「楽しそうにしてんな」を発信するほうが人は寄ってくる

千原徹也氏(以下、千原):(芸人業と社長業を兼ねているから、)おもしろいことをやるだけじゃなくて、お金のことも考えなきゃいけないプレッシャーがあるじゃないですか。それはどうなんですか? 

森田哲矢氏(以下、森田):それは、もう儲からん時は儲からんからっていう考え方やから。そんな儲けよう儲けようという感じではないから、別にそこまでのプレッシャーじゃないです。

だって人って、月20万円あったら食っていけるんすよ。(20万円で食っていける)って考えたら、今はそれ以上お給料もらえてるけど、別にまだいけるなって。そこまでお金のことは考えない。

千原:おもしろいことができてたらついてくるでしょ、みたいな。

森田:結局ついてきてた感じがある。それでいいんじゃないかなという気はしますね。

千原:会社員だった時と今とでギャラは違うんですか? 

森田:会社員やった時っていうのは、松竹芸能にいた時? 

千原:そう。

森田:ぜんぜん違います。

千原:あ、そう? 辞めてからのほうがいいんですか。

森田:二度と戻りたくない。

(一同笑)

森田:でもそんなん当たり前ですよ。自分たちの実力がまったく伴っていなかったから。たぶんあの事務所で売れていたら、もうちょっといい思いはできてたんでしょうけど。

「なんかおもしろそう」とか「楽しそうにしてんな」みたいなことを周りに発信しているほうが、人は寄ってくるんじゃないかと。人が寄ってくるってことは、金も寄ってくるんじゃないかという考え方やから。それかなぁと思います。

お金のことを考えはじめたら、周りの人は離れていく

千原:それは僕も一緒ですね。

森田:ほんまっすか。

千原:やっぱり「おもしろいことをやれてるかどうか」が重要で。お金のことを考え始めたら、周りの人は離れていくんちゃうかなと思いますね。

森田:まあまあそうっすよね。

千原:金にうるさい感じになってくるとね。

森田:とはいえ、YouTubeの収益は毎日見ますけど。

(一同笑)

千原:YouTubeってちょっとリアルなのは、「イコールお金感」がすごいですよね。デジタルのものってそういうのがすごくありません? 

森田:「イコールお金」。あぁ……。

千原:YouTubeで再生回数がこれだけいってる人はこれぐらいもらってんねやろなとか、リアルじゃないですか。

森田:リアルですね。わかりやすいですもんね。

テレビの仕事は「プロモーション」

千原:森田さんのふだんのテレビ番組のギャラなんて、誰も想像つかないですもんね。

森田:そうですよね。テレビはめちゃくちゃ安いですからね。

千原:だって『今日からやる会議』はギャラ無しでしょ?

森田:ギャラ無しです……あ、これ配信あるんでしたっけ。

千原:配信してますよ。

森田:危な! もうすでに俺、松竹の悪口言うてるやん(笑)。

千原:(笑)。

森田:いやもう別に怒られるわけじゃないしいいけど。別に言うなよっていう法律もないからあれですけど。深夜の番組で会社に入ってくる金は3万円ぐらいです。たぶん。

それで言うたら、俺らは個人事務所やからあれですけど、言うたら例えば吉本に入りました。今はわかんないですけど、だいたい東京の事務所って(芸人と事務所の割合が)5:5なんですよね。

ということは、15,000円を事務所が取って、15,000円が芸人に入って、コンビなら2人やから……。

千原:さらに割られる。

森田:だから7,500円ずつというレベルですから。

千原:1回テレビに出て7,500円分?

森田:そうです。だから「テレビで飯食おう」っていう考えはもうまったくないです。

千原:何で飯食ってるんですか? 

森田:テレビに出たことでの、2次3次のお仕事がいただけることがあるので。例えばネット系とかWeb系とか、言うたらちょっとしたCMまでいかない広告系。テレビに出ていることで、「この人は知名度がある人なんじゃないか」ということでオファーをいただける。そっちのお金がでかいです。

だから「テレビはプロモーション」という考え方かなと思いますけどね。

千原:でもほら、昔のとんねるずの番組とか見てると、石橋貴明さんのギャラがすごいとか言うていたじゃないですか。今の時代は、そういう感じじゃないんですかね。

森田:ないですね。バカ売れしたらその交渉がたぶんできるんでしょうけど。

千原:さんまさんとかそういう人は高いんですか? 

