カリキュラムをつくるのは、出口ではなく「学び方」

赤司展子氏(以下、赤司):(学校改革について)教育・組織・業務をバランス良くと言っても、そんなにきれいにバランスは取れないんですが、いろんな角度から改革はまだまだやる余地があって、可能性でもあります。

まずは教育内容のところで言うと、来年度からコース制から単位制に変わるんですけど、コンパスというか、「学び方」ですね。

今までだと単位制でもコースでも、高校の場合は出口(が重視されていました)。国公立なのか理系なのか文系なのか、就職なのか進学なのか、それでコースとか学びの設計がされている学校が多かったなと思うんです。

新陽高校はそうじゃなくて、学習者主体を考えた時に、「学び方って、どういうのがその子にとって心地が良かったりより学びやすかったりするんだろう。あるいは、得意な学び方はなんだろう」というものを見つけてほしくて。

「コンパス」というのは「ラーニング・コンパス」ともちょっと掛けてるんですけど、自分の学びの羅針盤を自分でデザインしていくような単位制のカリキュラムを作ってもらっています。

生徒がプロジェクトベースで学ぶ取り組みを実施

赤司:あとはデジタライゼーションは進んできているんですけど、正直まだデジタルトランスフォーメーション、DXまではなかなか難しいなって思っている部分もあって。ぜひ学校の校務・教務もそうですし、それこそ子どもたちの学習そのものも、DXに踏み込んでいきたいなと思っています。

これは、今年度もいくつかチャレンジをしていて、ワーキンググループを作っていくつかのプロジェクトを仕事の上でも回したりしています。

全国各所でもやっていると思うんですけど、新陽の生徒たちも今、プロジェクトベースドラーニングというものをやっています。プロジェクトとは何たるか、プロジェクトマネジメントとは何かというところをベースに、プロジェクトベースで仕事や学びを進めていくことを、もっともっとやっていきたいなと思っています。

(三原)菜央さんが直々にインタビューをして記事を書いてくださってるんですけれども、NewsPicksさんと新陽高校とのコラボで「学校変革の歩み」というものを記事にしています。まさにこの進行形のものを、ここから約1年間は追っていただけることとなっています。

今月は週に一回ぐらいやっていますが、来月からはたぶん月に一回ぐらいのペースで、何か成果が出ているかどうかではなく、まさに進行形のものを何も包み隠さずにどんどんオープンにしていこうと思っています。

高校教育改革の「ファーストペンギン」として

赤司:さっきスクールミッションで掲げた通り、高校教育を再創造するというのも新陽高校の存在意義の1つだと思っています。私は自分が校長になる時に、理事の方々に1つ言ったのは、「私は新陽高校だけが良くなればいいとは思っていません。だったらやりません」と。

新陽高校がある意味実験場というか。挑戦の歩みを全国のいろんな学校に知っていただいて、いいところは他も採り入れたり一緒にやったり。「ファーストペンギン」の存在でいるための学校として、私は校長を引き受けたいとお伝えをしました。

ちゃんとその約束として守っていくために、新陽でやっているチャレンジをみなさんにお伝えをして、あるいはみなさんから本当にいろいろ学ばせていただいて、日本全体、もっと大きく出れば世界全体の教育がもっともっと良くなったらいいなと思ってやっています。ぜひみなさんも仲間になっていただければすごくうれしいですし、心強いです。

というわけで、かなり早口で40分ぐらいしゃべり続けたんですけど、まずプレゼンはここまでで終了させていただきます。聞いていただいてありがとうございました。

三原菜央氏(以下、三原):展さん、ありがとうございます。

赤司:ありがとうございます。

三原:先ほど展さんからも話があったんですが、このモデルをみなさんにシェアして使ってもらえるようにしていきたいという意図もあり、今日は共有させていただいています。

安心できる、「やらされている感」がない職場に

三原:疑問質問をチャットでも構いませんし、手を挙げていただいてもいいのでいただけたらと思うんですけれども。せっかく札幌新陽高校の先生方も来ていらっしゃるので、実際にどう感じていらっしゃるかも聞けるかな。

赤司:聞いてみたいですね。ちなみにこれ、本当に何も仕込んでいないので(笑)。じゃあ、さっきちょっと話題に出た田渕さん、しゃべれますか?

田渕:はい、よろしくお願いします。

赤司:よろしくお願いします。

田渕:今どう感じるか。1年弱経った中では、本当に僕は今までで一番安心できる職場になったなというのが1点ですね。

昔から本気の挑戦はあったんですけど、昔のチャレンジはけっこう尖ったものとか、けっこう難しいチャレンジが多かったんです。今回は本当に多種多様なチャレンジが認められるような職場になったなと感じていて、いろいろと意見もしやすくなりました。

あと、先生方の「やらされている感」がない職場になったと思いました。いい意味で緊張感がほぐれているような職場になったかなと思います。

赤司:ありがとうございます。田渕さんはけっこう新陽歴が長くて。そこから2年間大学院に勉強しに行って、去年の4月に戻ってきてくれたんです。そういう意味で、半分客観的で、半分すごく昔からの新陽を知っているというスタンスでの協力者として、すごく頼りにしております。

