「いや、2つも仕組みがあったら大変じゃないの?」

紀平智志氏(以下、紀平):先ほどのメインテーマの内容をもう少し、テーマごとに深掘りした内容も今からお話しいたします。まず1つ目、kintoneと既存のシステムの使い分け。これ、非常に悩まれている方が多いんじゃないかなと思います。先ほどの決裁の仕組みも踏まえながら、このお話をご紹介します。

当社では、従来の決裁システムも必要に応じて使っています。実は親会社であるヤンマーグループに決裁を求める稟議が必要な案件については、従来どおりの仕組みを使っています。当社ヤンマーエンジニアリングだけで議決できるものに関しては、kintoneのアプリを使って先ほどのメリットを享受しています。

「いや、2つも仕組みがあったら大変じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。ですが実際に件数を見ると、ヤンマーグループに上申する決裁の件数は、あまり多くなくて、そんなに使うことがありません。

そして、このように玄関口をkintoneのスペースにまとめることで、使い分けの煩雑さをなくしております。ですので、必要な部分はそのまま残す。そして新しい方法、kintoneと良いところをミックスさせながら活用していくことがおすすめです。

改善風土構築に関する3つの行動指針

紀平:続いては別のテーマです。どんな体制で企画管理部はkintoneを運用しているのか? 迅速かつ柔軟に改善が行えるように、当社ではアプリの権限・スペースの権限を全社員に付与しています。そして、その社員の中でkintoneを活用して業務改善を行う社員を、「活用者」と呼んでいます。この「活用者」は自分でアプリを作って、保守、活用促進まで行います。

その中で、もしわからないことがあれば、企画管理部に相談。企画管理部からはフォローを行うといった体制です。そうしてできあがったアプリを活用者が、社内に「使ってください」とアプローチを行う。そして社内でアプリを使う「使用者」と呼ばれる人たちがこのアプリに入力などを行っていく、という流れです。

この「使用者」というのは、kintoneのアプリの開発等は行わずに、ただ入力をしたり使ったりする人という意味合いの社員なんですけれども。この社員達にも、ぜひkintoneを活用して業務改善してほしいという想いがあるので、企画管理部では「業務改善してみませんか?」と、活用のPR活動も行っております。そうした活動内容を企画管理部内で情報共有・議論し、より良い活動につなげていく。そしてシステムの管理や最低限の規定の整備、そんなことも企画管理部で行っております。

ほかにも改善風土構築に関する行動指針も、3つ定めています。まず1つ目、やっぱり主体性が大事なので「改善の押し売りをしない」。例えばkintoneを使っての改善を「年に何個上げてください」ということはしないようにしています。

次に「適材適所でツールを活用する」。kintoneはあくまでkintoneというツールなので、やっぱりその良さを理解した上で使っていく必要があります。その業務にあったツールを活用しないと、効率化にならず社員の満足度は上がらないので、この2点目も非常に重要です。

そして3点目が「ラフな雰囲気でkintoneを使う」。主体性があってもkintoneの使用に敷居の高さを感じてしまうと、やっぱり使えない。もったいないですよね。ラフな雰囲気を心がけています。

案件管理の専用ツールがなかったので、部長自らアプリを作成

紀平:このような体制で行った結果、企画管理部以外でもさまざまな業務改善が見られました。こちらは当社の技術部という部門の改善事例になります。当社では、船で使用されたエンジンの主要部品を整備・補修してお客さまに提供する「補修品販売」というビジネスと、お客さまがご使用になられた主要部品を下取りする「下取りサービス」というビジネスを行っています。

これはビジネスの流れが非常に複雑化しやすい。下取りを行うので、かなり難しい業務フローになっちゃいます。なので進捗管理が難しいんですね。そして案件管理の専用ツールがない。ですので情報が属人化しやすい。そして整備を行うので、各整備担当者の整備技術力の把握が必要になるんですけれども、「誰が、何件、整備したか」そして、「誰に・いつ・どんな研修が必要か?」が非常に把握しづらい。そんな状況でした。

これに対して当社の技術部の部長は、自ら業務改善を行いました。まず案件進捗管理のアプリを作って、案件の進捗や内容を見える化しました。そしてこの案件管理を行っていく中で、整備実績が少ない担当者は再研修が必要になります。その再研修が、誰にいつ必要なんだというところを把握するために「krewData」というグレープシティさんのプラグインを使って、担当者別に自動集計しました。こうすることで再研修の要否が一目瞭然にわかるという改善を、部長自ら実現しました。

