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『これからの英単語』刊行記念トーク 激動の時代を英単語から読み解く! スティーヴ・マックルーア ✕ ピーター・バラカン(全3記事)

人種問題からドラマ中毒まで、英語圏のトレンドは新語で学ぶ ネイティブが選んだ、欧米の世相を表す言葉たち

メディアや会話で使用頻度が増えている言葉を収録した『これからの英単語』の刊行記念イベントに、著者のスティーヴ・マックルーア氏とブロードキャスターのピーター・バラカン氏が登壇。同書に掲載されている最新の言葉や表現を取り上げながら、激動の時代を読み解きました。本記事では、米国の社会情勢を知らなければ理解できない言葉や、イギリスで口にしてはいけないスラングなどを紹介しています。

米国の社会情勢を知らなければ理解できない「take a knee」

ピーター・バラカン氏(以下、ピーター):人種問題の関係で、よく使われると思ったのが「take a knee」です。

スティーヴ・マックルーア氏(以下、スティーヴ):片膝をつくの、やってみますか?

ピーター:じゃあ、お願い。

片膝をつくということですね。これは特殊な意味があります。アメリカンフットボールのスター選手に、コリン・キャパニックという人がいるんですね。

スティーヴ:「Kaepernick」、 発音しにくいね。あなたは発音の専門家だもんね。 

ピーター:黒人の選手なんですけど。彼は、正確に言うと何について抗議したんだっけ?

スティーヴ:BLM(Black Lives Matter=アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動)関係じゃない? 警察の残虐行為に対してだよね。

ピーター:そう、そう。試合が始まる前に国歌の斉唱があるのですが、その時に彼は膝をついたんです。それは、警察の残虐行為に対する抗議の表現だったんですね。それで、彼は処分を受けて試合に出られなくなってしまって。

スティーヴ:そうね。ちょっと政治的な問題になったね。トランプは、彼に反対しましたよね。

ピーター:だからアメリカで大変なことになっちゃった。それでいきなり「take a knee」という表現がよく使われるようになった。同じように片膝をついて抗議する人もすごく増えてきて。それは今でも続いていると思います。

スティーヴ:今まで気づかなかったけど「take a knee」は「take a bow」から来ているのならおもしろいですよね。

ピーター:あ、なるほど。お辞儀をするから……。

スティーヴ:舞台が終わるとみんな拍手しますよね。そしてtake a bow、お辞儀する。それで、take a knee。ちょっと皮肉な意味だと思います。

ピーター:なるほど、なるほど。そうかもしれない。

スティーヴ:「take a knee」のkneeはヒザ。でも、今回のフレーズにヒザは関係ない。絶対的に新しい表現です。10年前は誰も使わなかったと思います。

ピーター:そうですね。その状況を知らなければ「take a knee」と言われても、何のことかわからない。言葉は難しくないけど、何の意味なのか、まったくわからないよね。

スティーヴ:そうね。だから現代アメリカの政治の状態を知るために、すごく便利な表現だよね。でも、10年後も使われていると思う?

ピーター:どうだろうね。でも、意外と続くかもしれない。

学術用語から“一般語”へと進化した言葉

ピーター:あと同じ系統で、もっと難しい言葉の「Critical Race Theory(CRT)」もあるよね。これは続くね。しばらく残ると思います。

スティーヴ:「Critical Race Theory」は、本来はいわゆる学術用語で、専門的な意味を持つ言葉です。でも、特にアメリカでは政治の文脈で使われるようになってきた。人種差別反対といった、広い意味でも使われるようになったんです。

ピーター:日本語ではどう訳しているんだろう? 「批判的人種理論」か。日本語でもちょっと難しい。

スティーヴ:でしょ? 今、大変物議を醸している言葉というか表現です。

ピーター:そう。これは「人種差別というものが、制度として何百年も続いていることを、もっと白人は認めるべきだ」という考えの人たちが使っている言葉。逆に保守派は「そんなものは存在しない」と否定するんです。

スティーヴ:今となっては、Critical Race Theoryは、本当によく使う表現だからみんな知っている。意味もわかると思います。

ピーター:英語圏の人はね。

スティーヴ:だんだん話題にのぼることが増えていますね。CRTに反対する法律もあって、フロリダの学校では授業でCRTを教えないんです。そういう話題でもよく使う言葉ですね。でも20~30年前は、本当に大学の世界だけで使われていた表現だったんです。

ピーター:僕が聞いたのもここ1年ぐらい。1年もないかな。

スティーヴ:でしょ? 最近ね。だから、政治やインターネット、マスコミが、Critical Race Theoryを話題にすることが増えたんだと思いますね。まさに言語の進化ですね。

ソフトウェアの「予測変換機能」の進化が生んだ言葉

スティーヴ:次は「autofail」です。自動校正によるスペル間違いですね。例えば、「chicken」と書こうとして、候補に出た「children」を選択してしまう。そうすると「I want to eat chicken tonight.」が「I want to eat children tonight.」になる。

ピーター:要するに「autofill(自動入力)」ということ?

