チョコレートブランド起業のきっかけは、コロンビアで見た光景

石原紳伍氏:よろしくお願いいたします。メゾンカカオの石原です。今、僕の背景にあるのは、コロンビアの農園に向かう山脈地帯の写真になります。

僕は中学から大学までラグビーをやっていまして、ラグビーから学んだことが、メゾンカカオのブランドや会社の風土の土台になっていると思っています。その1つとして、僕は「ワンチームでやること」をすごく大切にしています。

もともと僕はチョコレートがあまり好きではなかったんですが、ある機会でコロンビアに行き、そこで見た風景に魅せられました。コロンビアって毎朝チョコレートドリンクを飲む風習があって、朝は町がチョコレートの香りで包まれるんですね。生産者と生活者が、カカオを通じて交わる風景があって、この「日常の中でチョコレートを楽しむ文化づくり」を日本でやりたいと思ったのが、チョコレート屋を始めるきっかけになりました。

ただそこには越えないといけないことがいろいろとありました。コロンビアはコカインの原料となるコカの葉が、全世界生産量の7割ほど栽培されると言われる国です。カカオが育つ場所は、コカの葉がよく育つ場所でもあることから、僕たちが最初に訪れた産地では子どもたちが十分な教育を受けられなかったり、家族やコミュニティの中で問題を抱えていたり、虐待や自閉症など厳しい実態がありました。

生産者と長くいいお付き合いができなければ、いいモノづくりはできません。彼らの教育環境や生活環境をどうつくるかを考えて、まずやりたいと思ったのが学校をつくることでした。

最初は30人だった生徒も今では700人近くまで増えています。昨年ようやく1期生が卒業しましたが、生徒が増えるにつれて徐々に信頼を得られるようになり、契約農家さんの数も増えて、今では数多くの契約農家さんとお付き合いができています。

ワンチームの原点は、帝京大学ラグビー部での初代学生コーチ経験

長くいいモノづくりをしていくためには生産者とのつながりがすごく重要です。最初の3〜4年は利益のほとんどを環境づくりに投資して、それが今につながっています。こういった考えのもとになったのがラグビーでの経験です。ラグビーはトライを取る人が目立ちますが、レギュラーだけではなく試合に出ていない人も含めてみんなで準備をしないとトライは取れず、試合に勝てません。

僕は中学・高校の時は、大阪代表のキャプテンを務め活躍もできていたんですけど、怪我が続いてうまくプレーができず、帝京大学の4年生の時に、初代学生コーチに任命されるんですね。学生コーチになることは、選手生命がそこで終わるということになります。それまで9年間プレイヤーとしてやっていたところから、コーチの道に進んだわけです。

チームのためにコーチの視点で何かできないかを考え、最初にやった取り組みが1年生と試合に出られなくなった4年生の底上げです。Aチームが強いチームはBチームが強く、Bチームが強いチームはCチームが強い。ラグビーは怪我が多いスポーツなので、選手層の厚さがトーナメントを勝ち抜く上で重要になります。

その中で、下級チームのメイン層は1年生と試合に出られなくなった4年生なんですね。1年生は大学生活に慣れることと体づくりに徹することが大事なので、対話をして4年生の気持ちを上げたうえで、洗濯や掃除などの当番を全部4年生がやるようにしたんです。

「誰が学生コーチになってもいい」という覚悟を持ってみんなで監督のところに行き、結果僕が選ばれたという経緯があったので、僕の言うことを同期のみんなが聞いてくれたというのもあります。本来4年生は洗濯や掃除をしなくてよかったんですが、率先してやってくれ、1年生が体づくりに充てる時間が増えて下級チームが強くなったことが、その後の帝京大学の9連覇につながりました。

全社員で3週間の休みをとって、生産者と向き合う「大人の夏休み」

目には見えないけどつながりがあるもの。ビジネスでいうバリューチェーンの中で、遠く離れた生産者とどう付き合っていくか。またどういう開発や生産をしてお客さまに思いを届けていくか。メゾンカカオでは、会社の風土やブランドとして、そういったことを大切にしています。

カカオ農園で働く人だけでなく、彼らの未来や可能性を広げる活動をしていきたいので、財団をつくって音楽やアート、今後はスポーツも含めていろんな機会を増やしていきたいと思っています。

こういった取り組みは社内制度にもあります。これからバレンタインに向けてのトップシーズンを迎えますが、(チョコレート屋には)どうしてもハイシーズンとローシーズンがあります。そこで、夏場のローシーズンをインプットの時期と位置づけ、「大人の夏休み」というのを実施しています。

