大江英樹氏の33冊目の著書『となりの億り人』

大江英樹氏(以下、大江):みなさん、おはようございます。「おはようございます」というよりも、まだ「明けましておめでとうございます」のほうがいいかもわからないですね。土曜日の朝から、たくさんの方に視聴していただきまして、誠にありがとうございます。

去年もいろんなセミナーを、オンラインでやらせていただきまして、おかげさまで、たくさんの方に見ていただきました。今年もおもしろいセミナーをどんどんやっていこうと思いますので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

今日は、「となりの億り人」というタイトルのオンラインセミナーなんですが、すでに大半のみなさんのところには、もうこの本が届いていると思います。中には昨日お申し込みいただいた方もいらっしゃるので、そういう方にはまだ届いていないと思いますが、この『となりの億り人』の出版記念セミナーということなんですね。

この本は、私にとって33作目になるんですね。10年くらいのあいだで33冊の本を書いてきて、今回は新書版でそんなに長い本ではないですが、書いていてけっこうおもしろかったというか、楽しかったです。

今までの本は、わりと自分の経験や考えに基づいて書くのが大半だったんですけれども、今回はそれに加えていろんな方に取材をして、お話を聞かせていただいたので、そういう意味では、非常に楽しいひと時を過ごすことができました。

そんなわけで今日はこの本の内容について。本と同じことを言ってもつまらないので、今日は本に書いていないことも含めて、少しお話をしたいなと思っております。だいたい1時間を予定しておりますので、11時くらいまでお付き合いいただけたらなと思っております。

1億円以上の金融資産を持つ人を調べてわかったこと

大江:一番最初に、この本の今日の内容について、一言で申し上げます。本当に身も蓋もないことを言うんですけれども、この本で一番言いたかったことは、「『1億円』という金額を貯めることに意味はない」ということなんですね。

「なんだ、『となりの億り人』は、どうやったら1億円を貯められるかという本じゃないのか」とお思いの方もいらっしゃると思います。すでに読まれた方はお気づきだと思うんですけど、別にこの本はどうやって1億円を貯めるかとか、1億円を作るにはどうしたらいいかという、ノウハウを書いた本ではないんですね。

そうじゃなくて、いわゆる1億円以上の金融資産を持っている人は、どういう考え方でどんなことをやっているのかを、克明に調べていったものなんです。

結果、やはり1億円という金額そのものを目的にしても、あまり意味がないなというのが、実はこの本の結論なんですね。なんでそういう結論になるのかというのは、今日お話ししていく中で、追い追いおわかりいただけるんじゃないかなと思います。

まず、「億り人」という言葉なんですけどね。どうしてこういう言葉が出てきたかということなんですが、2008年に公開されて、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した『おくりびと』という映画がありました。『おくりびと』というのは、亡くなられた方の納棺をするために、旅立ちのいろいろなお手伝いをするということで、納棺師の方を描いた本木雅弘さんが主演した映画ですよね。

この『おくりびと』は、たいへんヒットしたんですけれども、その「おくり」という言葉に1億円の「億」を掛けた。そして純金融資産、つまり自分が持っているお金の中から、住宅ローンなどの借金を引いた、純然たる金融資産が1億円以上ある人ということに、1億円の「億」を掛け合わせて、「億り人」というタイトルにしてあるわけです。

特にこの1億円の「億り人」は、最近非常にいろんなところでブームになっていましてね。例えばSNSやブログでも、「億り人」という言葉はよく出てきます。

それと、今日は早くから入って準備しておられた方もいると思うんですが、始まる前にバックに流れていた音楽。気付いた人いますか? これね、『おくりびと』の映画のサウンドトラックなんですよね。とてもいい映画で、私も当時すごく楽しんで観たんですけれども、そういう映画の『おくりびと』に掛け合わせた「億り人」が、今回のこの本のタイトルになっているわけです。