この改善の良かったところは、主体性。まさに主体性です。標準機能はもちろん、プラグインも設定も、部長自らが行いました。非常に主体性が発揮された事例だと考えております。

提出した本人も把握できない「報告書はどこまで回ってるか?」

紀平:もう1つ、ほかの社員の事例もご紹介します。当社では「教育訓練計画書・報告書」という書類を、研修を受ける前・受けた後に提出する必要があるのですが、この報告書はExcel形式なので、作成や提出がすごく手間。そして総務部門にしても「取りまとめが大変だ」という声が上がっていました。

もう少しこの問題を深掘りしていくと、ステータスがわからないんですね。メールとExcelと電子印が飛び交うので「誰にどこまで回ってるの?」が、出した本人がわからない。しかも研修を受けた後にもう1回報告書を出すので、同じことがもう1回起こるという非常に煩雑な問題でした。また、報告書ファイル・計画書ファイルがかなりの数になっちゃって、パッと管理できない。非常に悩ましい問題でした。

これを総務担当者が、kintoneのプロセス設定を使ってステータスと作業者を見える化しました。それだけではなく、用途や目的ごとに分けられた一覧でデータ管理を容易にしました。こちらが実際の画面です。これは、私の好きなラベルフィールドなども使いながら、非常にわかりやすい詳細画面を作ってくれています。

この改善の良かった点は「多くの社員が困っている業務って何だろう?」という点にいち早く気づいて、担当者が改善をしたことにあると考えています。そして、多くの社員の業務に影響する改善。これは他部門の社員、企画管理部以外の社員が行った「面での働きかけ」と言い換えることもできます。さらに先ほどの総務担当者の後輩も、これに影響されてさまざまな業務改善を行っていって、どんどん業務改善が波及していきました。

みんなでアプリを使う・作る・活用することの大切さ

紀平:さまざまな業務改善を社内で見ることができましたが、気づきとしてはこちらです。業務改善はその社員の良いところや、特徴が非常に反映されやすいということ。これがもし自分1人だけでアプリを作る・改善をする……というように、1人でやっていたら見落としていたポイント・作れなかったフローは、たくさんあったと思います。そういう意味でも、みんなでアプリを使う・作る・活用する。これが非常に重要だと考えています。

じゃあ今はもう何も課題ないのか? というと、そうでもないんです。「点」から「面」の働きかけで、単純にkintoneを使う人は増えました。そして、kintoneを活用して業務改善を行う社員も少しづつ増えました。ですが、主体的な業務改善を行う活用者は、まだまだ少数派です。これを多数派にしていきたいということを、現在の課題として捉えています。

そのためには、社内にはびこっている「今の方法で問題ない」というマインドを、kintoneをきっかけに「より良い業務に実は変えられるんじゃないか」というマインドに変えていきたい。この「より良い業務に変えられるかも」というマインドを、私は「自主改善の芽」と呼んでいます。この「自主改善の芽」を出させるために、現在行っている活動もご紹介いたします。

まず、kintoneに関する情報を高頻度で発信する。全員参加しているスレッドで「こんなアプリ作れますよ」「こんなアップデートされましたよ」といったアピールをします。そうすることで頻繁にkintoneの情報に接触するので、関心を持ちやすいというメリットがございます。全社員に対して行っているので、これも「面での働きかけ」の一種ですね。

こちらが実際の画面です。「アプリ、こんなことできますよ」といった説明なんですが。この「面での働きかけ」で「私もちょっとやってみようかな」と思った社員を、今度は「点でのアプローチ」で活用者に変えていく。こうすることでどんどん、使用者から活用者にレベルアップさせていくようなことを行っています。

そして現在、まだまだ途中ではありますが、当社の全社員の約11パーセントがkintoneを使ってなんらかの業務改善に取り組んでいます。11パーセントって「すこし少ないかな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、この11パーセントの社員が社内の業務をどんどん変えていくことで、さまざまな効率化が図られています。とはいっても、まだまだ11パーセントで、少数派です。ですので、この11パーセントの活用者を「多数派」と呼べるところまで、kintone活用の推進を進めていきたいと考えています。

