こんまりメソッドの川原氏×社会システムデザイナーの武井氏

山下悠一氏(以下、山下):こんばんは。ヒューマンポテンシャルラボがお届けする年末特番、Wisdom Commons Labウェビナーシリーズ第1回目。ゲストはこんまりメソッドの川原卓巳さん、そして社会システムデザイナーの武井浩三さんをお招きしまして、「『もう、やめよう。』 ~ポスト資本主義時代、個人と社会のパラダイムシフト~」と題してお送りいたします。

ホストを務めさせていただきます、株式会社ヒューマンポテンシャルラボ代表の山下悠一です。どうぞよろしくお願いします。川原さんは今、ロサンゼルスですね。

川原卓巳氏(以下、川原):はい。ロサンゼルスにおります。

山下:今は何時ですか?

川原:朝4時になりました。

山下:おはようございます(笑)。

川原:わ、明るい!(笑)。

山下:一方で、ちょっと飲んでこの場にいらっしゃっている、ほっぺたがほんのり赤くなっている方は武井さんです。どうも。

武井浩三氏(以下、武井):こんばんは。

山下:こんばんは。よろしくお願いします。

武井:お風呂も入って、あとは寝るだけでございます。

(一同笑)

山下:もう「ウェビナーすらやめよう」という勢いですが、今日はそんなお二人とお話したいと思います。さっそくなんですが、ぶっちゃけヤバいお二人の対談なので、最初から飛ばしていきたいと思います。

「お金」を基準に人生の意思決定をすることをやめよう

山下:「もう、やめよう」というテーマなんですが、僕らはまず何からやめたらいいんですかね? 身近なことでもいいですが、「これを手放しちゃったほうがいいんじゃないの?」と最近思うことや、「これ、おかしいんじゃないの?」「これ、やめたほうがいいんじゃないの?」ということはありますか?

武井:貨幣経済ですね。

山下:おお(笑)。いきなりぶっこんできましたね。貨幣からやめようと。

武井:僕はeumoという会社もやっているので、通貨を作っています。お金を研究する流れで、経済とは何かをけっこう真面目に勉強しているんですが、「今の貨幣システムの限界じゃん」という結論にたどり着いてしまって。

貨幣経済の仕組みに則っていると何が起こるかというと、環境と人権を毀損する。これは人間のモラルの話じゃなくて、貨幣のシステムとしてそういうふうにデザインされているということがわかってきました。

全部をきれいに説明はできないんですが、これは仕組みを変えなきゃいけないなと最近は考えてます。僕らは政治家じゃないので、いきなりシステムを変えることはできない。できることは、お金を基準として自分の人生を意思決定するのをやめること。貨幣の力からの脱却だなと思いますね。

山下:なるほど。まずは、当たり前にある貨幣経済から抜け出してみては? という。具体的にどうするんだというのは、のちのち詳しく聞いてみたいと思うんですけれども。

「右肩上がり」を望む時点で、現状の自分は不幸である

山下:では川原さん、何からやめたらいいですかね?

川原:いやぁ。さすがだなと思っているのは、言い方は違えど言いたいことは一緒です。僕は最近、「右肩上がりじゃなきゃ幸せじゃない」という思考をやめようと言っています。僕らは、盲目的に右肩上がりが好きなんですよ。

山下:ですね。

川原:経営者をやらせてもらっているので、昨年よりもアップであることが善、ダウンすると悪。これはたぶん個人生活でも一緒で、みんなそう思っていると思うんですが、「毎年良くなっていかなきゃいけない」みたいな。良くなっていかなきゃいけない、と思っている時点で不幸なんですよ(笑)。

武井:「今」の否定だからね。

川原:そうなの。なんだったら、本来は翌年計画的にサイズダウンすることも選択肢になるはずなのに、誰もそれを言えない「言ったら負けよルール」を自分からやめようと思って。

山下:なるほど。僕も経営をしていますが、お二人とも経営者という経歴がある中で、なかなかやめられない「成長」をステークホルダーから求められたり、無限成長を求められている社会があると思います。

そういったところから抜け出そうとして、武井さんはいろいろな経営手法を編み出されたり、自然経営やホラクラシーをかなり前からやっていますが、右肩上がりで上がっていくところに対しても違和感を感じて、そういうことを始めていったんですか?