影響を受けた、ロングセラー『となりの億万長者』の存在

大江:この本のタイトルなんですけれども、アメリカで出た『となりの億万長者』という本があります。私は今から20年くらい前に読んだのですが、この『となりの億万長者』、とってもおもしろい本だったんですね。

当時、外国で発売されたこういう類いの本の中で、とても人気があって、すごくよく売れた『金持ち父さん貧乏父さん』という本がありましたね。みなさんの中にも読まれた方は多いと思うんですけども、正直言って私は、あれはあまり役に立たない本だなと思ったんですよ。

もともといろんな制度も違いますし、本当に金融資産を作るためにいろいろ投資をしたり、そんなことをやってきた人にとっては、「ふむふむ、なるほどな」とわかっていただける内容もあるんですけれども、まったくのド素人の人が読むと、誤解するんじゃないかなという面もあって、私はあまり、積極的に読むことをお薦めしていません。

むしろ、それよりも『となりの億万長者』のほうが、はるかに実践的に役に立つかなと思っているんですね。実践的にというか、心構えとしてね。この本も実はアメリカで純金融資産が100万ドル、つまり1億円以上ある人たちに取材をしたりアンケートを取ったりしたものです。

その本によれば、1万人くらいにアンケートを取り、500人くらいにインタビューをして、書かれているんですね。まさに億万長者の人たちというのは、どういう生活態度だとか、考え方で暮らしているのかを書いているわけです。

これを見てみなさんの中には、「なんだ、これ。タイトルパクリじゃないのか」と思う方もいらっしゃるかもわかりませんが、まあ、パクリなんですけどね(笑)。だけど、出版社の方から「こういうタイトルで本を書いてもらえませんか?」というお話もあって、おもしろいなと思ってね。私自身が本当に20年前からこの『となりの億万長者』を読んでいてすごく参考にもなったし、こういうのを僕も書けたらいいなと思っていたわけです。

実際に私も、長年証券会社で仕事をしておりまして、特に店頭に相談にみえるお客さまの相談業務を、長い間やっていたわけですね。私は38年間証券会社にいたので、その間に累計でたぶん3万人以上の方の相談を受けてきました。

ですから、『となりの億万長者』は、1万人の人にアンケートを取ったといいますけど、私は3万人の相談を受けてきましたからね。だから私のほうが絶対詳しいんじゃないかなと、勝手に思い込んでこの本を書いたということなんですね。

日本では、100人に2~3人が「億り人」

大江:この本には書いてあるんですが、最初にみなさんに、けっこう衝撃的な数字を紹介します。私も実際に調べてみて驚いたんですけども、億万長者っていったいどれぐらいいるんだろうなということで見てみると、2020年12月に、野村総合研究所(NRI)が調査して発表した資料があるんですね。

これによると、2020年の時点での日本の富裕層。つまり1億円以上の純金融資産を持っている人の世帯数が、133万世帯となっていますね。ということは、2020年の日本の一般世帯数は5,572万世帯なので、率にすると2.4パーセントです。ということは、100人のうち、2~3人は「億り人」ということになりますね。学校でいえば、クラスに1人は「億り人」がいるということです。

今日は、参加されている方が200人ぐらいですけれども、200人ということは、今日聞いている人の中にも4~5人は「億り人」がいるんだろうなと。日本って実は富裕層の数はけっこう多いみたいなんですね。

今年の1月2日の日経新聞の電子版にこういう記事が出ていました。「日本は2番目に富裕層の数が多い」。圧倒的に多いのがアメリカなんですね。次が日本で、以下、ドイツ、中国、フランス。「へえ、そんなに日本って富裕層が多いの?」とちょっと驚いた次第です。また、60代以上ぐらいの従来の富裕層と、30代から50代ぐらいの新しい富裕層の関心事もちょっと違ってきているというんですね。

従来、お金持ちというか富裕層の人たちが関心があったのが、資産運用とか節税とか相続というものばっかりだったんですが、最近の人は比較的年齢が若くなってきたこともあって、新興企業への出資。エンジェル投資みたいなものや、現代アートや教育といったものに興味を持ってきている。ぜんぜん違いますよね。

