2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊藤羊一氏(以下、伊藤):なるほどね。目指すはこの体験のリッチ化。体験そのものが「おお、いいね」みたいな感じに、全員がなるっていうこと。あとパーソナライズ。1to1でやっていく。
順番としては、モバイルでわかりやすくする。データ活用する。リアルに接続する。リアル接続っていうのは、OMO(Online Merges with Offline)って言葉もありますけど、そこに近い考え方ですか?
須藤憲司氏(以下、須藤):そうですね。OMOは、お店とかストアフロントだけの話ではたぶんなくて。バックエンドの、例えば金融の裏側もおそらくデジタルに変わっていきますし、営業も実はもっとデジタルを活用すれば変わっていける。物流もそうですよね。
今まではリアルに行かないとできなかった。けど当たり前なんですけど、裏側の仕組みが全部デジタルでつながっていくと、リアルとの接続がスムーズになるわけですよね。これがけっこう大きな変革です。実は、だいたいこの4番目のリアル接続のところで、みんな困るんですね。
伊藤:困る?
須藤:困る。止まっちゃう。なぜかというと、さっき言ったとおり、リアルで動いている人たちのほうが圧倒的に多いわけですよ。1(モバイルファースト)、2(動画化施策)、3(データ活用)の領域って、デジタルマーケティングとかの部署だけで完結できるんですよ。
でも、営業とか物流とか製造とか。もうこうなると(リアルで働いている人の)数がめちゃくちゃ多いので、これはめちゃくちゃ難しい。
伊藤:ビジネスモデルの変革は、リアルとセットにならないと無理なんですね。
須藤:起きないです。かなり難しい。
伊藤:4(リアル接続)と5(ビジネスモデル変革)はセットなんですね。なるほどね。枠組みをスドケンさんにお話しいただきましたけど。このフィット感というのか、こういう理解で北川さんも良いですか?
北川拓也氏(以下、北川):そうですね。これを加速させるモメンタムみたいなもの、さらにお客さまの需要の変化みたいなものが、すごく起こってきているなと僕は感じていて。価値観の変革が起こるとともに、みなさんの求めているものが変わっていくので、これがさらに加速すると。
その1つの例が、例えばSDGsのグリーンの流れや「Buy Now, Pay Later(バイナウペイレーター)」で、かなり一世を風靡しましたけども。
須藤:「後払い」ですね。
北川:後払い。たぶん日本にいる方は「何が新しいの?」って、めっちゃ思ったと思うんですね。
伊藤:それ、ちょっと解説いただいてよろしいですか?
北川:結局、アフターペイやバイナウペイレーター系のサービスは、簡単に言えば、お客さまがカードなどを持ちたくないということなんですね。つまり、金融機関への若干の不信感から出てきていて。
「お金を借りたら金利付けて返さないといけないでしょ?」「返せなくなるんでしょ?」というすごい不信感から、金融機関を通したくないと。でも似たような分割払いサービスを利用したいという力学が生じて、バイナウペイレーターのあの異常な盛り上がりにつながったんですね。
お客さまの需要として、結局、パッと聞くと微々たる違いに聞こえますよね。「金利なしに4回分割払いできる後払いサービスと、クレジットカードの何が違うんだ?」って思ってしまう。でも実はZ世代から見ると、それが大きな違いに見えたと。だから、需要がブワーッと盛り上がった結果、その需要がまさにDXの流れを思いっきり押したんですよね。
北川:こういう話が、いろんなところで出ていまして。(SDGsの)グリーンもそうですよね。結局、カーボン0に持っていかないといけないという需要から、じゃあその素材が実際にCO2を排出するものなのかどうか、全部トラックする必要が出てきて。それをトラックするために「全部デジタル化されていないと情報を追えないよね」となった。
結局は「このモノが本当に正しいプロセスを経て、正しい条件で作られたのかわからないから、全部デジタル化しよう」っていうのが後追いで来ている。需要ドリブンでこれが10倍の早さになるから、みんな感覚値がズレるんですよね。「なんでそんなに盛り上がらなきゃいけないのか?」というと、需要が来てるからなんですよ。これからそれが売れるんですよね。
伊藤:そうやって考えると、要するに1社1社の企業でいうと「徐々にモバイルにしていって、データがたまってきて、こうしてああして」と、自分たちの効率化ありきで考えていて。その先にDXがあると考えたくなるんだけど、そうじゃなくて。
北川:そうなんですよ。「(DXの側から需要・マーケットが)迎えに来てる」んですよ。
伊藤:むしろ、あるべき姿をちゃんと描かないといけないんですね。
北川:そうですね。めちゃくちゃマーケットが迎えに来てる感はあって、だからディスラプション(創造的破壊)が起こると思うんですね。
だから、スタートアップが思いっきり勝つ可能性があって。はじめは小さくやっていたんだけども、需要がブワーッとそっちに来ているから「DXやっていなかったらもう売れないし、やっていたらバカみたいに売れる」ような時代が、もうちょっとで来る可能性があると。
北川:せっかくSmartHRの会なんで、僕はぜひHRのDXについて話したいなと思いまして。DXを知りたかったら、アメリカの事例を見るのが一番早いじゃないですか。スドケンさんも、いろいろ見られていると思うんですけど。
アメリカでは今、HR業界の大変革が起きていまして。これ「タレントマーケットプレイス」というんですよ。聞いたことあります?