武井:もちろんそうですね。自然経営という言葉を使っているのが象徴的ですが、地球上に住んでいる以上は、自然の摂理に則って人間も営まなきゃいけないというのは大前提じゃないですか。自然の摂理が何かと言ったら、生まれたら死ぬし、でも死ぬのは個体としての死ではなくて、種族や生態系の中では他のものの生につながるわけです。

今の世の中に足りないのは「死ぬデザイン」

武井:全部がつながって大きな生命体として成り立っていると考えた時に、今の資本市場や企業の経済の営みって「ひたすら大企業が食っていく」みたいな(笑)。「スタートアップ起業して、バイアウトしました。ウェイ!」って、僕はやべぇと思っているんですよね。

全部が悪いとも言わないです。だけど、それをスタートアップのエコシステムと言う人もいますが、あれはエコシステムじゃなくて、大企業がどんどんでかくなってるだけじゃないですか。あれ、エコシステムになっていないですから。世の中に足りないのは「死ぬデザイン」だと思っていて、終わるデザインがあまりにもないんですよね。

川原:わかる。終わり方よね。

武井:そうそう。

山下:終わり方ね。

武井:企業経営的な観点から見ると、自然経営ですごく考えたのは、企業は採用する仕組みをめちゃくちゃ作るじゃないですか。どこの会社もいい人と仕事したいし、来てほしいし、マッチする人と会いたいんだけど、やめる仕組みを作らないからふん詰まりになるわけですよ。

循環というのは「入」と「出」なので、両方のデザインが必要です。これは個人の経済活動も一緒で、稼ぐことと出ることは一緒なので、稼ぎ方よりも使い方を見たほうが、その人の人間性がわかるなと思うんですよね。

山下:うーん。なるほど。

武井:僕らはこれから、そういう「出口」をデザインしないといけないなと思いますし、その1つが「やめる」とか「捨てる」。

山下:なるほど。生み出すためにも、捨てることが必要ということですかね。

武井:「生み出すため」となると、またちょっと意図が変わっちゃう気がして。座禅みたいなもので、「ただ捨てる」みたいな(笑)。わからないですが、そういう境地な気がするんですよね。

物が増えすぎた現代、人類は「適正サイズ」に戻りたがっている

山下:川原さん。さっき、「捨てる」「やめる」デザインが必要だというところで頷いてらっしゃいましたが、何か思うところはありますか?

川原:それで言うと、うちの奥さんが近藤麻理恵さんという片付けの変態の方でして。5歳から片付けをしてらっしゃって、今もなお、片付けているんですが。

(一同笑)

川原:今、僕はロサンゼルスにいて、190ヶ国を相手に片付けをして、自分の生活のサイズを見直すことをさせてもらっているんです。武井さんが言っている、「1つの生態系として何が起こっているか」という観点にすごく立っていて、地球上の人が今、何をしているかという目線なんですよね。今は本当に循環をしたいんだなと思っています。

産業革命以降、これまで僕らは物をたくさん作って、たくさん買って、たくさん使うことで便利さや快適さを得て、幸福度が上がると信じきっていた。事実、たぶんそうだったと思う。稼いで、また消費者を育てて買う。そうやってグルグルやってきた。

結果何が起きたかって、特に先進国や都市部においては家の中の物の総量が増えたんですよね。それはそうだわな。みんな(経済的に)豊かになって物を買ったし、なおかつ都市化したので、1人あたりの住居面積にかかるお金が上がった。つまり、住居は狭くなった。結果、地球サイズでは散らかっている状態になるという問題が起きた。

僕らは自分の身体感覚に従って、一つひとつ物を持って、これが今の自分にとってときめくかどうかを考える。奥さんは「ときめく」と言いますが、要するに、自分にとって心地いいかどうかという“声”を聞くトレーニングを、各家々でやってもらっています。結果、そうじゃないもの(ときめかないもの)を手放す。

まさに、さっきの終わり方のところ。物にとっての“死に方”じゃないですか。しかも190ヶ国に住んでいる人が、みんな「そうだよね」と共感しているということは、人類という大きな目で見ると、適正サイズに戻りたがっているんですよ。

こんまりメソッドは、地球にとっての“下剤”?

