ライフサイクルの総合的なソリューションを提供していきます。大量文書の電子化を起点として、人材の価値を引き出すようなペーパーレス・テレワークの基盤を作っていきます。

文書に付随するオペレーションを集約して効率化するようなBPO。文書の中に埋まっている、いろいろな情報を価値に転換して、利活用につなげていくデジタル活用。そうした構想を、お客さまのステージに合わせてコンサルティングで伴走しながら進めていくといった考え方です。

「紙から始めるDX」というコンセプトで、サービス名は「FromDoc」です。ご記憶に留めていただければ幸いです。

本日のまとめです。ペーパーレス化に関してはテレワークだけではなく、人を中心としたオフィスでのコラボレーションにも寄与するものと考えています。企業内で調和のとれたかたちで文書管理を実現するために、2つのポイントをお話ししました。

まず第一歩は、文書の量や位置づけを点検・整理することです。オフィスや倉庫に残る書類の中から電子化の方式や、構成管理を選択することをお勧めしています。その選択候補として、従来の人手による電子化だけではなくて、テクノロジーを活用したサービスもありますので、ご検討いただければと思います。

CTCの発表は以上です。紙の電子化でお困りごとがありましたら、アンケートや担当営業へご相談いただければと思います。本日はありがとうございました。