須藤:聞いたことあります。
北川:これは何か? というと、アメリカはもう、とうの昔に「ジョブ型雇用」に移っていて、今はさらに「スキル型雇用」に移っているんですよ。だから、ジョブよりも小さな「あなたは何ができるんですか?」で、人々が仕事を取るようになってきている。この流れは、実はいくつかの需要と相まっていまして。
まず1つに、スドケンさんがおっしゃってた、人がもう採れなくなっているから「社内異動で人を埋めよう」という動きがアメリカでブワーッときているんですよ。
だからジョブ型じゃなくて、社内で違うジョブマーケットにいる人を異動させるんです。スキルが被っているから「あなた、SEOやっているならデータ分析もできるよね?」って横異動させると。スキルのオーバーラップをみて異動するってことができてきたんですよ。
もう1つの流れ。今の若い世代、Z世代とかの仕事に対して求めるものナンバーワンは「自分のスキルアップ」なんですよ。別に「安定した仕事に就きたい」とかじゃなくて。もう仕事が変わるのは当たり前だから、とにかく「この仕事でどんなスキルが身につくのか?」が一番大事だと。
この流れに合わせて、今、HRシステムとしてめちゃくちゃ導入されているのが「一人ひとりのスキルの見える化(ができるサービス)」と「スキルが身につく『完全マイクロラーニングで学べるサービス』」なんです。
そうすると、人材の流動化のあり方がまったく今までと変わるんですよね。あと、人のキャリアの積み方もすごく変わっていくと。これがある意味、人材業界におけるDXの新しい流れですね。
伊藤:そのためには、やっぱり個々のスキルがちゃんとパーソナライズされていることが必要になってきますよね。
北川:まさに。そのポジションが求めるスキルセットが見える化されて、デジタル化されて、かつ、それぞれの人たちが持っているスキルが見える化されて、それぞれがマッチングされていくという世の中。
伊藤:なるほどね。さっきの繰り返しになるけど、結局、1社1社で見ると、モバイル化して、データがたまって、リアルと接続して、こう順々に上っていくようなんだけど。やっぱりニーズを把握した上で「ビジネスモデルはどうあるべし」みたいなことを考えないと、なかなかDX成功は難しい。
北川:これはもう、若い人がこういうキャリアの積み方を求め始めているので。だから、この制度を持っていない会社には、たぶん若い人は入ろうと思わないですね。「その会社で僕は何のスキルが身につくんですか?」と聞かれるようになっちゃう。それに答えられないと、人が働きに来てくれない世の中が来ている。
伊藤:「それに応えるためにこうしよう。そのためにはこういうデータをためよう。そのためにはこういう業務プロセスにしよう」。こういう順番で上から下がってくるっていう。
北川:まさにおっしゃるとおりですね。
伊藤:なるほどね。僕は4年前、ヤフーのHRのデータを全部ためて、ある人が入社してから退社するまでを、1レコードで動きを追っていけば、きっと良いことになるはずだと思ったんですよ。
例えば、遠くに引っ越しましたと。そうしたら、ちょっと出勤が大変になりました。結果、勤怠が乱れ始めました。その後、だんだんパフォーマンスが落ち始めました。とどのつまり、なんかちょっといまいちになって、メンタルがダウンしてきました。