森田:そらめちゃくちゃ高いと思います。だからデザイナーの世界と一緒です。さんまさんとかが高いから、俺らがここ(逆三角形の先)なんすよ。

千原:あー、なるほどね。

森田:あの人たちが違うのは、実力がすごいからそれだけもらえているということなんですけど。

千原:まぁそうですけどね。

視聴率よりビジネスが大事な『今日からやる会議』の難しさ

千原:でも冠の番組とかつくじゃないですか。それでも『今日からやる会議』はタダですよね。

森田:『今日からやる会議』は(番組内でやったビジネスの)成功報酬がギャラやったんでね。基本は何回行ってもノーギャラでした。

千原:そうですよね。

森田:で、7,000~8,000万円売り上げても2万円しかもらえない世界。でもやりがいがあったというか、すごく芸人的というか。

千原:がんばればもしかしたらね。

森田:日銭を稼いでいるじゃないですけど、本当に実力に見合った報酬がもらえるから。結果、俺らにはビジネスの実力がなかったとわからせてもらえたんで。

千原:そうですね。もうちょっと儲かってたら、たぶん番組も続いていましたよね。

森田:確かにね。テレ東もけっこう我慢したと思うんですよ。

千原:あの深夜の枠って、視聴率じゃないですもんね。

森田:視聴率は実は良かったんですよね。だって『ゴッドタン』の後にこっそりやっていたので、そのおこぼれをいただいていて(笑)。

千原:なるほどね。視聴率より、あそこでどれだけのビジネスを産むかっていう枠ですもんね。

森田:そう。番組のスタッフがコンテンツビジネス局でしょ。だから本当にテレ東からしたら「マジで金を生め」って言われるような部署やから。そこがやっている枠なのに、それに俺らがぜんぜん応えられなかったんですけど。

千原:普通のバラエティ班ではないってことですよね。

限られた制作予算でドラマをつくる現場のリアル

千原:僕もテレ東のあの枠でドラマ(『東京デザインが生まれる日』)を作らせてもらったんですよ。

森田:あ、そうや。

千原:最後に言ったけど、聞いたら番組制作予算がまったく同じでした。同じ局やから。

森田:そっか。

千原:「これじゃあちょっとドラマは作れないんじゃないすか」とか「千原さん、本当にやるんですか」とか言われていたんですけど、めちゃめちゃ少ない金額で5話作りましたね。

森田:作れてもうてるじゃないですか。

千原:作れてもうてますね。リアルな話すると、全部で1,500万円ですよ。

森田:5話で。

千原:だから1話300万円なんですよ。

森田:それはほんまに言っていいの?(笑)。俺のはええけど……。

千原:え、いいんじゃないですか。たぶん大丈夫ですね。300万円で1話撮らなきゃいけないんですよ。そこには、出ていただいたモトーラ世理奈さんとかMEGUMIさんのギャラも全部入ってますし。

森田:そっから捻出しないとだめですもんね。

千原:スタッフのお弁当とか、言ったらその場所を借りるのも全部入れて、30分を300万円で撮らなきゃいけないんですよ。

森田:すごいっすね。

千原:普通できないですよ。

森田:ギャラとかそのへんを消してったら、100万円なんか一瞬でなくなりますもんね。

千原:一瞬でなくなります。スタッフも十何人いて、それぞれ多少はお金が入っていると思うんです。バスとかも何個も用意したりとかね。1台借りるのに1日十何万円かかったりとかするから。制作チームは「厳しいな」と思っていたと思いますよ。

森田:そうっすよね。

予算最小化のための「5日で5話を撮る」というアイデア

千原:でもドラマって、作るのに日にちが増えれば増えるほど予算がかかるんです。それで制作チームが出してきたプランが、「5日で5話を撮る」っていうアイデアだったんです。「これであればこの金額で撮りきれます」って。