「点の働きかけ」でファンを増やして、「面の働きかけ」でグッと広げる

紀平:さて、最後のスライドになります。みなさま、いかがでしたでしょうか。本日ご説明したかったのはこの2点でした。チームの改善を会社の改善に展開していただくことが、kintoneの社内展開の大きな一歩につながり得るというお話でした。

そしてもう1つ。それでも社内展開に悩まれた際は「点での働きかけ」でファンを着実に増やしてから、「面での働きかけ」でグッと広げる。また逆も先ほどの事例で然り。「点」と「面」の働きかけをメリハリをつけて行っていただくところが、本日特におすすめしたい内容でした。

こうしていただくことで、例えば「点での働きかけ」で抵抗感を小さく抑えたり、「面での働きかけ」で使用を一気に広げたり。また「使用」だけではない、「活用」の推進ですね。主体的な業務改善を行う社員を生み出したり、こんなメリットがございます。

そうは言っても、当社もまだまだ社内展開の道半ばです。本日このあとも目指す理想に向かって、社内展開・kintoneの活用、率先して進めていきたいと思っております。みなさまにおかれましても、ぜひ本日の内容も参考にいただきながら、社内展開に取り組んでいただけたらなと考えております。

そしてまたこういったイベントで、今度はみなさまのほうから「こんな社内展開をした」「こんな業務改善を行った」、そんな事例をご紹介いただける日を楽しみにしております。本日はどうも、ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

「企画管理部が書いてほしい内容」と「部門長が書きたい内容」の差の是正

司会者:紀平さま、ありがとうございました。すばらしい活用事例をありがとうございます。私、SIGNPOSTカードで紀平さまの事例をまとめてみました。登壇内容を聞きまして、SIGNPOSTカードで「当てはまる活用ノウハウって何かな?」を4つほどピックアップさせていただきました。まずは「開かれた情報」「担い手を増やす」、あと「業務のkintone化」、「現場主体の業務改善」。この4つについて深掘りをさせていただけたらと思います。

まず「開かれた情報」ですね。最初、経営情報ポータルのお話をいただきましたが、このスライドがすごくいいなと思いました。「kintoneを使って情報共有しましょうね」と(ユーザーに対して)お話をするんですけれども、ここにノウハウが貯まっているなと思っていて。紀平さまが「ガイド、ラベルがすごく好き」っておっしゃってたんですけど(笑)。

紀平:そうですね、好きです(笑)。

司会者:このラベルを使って、操作方法などについて迷わないようにするって、情報共有する時に大事ですよね。

紀平:そうですね。やっぱり報告書なので、こっちが書いてほしい内容と部門長が書きたい内容って、ちょっと差があったりすることが多いんですね。

司会者:それを是正する意味でも、ラベルで明示しておくというところ。プラス、コメント欄を使って内容を掘り下げたりとか、疑問点を深掘りするというか。疑問点をちゃんと解消するような取り組みというのも、併せてされているというところですかね。

紀平:はい、やっぱりコミュニケーションがkintoneの優れた点であるとも考えています。

司会者:なるほど、ありがとうございます。要は情報をオープンにする上で「どういった情報が必要ですよ」ということと、プラス、右側のコメント欄でその情報の精度を高めていく取り組み。この2つをやっていくと、かなり効率的な情報共有ができますよね。

紀平:そうですね。

活用を促進させる「企画管理部以外の人も使ってるんだ」という空気感

司会者:次が「点」の取り組みですね。担い手を増やすところのノウハウをまとめていただきまして、ありがとうございます。今まで「点」でアプローチした社員の方って、何名ぐらいいらっしゃるんですか?

紀平:特に数えていないのですが、10名ぐらいにはアプローチをしています。その中でもやっぱりうまく運用まで乗らなかった事例も、もちろんございます。

司会者:そうなんですね。じゃあそこは「何が原因で運用に乗らなかった」みたいなところも、反省点として次回に活かしたりされてるんですね。じゃあ10名ぐらいの方にアプローチして、社員の方が主体的に業務改善した例をお話いただいてたじゃないですか。あれもこの10名の方の中から生まれてきてってことですよね。

紀平:そうですね、はい。

司会者:なるほど。やっぱり「点」でアプローチした方が自分でkintoneで業務改善をして……背中を見せるじゃないですけど(笑)、ああいう事例を見せるのは、けっこう重要ですよね。

紀平:そうですね。そしてやっぱり「企画管理部の業務改善を横展開する」のも大事なんですけれども。企画管理部以外の人も使ってるんだという空気感が、さらに活用を促進させるようなところもあります。