「中つ火を囲む会」で教師が学んだことを、生徒にも下ろしていく

赤司:他にも聞いてみちゃおうかな? 三好先生、しゃべれますか? みんな絶対今、すごくどきどきしていらっしゃる。

三好:はじめまして、新陽高校の三好と申します。変化する組織についてですよね。今内心すごくどきどきしているんですけれども(笑)。自分は新卒でこの新陽高校に入社して、現在3年目になります。

さきほど赤司校長のほうからもあったんですけど、これからのシステム教育でしたり、2030年ビジョンに向けて変化するのが今後の日本の環境だと思っていまして。変化する組織に対応できるというか、変化する時代に対していろいろと柔軟に対応できるその基礎が、やっぱり「学習する組織」なのかなと自分では思っています。

自分は部活も担当させていただいているんですけど、その部活についても新陽高校の「中つ火を囲む会」でいろいろと勉強させていただいて、そこから生徒に下ろして、自分も一緒に成長させていただいております。回答になっていますでしょうか? すごく緊張しています(笑)。

赤司:ありがとうございます。すごくちゃんとしている。三好先生は最近さらに学習意欲が上がっていて、この前「目に見えて先輩とか周りから学ぼうとする姿勢を感じるね」っていう話題をちょうどしていたところです。ありがとうございます。山田先生、しゃべれますか?

山田:はい、しゃべれます。こんばんは。

赤司:今日はいろんな方が参加してきてくれて、世代も経験も違う新陽の先生がいらしてくれているのがうれしいです。お願いします。

学校の先生の見方が固まると、多様な生徒を見ることはできない

山田:こんばんは、新陽高校の山田です。それこそ「中つ火」でいろんな考え方を学ぶんですけれども、さっき赤司さんが「カオスだ」という話をされましたが、僕もカオスが好きなんですよね。カオスな考え方をトップが持ってくれていると、わりといろんな考え方を出しやすいというのもあります。

あと僕は学内で教育相談をやってるんですけれども、子どもたちはすごく多様な生徒が多いわけですよね。だけど、それに対して学校の先生がどうしても「学校ってこうだ、ああだ」という見方で固まっちゃっていると、子どもを多様に見ることができなかったりするんです。

そういう意味で学校にいろんな考え方がどんどん増えていて、学習する組織ってすごく大切だなというのを感じています。

あと「中つ火」以外だと、2030のプロジェクトに向けてのプロジェクトチームでいろんなツールを使いますよね。「SuperGoodMeetings」とかを使ったりする中で、自分自身でいろんなことを考える時の道具として最近使えるようになってきたので、すごく勉強になってます。以上です。

赤司:ありがとうございます。今、山田先生が言ってくださったのは、プロジェクトマネジメントのツールです。今お話しした中でも、熊平さんとか福田さんは実はプロボノ(ボランティア)というか、研究的なところの一環として関わってくださっているところもあるんですが。

あとは、プロジェクトマネジメントでもぜんぜん違う会社さんもプロボノで入ってくださっていています。「教育現場でこういうものを使ってみたらどうかな」って、気になっている企業さんとか研究者の方がいるので、そういう方に関わってもらうことで、最先端のものを使って私たちがトライできる状態を作っています。

うちの学校はぜんぜんお金がなくて、高いお金を払ってそういう人たちを呼べないので、「代わりに場を提供するので、ぜひうちを使ってください」というかたちでいろんな人を巻き込むようにしてます。

三原:そうですね。「SuperGoodMeetings」が何なのかをちょっと検索していて、インタビューがあったので参考になればと思います。

赤司:ありがとうございます。

職員会議をなくせるのは校長だけ、でも対話を取り入れることはできる

三原:今続々とご質問をいただいています。一番最初に「『中つ火を囲む会』にはファシリテーターはいるのか。いるとすれば誰か」というご質問をいただきました。恐らく記事とかを見ていただいて、「熊平さんがされているんですね」というコメントもいただいたんですけど。あえて展さんはファシリテーターに入らないようにされていますよね。

赤司:そうですね。熊平さんの会と、あと福田さんの会と。お二人のご都合だったり内容によって変えています。私は実は、対話の中にもあんまりがっつりは入っていなくて、半分入りながら……。そういえば私、何してるんだろう(笑)。

でも他の場では私がファシリテーターで研修をやったりもするんですけど、新陽の中ではしないように、日頃から一応心掛けているつもりです。

三原:ありがとうございます。あと「職員会議をなくすだけでも相当ハードルが高いです。対話を学校文化として定着させるためにどうアプローチすればいいでしょうか?」。

赤司:そうですよね。これ、本当にそうだと思うんですけど。職員会議をなくせるのは、本当は校長だと思うんですね。私が思う校長としてやるべきことの1つは、やっぱりビジョンを示すこと。もう1個は、対話とかができる、最近のキーワードだと「心理的安全な環境」を整えることです。

