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『となりの億り人』ーサラリーマンでも“資産1億円”(全4記事)

「億り人」になれるかどうかは、株価暴落時の対処でわかる 3万人を担当した元証券マンが語る、投資の成否を分けるポイント

元野村證券で、これまで3万人以上の投資家の資産運用の相談を担当してきた経済コラムニストの大江英樹氏が、新著『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』の出版記念イベントに登壇。大江氏が考える投資をやらないほうがいい人の特徴や、億り人の取材で印象に残った言葉などを語っています。

億り人の投資の成否を分ける最重要ポイント

大江英樹氏(以下、大江):次に、「下落した時がポイント」というお話をしたいと思います。やはり相場は上がる時だけではなくて下がる時も当然あるわけです。むしろ上がった時にどうこうするのではなく、下がった時にどう対処するかが実は一番の重要なポイントなんです。

例えばさっきから話題に出ている、Amazonという会社があります。Amazonはリーマンショックが起きる前の2008年の8月時点では80ドルぐらいしていました。ところが、リーマンショックで37ドルまで下がったんです。これは半値以下ですよね。53パーセントだから半値以下になっちゃったんです。

「もし」ということを言ってもしょうがないんですけども(笑)。もしこの時に買っていれば、そこから90倍になっているわけですし、仮にうまいこと底値で買えなかったとしても、その前の高値の80ドルで買って下がった時に売らずに我慢していたら、それでも40倍以上にはなっているわけです。

例えば1年ちょっと前の一昨年の3月に、コロナ暴落というのがありました。その時はどうだったかというと、Amazonはやはり16パーセントぐらい下落しているわけです。ところが、そこで買っておけばそのあとで約2倍になっていると言えるわけです。

これはAmazonですが、日本の代表的な企業であるトヨタ自動車でも同じです。例えばリーマンショックの時は、その前の高値から比べるとなんと3分の1になっているんです。でも、実際はここから4倍になっています。

コロナ禍の時でもそうです。わずかひと月の間にやはり2割以上も下落したんです。ところが、そこから7割上昇しています。要は、下がった時に慌てて売らないことがすごく大事なことなんです。Amazonはアメリカの株で、トヨタは日本の株ですが、今言ったことは投資信託でも同じです。

eMAXIS Slim(イーマクシススリム)には、全世界株式(オール・カントリー)というものがあります。例えば一昨年のコロナ暴落の時に、直前の2020年の2月19日には基準価格12,000円ぐらいしていたのが、あっという間にそのあと1ヶ月後くらいに8,339円と3割下がっているんです。ところが、そこから昨年末までで見ると約2倍になっているわけです。

大江氏が考える、「投資をやらないほうがいい人」

大江:ここでも、暴落した時にどうするかはものすごく大きな境目になってくるわけです。さっきの図にもありましたが、暴落というのは長期の視点で見れば単なるノイズです。本当は暴落した時に買ったほうがいいんです。「暴落した時に買うべし」なんです。でも、言うのは簡単ですが実際にはなかなかできません。

下がった時に買うといっても底値で買うことはもちろんできませんし、底値近辺で買うにしてもけっこう勇気がいります。ですので、それは無理だと言うのであればそれでもいいんです。でも、せめて暴落した時に売らないようにすることが大事なんです。暴落した時に売らないというメンタルの強さを持っていないなら、投資はやらないほうがいいと私は思います。

敗者のゲーム』という本があります。チャールズ・エリスという人が書いた本ですが、インデックス投資をやっている人にとってはバイブルになるようなとても良い本です。この中に非常に興味深いことが書いてあります。

1981年から2000年の18年間の期間に一番株価が上がった日を上から順番に1位から30位までの30日間の上昇幅を合計した、この30日間を逃すだけでリターンは4割減少すると書いてあるんです。

ということは、その30日間をうまく当てることができたら、1ヶ月持っているだけで4割上がると言っているわけです。でも、そんなことできるわけがないですよね。いつ上がるか、いつ下がるのかなんて誰にもわからないんですから、できるわけがないんです。この30日というのは固まった30日でもありません。バラバラにある18年間の間の話です。ですから、要は「市場に居続けること」が大事なんです。

コロナで「stay at home(ステイ・アット・ホーム)」と言われましたが、まさに「Stay in the Market(ステイ・イン・ザ・マーケット)」。つまり、「マーケットから出ない」「マーケットに居続ける」ということがとても大事だよと、チャールズ・エリスは言っているわけです。まさにそのとおりだなと私も思います。

いつが高い時で、いつが安い時かなんてわからないわけです。やはり長期で保有し続けることがすごく大事なのではないかなと思います。投資・資産運用で資産を増やすための重要な4つのポイントを、億り人たちが実践しているというお話をしました。

老後の収支の見通しを立てて、お金を使う

大江:さて、最後に私が行った億り人たちの取材の中で、印象に残った言葉を取り上げてみたいと思います。これらは『となりの億り人』を読めば出てきます。まずはエルさんです。本の中で一番初めに出てくる人ですが、エルさんは「人生を『自分の死』から逆算して考えてみてはどうか」とおっしゃっているんです。これはなかなかおもしろいというか、私にはすごく響いた言葉でした。

というのは、最近こういう本を読んだんです。『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』。「ゼロで死ね」。『DIE WITH ZERO』というのは、簡単に言えば「死ぬ時にすべての財産を使い切ってから死にましょう」ということなんです(笑)。