森田:(笑)。すごいっすね。

千原:だから1日1話撮らなきゃいけない。

森田:Netflixに聞かれたら、鼻で笑われますよ。

千原:そうですね。鼻どころか、たぶん耳に入ってこないでしょうね。

森田:(笑)。すごいっすね。

千原:朝の7時に集合して、夜の11時ぐらいまで。「それ以上は労働基準的にだめなんです」って言われて。撮影場所も、スタジオも借りるお金がないからうちの会社を使って。楽屋も部屋を1つ潰して、みんながそこに衣装を入れて。そうやって撮ったんです。

森田:ほんまに金がなかったら、マジでそのスケジュールしかないっすもんね。言うたらロケで使わせてもらうのもお金がかかる。実は飲食店とかもそうじゃないですか。

千原:かかる。1時間で2~3万円は取るんですよ。

森田:そうっすよね。「この家を貸してください」とかでも、一応お支払いしないといけない。

千原:交渉次第でしょうけれども。

森田:思っているよりけっこうお金はかかる。大変ですよね。

千原:あっという間に何百万円いきますからね。

「俺らなんか、絶対にCM来うへんから」

千原:デザインって広告やから、デザインのほうがテレビ業界より儲かんのかなって。タレントさんは広告で一番儲ける感じですもんね。

森田:そうですね。たぶん俳優さんとかはそうやと思う。CMに出るために映画に出てんすよ。たぶん。いや、わかんないっすよ。

千原:映画とかドラマとかはそんなにギャラが高いわけじゃないと思うんですけど、それで有名になるからCMが来るってことですよ。

森田:俺らなんか、絶対にCM来うへんから。 千原:CMないんですか?

森田:いや、もう70歳まで馬車馬のように働かないとだめですよ、僕らは。

千原:(笑)。

森田:CMが入っていたらもうちょい休んでますよ。まったくないです。CMは好感度がいりますからね。

千原:好感度、高くないんですか? 

森田:高いわけないでしょ。あんな相方連れて。

千原:あ、そうかそうか。もう切り離してCMもらわなきゃだめですね。

森田:そうっすよね。あんな相方が所属している事務所の社長やから、そんなやつの好感度が高いわけがない。

千原:確かにああいうことが起きるとCMは取れないですね(笑)。

広告の「おもしろいものを作るためのお金」と「残すお金」の葛藤

千原:僕もCMの仕事はギャラが高いのかなと思うんです。(れもんらいふでの仕事も、)他のCDジャケットの仕事とかに比べたらCMはもちろん高いです。

でもそれは電通さんとか博報堂さんが入っていない仕事が多いんですよ。企業さんから直でお話をいただくんです。直で来るってことは、お金がないんですよ。お金があればまず「電通に相談に行け」ってなるから、すごく大きな予算が動くんです。でもお金がないから、「全部できそうな小さなデザイン会社を探せ」ということなんです。

森田:でも、それでもまだれもんらいふに全ベットしてくれてるってこと? 

千原:そういうことです。

森田:金握りしめて、言うたらパチンコ行くぐらいのノリですよね。れもんらいふがセンスなかったら終わりじゃないっすか。

千原:確かにそうかもね。トータル予算をしっかりぱしっといただいて、そん中でおもしろいことをやろうと思えば思うほど、さっき言ったみたいにお金が飛んでいく。でも別に、おもしろくないものを作ってギャラをめっちゃ取ることもできるとは思うんですよ。悪い考えで言うたら。

例えば広告を作るのに、「2,000万円で何でもいいから考えてください」って言われたら、最後に(会社の手元に)残るのは100万とか200万ぐらい。1800万ぐらいは制作費にかかるんですよ。

一応有名な方を出すとその人のギャラとか、スタッフとか、バスでどっか行くとかなったらロケバス代とか、なんやかんややってたら1000万そんな2,000万なんてすぐなくなります。おもしろいものを作るためのお金と、残さなあかんお金との葛藤ですよね。

『これはデザインではない 「勝てない」僕の人生〈徹〉学』(CCCメディアハウス)