もう1個、3つ目が一番大事だと思ってるんですけど、やらないことを決める。これは正直リーダーにしかできないことだと思っていて、ボトムアップではなかなかできない。この前も北海道の校長会でお話をさせていただく機会があったんですけど、「ぜひ校長先生たちは、せめて3つ目の『やらないことを決める』はやりましょう」という声を出しました。

この質問を言っていただいた方が管理職でないとすると、ご本人が職員会議をなくすのはかなりハードルが高いとは思います。ただ、対話を学校文化として定着させることは1人からでもできるとは思っています。日頃から対話を採り入れることはいろんな場でできるかな。

そういうことのほうが大事ってわかってくると、1つ「職員会議をやらねばならぬ」というところに、「あれ、なんでだったっけ?」って、そこに気付く人が出てくると、変わるきっかけにはなるかなと思います。たぶん公立学校でがちがちに管理職がいる方には、職員会議をなくすって、私もちょっと「簡単にはできないですよね」って、すごくわかる感じですね。

公立高校でも作れる「対話の場」

三原:今ちょうど公立学校の話が出たので。「公立学校の場合はどう進めると良いと思いますか」。展さんの考えでいいと思うんですが。

赤司:公立でもぜんぜん、対話は場として作れると思っていて。

前に同じようなご相談をされた時に私が言ったのは、全員でやろうとすると確かに大変だし、さっき言った校長が駄目って言ったらできないけど、例えば教科の会議とか学年の会議とか、自分たちでハンドリングできる会議体を変えることはできると思うんですよね。

なので、まずはそこからやってみるのはどうかなと思っています。そこでいいことが起きて、それによって児童とか生徒にいいことがあると、他の先生は急に手のひらを返すことがあると思うので。

やはり、子どもが変わると先生方はなんか説得されてくれることがあるので。小さなグループでまず変えてみて、それをなんとなく子どもたちに波及してみることができると、可能性はあるかなと思いますね。

三原:ありがとうございます。私が取材した学校さんでも、小学校だと学年の先生同士のつながりが強く、ミーティングも多いので、「学年の先生から対話を始めました」という話はたくさんありまして。

コルトハーヘンさんの氷山モデルを参考にして、根底にあるその人たちが持っている願いみたいなことを見て対話をすることを大事にしながら学年団から変えていったみたいな話も聞いたので、できるところから取り組むことも大事なのかなと、今うかがっていて思いました。

生徒にとって「学習する学校」はどう見られているか

三原:あとですね、展さん、「生徒たちにとって、学習する組織、学校というのはどのように受け止められていますか」。

赤司:どうでしょうか(笑)。これはちょっと新陽の先生たち、助けてください。受け止められているかな。知っているかな。でも、ぜひ誰か声を上げてもらえればと思うんですけど。

山田:どうですかね。生徒には何をやっているかっていうのはあんまりわからないというか、「先生方はなんかすごく忙しいし、研修とかたくさんやってるね」っていうのは言われます(笑)。あと、おもしろい先生方が多いっていうのはやっぱり言われはしますけどね(笑)。

赤司:そうですね。確かに研修の話で言うと、私が「週刊新陽」という校長ブログを週に一回書いていて、新陽高校の日常を発信しているんですけど。「中つ火」のことも「今月は良かったな」とか「今月はちょっと逆に難しかったな」と、書き留めておきたい時は書いているんですね。

そうすると、けっこう在校生が何人か読んでくれていて、「先生たちも研修したり勉強したり話し合ったりしてるんだってわかるのがすごく楽しい」とか「先生でも勉強するんですね」とか言ってくれる生徒たちがいて、「知ってくれているんだな」「そう受け取ってくれるんだな」って感じたことがありますね。

「新陽の先生って学校の先生じゃないよね」

赤司:さっきちょっと触れなかった尻江さん、しゃべれますか? うちのエースなんですけど。

尻江:いや、エースじゃないです(笑)。そんないきなりハードルを上げないでください。そうですね。生徒のことですか?

赤司:うん。直接は知られてないと思うけど、先生たちが対話したり勉強したりしているのってどう波及しているかとか、何かありますか。

尻江:僕は今3年生の担任でめっちゃ生徒と関わりが強かったんですけど、よく「新陽の先生って学校の先生じゃないよね」って言われます。

「なんで?」って聞くと、「いや、授業も教えるし、相談にも乗ってくれるし、中学校と同じように何か困ったら教育相談とかカウンセラーの先生とかにつなげてくれるんだけど、それ以外でなんでそんなに外部で研修とか登壇をしているの?」とか。「校長先生って先生じゃないの? それについて先生方はどう思っているの?」とか。

学校にいて勉強とか進路指導とか生活指導をしてくれる大人が、ただの先生じゃない。新陽高校だとそういう認識が強いと思います。

赤司:なるほど。おもしろいですね。確かにうちの先生たち自身、尻江さんもGoogleの認定コーチを持っているので他に研修しに行ったりとかもありますし、外部の方もたくさん来てくれるし、生徒はそういう認識みたいです。おもしろいです。ありがとうございます。