「苦手意識を持つ層」を取り込めないと、失敗に終わってしまう

司会者:なるほど。「自部署だけの取り組みじゃないんだよ」というところなんですね。ありがとうございます。次がこの「面での働きかけ」。SIGNPOSTカードでは「業務のkintone化」っていうところでノウハウとしてはまとまっているんですけれども、営業活動決裁の業務で広範囲でみんなに使ってもらう。こちらも、すごい細かくガイドを載せていただいて……(笑)。

紀平:やっぱり当社社員には、こういったシステムが「ちょっと難しいな」と、苦手意識を持ってる社員も多いので、この「面での働きかけ」はその層を取り込めないと失敗に終わってしまうという難しさがありました。

司会者:なるほど、やっぱりこの細かい気配りはけっこう重要だったりしますよね。あと、使っている現場の社員の方が「ちょっとkintoneわかんないな」と思った時に、「点」でアプローチした人に気軽に質問したり、そういう関係性もできてたりするんですか?

紀平:徐々にそういった関係性もできてきています。

司会者:そうなんですね。もしそういう方いらっしゃらないと「紀平さんに聞きにいかなきゃいけない」とかね。またそこでハードルが高まったりするので、身近にそういう方がいらっしゃるっていうのも、全社的に使ってもらうという意味ではすごく効果的なところかもしれないですね。

あとおもしろいなと思ったのが、「点」と「面」のアプローチしたあとに、「面」から「点」に戻す。このサイクルを回すというのも、本当にヤンマーさんオリジナルのノウハウかなと思っていまして。これで今、どんどんアプローチする人が増えているかたちですよね。

紀平:そうですね。徐々にですが、増やしていっています。

「業務改善には個性がある」という気づき

司会者:なるほど。そして、そこの派生について……これは名言だなと思ったんですけど。要は「業務改善に個性があるな」と気づかれた。

紀平:はい。やっぱり「kintoneの仕組み」の面だけで見ると、当社の中では恐らく私が把握しているとは思うんですが。その業務の内容は、やっぱりその部門でないと実感としてわからない部分があると思うんです。そこをちゃんと、ポイントを押さえた業務改善ができるというところが、個性の活かしどころなのかなと思います。

司会者:そうですね、これは本当に、紀平さまみたいなほかの部署の方がアプリ作っても、やっぱりそこに個性はあまり出なくて。要は「“紀平色”は出るけれども、いろんな個性は出てこない」。でも現場主体だからこそ、この個性が出てきてる。

紀平:逆に現場だけに任せて進みにくいところは、私からちょっと後押しとかフォローを行うような体制で行っています。

「あれ? 業務改善できちゃった」という、小さな成功体験

司会者:なるほど。先ほど事例が出ていた方でもいいんですけど、実際kintoneで自分で業務改善してみて、そのあと「実際kintoneを使ってみてどうでしたか」みたいな感想って、現場の社員の方に聞いたりしてるんですか?

紀平:やっぱり聞きますね、気になっちゃうので(笑)。

司会者:そうですよね、どんな意見が多いですか?

紀平:やっぱり「楽しい」って言う社員はいますね。あと「最初はちょっと偏見を持ってたかな」っていう……「企画管理部が推してるシステムでしょ?」みたいなイメージが強かったので。

司会者:(笑)。

紀平:そこから「あ、違うんだな」って、そんな意見がありました。

司会者:それでちょっと自分でやってみたら、「あれ? 業務改善できちゃった」っていうところで。小さい成功体験を積めたりするところがあるわけですね。そうなってくると、どんどんサイクルが回ってきて、活用が浸透することがあるかもしれないですね。

ではちょうどお時間なので、紀平さま、ありがとうございました。今日の紀平さまのプレゼン内容、本当に中小企業の方がkintoneを広める上での重要な要素がたくさん入っていたかな思います。紀平さまは今日このあとも、会場にいらっしゃいますよね。

紀平:はい。

司会者:もしご興味ある方がいれば、ダイレクトに聞きに行ってもいいですかね?(笑)。

紀平:はい、大丈夫です。

司会者:ありがとうございます。ぜひいろいろノウハウを吸収していっていただけたらなと思います。ではお時間になりましたので、以上でこのセッションを終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました。

紀平:ありがとうございました。

(会場拍手)