だから、ファイナンシャルプランナーのみなさんとかも、いつまでも「資産運用だ」「節税だ」、そんなことばっかり言っているんじゃなくて、美術とかリベラルアーツみたいなものをもっと勉強したり、造詣を深くしたほうがいいんじゃないかなと、1週間くらい前に得たその記事を見て思いました。

逆に、コロナ禍で生活が非常に苦しくなってきている人も、一方では間違いなくいますので、そういう意味ではやっぱりいいか悪いかは別として、二極化が進んできているということなのかなと思います。

「億り人」の8〜9割はサラリーマン

大江:1億円以上の金融資産を持っている富裕層が、こんなに多いということなんですが、一般的に我々が「億り人」という言葉からイメージするのは、ビットコインで一夜にして大儲けしたとか、デイトレードで成功して、50万円を1年間で1億円にしたとか、どうもそんなことばっかりをイメージしがちになりますね。

確かにそういう人もいないことはないと思うんですが、あっという間に1億円作った人は、たぶんあっという間に1億円なくしてしまう可能性があると思うので、そういう人はちょっとどうかなと私は思うわけです。

実際、こういうレジュメを作ったりする時に使う、画像の素材を販売しているサイトがあるんですね。PIXTAというサイトで、私もいつもそこから画像を買っているんですけれども、たまたま今回この資料を作るに当たって、「億り人」というワードで検索してみたんですね。そうしたら、出てきた画像はみんなビットコイン。ビットコインの画像ばっかり出てくるわけです。

やっぱり、一般的にはこういうイメージなのかなという感じがするわけですが、実際の「億り人」はそういう人たちじゃなくて、普通のサラリーマンです。みなさんは「お金持ち」というと、タレントとかお医者さんとか企業オーナーみたいな人たちが多いんじゃないかと思っているかもしれませんけれども、実は「億り人」の8割から9割はサラリーマンですよ。

ユニクロを着て、ヴィッツに乗り、普通のマンションに暮らす「億り人」たち

大江:私も自分自身、数限りなくたくさんの大金持ちの人を見てきましたけれども、やっぱりサラリーマンが8割から9割なんです。だって日本で働いている人の9割以上がサラリーマンなんですからね。それはもう確率からいっても当たり前なんです。

ここに書いていますね。着ているものはユニクロ。たまにラルフローレン。ラルフローレンというのがなかなかなんですよね(笑)。なんでかというと、例えばPAPASとか、女性でいえばCHANELとかではなくて、ラルフローレンというのは微妙なところですよね。自動車はトヨタヴィッツとか日産ノート。すごく高級な車に乗っているというわけではないんですね。そして普通のマンション住まい。

こういうのがどうも実際の「億り人」の人たちのイメージのようなんですね。現実に『となりの億万長者』を見ても、同じようなことが書いてあるんですね。お金持ちのイメージでいうと、アルマーニのスーツを着ているだろうというんですけれども、現実はシアーズで、通販で買ったスーツ。車はフェラーリかポルシェに乗っているのではなくてフォードの中古に乗っていますよ。

毎日セレブのパーティをやっているのではなく、毎日家の雑草取りをやっていますと。それからパーティでワインを飲んだりキャビアを食べたりしているのか? いやいや、ふだん食べているのはバドワイザーとポテトチップスです。

実際にこの『となりの億万長者』にもおもしろいことが書いてあるんですけど、ニューヨークで、ある投資銀行が富裕層に対するビジネスのヒントを得ようと思って、実際のお金持ちの人たちをマンハッタンのペントハウスに集めて、そこでインタビューというか、座談会みたいなことをやったんですね。

その時に用意してあったキャビアとか高級ワインには誰も手を付けないで、みんなバドワイザーとポテトチップスとかクラッカーとか、そういうのばっかり食べていたというエピソードが、この本の中にも書いてあるわけですね。だからまさしくそういうことなんだろうなと思いますね。