スティーヴ:「autofill」、そうそう!

ピーター:「autofill」というのは、chiまで入力するとコンピューターが自動的にchildrenと補完してくれるでしょ。それが間違っていることに気づかずにEnterを押せば誤変換になる。よくあること。

スティーヴ:そう、そう。みんな気をつけてください。今のワープロソフト、すごくレベルは高くなったけど、やっぱりみなさんもう1回自分で原稿を読んでみてください。

ピーター:E-mailでは送信ボタンをクリックする前に、文章をもう一度全部読みますね。

スティーヴ:(読まないと)恥ずかしい。ところで、ピーターさんはスペリング得意?

ピーター:けっこう得意。

スティーヴ:ほんと? 私のスペルは最低。

ピーター:(笑)。

スティーヴ:ひどいの。怠け者になって、こんな感じでいいかと送信して後で読み返すと、自分が書いたのに何の話かわからないことがある(笑)。「autofail」はやっぱり「autofill」。

ピーター:それをもじったのね。

スティーヴ:だから、Helloと言ったら自動的にnice to see you todayと言っちゃうみたいに、Googleが自分の脳の中に入ったらちょっと気持ち悪いね。「autofail」、みなさん気をつけてください。10年前は使われていなかった言葉ですね。次はピーターさん。

イギリスで口にしてはいけないスラング

ピーター:もしもイギリスに旅行することがあれば「chav」という言葉を覚えておいたほうがいいかもしれないですね。

スティーヴ:「chav」の 説明してくれる? これは絶対、イギリスの英語ですね。

ピーター:「chav」とは、イギリス人にしかわからない言葉。イギリスでは誰もが日常的に使います。この本にはなんて書いてある? 「無作法で反抗的」か。そうね。パンクにちょっと似た感じ。教養がなくてちょっと暴力的で。

スティーヴ:意地悪ね。

ピーター:ビールばっかり飲んで、何かあったらすぐけんか腰になってくるような、そういうタイプの若い男。

スティーヴ:男だけ? 女の子もでしょ?

ピーター:女の子のchavは、いない。

スティーヴ:本当? 

ピーター:男だけだと思う。

スティーヴ:本当に? 「chavette(chavの女性形)」じゃない? 

(一同笑)

スティーヴ:知らなかった! これはスラングなんだ。

ピーター:もちろんスラングです。

スティーヴ:危ないこと。

ピーター:なんでchavって言うんだろうね? 最近本当によく使う。文章でもよく見かける。

スティーヴ:本当に、昔からある偏見だよね。

ピーター:そうね。ちょっと論争になりそうな話だよね。

スティーヴ:イギリスの階級システムについて説明していただけませんか? 

ピーター:(笑)。

スティーヴ:(笑)。難しいね。

ピーター:確かにそう言われると、階級差別的な要素もあるかもしれません。こういう言葉は存在を知っておくだけで、自分では使わなくていいと思う。でも知っていれば、会話の中で出てきた時に「そういうことを指すんだよね」と理解できる。

スティーヴ:僕がイギリスに住んでいた時、chavなんて誰も使っていませんでしたよ。

ピーター:最近使われ始めたから。

スティーヴ:最近ね。でも「chav」の語源はなんだろう? どの言語から来たんだろう。

ピーター:どこから出てきたのかわかんない。要研究です。

スティーヴ:みなさん、chavには気をつけてください。イギリスに行って「君ってチャブじゃん」とか言っちゃダメ。

ピーター:(笑)。

シリーズ物ドラマの人気で広まった表現「jump the shark」

スティーヴ:次は「jump the shark」です。すごくおもしろい表現ですね。

ピーター:僕、さっきまで知らなかった。

スティーヴ:「jump the shark」は、サメをジャンプするという意味ですね。

ピーター:は?(笑)。

スティーヴ:だから危ないね。これは芸能界で使われる表現です。ロックダウンでみんながステイホームしていた時に、ストリーミングのドラマが人気になりました。私はアメリカのストリーミング、Netflixで『Ozark』(放題『オザークへようこそ』)というドラマが大好き。これはシーズン4まで続きました。