川原:ある人が言っていてめっちゃおもろいなと思ったのが、「こんまりって、地球の“下剤”なんだね」と言ってたの(笑)。言われたら、確かにそうやなと思って。(現代社会は)物を作って買いまくって、腹パンパンで、しかも肛門を縛ってる状態やから(笑)。

(一同笑)

川原:「下剤なんだね」と言われて、「おお。不名誉だけど確かにそうだわ」と思った。

武井:宿便が出てるのね。

(一同笑)

川原:せやねん(笑)。

山下:「ときめくか、ときめかないか」がメインに感じてたんですが、一方でどんどん捨てているということですもんね。

川原:そうそう。

武井:ときめきを感じるトレーニングをしてるって、すごくおもしろいなと思って。それ、禅じゃん。(笑)。

川原:確かに。

山下:まさに。

川原:現資本主義における、日常生活の中でできる禅だと思う。

武井:すげぇな。なるほどね。

山下:禅的でもあるし神道的でもあるところが、おそらく神秘的なメソッドとして、アメリカを中心に爆発的にヒットしたんじゃないかなという気がしますよね。本屋さんに行っても、禅とかマインドフルネスのところに(こんまりさんの本が)置かれていたりしていますもんね。

川原:そうなのよ。最初にアメリカで出した2014年には、実は世界の本棚には「片付け」というジャンルがなくて。

(一同笑)

山下:ジャンルを作っちゃったんですね。

川原:そう。本屋さんがみんな、どこに置いたらいいかを彷徨ったの(笑)。

(一同笑)

武井:おもしれぇ。

川原:僕らも、本屋に行って自分たちの本を探すのが大変なの。「今日はどこにあるだろう?」って。

山下:なるほどね。

武井:イノベーションだ。

15歳の時、片付けが嫌すぎてノイローゼで倒れたこんまり氏

山下:そうですよね。こんまりさんがそこに至ったのは、「社会課題があって」とか「資本主義を変えるために」という話ではないですもんね。

川原:うん。ゼロゼロ。

山下:どこからそういうものが生まれてきたんですか?

川原:(笑)。そもそも麻理恵さんは5歳から片付け続けている。というのは、最初は片付けだけがうまくならなかったからなんですよ。

山下:ええ! そうなんですか。

川原:そう。お母さんが専業主婦でいらして、それこそ『ESSE』や『オレンジページ』さんみたいな、主婦向けの雑誌を定期購読する系の人で。お母さんより先に届いた袋を開けて、読み始めた5歳の近藤麻理恵がいたんですね。

その中には裁縫や献立、あとは節約術とかいろいろあって。とにかく麻理恵さんは当時から「いいお嫁さんになりたい、お母さんになりたい」というのが夢やった。それも変わってんねんけど、それをひたすら試していたと。

やればやるほど、他のものは全部うまくなる。なのに片付けだけは、やれどもやれどもリバウンドして元に戻るんですよね。ある時、「なんで片付けだけはこんなにうまくいかないんだろう?」と言って、のめり込んだのが彼女のスタート。

山下:純粋におもしろいというか、そういう意識でやってたんですね。

川原:「どんな子どもやったん?」って飲みながらお母さんに聞いたら、彼女は3人兄妹の真ん中で、言葉を選ばずに言うとほっとかれてたのね。故に、一人遊びの時間がむちゃくちゃあって、最たる遊びが片付けだったという。

山下:「片付け」という遊びだったんですね。

川原:そうそう。家をテーマにしたパズルゲームみたいな。

山下:ある意味、子どものファンタジー的なものがそのまんま育っちゃったみたいな。

川原:そうそう。15歳までずっと片付けてたんだけど、ある時「片付けしたくない」と、ノイローゼで倒れているわけ。

武井:(笑)。

川原:(笑)。自分の部屋で倒れこんで、どういうこと? って感じやん。それまで彼女は、片付けとは「捨てること」や「手放すこと」だと思ってたんだよね。自分がいらないもの、汚いもの、使ってないものをとにかく捨てる。