3週間全社員をお休みにして、日頃お世話になっている生産者に会いに行ったり、全国各地を巡っていろんなものを見て、触れるという取り組みを行っています。素材あってのおいしいお菓子やお料理づくりです。各部署のみんなが生産者と同じ景色を見たり、同じ空気を吸ったり、ご苦労を理解することで、お客さまへの説明も変わってくる。

生産者と向き合い、その思いを届けることをコロンビアだけでなく、日本でもやっていきたいという思いから、みんなで長期のお休みを取って、そういった時間を過ごしています。これも、ワンチームを大切にするならではの取り組みの1つだと思います。

カカオの新たな魅力を届けるために始めたレストラン営業

今、ちょうどNHKの大河ドラマで鎌倉が舞台になっていますが、鎌倉は武士と文士がいろんな文化をつくってきた都市です。その鎌倉文士の1人である川端康成さんが「一輪の花に百輪の花にも優る美しさを見る」という言葉を残しています。

彩り豊かで華やかなものも素敵ですが、一輪の花から無限の広がりを想像できる日本人の美意識や感性もとても大事です。そういった日本の文化の素晴らしさを伝えるために、文化都市の1つである鎌倉でブランドを立ち上げました。

先ほど少しご紹介しましたが、開発メンバーや品質管理のメンバー、物流のメンバー、販売のメンバー、そして本部のメンバー。みんなで生産地を巡る「旅するメゾン」というのを毎月やっています。もともとは僕1人で産地を訪れていましたが、みんなで行くようになって、物事の本質的なところの大切さを理解してくれるようになったと感じています。

僕たちは多店舗展開も含めて、規模を拡大していこうとは考えていなくて、それぞれの土地のオリジナリティを活かすかたちでお店を展開しています。鎌倉では小町通りに1店舗と、長谷寺の近くにお茶と和のテイストを楽しめるチョコレートのお店をやっています。

横浜では(NEWoMan横浜の)BALENCIAGAさんやGUCCIさんといったハイブランドが並ぶブランドフロアにお店を構えさせていただいたり、名古屋でもデパート(ジェイアール名古屋タカシマヤ)に出店しています。

最近は銀行をリノベーションしたCHOCOLATE BANKというお店の中で、カカオの可能性を広げようと、夜のレストラン営業を行っています。もともとカカオは滋養強壮や薬膳の薬として飲まれていたのが始まりで、その後ヨーロッパに渡ってカカオを料理で楽しむようになり、さらにチョコレートに変わっていったという歴史的な背景があります。

ただ、当時のヨーロッパは物流等のシステムが行き届いていなかったので、カカオとお肉と野菜を組み合わせた料理はあったんですが、お魚とカカオが出会った歴史はあまりありません。日本人はお魚を食べ、お魚をいろんな料理として楽しむ技術もある国なので、お魚とカカオを合わせてカカオの可能性を広げることにチャレンジしています。

サステナブルにカカオを広めるための、国内でのカカオ栽培

また今後はよりサステナブルに、持続的にカカオを広げていくという観点で、国内でのカカオ生産にもチャレンジしようと思っています。僕たちは今ドバイ万博(2021年10月1日から2022年3月31日まで開催)のコロンビアパビリオンに出展していますが、各国がパビリオンを通じて社会課題に対する考え方などを発表しています。

これはあくまで僕が受けた印象ですけど、アメリカはスティーブ・ジョブズのようなイノベーターが社会課題を解決していくところがあって、フランスは社会課題の解決というより、「文化やアートで人々の心を豊かにします」みたいなところがあって、パビリオンにはそういったお国柄が出ます。

また発展途上国と先進国でもパビリオンに違いがあって、コロンビアでいうと生物多様性(バイオダイバーシティ)と都市をどう考えていくかを1つのテーマとしています。コロンビアの三大産業はエメラルドとコーヒーとチョコレートですが、僕たちはチョコレートのトップブランドとして、生物多様性の紹介みたいなことをやらせていただきました。

先進国では、フューチャーシティと生物多様性、そして再生エネルギーの3つを掲げたドイツのパビリオンがとても素晴らしかったですね。日本でもそういった取り組みができないかなと思った時に、日本でカカオ栽培を行えば生物多様性だけでなく再生エネルギーの取り組みもできるのではないかと考えて、茅ヶ崎でカカオ栽培にチャレンジしようとしています。

カカオやチョコレートを通じて、社会や地域に何かを残したい。それが自分たちの大志であり、日常の中でチョコレートを楽しむ文化をつくる上で大事な部分だと思っています。こういった話でよかったのかは定かではありませんが、今日はこのような場をいただきありがとうございました。

昨年のホワイト企業大賞で、審査員の方々にいただいたコメントや評価を社内で共有したことで、みんなの自信にもつながりました。メゾンカカオは今後も精進してまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。