こういうのも「メンタルダウンしてからわかっても遅い」ということで、引っ越した時点で予見することができたら良いよねと。
だから「全部のデータを一元に管理できたらうれしいじゃん」って思ったんですけど、1年で諦めまして。なぜならば、データがグチャグチャだし、入力項目もバラバラだから、つなげること自体ができなかったんですよね。
だからデータベースを揃えるのに、その後1年がんばったんですけど。結局、それはこれ(データ)をつなげてこう(引き上げるん)じゃなくて、あるべき姿を描いて、徐々にデータをこういうふうに整備しよう、こういうふうにデジタル化しようという流れが不可欠だと思ったんですね。
北川:まさに。だから今、デジタル庁がやったら、圧倒的に日本が世界のリードを取れるのが、その人材スキルの標準化なんですよ。これを日本国中でやり切って、日本国がそれを必須化できたら、世界で人材マーケットが、日本だけすごいことになりますよ。ぜひやるべきですよね。
伊藤:それが“あるべき論”だから。あるべき論がちゃんと議論できるかどうか、はすごく重要になりますよね。
伊藤:スドケンさん、いろんな会社さんでDXのサポートをされていると思うんですけど。想像で申し上げますが、多くの会社が「積み上げるかたちでDXしていくか」(あるいは)「あるべき論に基づいて最初から設計してDXできるか」(なんですよね?)。
でも、あるべき論から入るのってなかなか難しいんじゃないかなと思って。これは想像ですけど、具体例で、こんな感じでハッピーになったよみたいなことってありましたか?
須藤:実は僕、それは両方が必要だと思っていて。なんでかというと、まさにさっきから話題に出ているんですけど、DXってやっぱり人の価値観を変えていくんですよ。なぜなら、便利になったら戻りたくないじゃないですか。
伊藤:そりゃそうだ。
須藤:それこそ北川くんがやっているウェルビーイングとかにも、実はすごくつながっていくと思っていて。結局、DXって社会の課題を解決できると思っているんですけど。1つの部署とか1つの会社がDXできて(そこで)終わると、社会的には変わらないんですよ。
伊藤:それは「デジタル化」っていうやつだよね。
須藤:そう。やっぱりつながらないといけないんですよ。みんなサイロになっていて「うちはこういうやり方だから」「うちはこういう業務だから」みたいになっているので、データがつながらないわけですよね。
これをもうちょっと「疎結合化していく」というか、つなげやすくする。その上で、社会全体がこうやってデジタルのデータでつながっていく。あるいはAPIでつながっていくみたいなことを、デザインするっていうこと。
北川:アーキテクトする。
須藤:そうなんです。一方で、さっきの業務プロセスをデジタル化するって、めちゃくちゃ涙ぐましい努力というか。なので、両方(「業務プロセス」と「あるべき論」)からグーッてやっていって、これを接続してやろうとする取り組みが、僕はすごく大事だと思っているんです。
伊藤:なるほどね。それはお仕事でやられる時、例えば大企業に入られる時に「まずこっちもやりましょう」「こっちのあるべき姿も議論しましょう」と挟み撃ちにする。こういうことを意図してやっていく感じですか?