そうやって1日中家の中にいるから、気付くと物の嫌なところばっかり見ているの。「もうこれも捨てられらるんじゃないか?」って。

山下:ああ、ネガティブな。

川原:(匂いを)嗅いでみて「これはもう臭いな」と言って、捨てる(笑)。捨てる理由探しをしていた。でもそこで「あ、違うわ」と、パンと目が覚めた。その時に、自分が好きで残したいものを選べばいいんだというパラダイムシフトが起きて、そこからはもう二度と散らからなくなった。

山下:ああ、そういうことか。それで循環が起きたというか。

川原:そうなの。

KPIを達成すべく、胃を痛めながら働いていた時期も

山下:なるほど。純粋に片付けの変態みたいなこんまりさんが、川原さんのプロデュースもあって、今は世界的な有名な賞を取ったりとか。これって傍から見たら、「ある意味、右肩上がりに成長していないか?」って思うじゃないですか。

これは、プロデュースする在り方がぜんぜん違うということなんじゃないかなという気がしています。川原さん自身は、ものすごく歯を食いしばってがんばって、いろんなトレーニングを受けて、将来のために今をがまんしてやる……というふうにはぜんぜん見えないんですが、どういうプロデュースをしたらそうなっていったんですか?

川原:ありがとうございます。それで言うと、いったん思い切り資本主義のルールに則ってみたことがあるんですよ。日本から海外に出るにあたって海外法人を作って、この会社はスタートアップで立ち上げたので、外部の資本を入れてもらって投資家を募って。それこそまさに、右肩上がりのさらに向こうにあるJカーブというやつですよね。

山下:Jカーブ。はい。

川原:「うりゃあ!」というやつを、事実やっていた。セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)という世界最大の投資会社から投資を受けて。日本人でそれをやった人たちは僕らが初めてと言われているので、資本主義の極々の極々まで行ったのよ。

山下:すごい。そうなんだ。

川原:毎日のようにチャットで「KPIの達成」だったりとか。

武井:(笑)。

川原:セコイアのパートナーから詰められる日々。ザ・資本主義ですよ。

山下:すごく胃が痛くなるような毎日。

川原:そうそう。日常になってくると、それすらも別に大丈夫になってくる自分がいて。今思うと、明らかに精神がおかしかった。

山下:そうなんだ。

資本主義を追い求めた先に「本当の意味での豊かな人生はない」

川原:あるタイミングで、「これを追いかけ続けた先に、本当の意味での豊かな人生はないな」ということに気付いて。サインとして、会社の中でいろんな問題が起こり始めるんですよね。人が辞めた、とか。

見直そうと思って。そこからさっき言ったみたいに、「ずっと右肩上がりを求める理由って何だっけ?」まで、思考が遡るのよ。そうじゃなくて、世の中に求められていることだけを提供できるように、内側を整えていくやり方に変わるんですね。だから、「適正サイズはどこなんだろう?」って考え始める。

たまたま僕らの場合は、さっき言ったみたいに、地球単位で片付けが必要になるニーズができあがっていた。だから、今は適正サイズが比較的大きめであるだけなので、成長を求めているわけじゃない。

山下:なるほど。適正サイズの感覚は、自分たちがいい状態であり続けて、恐れじゃなくて楽しみながらやっていくという。

川原:そうですね。だから、大切にする順番が明確に決まって。『Be Yourself』という本も書かせていただいているぐらい、自分らしくあることをすごく大事にしています。まずは、自分という人間をきちんと満たすこと。次が、奥さんや家族という身近な人たちがきちんと豊かで幸せでいられること。その先に会社をやっているので会社の社員がいて、その家族がいて、もう1つ先に社会がある。

みんな、「社会のために」と言って内側を無視しまくるから、蓋を開けたらバカ仲の悪い家族ができあがっちゃったわけなんだけど、この順番を決して間違わないようにする。

山下:「世界平和」と言っている人たちは、だいたい家庭平和が崩壊していますよね。

(一同笑)

川原:ほんま、そうやねん。

山下:そういうことがありますよね。