小説を書くときには、beginning–middle–endといった流れみたいなのがあって、自然な構成を考えますよね。でも、ストリーミングのドラマは人気が出ると長くなって、シナリオライターたちはネタ切れになってくる。そこで、ドラマを長くするために突飛なことを書き出すんです。

だから「jump the shark」みたいに(サメをジャンプするような)信じられないストーリーになるんです。例えば、急に宇宙人が来るとか。つまり、マンネリになるとインスピレーションがなくなって、より突飛なシナリオになるってことです。『Peaky Blinders』もそうだよね。

ピーター:Netflixでやっている『Peaky Blinders』というドラマ。100年ぐらい前のイギリス中部のバーミンガムが舞台で、ギャングの人たちが出てくるおもしろいドラマなんだけど。シーズン3ぐらいになってくると、暴力の度合いがあまりにも強くなりすぎて、僕はちょっと見る気しなくてやめちゃった。

スティーヴ:暴力が嫌いだから? ストーリーが突飛すぎるから? それとも両方?

ピーター:いや、ストーリーは自然なんだけど、暴力シーンが何回も何回も出てきて。ちょっと目を背けたくなるような暴力がすごく多くなったから、もういいやって。

スティーヴ:そう、そう。わかる。かなりひどくなったね。私も『Peaky Blinders』は大好きです。確かに暴力は怖いんだけど、だんだん慣れてくるんだよね。

司会者:「jump the shark」とはネタ切れになって、アイデアがなくなって、無謀なストーリー展開になるということですね?

スティーヴ:そうね。アイデアの欠乏。

ピーター:昔からよくあることだと思います。シリーズが何回も続くと、作家たちはアイデアが希薄になってくる。そうしたら奇抜なことを考えて、なんとか視聴率を維持しようとするということだと思います。

「ネットドラマ」×「コロナ禍の在宅」で誕生した言葉

スティーヴ:他にもネットドラマで、タイトルはわからないけどCon manに関するドラマ、ご存知ですか?

ピーター:ペテン師のドラマ? 

スティーヴ:シーズン1はとてもおもしろかったんだけど。

ピーター:『Con man』という名前のドラマ? 

スティーヴ:違う。それはテーマで、ドラマのタイトルは忘れました。とにかくシーズン1がとてもおもしろかったんだけど、シーズン2ではcon manの新しい家族がどんどん増えてくるんです。おじいさんとおじいさんのお父さんとか。

登場人物がそこまで増えるとストーリーはよくわからなくなりますね。新しいキャラクターを作るということは、アイデアがなくなったということ。間違いなくjumping the sharkですね。

ピーター:なぜそういうことが起きるかというと、さっきスティーヴも言っていたけど、コロナとかいろんなことがあって、みんな家にばかりいて、ずっとパソコンでドラマを見ているから。「binge-watching」という言葉も出てましたね。

スティーヴ:「binge」はおもしろい言葉ね。

ピーター:要するに「binge」というのは暴飲暴食の意味。「binging」というかたちでよく使われるスラングです。普通は食べ物とか飲み物に対して使う言葉だけど、動画に対して「binge」というところが新しい表現だと思います。「binge-watch」というのは、ドラマシリーズの1話を見て「これはおもしろい。もう1話見よう」と、公開されているシリーズ全部を一気見してしまうこと。

スティーヴ:もったいないと思います。1つずつのほうがいいね。だからしばらく待ってください。でも、ある人は、昼から0時まで一気見してしまう。

ピーター:そうそう。

スティーヴ:ちょっとダメだと思います。これはイギリスの「binge drinking」から来た言葉ですかね。

ピーター:イギリスだけじゃないと思いますけど(笑)。

スティーヴ:そっか、ごめんなさいね(笑)。カナダでもありますね。「もう1回、もう1回」と止まらないこと。binge-watchingしてしまう。10~15年前に、そういう表現はあまりなかったですね。これもインターネット時代の言葉です。Please binge-read. ぜひ僕の本を読みまくってください。

ピーター:(笑)。「binge」という言葉も知っておくといいと思います。

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