須藤:そうですね、意図してやっていきます。なので、実はこっちの話(あるべき姿)はこっちの話で、やっぱりみなさん、すごく優秀な方を当然抱えてらっしゃるので、できるんですよ。できるんですけど、現実のほうがめちゃくちゃ大変なんで。
伊藤:こっち(現実)がフォーカスされちゃう。
須藤:そうです。日本が海外と違うのは、めちゃくちゃ属人化しているところなんですよ。人材の流動性が圧倒的に低いので。だから、属人化しても良かったんです。人口も増えていたから。(それが今でも)そのままになっているんです。
「オペレーション・エクセレンス」って言えば聞こえは良いですけど、あれは属人化なんですよ。それを単純にデジタル化しようとすると、絶対に品質が落ちるんですよね。だって人間のほうが優秀だから(笑)。圧倒的にできることが多いし。
だから、熟成された“秘伝のタレ”みたいなオペレーションが、いろんなところに存在していて。「あの人じゃないと回らない」とか「あの人じゃないとできない」という構造に、どうしてもなっちゃっている。これを解きほぐしながらDXしないといけないところが、難易度(高い)と思います。
北川:僕ら、アメリカに住んでいましたけど、日本のお弁当ってめちゃめちゃ美味いんですよ。もうアメリカのお弁当って、別にお弁当でもなんでもないみたいな。(日本では)お弁当を詰めている人の技術がすごいらしいんですよ。それは、もう絶対にDXできない(笑)。本当にあんなギチギチに、あんなおいしいお弁当を詰めるのは、すごい技術らしいんですよね。
伊藤:日本の場合、そういう職人の技とか「ここに突っ込んでやっていくのだ」みたいな。「お弁当をきれいに」みたいなのが、下手にすごくクオリティ高いから。
北川:めちゃめちゃ高いです。
伊藤:デジタル化する力学が働きづらいのはやっぱりある。
北川:余計、難易度が高いんでしょうね。到達している場所が、すでにものすごく高いから。
伊藤:なるほどね、そりゃそうだ。人が今やってるし「なんで変える必要あるの?」っていうところ。いざ、デジタル化してみたらそこの並びが、なんか微妙にダメだったりして、それを直さなきゃいけないとか、そういうのも大変だしみたいな。
須藤:そうなんですよ。品質が、人間のオペレーションにおける最高到達点に達しているんだと思うんですね。
北川:そうですね。
伊藤:じゃあ、その会社さんに「でも変えたほうが良いですよ」みたいなのは、どう言うんですか? やっぱり丁寧に?
須藤:なんだろう。これ、僕は宗教に近いと思っていて。それってやっぱり、これまでの価値なんですよね。例えば「電車が遅れずに来る」。公共交通機関の時間の守られ方、日本はめちゃくちゃすごいじゃないですか。あるいは、公共サービスの品質だって高いじゃないですか。
アメリカに住んだらわかるんですけど、めちゃくちゃだから。むしろ「バスが来てくれて良かった」みたいな(笑)。
北川:一生来ないと思ってたのにね(笑)。
須藤:「荷物届いて良かった」とか、そういう世界なんですよ。だから(日本以外は)、QOL(Quality of Life)というのか、その品質が低い。なんで、デジタルを使っていくと、やっぱり(クオリティを)上げられる余地があるんですけど、こと日本においては、やっぱりレベルが高いんです。全体的に全部高い。
だから「人手が足りないからデジタルで賄おうぜ」ってやると、明らかに品質が落ちるんです。だから「品質が落ちないように(デジタル化)するためには、どうしたら良いか?」っていう発想になっちゃうんですね。でも僕は、やっぱり変えたほうが良いと思っていて。
伊藤:そこをね。
須藤:それこそさっきのお話の、お店の人が給仕せず、お客が自分のスマホで注文するのは、価値観の変化だと思うんです。でも、それによって別に何か困るかというと、困らないじゃないですか。「あれ、なんかもう決済も自動でできるから、お店の人と話したの1回か2回だな」っていう。でも実は、それで別に事足りるわけですよね。
「そういう新しいサービス、新しい業態なんですよ」っていう見せ方をしていかないと、もしかするとちょっとむずかしいのかなって思いました。
北川:これ、めちゃくちゃ本質です。例えば、データベースのスイッチングが起こらない理由は、そこなんですよ。ソフトウェアベンダーに対するクオリティへのリクワイアメント(要求)が、日本ってめちゃめちゃ高くて。
だから、ちょっとでもインシデントを起こしそうになったら「いや、もう戻して、戻して!」みたいな感じで、全部戻していくということが、本当にそこら中で起きていて。おそらく僕の想定では、これを動かせるのはやっぱり需要の変化しかないと思っているんですよね。
つまり、高い品質を求める人たちがスイッチングしてしまって「この新しい機能があれば、別にそこのクオリティは多少は低くても良いですよ」といった、BtoBの文脈です。だからデータプラットフォーム上で、その想定案を作っている人たちの話かもしれないし、もしかしたらさっきのお弁当のお客さんかもしれないし。
やっぱりデマンド側、需要側が変わるタイミングがないと、日本はちょっと変われないのかなっていう感覚はあって。でもそれは世代交代と一緒に変わっていくので、時間が経てば間違いなく一気にスイッチングが起こる可能性はあるなと。僕はわりとそこに期待をかけていますね。
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