ここに書いてあることは、要するに「私たちは“喜び”を先送りしすぎていて、老後は不安だからとずっとやりたいことも我慢してお金を貯めている。手遅れになるまで我慢し、ただただ節約をする」。「命は永遠に続くわけではないけれども、そう思ってしまう。本当はもっと楽しいことができるはずなのに、そういうことをやらないままに死を迎えてしまう。それは実にもったいない話じゃないか?」ということなんです。

現実には、死ぬ時に財産がゼロになるのは難しい話です。例えばアメリカはかなり難しいと思います。ですが、日本の場合はそうでもないんです。なぜかというと、日本の場合は公的年金が非常に充実しています。公的年金は65歳の時にもらう金額も、90歳の時にもらう金額も、物価の上昇などを除くと基本的には同じなんです。

だとすれば、歳を取るにしたがって、生活費はそんなにかからなくなっていくわけです。私は90歳で自分の財産を全部使い切ってもいいのではないかなと思っているんです。90歳からは公的年金だけで十分暮らしていけるし、私は今でも公的年金に相当する金額だけで生活していますから、やろうと思ったらできないことはないんです。

だとすると、いたずらに老後不安ばかり考えてやりたいことを我慢するのではなく、ほどほどにお金は使っていったほうがいいんじゃないかと、この本には書いてあるんです。エルさんがおっしゃっていることも同じことなんです。確かにそうだなと私も思います。

資産形成で大事なのは、「人と比較しない」こと

大江:それから2人目です。こん吉さんは「投資で一番大事なのは“待つ”こと」とおっしゃっています。これは私にも響きました。というのは、大変手前味噌で恐縮なのですが、実はこの本を書く前である去年の7月に『あなたが投資で儲からない理由』という本を私は出しているんです。

この本の中で私は、「“買ったけどちっとも上がらない”は、普通の状況です。だから待つことが大事なんです」「世界経済の成長が途絶えない限り、やがて投資は必ず報われる時が来ます。それを“待つ”のが投資です」と書いているんです。なので、まさしくこん吉さんの言葉はそのとおりだなと思いました。こん吉さんの言葉の中では非常に印象に残った言葉です。

それから、束田(光陽)さんは不動産投資で資産を作った方で、「資産形成で大事なことは、“人と比較しない”こと」と言っています。これもすごく良い言葉ですよね。これに関連して、私が最近読んだ本の中ですごくおもしろかったのが、『お金の減らし方』という本です。森博嗣さんという作家の方が書いた本です。この中にすごくおもしろいことが書いてあるんです。

「本来は自分自身の満足度が価値となるはずだが、(中略)その品物を自分が持った時に他者がどう感じるか、という想像をして生まれる妄想的価値である」「こんな目的のためにお金を使うことが果たして正しいことなのか?」と書いてあるんです。

例えば、「人に見せる写真のために自分のお金を使っている」「ネットで持ち物を自慢したり、おいしいものを食べた、すばらしい場所に自分は行ったという証拠写真をアップして、周囲のみんなに見てもらうという趣味が日本中で流行しているようだ」と。これはどうなんでしょうねということです。

本当にそのとおりで、結局は人と比較しても意味がないということを、束田さんもおっしゃっているんですね。私も、そのとおりだなとつくづく思います。

お金は「どう使うか」に価値がある

大江:最後の白川初美さんという方は、「結局、一番大事なのはお金の使い方」と言っているんです。その言葉を聞いて、私が最近読んだ本の中ですごく印象に残ったのが『お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門』という本です。

これはすごく良い本なので、みなさんもぜひ読んでみていただければ思います。「モノの価値というのは価格ではなく、効用だ」。つまり満足度だということですね。「効用が僕たちの生活を豊かにしてくれる。つまり、みんなが働くことでみんなが幸せになる。これこそが本来の『経済』の目的なのだ」。

最後の1~2分の間で説明するにはまったく舌足らずになってしまうんですが、要は「お金そのものに価値があるわけではなくて、そのお金をどう使うかに価値がある」ということです。これはすごく印象に残った話です。

ということで、最後にまとめてお話をしますと、1億円という数字を目標にしても意味がないんです。これは今日の冒頭に言ったことですが、先ほどのお話でいうとこん吉さんも『となりの億り人』の中で同じことをおっしゃっています。要は、お金を目標にして貯めちゃダメだと言っているんです。例えば「これをやりたくてそれに必要なお金がこれだけだから、それを目標にする」というのは良いんです。

しかしなんの目的もなく、単に「1,000万円貯めよう」となり、1,000万円を貯めたらどうするかというと、次は2,000万円が目標になります。2,000万円を貯めたら今度は5,000万円になる。同じように1億円が貯まったら今度は2億円を目標にするというように、キリがないと言うんです。

1億円が貯まったら幸せなのか? 幸せかもしれないけど、2億円を持っている人と比べて自分は不幸せなのか? と、まさに「人と比べる」という話になってしまうわけです。

人生の目的は決してお金持ちになることではありません。お金がある・ないにかかわらず、「幸せになること」なんです。お金があったほうが幸せになりやすいので、そういうこと(お金を貯めようと)を考えるんです。ですから、単なる1億円という金額自体に意味があるわけではないんです。

億り人たちに学ぶべきことは、「人と比較をしない」。あるいは「自分にとって価値のあるお金の使い方をすべき」ということです。私もそれが良いのではないのかなと思います。ということで、これで私のお話を終わりたいと思います。みなさん長い間ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。

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